弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
3.86
  • (37)
  • (51)
  • (34)
  • (8)
  • (2)
本棚登録 : 580
レビュー : 64
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062881357

作品紹介・あらすじ

これらの「小さな社会」は、人が他者とつながり、お互いの存在価値を認め、そこにいるのが当然であると認められた場所である。これが「包摂されること」であり、社会に包摂されることは、衣食住やその他もろもろの生活水準の保障のためだけに大切なのではなく、包摂されること自体が人間にとって非常に重要となる。「つながり」「役割」「居場所」から考える貧困問題の新しい入門書。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
  •  本書は、「社会的包摂(Social includion)」と言う概念の入門書です。一時期「格差」という言葉が流行りましたが、そこに手を差し伸べる社会的包摂という言葉はあまり定着していないかもしれません。
     社会的包摂と対をなすのが「社会的排除(Social exclusion)」で、こちらは貧困や格差と密接に結びついてはいるものの、イコールではありません。というのも、社会的排除・包摂が注目するのは、彼・彼女らが貧困と言う状態に陥る過程であり、そうした過程を生み出す社会の構造と言う視点だからです。

     つまり、貧困(=経済的問題)や格差、社会の制度といったものが、地域や家族、友人などといった人間関係を壊し、社会の中での居場所や役割(乱暴に言えばアイデンティティ)を壊してゆく。その広範で長い過程を射程に入れているのが「社会的排除」です。そしてこうした状況に支援を行うためには、社会の制度(政策)に「包摂」の視点が必要だということです。

     貧困に対して経済的に支援するだけでは、排除された人に支援が行われるか分からないし、支援が行われたとしても、(とりわけ弱者に対して)社会に排除の仕組みがあるのなら、再び排除されてしまうだけかもしれない。

     社会的包摂と言う概念は、その範囲は広すぎて頭がくらくらするほどです。が、本書はホームレスの”おっちゃん”たちの話を通じて、社会的包摂の考え方、望ましい社会制度の下書きを描いています。

    小難しい制度や概念の話だけではないので、入門書としてはとても読みやすいと思います。
    ちなみに、「かっちゃん」の衝撃の最期。

  • 昔は地縁、血縁が基盤であったが、いまは職縁の時代である。ゆえに失業はその縁を失うことであり、失業が長引けば友人付き合いも希薄になり、だんだん社会の周辺に追いやられてしまう。これを社会的排除と言い、対の概念を社会的包摂という。
    日本の相対的貧困率は16%である。つまり6人に1人が相対的貧困である。
    では残りの84%はどうか。この84%の層には貧乏が蔓延している。
    貧困は経済用語であり、貧乏は心の問題である。他者との比較から欠乏を感じるのが貧乏である。しかし、この84%の経済格差は小さい。この層は希望格差であろう。

  • 子どもの貧困についての記事等を漁っているときに目にした「社会的包摂」という言葉が気になり手にした一冊です。
    教科書的なオーソドックスな流れで(悪い意味ではないです)「社会的包摂」について解説されています。
    読んでいて中だるみしてしまうところもあるけれど全体的にわかりやすかったです。

    「社会的包摂の観点のない貧困政策は愚策」という一節がすべてを要約していると感じたけれど、あわせてあとがきの最後、アメリカの慈善団体のエピソードにハッとしました。
    ボランティアとホームレスの間に上下関係はあっても信頼関係はない。
    「格差は貧困を拡大させて権威主義を蔓延させ、ひいては人々の信頼性を欠如させる」というウィルキンソンの警告どおりのことが実際に起きている描写はおもいのほか切なかったです。
    そして最終段落を読むまでそのエピソードに違和感を覚えなかった 自分の鈍感さにも凹みました…。

  • 社会的包摂についての導入本

    社会的包摂とは、簡単にいえば「人を社会から追い出さず、包み込むこと」です。生活水準を保つための資源の欠如に着目していた従来の貧困概念に対し、人の社会的位置や人間関係に着目した概念です。

    本書では日本の貧困・格差について論じながら、この社会的包摂を紹介しています。データなどにつっこみどころはありますが、わかりやすくていい本だと思います。すぐに読み終えることが出来ました。

    個人的に、物質的欠如に着目した貧困論だとそのような状況に陥ることを自己責任とした上で「可哀想だから救済する」という色彩が強いと感じるのですが、社会的包摂概念は貧困をより社会構造と結びつけて捉え、階層に関わらず社会に生きる人間一般に関わってくる問題として貧困を捉えています。

    貧困に全く自己責任の要素がないわけではないですが、生活保護バッシングをみるに自己責任の追求が行き過ぎているのではないかと感じる点もあるので、社会的包摂概念がもっと広まってそのような日本の貧困に対する見方に風穴を空けていってくれたらいいなと思います。

    格差極悪論やマタイ効果、障害の社会モデルなどを引いて社会として貧困対策に取り組む必要性の根拠について触れている部分もあり面白かったです。

  • 225円購入2014-02-17

  •  この人の本は、前に『子どもの貧困――日本の不公平を考える』(岩波新書)を読んだことがある。同書は子どもの貧困問題に絞った概説書であったが、本書はより広い視点から日本の貧困問題を概説したもの。

     帯の惹句のとおり、貧困問題を大づかみに理解するための入門書としてよくまとまっている。貧困研究の最前線を垣間見ることができるし、「社会的包摂(Social Inclusion)」の概念の解説書としても優れたものである。

     『子どもの貧困』を読んだとき、当ブログのレビューで私は次のように書いた。

    《湯浅(誠)らの著作にあるような生々しい人間ドラマは、本書にはない。それに、データや図表を駆使した内容はどちらかというと政府が出す白書のようで、無味乾燥な感じがしないでもない。》

     ところが、本書には「生々しい人間ドラマ」が随所にあり、白書的な無味乾燥に陥ることを免れている。著者が研究者になる前に参加していたボランティア活動で出会った「ホームレスのおっちゃん」たちの思い出がちりばめられ、著者の主観、「素」の部分が大きなウエートを占めた内容になっているのだ。
     そうした変化について、著者はあとがきでこう書いている。

    《どちらかと言えば、客観的なデータ重視で論考を進める私のスタイルとは一転する展開となった。(中略)私は社会的排除/包摂というトピックについて、彼ら(出会ったホームレスたち/引用者注)のことなしに考えることはできない。社会的排除を、抽象的な理論や、無機質なデータで語ることができない。》

     実体験をふまえた本書の「熱さ」が、私には好ましく思えた。『子どもの貧困』より本書のほうがずっとよい。貧困問題の入門書でありながら、一冊の本としてすこぶる感動的である。たとえば、次のような一節は胸にしみる。

    《現代日本社会の中で、かっちゃんが「承認」された場は路上だけであった。彼を包摂したのは路上のコミュニティだけであった。私が彼と出会って3年ほどしたころ、寝ていた段ボール小屋に火をつけられて、泥酔していたかっちゃんは眠ったまま焼死した。焦げた地面のあとには、仲間がいつまでも野の花を供えていた。》

  • 368.2||Ab

  • 2011年刊。現代日本の貧困・格差問題につき①貧困・格差の意味、②格差の与える社会的影響、③地震など自然災害による貧困を主題とする。①は既読感があるも、「社会的排除」、その中でも雇用からの排除(つまり失業)を、収入減と違う意味で格差問題の中核と見るのは興味深い。先の社会的排除論と②は、英国のリチャード・ウィルキンソン教授の著作(「格差社会の衝撃」等)を参照すべし。③は、震災後三年目に幸福度が急落し、震災直後の水準に陥るのは新奇。ただやはり本書は導入書で、阿部氏著の「子どもの貧困」程のインパクトには乏しい。

  • 貧困、格差という問題から一歩進んで、社会的排除という問題を捉えて、社会的包摂政策の必要性を説く。
    データもありつつ、現場レベルの話もありつつで、あまり知らなかった貧困の実態が少しは見えてきた。

  • 貧困を学問的に追及すると、こうなるのね。貧困学入門。
    貧困の定義、その測定の方法論、社会との関係、政策への反映のさせ方、等々単に貧困といっても色々な切り口があることを知った。
    特に社会的排除と格差の理論はなるほど腹に落ちた。最も援助を必要とする人に基準を合わせれば皆が幸せな社会になる。情けは人の為ならず、と言うことか。
    ただ格差是正の恩恵は目に見えにくいから負担とのバランスに社会の納得感が得られるだろうか?被生活保護者をナマポと呼んで差別する風潮が益々強くなっている現状を見ると、絶望的にならざるを得ない。日本人の民度はそこまで高くない。

全64件中 1 - 10件を表示

著者プロフィール

社会政策学者

「2018年 『貧困を救えない国 日本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書)のその他の作品

阿部彩の作品

弱者の居場所がない社会――貧困・格差と社会的包摂 (講談社現代新書)を本棚に登録しているひと

ツイートする