戦前昭和の社会 1926-1945 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (240ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062880985

作品紹介・あらすじ

「大学は出たけれど」、新興宗教ブーム、10銭均一売り場…「暗い時代」の明るい日常生活。

感想・レビュー・書評

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  • 戦前の日本は銀座あたりをモボ・モガが闊歩し、地下鉄やデパートや浅草の映画・見世物が大盛況で、「コドモノクニ」など児童向けも含めた出版も活況を呈し、豊かな時代だったことを紹介してくれる本かと期待して読み始めたんだけど、そういう面は前半1/3くらいだった。
    選挙権や労働状況の改善を求める市民運動、「家の光」誌をとおした農村改善運動、新興宗教の隆盛など、さまざまな運動に関してだいぶ紙幅を割いていて、いまとなっては言論や運動が統制され不自由な時代と平板にとらえられてしまっている感がある戦前昭和が、実は人々が意識的に活発によりよい社会を目指して活動していた時代だったということを知った。それこそ現代をしのぐほどに。

  • 筆者の専門は日本政治外交史だが、本書は社会学に近い。「アメリカ化・格差社会(の是正)・大衆民主主義」の三つをキーワードとし、この時代の多様な姿を描いている。都市ではデパートや家電が普及しアメリカ型大衆消費社会となったが、恐慌により格差は拡大。しかしプロレタリア運動は大衆を吸収できない。農村での共同主義、国防婦人会、新興宗教による格差是正の試みはあるが、結局のところ政党政治の腐敗への不信や大衆メディアであるラジオの普及ともあいまって、近衛文麿のカリスマ性に支持が集まっていく、という流れが示されている。また戦時体制下では地主対農民、資本家対労働者、男性対女性、都市対農村・漁村の格差は是正されていったとのこと。締めくくりとして、戦後は親米派の主導、高度成長による格差是正という形で三つのキーワードの均衡により発展したと述べられている。戦前と戦後では断絶ばかり強調されるが、このような連続性の指摘は新鮮だった。

  • タイトルに「1945」とあるが、実際に書かれているのは「1941」まで。この点を除けば新書としての出来は抜群によかった。

    宮崎駿が『風立ちぬ』の公開時に「戦前の美しい日本の姿を」的なことを話しており、どこがどう美しいのかを確認したい気持ちも手伝って一気に読んだが、戦前の昭和史については、まだまだ知らないことや、ステレオタイプなイメージに凝り固まっている部分が自分の中に存在することがよくわかってよかった。

    ヒトラーユーゲントの来日が日米開戦に一定の役割を果たしたという評価は良く理解できるし、この箇所の記述のボリュームは少ないものの綺麗にまとめて書いてくれたと思う。ただ原節子と絡めて書かれているといかにも昭和史という感じがしてもっとよかった気もしないでもないけど。

    https://twitter.com/prigt23/status/1043468364163637248

  • 国民の多数がファシズムに傾倒していくようになるのに、数年しかかからなかったというのが驚き。それまでは多様性のある豊かな社会だった。大きくあった格差を、東条政権が埋めた、というところにダイナミックな動きを感じる。

  •  どこかで見覚えのある日常生活。歴史は……繰り返さないといいが。

  • 「戦前昭和」と言うと経済恐慌や太平洋戦争といった歴史をどうしても想起してしまう。歴史的事実としてはその通りだが、その前段として本書で書かれている内容を踏まえないと、結局歴史を立体的に掴めないのだろうと思った。
    というのも、あくまで本書が描くのは(しばしばドキュメンタリーやドラマで見るような)終戦間際の状況ではなく、大衆がアメリカ化して消費社会になり、格差が拡大し一方で是正運動もあり、女性参政権を求める運動が多層的にあり……といった姿である。
    確かにこれらはよく語られることかもしれないが、どこか頭を素通りしてしまう気がする。戦後との連続性を含め、改めて認識しておきたい。

  • 序盤の、家電とか住居とか、庶民の暮らしに焦点を当てたパートは面白かった。

  • アメリカ化、格差社会、大衆民主主義の3つの観点から、現代と類似性のある戦前昭和の社会を再構成。1941年になっても日米友好を演出していたのはイガイだった。他方、ドチツ・ナチ的ファシズムへの共感も生まれてくる。ただし決定的な違いは植民地の有無であり、アーリア人の純粋性と至高性を唱えるドイツに対し、「五族協和」を唱えていた日本は異民族との結婚を推奨する他民族国家であり、大和民族の優越性を強調するわけにはいかなかったというのは盲点であり参考になった。

  • 東2法経図・6F指定:B1/2/Inoue

  • 戦前昭和時代を現代社会と類似するものとして、アメリカ化・格差社会・大衆民主主義の観点から素描する。終戦により制度・ルールは大きく変貌したとの見方に対し、アンチテーゼとして類似点を強調する書籍の一。説明を明快にするため前記3点を解釈指針とするようだ。が、この意図は余りうまくいっていない気がする。例えば、本書に書かれた中では、ドイツ賛美から説明しやすいヒトラー・ユーゲント来日や、戦争による社会の下方平準化や女子の地位向上などがそれ。なお、ひとのみち教の栄枯盛衰や近衛の国民的支持の実相は興味深い。2011年刊。

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著者プロフィール

井上寿一
1956年(昭和31)東京都生まれ。86年一橋大学大学院法学研究科博士課程単位取得。法学博士。同助手を経て、89年より学習院大学法学部助教授。93年より学習院大学法学部政治学科教授。2014~20年学習院大学学長。専攻・日本政治外交史、歴史政策論。
著書に『危機のなかの協調外交』(山川出版社、1994年。第25回吉田茂賞受賞)、『戦前日本の「グローバリズム」』(新潮選書、2011年)、『戦前昭和の国家構想』(講談社選書メチエ、2012年)、『政友会と民政党』(中公新書、2012年)、『戦争調査会』(講談社現代新書、2017年)、『機密費外交』(講談社現代新書、2018年)、『日中戦争』(『日中戦争下の日本』改訂版、講談社学術文庫、2018年)、『広田弘毅』(ミネルヴァ書房、2021年)他多数

「2022年 『矢部貞治 知識人と政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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