ヒトラーとナチ・ドイツ (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062883184

作品紹介・あらすじ

「人類の歴史における闇」ともいえる、ヒトラー政権時代。
その数々の疑問に、最新研究をふまえ、答える。
当時の歴史やその背景を知るための入門書であり、決定版の書。

・ヒトラーはいかにして国民を惹きつけ、独裁者に上りつめたのか?

・なぜ、文明国ドイツで、いつのまにか憲法は効力をなくし、議会制民主主義は葬り去られ、基本的人権も失われたのか?

・ドイツ社会の「ナチ化」とは何だったのか?

・当時の普通の人びとはどう思っていたのか?

・なぜ、国家による安楽死殺害や、ユダヤ人大虐殺「ホロコースト」は起きたのか?

感想・レビュー・書評

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  • ヒトラーがどのような人物だったのか。
    当時の社会的情勢はどのようだったのか。
    当時の人々はなぜヒトラーを受け入れたのか。
    など、丁寧に説明されており、入門書としてとても良いと思う。
    ホロコーストについても、どのような経緯で行われるようになったのか、書かれており、歴史とは単純なものではないと思う。
    よくよく思想や社会の様子などを知らないと、歴史認識を間違う可能性があると感じた。
    しっかりと学習し続ける必要を感じた。

  • レイシズム、プロパガンダ、優生思想
    現代の日本にナチスドイツと同じような危険性は無いのだろうかと考えさせられた。

  • 本書はドイツにおいてナチ党(国家社会主義ドイツ労働者党)の党首アドルフ・ヒトラーが政権を担っていた1933年から1945年、いわゆるナチ時代及びそこに至るまでの過程を取り上げたものである。
    筆者の石田勇治は東京大学大学院教授、近現代ドイツの研究者であり、本書以外にも『ナチスの「手口」と緊急事態条項』(集英社新書、2017年)や『20世紀ドイツ史』(白水社、2005年)などの著書があり、メディアでもヒトラーやホロコーストに関する解説として出演している。
    本書の特徴はヒトラーとナチズム、ホロコーストに関する最新の歴史研究の知見をコンパクトにまとめている点にある。そもそも、そうした研究は冷戦終結後の1990年代になって一気に進展したという背景がある。それに関して本書では「旧ソ連・東欧圏の文書館資料が閲覧可能となり、長らく不明とされていた歴史の細部に光があてられるようになったこと、またそれまで自国の負の歴史の解明に必ずしも熱心でなかったドイツの歴史学が、研究者の世代交代も相俟って、若手を中心に積極的に取り組むようなったことに負っている(本書5頁引用)」 とある。
    このように、第一次世界大戦終戦から100年を迎える現在、ドイツ・ナチ時代の研究の成果を読む事は、今の時代を見る視点を養う事でもあると思う。ナチ時代に本当に何が起きたのか。それを考察する現代的な意味は大きい。
     全体の構成は全7章で構成される。1~2章はヒトラーの登場からナチ党の台頭、1910年代からナチ党がその得票率のピークを迎える1932年7月の国会選挙までを描いている。3~4章ではヒトラーが首相に任命され、ヒトラー政権が成立した1933年からのその権力基盤が確固とした1934年末にかけての1年半に起きた社会の「ナチ化」の過程を取り上げる。5~7章では1933年から1945年までの「ナチ時代」を扱う。1939年の第二次世界大戦勃発までを前半とし、その評価の難しい「平時」における人々の捉え方、つまり「比較的良い時代だった」という声を雇用の安定と国民統合という観点から捉える。後半、つまり戦時において起きた国家的メガ犯罪と筆者が表現する「ホロコースト」に帰着した要因を、レイシズム、反ユダヤ主義、優生思想の発展とともに検討している。
     非常にまとまっている上にどの章にも気になる点があるのだが、ここでは二つ気になる点を取り上げる。
     第1章のヒトラーが従軍していた時代の話で、「過酷な塹壕戦の中で生じた無二の戦友愛と自己犠牲。階級や身分、出身地を超えて堅く結びついく兵士の勇敢な戦い」(本書26頁引用)を基に民族共同体の原風景を描いた、という部分だ。しかし、実際にはそれを経験していないヒトラーの矛盾という形で本書の指摘はあるように思われる。むしろ、実際に経験していないからこその「民族共同体」という幻想を生み出すことが可能とも考えられる。つまり、「戦争を経験していないからこそ戦争を美化する(できる)」という現代にも見られる現象がここにはあるように思えた。
     第6章において反ユダヤ主義の法律「ニュルンベルク人種法」の中でユダヤ人の定義に関する矛盾がでてくる。これはユダヤ人を宗教ではなく人種として規定してきたナチスが結局帰属する信仰共同体によって判断するという矛盾だ。こうした矛盾とまではいかないが違和感は現在でも国際ニュースを見ていて感じるときがある、それは今でもユダヤ教徒をユダヤ人と呼称するからだ。その理屈であれば、イスラム人やキリスト人もいなければならないのでは?と思ったりもする、そんな違和感を感じた。

  • ドイツ史の本は今までほとんど読んでいないが、本書を読むと歴史を学ぶことの重要性が身にしみる思いがする。
    現在からはヒトラーのジェノサイド政策や恐怖政治は皆が知ってる事実だが、同時代にはカリスマとして君臨しており、戦後もこの時代を良い時代として懐かしむ人々が多いことに驚く。
    その理由を知る入門書として本書は読みやすくわかりやすいと思えた。
    著者は本書の続編として「過去の克服ーヒトラー後のドイツ」を上梓しているそうだ、こちらも読んでみよう。

    2017年5月読了。

  •  ヒトラーの政治人生に迫る。

     ヒトラーがなぜ台頭し、ナチスがなぜ政権を取り独裁体制を築き、なぜ差別や迫害が国民に黙認されたのかなどのなぜの部分に焦点が当たって書かれているのでとても興味深い。
     ヒトラーは天才的な策略で盤石の独裁政権を築いたわけではない。政権の掌握も連立政権の一部だったはずが、内外の様々な思惑の隙間をぬっていつの間にか独裁政権が築かれている。細かい政策の指摘もありそちらも興味深い。
     ヒトラーは自分以外のリーダーを生まないことに苦心していて、組織がそれで機能するかは別としてこの点においては非常にうまくいっていたように感じた。

     新書としては抜群の内容の濃さ。
     

  • まず、今日1月27日はアウシュビッツ強制収容所が開放された日だそうだ。本書はヒトラーが政治家を目指してから自死するまでが詳しく記されており、専門家から強く薦められているものである。ドイツ国民はヒトラーに騙されたと目にすることがあるが、本書を読むと国民がヒトラーを後押しした感もある。WWI後の賠償金負担や世界恐慌が重くのしかかり、その打開のみを国民は求めていた。それ故に熱狂を生み、間違った方向に全体で進んでしまった。経済が人間を狂わすのは現在も同じで、75年経った今も進歩していない人類に恐怖を感じる。

  • ドイツ近現代史の研究者による本だけに、ナチス・ドイツの成り立ちについて、勉強になる内容だった。一弱小政党であったナチス党とヒトラーが国のトップに上り詰めていった経緯について(前半)は、特に価値があると思う。

    後半、ヒトラーにとっての戦争とは、対ユダヤ戦争だった、と強く印象に残る内容記載となっているが、これは本書だけでは表現しきれない内容のため、特に強調したかった点が印象に残っているせいかな、と思っています。

    読みながら強く興味を惹かれたのは、ヒトラーの人となり、です。本書では、ヒトラーの思想形成に影響を与えた人物などについては触れられていますが、ヒトラー個人の「中身」についての深い言及はありません。
    (この点だけで内容が膨大になってしまうから、かとは思いますが)
    今後、ナチスドイツに関する書を手に取るとするなら、このあたりでしょうか。
    近頃、日本でもレイシズムという言葉を頻繁に聞くようになったからこそ、なったからこそ、ナチスドイツは深く知りたいテーマです。

  • 不謹慎ですが、「悪い男たちがゼロから成り上がっていく、悪漢ドラマのような面白さ」がありました。
    実録やくざ映画とか、ギャング物とか、犯罪者物みたいな。
    むちゃくちゃな分だけある種、スリル満点。悪だくみ。
    「スター・ウォーズ」のエピソード1~3も、悪役パルパティーンが議会制民主主義を滅ぼすまでのお話でしたね。
    #########
    講談社現代新書「ヒトラーとナチ・ドイツ」石田 勇治【2015】
    以前から、世界史に不案内なこともあり、ヒトラーとナチスについての入門的通史を読んでみたいなあ、と良き本を探していました。
    いろいろ見て、これは良いのでは、と。
    歴史学者の人が書いていますが、当然これは専門書ではなく一般向け。
    厳密には詳細な通史というよりも。表紙のカバーに書いてあったんですが、「どうしてナチス政権が、民主的なはずだった国に成立しえたのか?」という問いかけが主な狙いになっています。面白かったです。
    狙いがそういうことなので、「第二次世界大戦の戦争歴史」ではなくて、「ナチス政権が成立するまでのワケ」がほとんどです。
    つまり、成立しちゃってから滅亡するまでの軍事的経緯は省かれています。
    戦争についての詳しいことが知りたかったわけではないので、好都合でした。
    読後の印象で言うと、
    ●国民にぼんやりした不満が溜まっていた。
     なぜなら、第1次世界大戦の戦後処理で、無茶な賠償金を割り当てられ、経済がいまいちだったから。
     当時の民主的な政権は、経済政策で目に見える効果を挙げれていなかった。失業者が多かった。
     (ヒトラーも、まあ大まかに言うと失業者だった)
    ●資本家、権力者に、不安があった。
     時代は共産主義台頭の時代。ロシアでは革命が起こって、金持ちが財産を没収されていた。
     金持ちからすると、それだけはリアルに恐怖だった。避けたかった。
     ヒトラーは「共産主義とユダヤ人との対決」という姿勢を明確にしていた。
    ●「大統領」と「首相」がいて、ヒンデンブルグ大統領の権限が強かった。
     もともとこの人は軍人として国民的英雄で、議会制民主主義への愛情は無かった。
     この人が最終的にヒトラーを首相に任命し、全権を与え、そして死んでしまった。
    ●大衆社会とでも言うべきものが、少なくとも今と比較すると未熟だった。メディアも含めて。
     ヒトラーは大衆社会に受け入れられやすい過激で分かりやすい論法が上手かった。
     (これは、「既得権益者を悪者に仕立てて、常に攻撃者の側に回る」ということとか、
     「雑でも矛盾があってもちょっと過激な物言いをする」ということとか、だと思う。つまりは、橋本徹さんのような存在)
    というようなことなのです。
    そして、なんだかグサッと来たのが、ヒトラー政権になってからの記述で。
    議会を通さずに法律を作る権限を持っちゃうんですね。もうこの段階で、議会の意味はなくなります。
    そうして、色んな理由で「言論の自由」とか「職業の自由」とか、まあ基本的な人権が制限されて行きます。
    (※失業率を下げるために、女性の就職を禁止した。女性を「失業者」の分母から削除したんですね。)
    そんなときに、
    ●まあ、こんなことは長くは続かないし、そんなに酷いことにはならないだろう、となんとなくみんな、思った。
    という記述。
    (もちろん、学者さんですから、推測ではなくて、当時の色んな人の記録や文章から掘り出している考察です)
    これ、グサッと来ましたね。大丈夫でしょうかね。2015年現在の日本の僕たち。
    ########
    そして、「選挙と民意」という危うさもありますね。
    ナチスだって一応、選挙で勝ったから政権取ったんです。
    でも、「勝った」と言っても、圧倒的民意をあらゆる政策について取った訳じゃないんです。
    2015年の日本の政権もそうですが、詳細に検証していくと、実は総国民の圧倒的多数の票を取った訳じゃないんです。
    (選挙制度の仕掛の問題もあります)
    ########
    それからぼんやり印象に残ったのは、とっても「ヤンキーっぽい」ということですね。
    男性っぽいマッチョ不良みたいな価値観っていうか。
    (そして、それはそれで、とっても2015年現在の日本の政権とも類似が…)
    ちゃんと落ち着いて考えたら、言ってることやってること、無茶苦茶なんです(笑)。
    そして、「ヤンキーっぽい」と思うのが、仕事=政権運営をする中で、役割分担とか権限とか、もう、ぐっちゃぐちゃなんですね。
    結局、親分独裁、気分しだい。取り巻き天国。気分しだいだから一貫性がなくて、実は威勢がいいけど場当たり的。
    むしろ、計画的で冷静であること、冷めていることを、批判して非難して突き進むんですね。
    だから、最晩年、敗北の中でヒトラー本人が「ナチス党も政権も、何がどうなっているのかぐちゃぐちゃで分からん」とご自分で言ったそうです。
    ########
    「ユダヤ人」について。
    これはちょっと、もっとコレについての判りやすい本を読みたいです。
    というのは、ヒトラーがユダヤ人を迫害していっぱい殺したのは知っていますが、
    「なんで?」ということですね。
    そして、ヒトラー以前にも綿々と、「ユダヤ人への差別、蔑視」というのは、「ベニスの商人」じゃないけど存在したわけです。
    キリスト教と権力、ユダの裏切り、とかそういうのはぼんやり判りますけど、ちょっとハッキリしない。そこのところの「気分」が、分からないんですね。
    ########
    「われわれは、わが民族は、わが国家は、他の民族や国家よりも歴史的にも倫理的にも正しい」
    と、言うんですね。
    (でもその根拠はあいまいと言うか、公平と冷静を欠くというか。ほとんど愚連隊不良の我田引水な理由だったりします)
    「だから我々はもっと恵まれているべきで、我々は不当に屈辱を受けているのだ。あいつらは不当に恵まれているのだ。もともと悪い奴らなんだ」
    と、言うんですね。
    (これは、失業者が多かったり経済が行き詰っていると、誰にでもちょっと耳に心地いい魔力があります)
    「我々が油断していると、あいつらにヤられてしまう。議論している場合じゃない、行動だ。その為には行動力、決定力が必要だ。それを俺にくれ」
    と、言うんですね。
    (アクション映画のヒーローなら、それが正論ですね。だから、見方によってはカッコよく映ります)
    「それに反発するひと、冷めてる奴らは、愛国心が無い。非国民だ。そんな奴らはちょこっと迫害されても自業自得だ。そんな奴らより、俺ら愛国者が恵まれるべきだ」
    と言うことになるんですね。
    (どこでその線引きをするのか、そんな線引きをする能力や資格を持っていいのか、というような議論は、ヤンキー的に無視されます)
    いやあ、まったくもって、「古い話」ではないですよね。

  • ”ヒトラーやナチスのことについて、ネットなどで、あることないことあれこれ書かれているが、それらを適切に評価するためには、この本を読むのがよい”という触れ込みを見たのをきっかけに、読んでみました。非常に読みやすく、流れがつかみやすい書き方でした。ためになりました。今後、このテーマについて気になったら、まずこの本をひもといてみようかと思います。【2023年9月27日読了】

  • 第一次大戦後の混乱期のドイツで、ヒトラーが権力を握るに至るまでの過程が詳細に書かれている。かつての暴力革命路線を変更し、選挙政治で政権獲得を目指す方向へ舵を切ったナチスが、様々な偶然の要素が重なって政権を取るに至る。ひとたび実権を握ると、全権委任法を成立させて立法機能を自らの手中に収め、反対勢力に対しては突撃隊・親衛隊による物理的な実力行使を徹底する。長引く不況と失業問題を解決し国民からの支持を確実なものにすると(ヒトラーの手腕というわけではなく、政権を握った時点ではすでに景気回復期に入っていた点、徴兵制の復活により失業者を兵隊として吸収できた点、女性の就業を制限することで労働供給を減少させた点、等が強調されている)次の戦争、そしてホロコーストへと進んでいく。ヒトラーの病的ともいえるユダヤ人排斥への思いが悲劇を生む。これほど激動に富んだ国もないという感想を持った。

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著者プロフィール

1957年生まれ。東京大学大学院総合文化研究科(地域文化研究専攻)教授。専門はドイツ近現代史、ジェノサイド研究。
主な著書にJungkonservative in der Weimarer Republik. Der Ring-Kreis 1928-1933, Frankfurt am Main 1988、『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書、2015年)、『過去の克服―ヒトラー後のドイツ(新装版)』(白水社、2014年)、『20世紀ドイツ史』(白水社、2005年)、共編著に『ジェノサイドと現代世界』(勉誠出版、2011年)など。

「2020年 『ドイツ市民社会の史的展開』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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