日本海軍と政治 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 68
レビュー : 7
  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062882996

作品紹介・あらすじ

海軍の太平洋戦争への責任は陸軍に比して軽かったのか? 明治憲法下において政府・議会と並ぶ国家の主柱であったにもかかわらず、その責任を十分に果たすことのできなかった海軍の「政治責任」を、「不作為の罪」をキーワードに検証する。これまで顧みられることの少なかった「海軍と政治」の問題をはじめて正面から問う問題の書。

感想・レビュー・書評

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  • 日本近代史を海軍と政治という側面から著した本。序章において「近代日本の海軍と政治をめぐる歴史」を素材として「歴史における越権行為や職務怠慢を観察して、教訓を得る」ことの必要性が説かれている。

    海軍は「政治に対してはおおむね消極的だったと言える」ものの「それに応じた政治介入の仕方」があったのであり、また「海軍がなぜ、政治に対して消極的となるのか」「どのような認識のもとで政治に関わるのか」を本書では見ていくことになる。それには「政治と軍事の棲み分け意識と執行責任の追求」や「陸軍への対抗意識」が作用していたという。これらのどの要素が強くなるのかは時期によるという問題設定から、時期区分をして海軍と政治という問題を繙いていく。章立てとその内容は以下の通り。

    「第一章で明治の海軍創建期をみていき、海軍の消極的な政治姿勢や陸軍への対抗意識が、建軍の経緯からどのように生じていくのかをみていく。第二章では、政党内閣期の海軍が、政党とどのような関係を結んでいたのか、そして、それがどのように海軍の政治姿勢に影響を与えたのかを考えてみたい。そのうえで、第三章では、一九三〇年前後の軍部の政治的台頭期において、海軍の政治意識と、それによってもたらされる政治姿勢がどのように政局に影響を与えたのかを、さらには、第四章において、アジア・太平洋戦争期の政局にどのような影響を与えたのかを、それぞれみていく」

    海軍は「軍人は政治に関わらず」というモラルから、自らが政治主体となるよりもどの政治勢力と接近するかということによって自らの組織利害を有利に運ぼうとしようかと考えてきた側面が目立つように見てとれる。予算の獲得や艦隊派と条約派の対立、海軍省と軍令部の権限問題の例などがそれに当たる。著者は一貫して海軍は政治に対して消極的であり、管掌範囲を遵守してきたと指摘するが、しかし「海軍は自己の管掌範囲のことのみを処理しているつもりでありながら、知らず知らずの内に政治に強い影響を及ぼしていた」という事実もあった。

    海軍は政治家の領域を尊重する一方、自らの担う軍事の領域について、政治家にその領域を尊重することを求めた。それによって「政治家の言動を極力尊重しようとする一方で、自らの職務に必要な予算や物資は、絶対に確保しようとするようになる」「自己の管掌する職務を遅滞なく実行しなければならないという責任が、海軍を組織利益確保へと駆り立て、それによって、海軍は時に、政局に関与することになった」「他から求められたときには自己の責任を果たすべく、対米戦争を検討・準備することを自己の管掌する職務と定めて行動することになる」と論じられている。この指摘は、対米戦は自らの担当であるため避戦を表立って主張できなかったこと、裏返せば要求する予算や物資が配当されれば対米戦も否定できなかったことという、太平洋戦争開戦過程における海軍の政治責任を考える際にも有力な視点となりうるのではないだろうか。

    日米開戦決定のプロセスについては「もし海軍単独での意思決定が回避される状態にあり、なおかつ誰も明確に開戦を主張することもなく全体の雰囲気が開戦に流れていくことになれば」「その点を曖昧にする会議という決定の場が設定されたことによって、決定までもが自動的に定まってしまうことになってしまった」と考察されている。

  • 日本海軍の行動原理を検証するもの。
    決して政治的ではなかったが、無意識にというか無自覚には政治的であったことを指摘する。それが日本を決定的な局面に追い込むことになったとも。
    けどこの論考方法はどうかなぁ。とても腑に落ちない。はっきり言えば説得力に乏しい。取り上げている事例も適切とは思えない。残念。

  • 海軍の善玉悪玉論を越えて、日本海軍が日本の近代政治に与えた影響や、なぜそのような影響を及ぼしたのかについて解説されている。
    全体のキーになるのが「侵官之害」で、海軍の管掌範囲意識から生まれる軍人は政治に関わらずという意識が状況によって政治への関与を抑えたり駆り立てたりした。
    政軍関係だけでなく、全体を統べるものがない縦割りの官僚組織が陥りがちな弊害が指摘されていて勉強になる。

  • 言ってみれば「日本海軍の“政治的行動”に観る日本的官僚主義」とでもいう具合で論旨が展開している。非常に興味深い…

    本書は“海軍”と題に在るが、勇壮な海戦の物語や、軍艦の技術的な説明や、海軍が生み出した傑作航空機の話題が出ている訳ではない。“政治主体”(政策決定等に影響力を行使し得る勢力)ということになる“海軍”が「何をしたのか?」、同時に「何をしなかったのか?」を論じている。が、著者が断っているように“悪玉”とか“善玉”を論じたいのではない…

  • 海軍は「善玉」だったのか?日本海軍の「戦争責任」を検証する。(2015年刊)
    ・序 章 海軍と政治
    ・第一章 創建時の海軍
    ・第二章 政党と海軍
    ・第三章 軍部の政治的台頭と海軍
    ・第四章 アジア・太平洋戦争と海軍
    ・終 章 近代日本における海軍の政治的役割

    丸善で手にとった時に、面白いという予感がして購入したが、期待にたがわず面白い本であった。前著「海軍将校たちの太平洋戦争」よりインパクトがあった。
    創設以降、敗戦までの海軍と政治の関わり方が判りやすく解説されており、既成概念を取り払ってくれた。
    日露戦争以降の海軍拡充について、山本権兵衛の評価は現状維持が精一杯で、結果的に拡充を果たせなかったと低めである。対して、加藤友三郎を着実に拡充をおこなったと高く評価しているのが面白い。東郷平八郎、加藤寛治、伏見宮、海軍軍縮問題についても、通説とは異なる見方をしている。これらの評価が妥当かどうかは分からないが、先入観をとりはらい客観的に分析しようとする気持ちは伝わってくる。
    本書を読むと、政治に関与しないとした海軍の無作為も、戦争が避けられなかった一因であることがわかる。本書は「善玉論」「悪玉論」を越えて、研究を進める今後の基礎となる一冊ではないだろうか。

  •  陸軍に比べ「海軍は政治に対して消極的」と一般に考えられているが、本書では違った視点から分析している。1920年代までは予算獲得のために政党に従属。情勢が緊迫した30年代からは、陸軍の政治介入案を自己利益のため修整しようとしつつ実際には追随。また現実に政治の中で軍事の占める割合が高まる中、軍事のプロとしての自負の下で業務を遂行するうち、主観的にはどうあれ結果的には政治に関わっていったという。
     「軍人は政治には関わらず」という、シビリアンコントロール下では望ましいだろうプロ意識。これが、海軍の政治関与を抑制すると同時に、自らが専門と考える軍事の領域では却って政治関与に駆り立てる要因となったという逆説を筆者は指摘している。この指摘を踏まえると、悪玉と思いがちな艦隊派も少し違ったイメージで見えてくる。艦隊派であろうとなかろうと、予算確保は全ての官僚組織に共通の命題だ。そもそも筆者は冒頭で善玉・悪玉論の弊害を述べてもいる。

  • 2015年4月新着

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著者プロフィール

1983年、宮城県に生まれる。2006年、東北大学文学部卒業。2011年、東北大学大学院文学研究科博士課程後期修了。現在、福井工業高等専門学校一般科目教室助教、博士(文学) ※2014年6月現在【主な編著書】『昭和戦時期の海軍と政治』(吉川弘文館、2013年)。「平沼騏一郎内閣運動と海軍」(『史学雑誌』122-9、2013年)

「2014年 『海軍将校たちの太平洋戦争』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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