宇宙生物学で読み解く「人体」の不思議 (講談社現代新書)

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  • Amazon.co.jp ・本 (200ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062882262

作品紹介・あらすじ

宇宙生物学とは、地球に限定せず、宇宙全体の広い視野で生命の成り立ちや起源を解明する学問で、アストロバイオロジーとも呼ばれています。本書は、この宇宙生物学の研究成果を医学に結びつけることで、生命の本質に迫ろうとする、意欲作です。一見すると、何の接点もないように見える宇宙生物学と医学ですが、実は両者は深い関係があり、宇宙生物学のアプローチによって、従来の医学では説明がつかなかった、さまざまな人体の謎が解明されつつあります。著者の吉田たかよし氏は、東京大学で宇宙生物学の研究に携わった後、医学部に再入学し、医師になった多芸多才の持ち主です。こうしたバックグラウンを持つ著者だからこそ書ける作品です。

第1章 人間は月とナトリウムの奇跡で誕生した
第2章 炭素以外で生命を作ることはできるのか?
第3章 宇宙生物学最大の謎 アミノ酸の起源を追う
第4章 地球外生命がいるかどうかは、リン次第
第5章 毒ガス「酸素」なしには生きられない 生物のジレンマ
第6章 癌細胞 vs.正常細胞 「酸素」をめぐる攻防
第7章 鉄をめぐる人体と病原菌との壮絶な闘い

感想・レビュー・書評

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  • 満潮時に出産が増えるだとか、満月の夜は事故が増えるだとか、
    人間と自然の関係については、まことしやかな噂が多い。
    それらの真偽のほどは定かではないが、生命と自然や宇宙との繋がりが、
    これほど深いものだったとは驚きだ。

    原始の塩酸を大量に含んでいた海水が
    塩水に変わったのは、月の引力のおかげだったとか、
    老化や発癌は細胞の酸化の影響が大きいが、
    それはもともと地球には酸素がなかった為、人間の細胞は本来酸素が苦手である等々、
    宇宙生物学の研究成果から浮き彫りにされた、
    目からウロコのトピックが満載の良書である。
    生命体が宇宙の神秘的なメカニズムから生まれ、
    私たちの体内に、宇宙が今も息づいていることがよく解る。

  • 第1章の月の話、天体としてばかりでなく人間の体に密接に関連している由.知らなかった.それから第7章の鉄と病気の関連も興味ふかい話だった.さらにアミノ酸、リン、酸素などの話も意外な事実が出てきて、非常に面白く読めた.

  •  「宇宙生物学」とは耳慣れない学問ジャンルですね。
     『宇宙生物』までをひとかたまりで捉えると、「宇宙生命体」や「宇宙人」とかを扱う学問のようにも思えますが、そうではありません。宇宙生物学とは、宇宙的視野で生命の成り立ちや起源を解明する学問で、アストロバイオロジーとも呼ばれているのだそうです。
     本書において著者は、この宇宙生物学の観点から、ナトリウム・リン・酸素・鉄といった様々な元素が生命の発生や維持に果たしている役割を分かりやすい言葉で解説していきます。
     「人間は月とナトリウムの奇跡で誕生した」「地球外生命がいるかどうかは、リン次第」「毒ガス「酸素」なしには生きられない 生物のジレンマ 」「鉄をめぐる人体と病原菌との壮絶な闘い」等々、「章立て」のタイトルを辿るだけでもワクワクしますね。
     切り口が斬新で刺激的、私にとってはとても興味深い内容の著作でした。

  • 吉田たかよしに説得力があるのは最後の部分である。栄養素の分子構造と人体にかかる負荷の関係性を明らかにしている。
    https://sessendo.hatenablog.jp/entry/2023/11/12/035233

  • p.170 地球上の生物は、激しい鉄の奪い合い競争を広げている。
    p.171-172 感染症の予防を防ぐため、あえて鉄不足になっている。「鉄・差し控え戦略」

  • 宇宙生物学と医学を結ぶ著者による新書三冊目。高校(中学?)化学で挫折した自分の不勉強を痛感している。

    生命の基盤であるアミノ酸の仕組みと起源を書いた3章、酸素の起源と人体との関係を書いた5.6.7章のメモを残しておく。

    ■アミノ酸
    生命の基盤であり、宇宙のどこで生まれたのか、最も解明が待たれる重要物質。
    ○アミノ酸のしくみ
    ひとつの分子の中にカルボキシ基とアミノ基を持ち、鎖状につながるとタンパク質になる。炭水化物、脂肪とあわせて生命の三大成分といわれるが、炭水化物、脂肪とちがう特徴は、窒素原子を持つ点。窒素原子を中心にしたアミノ基が構造の中核を担っている。
    細胞の中で豊かな化学反応を起こそうと思ったら酸とともに塩基が必要になる。炭素、酸素、水素だけで分子を設計しても、酸(水素イオンを出す)はつくれても塩基(水酸化物イオンを出す、又は水素イオンをうけとる)は難しい。
    アミノ酸の優れたところは窒素を加えて、一つの分子に酸(カルボキシ基)と塩基(アミノ基)を持つところ。アミノ基が水素イオンと脱水収縮して鎖のように繋がれる。必要があれば水を加えて一度くっついた結合を切り離すこともできる。こうして20種類のアミノ酸から10万種のタンパク質をつくって、呼吸、代謝の複雑な化学反応に役立てている。

    ○アミノ酸の起源
    ミラーの実験1953と疑問。隕石から多数アミノ酸がもちこまれた宇宙起源説が主流。
    アミノ酸には2種類ある(右型と左型)。そのうち太陽系には右型が多いが、地球では左型がほとんど。これは太陽系ができる以前に、右型を破壊する右円偏光紫外線が多かったため。
    アミノ酸は放っておいてもタンパク質にはならない。人間の体内(粗面小胞体)で作られる以前は、どこでつくられたのか。
    海底のマグマ活動が激しい場所、熱水鉱床がその起源とされる。高温からいっきに冷やされるとアミノ酸がつながる。この説が正しければ、海を持つ木星の衛星エウロパで生命誕生の可能性がある。
    ○窒素の弊害
    窒素をとりいれた代償として、人間は尿を出す。炭水化物や脂肪は、ほとんどが炭素と水素と酸素でできているため、燃焼すれば二酸化炭素と水になる。二酸化炭素は呼吸でだし、水は体内に蓄えればいい(一部は呼気で排出)。だが窒素は燃焼させると一酸化炭素を生むため呼吸では出せない。そこで尿素に変えて尿として捨てる。老廃物を捨てるため排尿自体は窒素に関わらず必要だったろうが、尿素の比率は他に比べ大きく、そのため大きな腎臓が必要になった。
    この尿素をうまく捨てられなくなると、血液に老廃物が溜まる尿毒症になる。アミノ酸から尿素に変える途中でアンモニアが作られるが、腎不全、肝不全でそれが体内にたまり炎症を起こす。
    炭水化物ダイエットなどで過度にタンパク質ばかり取ると、肝臓、腎臓に過度に負担をかけ老化を早めてしまう。

    ■酸素
    大気はどうやってできたか。
    はじめは火山から吹き出した二酸化炭素中心のガスだった。空気中にわずかにあった水はガスに含まれる一酸化炭素と結合して二酸化炭素にかわってしまう。こうして20億年は大気に酸素がない状態が続く。それが変わった要因として以下2つ例を上げている。
    ○大半の植物は光合成で酸素を作っても腐敗して二酸化炭素にもどるため差し引きゼロで大気の酸素が増えない。ただし植物のだした有機物の一部が石炭など化石燃料化していく腐敗せず残った。
    ○鉄はふつう酸素と結合して錆びるが、地表の鉄がすべて錆びつくほど時間が立ち、大気の酸素濃度が増えた。

    生物は酸素の毒性を除去する仕組みを獲得し、大気の酸素を効率よくエネルギーに変えることができるようになった。2つの物質がある。
    抗酸化物質は酸素が細胞膜と反応するより先に結合して取り除いてくれる。抗酸化酵素はそれ自体が反応するのではなく、触媒として働き酸化力を奪う。
    こうして好気性生物が生まれた。

    酸素のおかげで、動物は動き回るのに多大なエネルギーをまかなえるようになった。エネルギー源のATPで比較すると、酵母菌のアルコール発酵と比べて酸素呼吸は18倍。
    単細胞生物から多細胞生物への進化にも同様のエネルギーが必要だった。例えば多細胞生物の細胞を結びつけているコラーゲン(タンパク質の一種)。
    さらに、病原菌リケッチアの仲間であるミトコンドリアと共存することで、三葉虫、サンゴ、貝類など多様な生物が生まれた(6億年前カンブリア爆発)。

    ■癌と酸素
    癌は、細胞が無限増殖してコントロールできなくなる病気で、それは多細胞生物の宿命でもある。
    酸素呼吸で細胞を爆発的に増殖させるのは進化に必要なプロセスだったが、適正な数を超えると自らを傷つけかねない。そこで癌抑制遺伝子など細胞の増殖を防ぐ仕組みを作った。が、体内に入った酸素の一部は、不安定で反応性の高い物質・活性酸素に変わり、これは病原菌や癌細胞を攻撃する一方、細胞膜や遺伝子を傷つける諸刃の剣。

    さらに脳の肥大化も関係がある。脳は全身で消費する20%のエネルギーを消費し高度な活動を可能にしているが、それとひきかえに活性酸素の量も増やしてがんの発生率を上げた。
    ここで人間の脳の肥大化に寄与した脂肪について説明している。脳は神経が電気刺激を伝えて動くために全体を絶縁体で覆う必要がある。それに使われるのが脂肪(脂肪酸)。他の哺乳類に比べて、脂肪酸を合成する酵素の機能が高度に進化し、脳の巨大化を可能にした。
    一方、この脂肪の合成力の進化は、癌が低酸素状態でも増える能力を与えてしまっている(ワールブルク効果)。低酸素だとふつうの細胞は生命活動に必要なエネルギーを生み出せないが、癌細胞は少量のタンパク質と脂肪で細胞分裂ができる(逆にこの脂肪合成能力を奪う薬を投与すると活動がとまる)。また活性酸素はミトコンドリアで生まれるため、低酸素状態だと機能せず、癌細胞攻撃ができない。
    ただ低酸素状態は癌細胞にとっても居心地は悪く、活動の速度は弱まる。一方、あまりに低酸素だと、一部の癌細胞が移動する。これが転移。

    癌予防には抗酸化物質の摂取が推奨されている。肉、魚より野菜のほうが多く含まれるのは光合成のせい。

    ■鉄
    鉄は地球の重量比5%を超える最もありふれた元素で人間には不可欠だが、それはほとんどの細菌にとっても同じで、鉄をめぐる攻防(鉄・差し控え戦略)が行われている。
    貧血、月経による病原菌の繁殖阻止。
    瀉血には効果がある?C型肝炎患者への施療
    マオリの悲劇
    鉄の散布でプランクトンの光合成を促進し地球温暖化対策?

  • 信州大学の所蔵はこちらです☆
    https://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB13442851

  • 【由来】
    ・図書館の新書アラート

    【期待したもの】


    【要約】


    【ノート】

  • 宇宙という視点から見たときの人間を含めた生物とは、という何度読んでも飽きない主題で書かれた一冊。

    話題豊富で「つつがなきや」の語源から、鳥のフンでできた島まで、宇宙生物学から離れた話もけっこう多いような気もするものの、とても読みやすく書かれていて、しかもわかりやすい。

    よくある内容ではあるのだけど、よくまとまっていて、読み物としてもおもしろい。

  • 図書館で適当に選んで借りた本だったけれど、とても面白かったので改めて購入しました。
    平易な文章でとてもわかりやすかったです。

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著者プロフィール

医学博士・心療内科医師。本郷赤門前クリニック院長。新宿ストレスクリニック顧問。1964年生まれ。灘高校、東京大学卒業。東京大学大学院医学博士課程を修了。現在、脳科学とメンタル医学を活用した診療に携わる一方、TV・ラジオ・雑誌・WEBなどメディアに多数出演中。

「2019年 『「ついつい先送りしてしまう」がなくなる本』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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