世界史を変えた薬 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062883382

作品紹介・あらすじ

医薬品というものは、どうにも不思議な代物だ。老若男女を問わず、誰もが薬のお世話になっているにもかかわらず、薬について詳しいことはほとんど何も知られていないに等しい。口から飲み込んだ小さな錠剤が、どのようにして患部に届いて痛みや炎症を鎮めるのか、簡単にでも説明できる人は相当に少ないだろう。

近年は、医薬品の過剰投与や副作用などネガティブな側面ばかりが強調されがちだが、人類は医薬品の発明によってその寿命を飛躍的に伸ばしていた。「死の病」と恐れてきた感染症は、抗生物質の発明により、ありふれた病気になった。あまり意識されないが、いくつかの医薬品は間違いなく、世界史を変え、人類の運命を変えてきた。

医薬の科学はなおも発展の途上にあり、今後さらに大きく社会を変えてゆく可能性を秘めている――というより、確実に変えてゆくことだろう。とすれば、医薬と人類の関わりを、歴史の流れに沿って眺めておくのは、意義のある試みであるに違いない。

感想・レビュー・書評

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  • 薬品開発の歴史は、医学の歴史であることはもちろんだが、化学の歴史でもあるんだなあ。
    マラリアの薬キニーネも、鎮痛剤アスピリンも、もとは自然界に存在する(キニーネはキナノキ、アスピリンはヤナギの樹皮に含まれる)ものだが、それを化学的に合成できて初めて、大量に生産できるようになるのだ。

    この本は最初が滅法面白くて、ちゃんとした薬の歴史は浅く、ハーブ(薬草)なんかかなりマシな方で、(水銀を薬として使ったり、瀉血などの無意味どころか害になる治療をしたりというのは知っていたが)動物の血や糞尿、腐った肉なんてものを薬として使っていたと書いてあり、ゾッとする。病気は体に悪魔が入ることだから、追い出すために、悪魔が嫌がる汚物を体にいれたんだと。

    一番驚いたのは、「統計」という概念がなかったので、効いたかどうかをきちんと把握していなかったってとこ。
    壊血病とビタミンC、モルヒネの鎮痛効果と依存性、麻酔薬、消毒など今では一般人でも当たり前に知っていることも昔は知られておらず、古人が身をもって実験台になってくれてようやくわかったんだなあ、と感慨深い。

    ビタミンCを過剰に評価した天才化学者ポーリングのエピソードは、ノーベル物理学賞を受賞しながら心霊研究に没頭したジョセフソン、錬金術に25年も費やしたニュートンらのエピソードと合わせて「ノーベル賞科学者だから、教授や博士だからといって、無条件にその言葉をありがたがるべきではないことは、我々も肝に銘じておくべきだろう」(P40)って、ホントそうね。よく広告に○○博士推奨みたいなのあるけど、ニュートンクラスの超天才でさえおかしなことにこだわりだして変なことを言い出すんだから、その辺の先生なんかは推して知るべし。(もちろん金目もあり。明晰な頭脳持ち主コナン・ドイルが晩年妖精や降霊術にハマったことも思い出す。)

    エイズ治療薬を熊本大学の満家裕明博士が4つも開発したことなんか、日本人なのに全く知らなかった。もっと知られていいと思う。

    薬の歴史は化学の歴史でもあるが、人間の愚かさと賢さと努力の歴史でもあった。

  • 創薬の歴史について
    あの時あの薬があの人に使えてたら歴史が変わってたという観点で書かれた本。
    壊血病に対してのビタミンCや、細菌感染に対しての抗生物質など、人と病の戦いに圧巻。
    先人の汗と努力で生かされてるんだな。

  • 人間は古来から苦しみや不安、痛みと闘ってきた。
    その解決策の1つが宗教であり戦争であり、そして薬なのだと思わされる一冊だった。
    自分は医学・薬学には疎いため、書いてあることがどこまで正しいのかを検証することは出来ないが、薬というものが世界の歴史を動かし売ることは真実だと思った。
    1つの薬について扱うのは約20ページ弱。そのため、物足りなさを感じることもあるが、逆に、これだけの分量できちんとまとまった文章にしたセンスも良いなあと思った。

  • 文句なく面白かった。内容はタイトルどおり、世界の歴史に影響を与えるほどのインパクトのある薬物についてである。「世界史」と「薬」という微妙に遠い二つのものの間をつなぐ物語を紡ぐには、それぞれについての正確で豊富な知識が必要であり、読む人にこじつけと誤解させないための明瞭な語り口も駆使しなければならない。筆者にはこれらが備わっており、平易な文章で次々と繰り出される話題に、読んでいて贅沢な気持ちになってくるほどである。
    新書は本当に玉石混交で、手持ちのトピックが少ないために読んでいて苦痛なほど内容を薄めて回り道させられることが(残念なことに)よくあるのだが、本書はその真逆である。全11章のうち最初の1章を除き各章で一つの薬について紹介していくのだが、それぞれが本当にエピソード満載なのである。あ、この話はもっと引き伸ばせそうなのにこんなに簡潔に切り上げて次の話に行っちゃうんだ、くうう勿体ないけど贅沢!みたいなこともよくある。有名な薬も多くとりあげられているので、聞いたことのあるような話もあちこちで出てくるが、そのたびに「ああ、あの話ってそういうことだったのか!」と目から鱗のようなおまけがついていたりもする。脳内に散らばっていた知識が結びついた瞬間であり、気持ち良いことこの上ない。
    科学的な読み物が好きな人にはもちろんだが、化学的な要素はときどき出てくる分子模型の絵くらいなので、ガチ文系という歴史好きな方にも普通に読み物として楽しめるだろう。そして何より、薬学や化学に興味があるかも?と思い始めた中学生高校生にもやさしく読める新書としてうってつけである。物質科学は生活ととても密接に結びついているものなのだということも再認識できる良書。

  • ビタミンC、モルヒネ、キニーネ、麻酔薬、消毒薬、サルバンサン、サルファ剤、ペニシリン、アスピリンなどの薬について、発見までの歴史、与えた影響、作用原理をわかりやすく説明してくれる一冊。読み物としておもしろい。
    人類の歴史を変えたのは間違いない。

  • 病気になり薬のありがたさを心底感じたことをきっかけに手を取りました。誰がどんなことをきっかけに薬を制作したか、発見したかを複数事例とともに紹介。病気や発見者などの知名度から引きがあるエピソード多数。今ではあり得ないと感じる間違った治療法なども、少し前の時代までは当たり前のように使用していたことからも日々の薬品の進歩を感じる。

  • 医薬品メーカーで開発研究者であった著者による、歴史的に重要であった医薬品の紹介です。鎮痛剤や抗生物質、麻酔剤などの歴史やその社会的ニーズ、開発の過程などが判りやすく詳述されています。現代における医薬品は莫大なお金が動くので、それら利権等における人間模様なども記述され、薬という側面からの歴史が理解できます。また薬効機序の解説もありますので、その薬剤の一通りがりかいできます。可能な限り使用しないのが望ましいと考えますが、いざ使用するときに前向きに理解できる良書と思いました。

  • 歴史的に有名な薬の誕生秘話などを含めた物語が面白かった。
    製薬研究者の卵として、薬を開発した人々のお話はこれから研究を勧める上での活力にもなった。特に満屋裕明博士が4つもエイズ治療薬を開発したお話は圧巻された。

  • 人類の歴史とともに語られる薬の誕生秘話が全10話。歴史好きな方、医療従事者の双方におすすめできる。

    医薬品というものの存在が、いかに大きく生命の助けになってきたか。その背景にはどんな苦悩があったのか。そこまでしっかりと解説されている。

    ストーリー性を帯びたことで、暗記に頼らず薬の歴史を学ぶことができる良書。
    なぜこの薬が生まれたのか、という疑問が湧いて悶えていた人にはぜひ読んでみて欲しい。まるですっきりと雲が晴れるような心地よさを感じられると思う。

  • 二番煎じと感じなくもない
    まとめ方がいまいちの感じを受ける
    印象に残らない

    生活習慣病の薬の日本人の功績と
    hiv 薬が描写に行き渡らない事実は伝える必要があるだろう

    入門書として薬に興味を持つためにはいいかもしれない

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著者プロフィール

千葉大学大学院社会科学研究院准教授

「2022年 『公正の遍歴 近代日本の地域と国家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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