思考停止社会~「遵守」に蝕まれる日本 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879781

作品紹介・あらすじ

日本の経済と社会を覆う閉塞感の正体。相次ぐ食品企業の「不祥事」、メディアスクラム、年金記録「改ざん」問題、裁判員制度…コンプライアンス問題の第一人者が、あらゆる分野の問題に斬り込み再生への処方箋を示す。

感想・レビュー・書評

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  • 「はじめに」を読んで、法令遵守の何がいけないのかと思ったが、読み進めていくうちに著者の考えが理解できた。マスゴミの曲解による煽情的な報道、それに迎合する検察、裁判員制度の欠陥、法科大学院の問題など、著者の言うとおりだ。
     しかし残念ながら事態は何一つ良い方向に変わっていない。昨今の食品偽装問題でもシャケ弁をトラウト弁に言い換えるとか、大の大人がくだらない議論をしているのを見ると心底がっかりする。司法当局の認識の通り、90%以上の日本人は馬鹿か幼稚かのいずれかだ。これは間違いない。低俗なTVの報道を真実と思い込み、納豆が体にいいと聞けば納豆が棚から消え、バナナを食べれば痩せると聞けばスーパーでバナナを奪い合う。まさに思考停止だ。
     もう5年ほどTVを見るのをやめているが、この世からTVが無くなっても結局ほかの何かに騙されるだけで、日本人の馬鹿と幼稚はずっと変わらないんだろうな、と思う。

  • 2007年1月、『「法令遵守」が日本を滅ぼす』で、社会や経済の実態と乖離した法令の「遵守」による弊害に警鐘を鳴らし、大きな話題を呼んだ著者による待望の新書第2弾。
    あれから2年、日本社会の状況は一層深刻化、「遵守」がもたらす「思考停止」の弊害がさらに拡大。「法令違反」だけではなく、「偽装」「隠蔽」「捏造」「改ざん」などのレッテルを貼られると、一切の弁解・反論が許されず、実態の検証もないまま、強烈なバッシングが始まる。

    ○消費期限切れ原料使用を作為的に隠蔽しようとしたわけでもないのに、「隠蔽」と決めつけられ、存亡の危機に立たされた不二家
    ○健康被害とはまったく無関係なレベルのシアン化合物の食品製造用水への混入を公表させられ、大量の商品の自主回収に追い込まれた伊藤ハム
    ○「耐震偽装」を叩くことに関心が集中、偽装の再発防止のための建築基準法改正で住宅着工がストップ、深刻な不況に見舞われた建築業界
    ○刑事司法を崩壊させかねない大問題を抱えているのに、誰も止められない裁判員制度
    ○経済司法の貧困により、秩序の悪化に歯止めのかからない市場経済
    ○何を意味するのか不明確なまま「年金記録の改ざん」バッシングがエスカレート、厚労大臣にまで「組織ぐるみで改ざん」と決めつけられた社会保険庁

    調査委員会などで多くの「不祥事」に関わった著者が、問題の本質に斬り込み、「遵守」による「思考停止」で生じている誤解の中身を明らかにします。その上で、思考停止から脱却して「真の法治社会」を作るための方策を示します。
    是非ご一読ください。

  • 遵守の対象は法令。日本では法令は非日常の世界のためのものであり、人々の生活、日常のトラブルや揉め事は法令ではなく社会的規範や倫理に基づいて解決してきた。
    ところが遵守の対象が社会的規範にまで及ぶようになり、これが遵守されないと「隠蔽」「偽装」「改ざん」「捏造」というレッテルを貼る。日本らしいといえばそれまでだが、直していこうという動きは必要だろう。

  • 法令遵守が徹底された今は、問題の中身より、偽装、隠ぺい、改ざん、捏造は一切弁解ができない。
    背景や原因は問われず、法令に違反したかどうかだけが問題とされる=本当に正しいか、思考が停止している。

    食の偽装、隠ぺい
    不二家の問題は、賞味期限と消費期限の問題
    ローソンの焼き鯖寿司回収、賞味期限切れの原料の使用を公表して自主回収した
    伊藤ハムの自主回収、工場内の地下水の水質が原因

    ステンレス鋼管データ捏造問題=全数検査をすることになっていたが、していなかった。抜き取り検査でいいことにしたが、もともと検査していないのでその対応ができない。そもそも検査は不要だった。

    経済司法の貧困=司法が開かれていない結果
    村上ファンド事件=何がインサイダーの重要事実にあたるか、が問題。
    ライブドア事件で、金商法の推定規定でライブドアに賠償させようとした。

    裁判員制度をやめようという声が出ないのは法令遵守が立はだかるから。
    日本の裁判員制度は、外国と比べても特異なもの。
    被告人に選択権がない。事実認定だけでなく量刑も対象にしている。職業裁判官にも議決権が与えられる。
    日弁連はアメリカ型の陪審員制度、裁判所はヨーロッパ型の参審員制度にとどめたい、その妥協の産物。ヨーロッパはすでに死刑を廃止している国が多い。印象や感覚で死刑の適用を判断する民衆裁判になりやすい。

    厚生年金の記録改ざん事件
    事業主の了解のもとに事業主の報酬を遡及して下げることは悪いことか。実態を考えれば正しい手法ではないか。
    保険料を滞納していても年金が支払われる仕組み、がいけない。
    国民年金不正免除問題
    申請がないのに免除にして、納付率を上げた。

    マスメディアの責任
    朝ズバの顔無し証言で、不二家の工場を叩いた。不二家が山﨑製パンの傘下になる一要因。

    法令遵守と規範遵守
    日本の法律は緻密だが、実際に適用するのは周辺分野だけ。実際は慣例や話し合いが問題解決手段。
    アメリカでは、法令が普通の市民間の解決手段として機能している。文化包丁と伝家の宝刀の違い。
    日本では法令遵守そのものが目的となっている。
    遵守が法令だけでなく、コンプライアンスにも要求される。適用範囲が拡大される。日本では社会的規範にまで遵守が要求されている。
    水戸黄門の印籠にひれ伏すのではなく、どういう意味なのかを考える社会が必要。

  • 第1章 食の「偽装」「隠蔽」に見る思考停止
    第2章 「強度偽装」「データ捏造」をめぐる思考停止
    第3章 市場経済の混乱を招く経済司法の思考停止
    第4章 司法への市民参加をめぐる思考停止
    第5章 厚生年金記録の「改ざん」問題をめぐる思考停止
    第6章 思考停止するマスメディア
    第7章 「遵守」はなぜ思考停止につながるのか
    終章 思考停止から脱却して真の法治社会を

  • 記録

  • 2009年の本だが現代でも通用する。法令は遵守することが目的ではなく法令の内容自体を柔軟に変化させ実態との乖離を防ぐべきだ。日本国憲法が一度も改正されていないこともおかしい。社会現象も自分の頭で考えるべきだ。偽装、隠蔽、捏造、改ざん等言われているが実際は法律が実態と合わないこともよくある。ライブドア、粉飾、保険料滞納、建築基準法、これからは法令を使いこなしていきたい。

  • ”思考停止”とは、一体何が止まっているのか。
    まさに、考えることが止まっている。
    与えられた情報や、指示された事を、全く無批判に受け入れ、従い、行動している。
    誰か(どこの誰かも知らない)が、テレビやネットを通じて垂れ流している情報が、あたかも真実であり、重要であるかのように伝えられ、信じ込まされている。
    それらに対して、何らかの疑問や、対抗する意見を持ち得ない事の危うさ。
    ”思考停止”状態にある自分に気づかせてくれる一冊だった。
    .
    著者の関わってきた具体的な事例を交え、そこに潜む矛盾や欺瞞、意図的な策謀を含めた解説が、それらの報道を見て、聞いて、受け止めてきた自分に突き刺さる。
    自分もまた、”思考停止”状態にあったことに気づく。
    気づかされてみると、それらを含めて、今起こっていることに対する視点も、思考も変わってくる。
    それは、これから起こるであろう事にも、違った対応を促すことになると思う。
    出版されたのは、2009年と一昔以上前なのだが、昨今のこの国の状況を見るに、決して古い内容とは思えない。
    むしろ、この本の指摘している問題は、深刻化している。
    となれば、是非とも、今、多くの人に読んでもらいたい一冊である。

  • 法律は遵守することが目的だとマズい。なるほど。

  • 自分の業界、専門でも「思考停止」だと思うことがままある。
    欧米との比較論で単純に批判してきたが、
    本書を改めて読んでみると、日本社会全体に巣食う病理であることが分かる。

    ・食品「偽装」「隠蔽」
    ・経済司法の思考停止
    ・司法への市民参加(裁判員制度)の思考停止
    ・厚生年金「改ざん」の思考停止
    ・マスメディア

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著者プロフィール

桐蔭横浜大学法科大学院教授。弁護士。1955年生まれ。1977年東京大学理学部卒業。1983年検事任官。東京地検検事、長崎地検次席検事、法務省法務総合研究所総括研究官などを経て、2005年桐蔭横浜大学コンプライアンス研究センター長に就任。2006年検事退官、弁護士登録。警察大学校専門講師、防衛省や国土交通省の公正入札調査会議委員なども務める。不二家信頼回復対策会議議長などとして多数の企業の危機管理対応に関与。(株)IHI社外監査役も務める。著書に『「法令遵守」が日本を滅ぼす』(新潮新書、2007年)、『入札関連犯罪の理論と実務』(東京法令出版、2006年)などがある。

「2009年 『証券市場の未来を考える』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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