吉田茂と昭和史 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (296ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062879996

作品紹介・あらすじ

「自立」か「協調」か、「自由」か「統制」か-歴代首相の立ち位置は吉田との政治的距離で決まっている。今の日本政治は昭和の歴史から何を学ぶべきか。

感想・レビュー・書評

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  • 吉田目線の昭和史であり、吉田に対する批判的な検討はない。それを受け入れて読めば得るところもあるが、全体に単調で薄味という印象。

  •  吉田を通して見る同時代の昭和史。戦前・戦中と戦後がほぼ半々ずつだ。特に戦前の吉田について関心があった。
     田中外交と幣原外交はよく対比されるが、外務次官として両時期に跨がった吉田は「当時においても、大した根本的な相違がなかった」と回想する。田中・吉田ラインは列国<協調>を最も重視した、と著者は評する。時に「武断外交」のように見える時があってもそれは列国<協調>の範囲内で、とのこと。実際、パリ不戦条約に民政党から批判されつつも参加する。第1次山東出兵は列国との協調出兵。
     吉田自身についても、奉天総領事時代から、満蒙特殊権益を唱える「支那通」軍人たちと、協調の枠内での権益確保を重視する吉田は対照的だ。
     幣原外交の時期にロンドン海軍軍縮条約批准のために穏健派の岡田啓介に接近したり、国際連盟脱退後に欧米を歴訪しなお協調を訴えたり、吉田自身は協調で一貫していた。戦後の吉田ドクトリンに至るまでの土台が窺えた気がした。

  • 東2法経図・6F指定:B1/2/Inoue

  • 「吉田茂と昭和史」 井上寿一

    ごく簡単に読める吉田茂の評伝。戦前の中国、イタリア、イギリスでの吉田の行動と思想、戦後との一貫性については始めて知ることが多く新鮮だった。

    戦後の吉田による"軽軍備・経済重視"の経緯はある程度知っているつもりだったが、連立政権の枠組みを何度も繰り返しつつ粘り強く政権運営をしていたことは新たな発見だった。同様の粘りを占領軍に対しても行い、それにより沖縄の永久の国連信託統治を免れていたことも感銘を受けたし、いまの停滞する政治にも十分に参考になるかと思う。

  •  「昭和史の再現」との意気込みを持った本であるが、内容に新しい視点はさほどないように思えた。
     「吉田茂」の生涯を本書で追うと、まさに昭和戦前期から戦後史を網羅していることがわかるが、本書で初めて知ったというような事実はほとんどない。
     本書は「吉田茂」と「日本」がたどった道をたんたんと描いているように読めるが、「考察」という視点でみるとちょっと「浅い」のではないかとも思えた。
     戦前・戦後の激動期を描いているにもかかわらず、読後にあまり感慨を覚えないということは、歴史書としてはあまり評価できないということではないか。
     総括的な歴史の知識を得られるという点は、間違いのない歴史書ではあるが、ちょっと物足りない。

  • 地元の図書館で読む。吉田長期政権は、占領軍とのバランスです。占領軍に反抗すれば、追放されます。迎合すれば、国民の信頼を失います。吉田茂は、そのバランスを取りました。

  • 学習院大学法学部教授(日本政治外交史)の井上寿一による吉田茂の評伝。

    【構成】
    序章 昭和のなかの吉田茂
    第Ⅰ章 大陸の嵐のなかで
    第Ⅱ章 政党政治と外交-外交優位の体制を求めて
    第Ⅲ章 危機の時代の外交官=吉田茂
    第Ⅳ章 復活を期して
    第Ⅴ章 戦前を生きる戦後の吉田茂
    第Ⅵ章 占領下の<自由>
    第Ⅶ章 敗戦国の<自立>
    終章 「吉田ドクトリン」のゆくえ

     著者は『危機のなかの協調外交』『日中戦争下の日本』『昭和史の逆説』など昭和戦前期の外交史研究で知られており、前半の3章は外務官僚・吉田茂の対中国政策について、政友会、民政党、軍部を交えて描かれている。様々なチャネルによって行われていたこの時期の対中外交が要約されている。

     ただ、戦後を扱った後半4章は不味い。一応時系列にはなっているものの、前半で転回されていた「外交」は話の合間にしか登場せず、敗戦によって混乱する社会世相に紙数が割かれている。これならタイトルに吉田茂を冠しなくてもいいだろう。
     戦後占領期の外交はアメリカ政府・軍部の対日・対アジア戦略抜きに語ることはできないにも関わらず、日本国内の話ばかりで見通しが悪い。朝鮮戦争について全く言及されていないのには驚きを通り越してあきれるばかりである。
     また、終章の「吉田ドクトリン」賞賛についても、近年の「吉田路線の再検証」という戦後日本外交史研究の潮流を踏まえた上で書いているようには思えない。

     本文中に何度か登場する古川ロッパ、山田風太郎などの文化人の日記も当時の世相を表す言説としてやや興味をそそられたが、引用すべき必要性があるのかは疑問である。

  • 吉田茂の評伝。吉田茂の政治的活動について、戦前からよくまとまっている。特に現代との関連性を意識させる記述は新鮮。

  •  吉田茂になんとなくひっかかって、職場の本屋の平積みから購入。

     井上氏の政治家の分析軸、横軸は経済軸で自由と統制、縦軸は、国際軸で協調と自立。

     吉田は、自由で協調。例えば、岸は、自立で統制(満州の革新官僚ですから)。

     最近の政治家では、小泉さんは、自由で協調。麻生さんも自由で協調。安倍さんは、自由で自立。

     そう思って分析してみると、民主党の総理は、どういう軸で分類されるのかはっきりしないな。鳩山さんは国際軸は自立で、経済軸は統制かな。菅さんは経済軸、国際軸とも不明。野田さんは、経済軸は自由か?

     要は、経済軸は、市場の自由を大事にするかどうか、国際軸は、日米安保を大事にするかの軸だから、政治家は誰でもはっきりしなければいけないと思うが、そこがあいまいになってきている、というか気色を明確にしないのが最近の政治スタイルのような気がする。

     その他、初めて学んだ点。

    (1)国際連盟の脱退直前、イギリスは、日本とシナが直接交渉をするという妥協案を提示し、松岡氏も吉田氏もこれにのったが、外務省が反対した。(p99)

    (2)吉田第二次内閣の組閣の際、占領軍民政局は吉田首班に反対したが、吉田がマッカーサーと直接会って話しをして、吉田首班を認めさせた。(pp195)

     いずれにしても、日本占領下での日本の政治家たちの、苦労には頭が下がる。主権を持たない国はいかに制約を受けるか。万が一、日本が、IMFの支援を受けることになれば、財政金融政策もIMFにお伺いを立てなければいけなくなる。

     その苦しさを知ることは、現時点での健全な国家運営のためにも必要だと思う。日本は絶対、ギリシアのようになってはならないと固く誓う。

  • おじい様。今の日本の原型を導いた人。
    20年代の協調外交、自由経済目指してた結果です。ってたびたびあったけどほんとかな、論拠がなかった。
    まあ国民よりも国みてて、それでもいいと思った。
    読み終わりが選挙終わる前でよかった。

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著者プロフィール

井上寿一
1956年(昭和31)東京都生まれ。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。法学博士。同助手を経て、89年より学習院大学法学部助教授。93年より学習院大学法学部政治学科教授。2014~20年学習院大学学長。専攻・日本政治外交史、歴史政策論。
著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、1994年。第25回吉田茂賞受賞)、『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書、2011年)、『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ、2012年)、『政友会と民政党』(中公新書、2012年)、『戦争調査会』(講談社現代新書、2017年)、『機密費外交』(講談社現代新書、2018年)、『日中戦争』(『日中戦争下の日本』改訂版、講談社学術文庫、2018年)、『広田弘毅』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2022年 『矢部貞治 知識人と政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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