ニッポンの裁判 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062882972

作品紹介・あらすじ

裁判の「表裏」を知り抜いた元エリート裁判官による前代未聞の判例解説。法曹界再び騒然の衝撃作!

冤罪連発の刑事訴訟、人権無視の国策捜査、政治家や権力におもねる名誉毀損訴訟、すべては予定調和の原発訴訟、住民や国民の権利など一顧だにしない住民訴訟、嗚呼(ああ)!日本の裁判はかくも凄まじく劣化していた・・・。ベストセラー『絶望の裁判所』の瀬木比呂志教授が、中世なみの「ニッポンの裁判」の真相と深層を徹底的に暴く衝撃作!

「はしがき」より
本書は、『絶望の裁判所』の姉妹書である。『絶望』が制度批判の書物であったのに対し、本書は、裁判批判を内容とする。つまり、両者は、内容は関連しているが、独立した書物である。(中略)より具体的に述べよう。『絶望』は、もっぱら裁判所、裁判官制度と裁判官集団の官僚的、役人的な意識のあり方を批判、分析した書物であり、裁判については、制度的な側面からラフスケッチを行ったにすぎなかった。これに対し、本書は、そのような裁判所、裁判官によって生み出される裁判のあり方とその問題点について、具体的な例を挙げながら、詳しく、かつ、できる限りわかりやすく、論じてゆく。(中略)おそらく、日本の裁判全体の包括的、総合的、構造的な分析も、これまでに行われたことはあまりなかったのであり、本書の内容に驚愕され、裁判に対する認識を改められる読者は多いはずである。

感想・レビュー・書評

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  • 三十三年間、裁判官を務めたという著者が自身の経験も多分に交えつつ、欧米における裁判の常識と比較しながら日本の裁判の現状を伝える。全八章、約300ページ。前著、『絶望の裁判所』への大きな反響を受けての著書とのことで、前著を参照する箇所も多い。どちらかといえば『絶望』を読んでおくことが好ましそうだが、本書からの私も問題なく読めた。あらかじめ伝えるなら、日本の法曹界や裁判制度をかなりペシミスティックなものとして位置づけており、仮に正義に燃えて裁判官を目指す若者が読むならば、その実態に幻滅すること請け合いだ。

    まず1・2章は裁判官がどのようにして審判をくだすのか、その判断の構造を考察する。本書のなかでは前段にあたり、裁判官に限らず人間の心理に関する知見など普遍的な内容が多い。日本の裁判所の事情としては、地裁の裁判のほうが民主的・先駆的・常識的で、逆に最高裁判所については「最低裁判所」「日本の最高裁判所に大きな幻想を抱くべきではない」と、この時点ではなはだ低い評価を明らかにしている。

    3章から5章は著者自身が本書の中核と定めており、分量としても全体の半数近くを占める。章ごとには、3章が冤罪・国策捜査の問題を中心とした刑事裁判。4章が最高裁判所事務局によってコントロールされる名誉毀損訴訟や原発訴訟について。そして5章では行政訴訟を通じて裁判官たちが公的権力に寄り添う姿勢の顕著さと、さらには共感と想像力の欠如による裁判官の劣化を伝える。中核となる3章は、いずれも裁判官や裁判所組織が公的な権力に対してのあり方について、多くの具体例とともに問題の深刻さを伝えることを主としている。「多数派の裁判官は、むしろ、「権力の番人、擁護者、保護者、忠犬」」という非常に辛辣な言葉が著者の絶望の深さを物語る。

    6章は民事訴訟について、日本の裁判官による和解のテクニックが中心となる。著者自身が日本の裁判のなかでは常識的な判断がくだされているとする一般の民事裁判については本書のなかで主となる箇所ではないが、日本の裁判全体を包括的に分析することもその旨とする本書においては欠かせない。「民事訴訟利用者の満足度が二割前後というおそらく国際的にもあまり例をみないだろう低い数字」が目を引く。

    終盤の7・8章は裁判官の視点からみた裁判所、法曹界の現状ということになる。7章は裁判組織を株式会社に例えてみた場合の息苦しさや将来性のなさについて。終章は著者自身の裁判官としての経験と考察を多く取り入れながら、全体の総括・打開策を含めた今後の展望という流れになっている。

    昨年、興味本位で裁判を傍聴してみたこともあって日本の裁判についてまとまって書かれたものがあれば読んでみたいと思っていたところ知ったのが本書だった。結論として、個人的には非常に衝撃の大きい読書になった。何だかんだいっても日本の裁判所は「三権分立」の一角としての役目をある程度は果たしているのだろうと何となく考えていたのだが、本書をみるかぎり刑事訴訟を含む公権力が絡んだ裁判については、公平に機能しているとは言えそうにない。「有罪率99.9%」という日本の刑事裁判における数字は誇れるどころか、万が一、自分自身が冤罪事件などに巻き込まれた場合を考えれば空恐ろしくなるばかりであり、ニュースや本などでときおり目にしていた冤罪の問題が身近に迫る。そして、日本の裁判所のあり方が異なっていれば、例えば「一票の格差」や「原発訴訟」によって選挙の結果や原発被害が現在とは全く違ったはずであり、裁判の結果が社会に与える影響の大きさを知らされる。裁判改革こそが日本社会を変える近道であるという主張にも納得できた。

    著者が糾弾する裁判所の問題はすでに喫緊の課題であり、読み手の不安を強く煽る。ただし、本書にある日本の裁判所を覆うさまざまな問題点は、日本に生きるひとりひとりの考え方と無縁でなさそうだ。それは民主制やフェアネスにたいする意識の弱さによるものかもしれず、そうであれば一朝一夕には変えることのできない問題だろう。そんななか、つい先日の衆議院選挙と併せて行われた最高裁判所裁判官国民審査などは、法曹界に一般の民意を示すことのできる貴重の機会といえる。

    一冊で自らの経験と多くの実例を交えながら日本の各種の裁判の実情を伝える本書は非常な読み応えとともに、暗澹とした気持ちにさせられる内容だった。今後は裁判がらみの報道についての見る目も大きく変わるだろうし、本書を経た後の裁判傍聴にどのような感想をもつかにも興味が沸く。また違った視点を得るためにも、できるなら日本の裁判に直接携わった他の著者による類書があれば読んでみたい。

    余談だが、有罪判決がくだった佐藤優氏の国策裁判について「本当に有罪であるのか」と疑義を呈しながら、担当検察とのあいだに奇妙な友情を感じて「司法権の独立など最初から信じていない」とする佐藤氏のスタンスに違和感を表明するくだりが参考になった。

  • 『絶望の裁判所』に続き、日本の裁判所をめぐるシステムについて、その事実がいかに悲観的かがよくわかる。
    相変わらず読むとどんよりした気分になります。
    そんな中、少しばかり参考になったのは、第3章の『3 あなたが裁判員となった場合には……』の以下の記述。
    -----引用------
    いずれにせよ、陪審制が実現する前にあなたが裁判員に選任された場合には、本章や『絶望』(68頁以下、145頁以下)の記述を思いだし、裁判官たちの人柄をよく見極めて安易に彼らの意見に誘導されないように注意し、くれぐれも、罪なき人に有罪判決を下す結果にならないよう、臆せずに自己の意見を述べ、信じるところを貫き、他の裁判員たちをも説得していただきたい。現在の刑事系裁判官たちが若手を養成するに際して重きを置いている一番のポイントが「にこやかな説得の技術」であることも、頭に入れておいていただきたい。
    -------------

  • 瀬木比呂志著『ニッポンの裁判(講談社現代新書)』(講談社)
    2015.1発行

    2016.12.22読了
    『絶望の裁判所』よりもこちらの方が面白かったかな。砂川判決の裏にアメリカの圧力があったなんて知らなかった。裁判官というものはどこか現実を超越した裁定者のようなイメージがあったが、裁判官も人であり、担当判事によって結論が大きく変わるというのは意外だったかもしれない。判決を書くのが面倒くらいから和解交渉を勧めるというのは実際あり得そう。

    URL:https://id.ndl.go.jp/bib/026004962

  • 読めば読むほど司法に対するイメージが最悪になっていく・・・
    要するに、戦後からのインフラがボロボロになってにっちもさっちもいかない困った困ったっていうのはどこでも同じで、それなりにごまかしてやれてるんだからこれからもごまかしてやればいいよね。


    だって日常生活にいっぱいいっぱいでそんなことする余裕はないよ。

    って感想かな。
    確かに色々暗雲が立ち込めて絶望するのだろうけど、著者とわいでは立ってる位相がずれてる印象も受けた。
    わいはすでに社会全般に絶望しつつある。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】 
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685800

  • 法律
    犯罪

  • 日本の裁判は「中世」並みだった!
    という見出しに思わず惹かれて手にしちゃいました。元裁判官が赤裸々に語る、裁判の裏側。なるほど、こういう状況だから「冤罪」というものが生まれるのか。。。

    最高裁判所は「黒い巨塔(法服の色から)」という章も読んでいたら、もはや馬鹿らしい?恐ろしくて裁判なんてできないな。。。と思ってしまいます。しかし、いざ自分が裁判の当事者になったら、本当に正しい裁きをしてもらえるのだろうか。。。

  • 『絶望の裁判所』の瀬木比呂志による第二弾。
    『絶望の裁判所』は裁判所と裁判官に対する分析に対し、これは実際の判例の分析。

    どちらも現行の日本の司法制度に対する絶望感と提言であるが、改めてそれを痛感した。

  • 最高裁長官はやめればただの人であり、矢口でさえ退官後はおおきな影響力を持ち得なかったと言われる。
    千葉勝美が衆議院法務委員会で、名誉既存訴訟の賠償額高額化に言及した次の日に検討会が裁判所で開かれて高度化へ向かっていった。
    地方議会による首長に対する債権放棄議決有効判決は千葉勝美であり、反対した須藤正彦に対して意見の中で激しく論難している。
    光華寮訴訟においても、最高裁にこの件が係属してから外務省がしょっちゅう民事局長室に出入りして様々な申し入れをしていた。

  • 絶望の裁判所も読みましたが、こちらの方が、よりインパクトがあり、問題を的確に提示していると感じました。特に、127ページで取り上げられている名誉毀損訴訟の統制については、表現の自由を擁護する立場から、私も問題意識を持ち続けてました。65ページからの冤罪問題も然り。広く読まれるべき本です。

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著者プロフィール

1954年、名古屋市生まれ。東京大学法学部卒業。1979年から裁判官。2012年明治大学教授に転身、専門は民事訴訟法・法社会学。在米研究2回。著書に、『絶望の裁判所』『ニッポンの裁判』(第2回城山三郎賞受賞)『民事裁判入門』(いずれも講談社現代新書)、『檻の中の裁判官』(角川新書)、『リベラルアーツの学び方』『究極の独学術』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、『教養としての現代漫画』(日本文芸社)、『裁判官・学者の哲学と意見』(現代書館)、小説『黒い巨塔 最高裁判所』(講談社文庫)、また、専門書として、『民事訴訟法』『民事保全法』『民事訴訟の本質と諸相』『民事訴訟実務・制度要論』『ケース演習 民事訴訟実務と法的思考』(いずれも日本評論社)、『民事裁判実務と理論の架橋』(判例タイムズ社)等がある。

「2023年 『我が身を守る法律知識』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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