原発報道とメディア (講談社現代新書)

  • 講談社 (2011年6月1日発売)
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本 ・本 / ISBN・EAN: 9784062881104

感想・レビュー・書評

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  • 不確実なことは不確実であると伝えるのが誠実な態度だろうが、不確実なことをそのままにして日常生活を続けるには相当の胆力が要求されるに違いなく、そう思って我が身を振り返ると、はなはだ心許ないことは確かだが、だからといって、「安心」やら「安全」やらを安直に求めて、不安に耐えて奮闘している人々を忌避したり排除したりするかというと、そうはいかんぞ。2011年7月3日付け読売新聞書評欄。

  • 観念的に対立する立場の是非ではなく、現実に存在する原発とそれに関わる人々、反対側の立場の人々双方がどうやって具体的な問題を解決しながら方向性を見出すか。
    経緯やそもそも論でなく、現実の双方の生活や生命を大事にする形で議論を進めるのがメディアの役目ではないかという主旨。
    この状況に至るまでメディアはいったい何をしてきたのかという大きな疑問符がいくつも湧き上がるが、著者のような考えがメディア全体の共通認識となって継承されない限り、これからも前向きな議論は一向に進まないのではないかという疑念だけが残る。
    そんな議論を行わないメディア自体が果たして健全なのだろうか?
    著者も一般読者に対しての意見に終わらずに、メディアに対してその数十倍、数百倍熱く語ってほしい。
    安全な場所での愚痴で終わらせないためにも。

  • 『安心・安全を共同体の範囲で追求しようとすると他者を排除したり、外部との交流を制限することに繋がる。ジャーナリズムはそんな動きに加担するのではなく、共同体を横断して必要とされる最大公約数的な安全・安心の確保を目指さなければならない。』(217p)

    『原発問題が二項対立的な議論しかされなかったのは、核か、核ではないか、という単純化に起因する。それは、議論の受け皿となるメディアにも課題を投げかける。複雑な構造をそのまま受け止め、反照を繰り返して行きつ戻りつしつつ、均衡に至る息の長い散文的議論を受け止めるメディアが必要だ。』(229p)

  • 安全・安心を考え直す(守るべきは「基本財としての安全と安心」◆ジャーナリズムの公共性を巡って◆「知らせること」は正義なのか◆「警鐘を鳴らすジャーナリズム」の神話◆グレーゾーンの報道)◆マスメディアとネットメディア(原発事故とツイッター◆新しいメディア地図を描く◆「情報操作」の現在景)◆グーグルから遠く離れて(マスメディアと反検索型ジャーナリズム◆それでもジャーナリストになりたいあなたへ)

    著者:武田徹(1958-、東京都、評論家)

  • 社会
    メディア
    原子力発電

  • 2011年刊。
    著者は恵泉女学園大学人文学部教授。


     フクシマが暴き出した従前の原発賛否論争の限界に報道機関が深く関わってきた事実に加え、ウィキリークスの如きマス・ジャーナリズムを越境する存在が生まれてきた現在。かつ、ネット環境の拡充やユーチューブ他の動画配信メディアにより「一人ジャーナリスト」が一定程度現実味を帯びてきた。
     こういう状況を踏まえ、本書は現状と未来のジャーナリズムの在り方を検討していく。

      この点、著者はジャーナリズムへの信頼を保持しようとする意思と作法に依らずして一人ジャーナリストは名乗るべきでないと考えている節も見受けられる。
     この点を含め、確かに具体面では首肯できる内容は少なくない。。
     例えば、
    ① 報道を含め「試行」をすることで不確実性を下げていくこと、
    ② 特に、現在の自分の報道が間違っていることを所与の前提に、間違いが判明したら大きく訂正し、これを許容するだけでなく、常態化していくこと(可謬性の保障)、
    ③ 皆の眼を通じ報道の公平性と公益性を確保していく点(ただし徹底した公開性が重要なはず。後述)、
    ④ メディアの分類はマスか否かではなく、現在のみに特化したものか、過去の検証も加味できるものかで分類すべき
    という点は是認しうる。

     しかし、なんとはなしの違和感が残る。
     それは、
    (1) 情報不開示が措定される国家権力等、ルール策定側への批判がメディアの第一義的役割なのたが、この点をさほど重視しない。
    (2) ⑴の具体的反映として、マスメディアにつき、原理的に対立した共同体間の調停役にすら措定する。
     そもそも、機会主義的な主張を含め、主義主張を完全に避け得るメディアはあり得ない。このメディアの特性を無視したまま、ニュートラルな立場で行う調停役には不適だし、妥当ではない。
    (3) 先の②を言いつつ、メディア(特にマス)提供情報の真実性を割と信用している、
    (4) 情報ソースの開示が徹底できないのに、信用性を上げる方法としての公開性が可能と考えている点

    がそれか。

     良書かつ再読必要と思うが、斜めから読むべき書かな。

  • 原発報道に関してはさて置き、ジャーナリズム論、メディア論としては面白い。
    鶴見俊輔を引き、ジャーナリズムの語源ジャーナルは、「日記」であり、ジャーナリズムは一人ひとりの志に基づくと主張する。
    メディアが巨大化しても、最後の勝負は、確かに一人のジャーナリストに掛かっている。
    筆者の、自身を含めたジャーナリストへのエールといったところかな。

  • 原発事故をケーススタディーとしたジャーナリズム原論。
    従来のマスメディアとは別種の情報システムの有用性、優位性の提唱。

    以下、引用省略

  • 前回読んだ、内田樹さんの『街場のメディア論』に続いて、
    今度は武田徹さんのメディア論を読んでみました。
    本当は、原発のことが書かれた本だろうと思い購入したのです。
    それが、読んでみると、しっかりとしたメディア論でした。
    内田さんの本から連続したメディア論になりましたが、
    それはそれ、「奇しくも」といった体であります。

    僕はのめりこんで読むタイプなので、読んでいくうちに
    内田さんのメディア論のことは忘れていきます。
    きっと、武田さんと意見を異にするところはあったとは思いましたが、
    全然気付きません。

    よって、いい加減な、メディア論考になっているとすごく思うのですが、
    まぁ、それはしょうがないと、自分で言ってしまいます。

    印象的だったのは、知ることのリスクについてでした。
    チェーンメールで拡散された、Rh-の血液型を求む、というものがあり、
    それは本当のことだったのですが、そのメールの真偽を確かめる電話が
    そのメールで指定された病院に殺到し、病院の事務が仕事にならなくなった。
    「診療に支障が出ている。善意だとしても、これ以上の転送はやめてほしい」
    と病院側はコメントを出したそうです。

    なんでもかんでも、誰にでも知らせて良いわけでもない。
    それはジャーナリズムも一緒かもしれない。
    その一例として挙げられていましたし、
    それがお門違いの例ではないだろうと、僕も理解しました。

    しかしながら、本書は感想を書くにはちょっと難しいところがあります。
    端的に、少ない言葉で表現すると、不足する事柄ばかりを扱っているからです。

    そんな本書を紹介するには、帯にも書いてありましたが、
    この文句が良いでしょう。

    「3.11の後、どう語るのか?」

    僕らはいろいろな悲劇やショックをプラスに変えて、進歩していくべきなんだと思います。
    また、悲しいかな、そういう悲劇がないと、
    ぐんと進歩できない集団的生き物なんだとも思っています。

    うわべだけを見ず、福島第一原発事故であれば、福島に住む人たちを想うこと。
    彼らが見まわれた風評被害などにも目を向けること。
    そういうことが、ジャーナリストでなくても、
    個々人のジャーナリズム性であって、そういう目を養うことが大事になるんだ、
    というように読めました。

    一般読者に向けられたというよりも、ジャーナリズムの道を目指す人に向けられた
    本のように読ましたしたが、それでも十分に面白く勉強できる、視野の広がる本でした。

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著者プロフィール

昭和21 年、長野市に生まれ。
長野高校、早稲田大学を卒業後、信越放送(SBC)に入社。報道部記者を経て、ラジオを中心にディレクターやプロデューサーを務める。平成10 年に「つれづれ遊学舎」を設立して独立、現在はラジオパーソナリティー、フリーキャスターとして活躍。
主な出演番組は、「武田徹のつれづれ散歩道」「武田徹の『言葉はちから』」(いずれもSBC ラジオ)、「武田徹のラジオ熟年倶楽部」(FM ぜんこうじ)など。

「2022年 『武田徹つれづれ一徹人生』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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