ナショナリズム入門 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 188
感想 : 17
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062882637

作品紹介・あらすじ

尖閣諸島問題を巡る中国との軋轢などによって、「ナショナリズム」という言葉を目にすることが多くなってきました。しかし、では「ナショナリズム」とはいったい何なのでしょうか? 著者は「ナショナリズムとは、『ネイション』への肯定的なこだわり」であると定義します。ネイションは日本語では「国家」「国民」「民族」などと訳されますが、日本語に訳すると日本語独自のニュアンスにどうしても染まってしまうので、やはり「ネイション」と言わざるをえません。本書ではそのため日本語にはあえて翻訳せず、「ネイション」そのものからナショナリズムを理解するというスタンスを取ります。では、なぜ日本人には「ネイション」を理解することが難しいのか? それは日本が、日本列島という「地域」と、日本人というそこの「民族」とが一致している(もちろん、アイヌ、沖縄という例外もありますが)世界的に見てもごく稀な「ネイション」だからです。ですから日本の事例を自明と見なしてしまうと、世界での様々な軋轢が、かえって見えにくくなってしまうのです。例えばドイツは、現在でも日本のように「民族」と「領土」が一致してはいません。ドイツ語を国語とする国としてはドイツ以外にオーストリアがあります。また領土的に言っても、プロシア王国の領土は現在のポーランドに当たる部分を広く含んでいましたので、その地域に住んでいたドイツ系の住民は現在のドイツからは切り離されてしまいました。近代とは「民族」と「領土」が一致しているべきという理念のもと、「近代国家」を形成することが国際競争上も優位だと考える時代です。しかし世界中の国々は、日本のようにはその「ネイション」自体が自明ではありません。いえ、両者がずれている場合の方がほとんどなのです。各地で起こっている民族問題も、この「ズレ」に起因したものがほとんどです。中国の「チベット問題」なども、「チベットも含めた中国全体が一つのネイションである」と「チベットは中国とは別のネイションである」という二つのネイション観の衝突と捉えることができるでしょう。本書は、ネイションという、何でも入れられる「透明で空っぽな袋」に、なぜ人々はこだわるのか?という問題意識の元、世界の様々な地域における多様なナショナリズムの構造を分析し、21世紀の世界における最も大きな問題であるナショナリズムについての基礎的な知識を与えるものです。

感想・レビュー・書評

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  • 本書における「ネイション」の定義は「土地を持ち、その土地の上に文化的なものや国家的なもので歴史的に形成され、ネイションへの意識と意欲が目覚めてネイションとして広く強く認知されたもの」とされている。具体的には「国民」「国家」「ネイション」「ナショナリズム」「こだわり」といったキーワードを駆使しながら「国家」や「ナショナリズム」の概説、実例の説明が試みられている。その上でネイションには「人間集団単位のネイション」と「地域単位のネイション」というふたつの大きなモデルに分けられることを提示する。

    そもそも、戦争、内戦、併合による衰滅の危機を回避するために「さまざまな人間集団がその存続を目指して、近代国家を作ろうと」する。近代国家とは、領域を支配するための精緻で複雑な仕組みである(=領内の人間を自分の色に染めていくのに好適)。それには、先ほど挙げた「人間集団単位のネイション形成(民族的なネイション形成)」(=近代国家との相性は悪くなりがち)と「地域単位のネイション形成(国民的なネイション形成)」(=近代国家との相性ははるかに良い)に分けることができると言う。

    こういった定義、前置きの上で、さまざまな具体的事例が本書では展開される。日本、ドイツ、東欧、西欧、旧ユーゴスラビア、アメリカ、カナダ、旧スペイン領の植民地(南米)、フランス、イギリス、ロシア(旧ソ連)、トルコ、アラブ、中国、台湾、といった具合である。それぞれの国家、地域にはそれぞれの事情があり、人間集団単位あるいは地域単位のネイション形成が行なわれていくことになる。また、どのような「こだわり」を持つかによっても国家の色合いは変わってくると著者は繰り返す。その具体的内容については、本書を手に取った方々に読んでいただき、評価していただきたい。

    本書はタイトルで「入門」と謳いながらも、ナショナリズム論にまったく触れたことのない方が読んだとすると、やや難しく感じるかもしれない。それだけさまざまな事例、内容が盛り込まれていると言える。また、読んでいく上で、地理的、歴史的な知識がないとよくわからないところもあるかもしれない。これらの知識はないよりもあった方がよいだろう。これだけの国家、地域を対象に、実例を挙げて論じていくスタイルには脱帽せざるをえない。ナショナリズム論に関する本は何冊か読んだことがあるが、新書でこれだけの内容を盛り込んだ著作には触れたことがない。ただし、本書は「です」「ます」で書かれており、内容に複雑さはあるかもしれないが、「入門」らしくわかりやすく記述しようとする姿勢のあらわれだろうか、と感じる一面もあった。以上、個人的にはおなかいっぱいの内容であった。

  • 311-U
    新着図書コーナー

  •  〝ナショナリズム〟という思想が、日本だけでなく東西ヨーロッパや南北アメリカ、ロシア、中東のアラブ諸国でどのように考えられているか、どのように扱われているかが紹介されている。最初に読者層の大半をなすであろう日本に居住する日本人がおおよそイメージする〝ナショナリズム〟を扱い、そこから日本のナショナリズムと比較する形で世界各国でナショナリズムがどのように考えられているかが解説されていく。
     易しい文体で書かれていながらも、詳しい事例が引用されており分かりやすかった。何より、事例の引用元や詳細な資料となる書籍が紹介されているのが、これから更に学習していくうえでとても助かった。

  • 「ナショナリズム」を、民族と領土と国家という三つのファクターが複雑にせめぎあう現象としてとらえ、日本のほか、ドイツやユーゴスラビア、カナダ、アメリカ、イタリア、ロシア、中国など、さまざまな国家を例に、そうしたせめぎあいの諸相を解説している本です。

    「ネイションとは何かを多くの人がさまざまに問うことが、ネイションの内容を豊かにし、その魅力を高めてきた」と著者はいいます。「そのような言論の自由と創造的な姿勢こそは、ネイションを支えるものであり、それらを失えば、ネイションはその勢いを失っていきます」という著者の警告も、個人的には賛同できるように感じられました。

    ただし本書は、著者自身の考えるナショナリズムについての入門書としての性格が強く、ナショナリズムをめぐる言説について読者に紹介するような内容の本ではありません。もちろんこのことは本書の欠陥というべきものではありませんが、「ナショナリズム入門」というタイトルから、そうした内容を期待する読者もいるのではないかという気もします。

  • 社会
    政治

  • ハズレの少ない講談社新書。あまり馴染みのなかったナショナリズムについても本書でとりあえず基礎はわかった。
    まず「形の見えるネイション」として、島国である日本が世界でも特異なネイションである点を説明してくれるあたりが良い。
    また淡々と「東欧はアメリカのような合衆国にはなりませんでした」と説明してしまうのも読んでいて気持ちがいい。そのほか、ネイション内部での主導権争い、なぜネイションは増え続けるのか、についても理解できたのでよかった。
    でも地政学の本って言われたら、地政学の本な気もするのだけど、ナショナリズムの起源というか本質は地域であるのだから、地政的な事実を語らずにナショナリズムだけ取り出すとおかしなことになるんだろうなと勝手に解釈。
    また結構な数の参考文献が記載されていてこういう著者には好感が持てた。

  • 対象が広いようで狭い、知見はあったが後半期待ハズレ

  • 【簡易目次】※Amazon掲載の目次にはズレや違いがあるので注意。
    目次 [003-006]

    はじめに――ナショナリズムを見た日 007
    第一章 ナショナリズムの作り方 023
    第二章 ネイションの自明性──日本の形 029
    第三章 ネイションの多義性──ドイツの変形 063
    第四章 人間集団単位のネイション形成(一)──ドイツと東欧 091
    第五章 人間集団単位のネイション形成(二)──ユーゴスラヴィアの滅亡 119
    第六章 地域単位のネイション形成(一)──アメリカ大陸の状況 149
    第七章 地域単位のネイション形成(二)──ヨーロッパの西と南 175
    第八章 ネイション形成のせめぎ合い──重複と複雑化 197
    第九章 ナショナリズムのせめぎ合い──東アジアの未来 227
    第一〇章 政治的仕組みとネイション 255

    おわりに [280-283]

  • 本書ではナショナリズムをネイションへのこだわりと捉え、ネイションを中心に紐解いていく。特にネイションの形成が人間集団単位の形成と地域単位の形成とふたつに区分し、それぞれのこだわりと、両者のせめぎ合いによる紛争やネイション形成について、さまざまな事例をもって解説する。

    ナショナリズムや民主主義は人間集団を動かそうとするアクセル役であり、自由主義は個人の自由を守ろうとするブレーキ役となるという視点は自分にとって新しいものだった。

    改めて思うのは、日本人にとってネイションという概念を理解するのは簡単ではない。ネイション=民族=国家=地域という類稀な条件に置かれるからだ。同時に日本ネイションへのこだわりに対する拒否感は、大戦の記憶ゆえなのか、自由主義による抵抗感なのか、まだよく整理ができていない。

    淡々と論じる中で最後の一文は大変印象に残る。
    「ナショナリズムの流行はネイションの流行であり、それはつまり、世界の分裂です。世界を分裂させていくネイションをまとめ、意味のある世界を新たに作り出していく知恵を出すことが、二一世紀の人類の課題ではないでしょうか。」

  • 非常勤で「エスニシティ・地域・境界」というテーマを持った社会学の講義を担当しているが、最後の事例でヨーロッパの話をする予定である。国民国家という政治システムは近代期にヨーロッパで誕生した、みたいないい加減な話をしているが、じゃあ、実際にヨーロッパ内部で国境の変動がどのようなものであったのかという知識を私はあまりもっていない。
    それこそ、最近は授業の補足資料として高校の世界史の教科書を使っているが、そこにそれぞれの時代のヨーロッパの地図が載っている。しかし、地図を見せただけではなんの説明にもならないので、これから勉強していくつもり。そんなつもりで手を出した、講談社現代新書の1冊が本書。別の大学では前期にナショナリズムをテーマとした講義をしたが、本書はナショナリズムについてはあまり書かれていないようなきがする。
    以下、目次で分かるように、事例を挙げて説明されているのは「ネイション」についてである。

    はじめに——ナショナリズムを見た日
    第一章 ネイションの作り方
    第二章 ネイションの自明性──日本の形
    第三章 ネイションの多義性──ドイツの変形
    第四章 人間集団単位のネイション形成(一)──ドイツと東欧
    第五章 人間集団単位のネイション形成(二)──ユーゴスラヴィアの滅亡
    第六章 地域単位のネイション形成(一)──アメリカ大陸の状況
    第七章 地域単位のネイション形成(二)──ヨーロッパの西と南
    第八章 ネイション形成のせめぎ合い──重複と複雑化
    第九章 ナショナリズムのせめぎ合い──東アジアの未来
    第一〇章 政治的仕組みとネイション

    本書では、nationを国民とは訳さず、もちろん民族とも訳さず、ネイションというカナ表記にしている。ナショナリズムを考える前提としてのネイションの理解である。そういう意味では、本書のタイトルは相応しいが、一般的な理解としての「入門」とはいえないかもしれない。ともかく、内容をパラパラめくって購入した私の必要とする知識には十二分に応えてくれる内容だった。
    ナショナリズムや国家論に関しては、著者の専門分野である政治学(法学部所属)が最も中心だと思うが、私が読んできたのは社会学や歴史学が中心だったので、本書はちょっと読みにくい。加えて、新書ということで「ですます」調を使っていることも、私のような読者には読みにくい点。しかし、読みにくい分、第一章で示される著者の立場、認識をさらっと読み流すのではなく、何か違和感が残るまま読み進めることができる。
    その違和感は第二章以降の事例の話で解消されていき、説得されていきます。「おわりに」にも書かれているように、著者の専門はドイツと日本、多少の東欧ということですから、本書の第六章以降は専門外ということになります。ただ、だからこそ翻訳のある文献からの説明を中心とした内容は、それ以上知りたい場合には参考文献にあたるという形で理解を深められるようになっていて、新書らしい内容だといえます。
    内容に関しては目次にほとんど示されているので、詳しく説明しませんが、国民国家は国土という空間的に連続する範域を必要としますので、地域というのは必須です。しかし、一方では国民を形成する人間集団はなるべく均質であることが望まれますから、人間集団単位でまとめることが要求されます。このある意味では相容れないものを整合させようという試みがさまざまな問題を生んでいるということになります。

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著者プロフィール

2021年2月現在
京都産業大学法学部教授

「2021年 『ハンドブック近代日本政治思想史』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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