生殖医療の衝撃 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (208ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062883832

作品紹介・あらすじ

1978年7月25日体外受精による子ども、ルイーズ・ブラウンさんが英国で誕生してから30余年。生殖医療の世界では、「生殖革命」ともいえる技術革新が相次ぎ、いまや日本で生まれるこどもの約32人に1人は、出生前に-196℃液体窒素タンクで凍結保存されている。いま生殖医療は新たなるフェーズに進み、遺伝的親が3人存在することになるミトコンドリア移植、子宮移植が現実のものとなり、iPS細胞を用いた精子や卵子の作成技術の確立も目前に迫っている。第二次生殖革命前夜ともいえる様相を呈している最新事情を紹介するともに、精子バンクや卵子バンクなど生殖医療ビジネスや生命倫理との相克などを鋭くレポートする。

感想・レビュー・書評

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  • ◯昨今話題のNIPTに行き着くまでの、医療技術に関する議論を振り返るのに活用。
    ◯これまでの生殖医療の技術の発展過程を丁寧に語られ、これといって医療に詳しくなくても分かりやすい。
    ◯ 本書の最終章においても記載されているように、我が国における生殖医療に関するあり方を示さなければならないと感じる。それは、優生学に関する考え方と絡めて、今後より国民的な議論が必要ではないか。

  • 厳しい批判に晒されながらヒト体外受精の研究を成功させたエドワーズとステプトー。
    生殖医療を大きく前進させた顕微授精、凍結融解技術、胚培養技術。
    精子バンクに精子を預ける人々。
    卵子バンクの誕生。
    「遺伝子の性」「性腺の性」「みかけの性」「心の性」
    性同一性障害と性別違和。
    母と娘で同じ子宮を共用。ミトコンドリア置換で3人になる遺伝的親。ips細胞でつくられる精子と卵子。
    敬遠される代理懐胎、着床前診断、着床前スクリーニングにより揺れ動く生命倫理。

    どれも私が今まで知らなかった世界で、驚きの連続だった。他人事ではなく、将来自分を含めた誰もが関わりうる問題だと思う。
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    1978年7月25日体外受精による子ども、ルイーズ・ブラウンさんが英国で誕生してから30余年。生殖医療の世界では、「生殖革命」ともいえる技術革新が相次ぎ、いまや日本で生まれるこどもの約32人に1人は、出生前に-196℃液体窒素タンクで凍結保存されている。いま生殖医療は新たなるフェーズに進み、遺伝的親が3人存在することになるミトコンドリア移植、子宮移植が現実のものとなり、iPS細胞を用いた精子や卵子の作成技術の確立も目前に迫っている。第二次生殖革命前夜ともいえる様相を呈している最新事情を紹介するともに、精子バンクや卵子バンクなど生殖医療ビジネスや生命倫理との相克などを鋭くレポートする。

  • 精液に精子がなくても、精巣内にあれば、顕微授精ができる。
    顕微授精は、体外受精よりも確率が高いため、確実に受精卵ができる。100%顕微授精という国もある。生殖医療の費用が高いため。
    凍結融解技術の進歩。生殖医療の4分の3は凍結保存されていた胚を融解して子宮内に戻すことで生まれている。
    凍結技術は水分が固まるときの膨張によって細胞が壊れることが問題。冷凍食品と同じ。融解は急速に加温する。凍結胚を37度の融解液に漬ける。
    凍結は、プログラムフリーザーによる緩慢凍結用に代わり、ガラス化法(液体窒素を使う)に代わっている。何万年でも保存できる。

    凍結胚を使うと卵子を得るために排卵誘発剤をつかっていないので、自然胚移植よりも子宮外妊娠の可能性が低い。早産率も低くなる。
    体外受精の成功率を上げるために複数の胚を戻すと多胎妊娠の可能性が高まる。凍結胚なら防げる。

    体外受精では、卵子と精子は37度の培養器に入れられる。受精すると48時間後には4細胞、72時間後には8細胞になる。4~8に分割した胚を子宮内に移植する。着床は5~6日目になる。2~3日では着床能力はないが、それ以上は培養できない。それ以上培養するためには、培養液を改良する必要がある。改良した培養液で胚盤胞移植するクリニックもある。どちらがいいかまだ結論は出せない。

    精子バンクは、がん患者が治療の前に自分の精子を預けることから始まった。アメリカ政府がエイズをきっかけに、人工授精には精子がエイズに感染していないことを確認するために、凍結融解精子を使うように求めた。これがきっかけで精子バンクが普及した。凍結精液はその他のウイルス検査も可能になった。
    現在は、提供精子による人工授精は減っている。顕微授精ができるようになったため。
    液体窒素はタイムマシン。死後生殖が可能になった。法整備が追い付かない。
    提供精子はデンマークから輸出されている。デンマークでは匿名精子と非匿名精子を供給できる。独身女性の85%は非匿名精子を希望する。将来子供が出自を知りたくなった時に対応できるから。
    精子提供希望者でも遺伝要因の検査をすると10%程度しか提供できない。
    スウェーデンの人工授精法は、子供に18歳の時点で出自を知る権利を与えた。その結果精子提供者は減少した。実際に請求は少ないため、両親が精子提供の事実を子供に告げていないケースが多いと考えられる。

    体外受精の卵子は、自分のものでなくても子宮に移せる。生殖には免疫系は働かない。
    ガンサバイバーは、卵巣切除や卵子がなくなってしまうことがあり、第三者の卵子を必要とする。あるいは、加齢により自分の卵子で妊娠できない場合、費用のことを考えると提供卵子で人工授精したほうが確実という面もある。
    卵子の種は生まれる前に作られている。母体とともに年を取る。卵子が老化すると染色体異常が発生しやすくなる。
    未受精卵子の凍結保存が可能。技術的には難しくない。卵子バンクもある。価格は凍結精子の5~20倍。卵子提供者は20代に限る。
    イギリスは卵子バンクはボランティアのみ。そのかわり自分の卵子を凍結保存する費用を免除している。
    医学的凍結ではなく、社会凍結(自分の妊娠の時期を選ぶ)がどのくらいいるか、はわからない。

    遺伝子の性=性染色体の性、性腺の性=性腺が精巣や卵巣になるときに、まれに食い違う、見かけの性=ホルモンの働きによって外性器が形作られる。それぞれに食い違いがおきると数多くの例外がおきる。
    11月8日はインターセックスの日。自殺した最初の性同一性障害患者の誕生日。
    ロキタンスキー症候群では性染色体はxxで女性。膣と子宮が欠損する以外は正常な女性と変わらない。思春期に月経がないことで産婦人科を受診して初めてわかる。通常は造膣術が行われるが、子宮はないため妊娠はできない。子宮移植をすれば可能。
    子宮移植は、経産婦からの移植が望ましい。免疫制御剤を使用するが、お産が終われば子宮摘出をするので腎臓移植の際よりも問題は少ない。費用と、提供者への侵害の問題がある。

    現代は遺伝子レベルの生殖医療に踏み入れつつある。
    ミトコンドリア置換=胚の中のミトコンドリアは母親由来のもの。ミトコンドリアに異常があるミトコンドリア病は、根本的治療ができないが、卵子の段階で第三者のミトコンドリアを導入すれば防げる可能性がある。体外受精の前後に、移植する。複数の卵子から生まれることになる。
    IPS細胞から作った人工配偶子でマウスが誕生した。
    農産や畜産の分野では、ゲノム編集は実用段階に入っている。品種改良は突然変異を人為的に起こすだけで同じことをしているともいえる。

    スウェーデンでは女性は独身でも養子をとれるが独身男性では許可していない。代理懐妊を使って自分の子供を持てる。
    日本では代理懐妊には消極的。抵抗感が強い。第三者の子宮を借りる点が構造的に他の生殖医療と異なる。
    代理懐妊は1000万円以上かかる。インドでは女性の労働として捉える考え方もある。単純な禁止は、ビジネスが
    地下に潜るだけ。出産までの間に離婚したらどうなるか。
    多くの国で代理懐胎に消極的なのは他の生殖医療にはないリスクがあるから。家族を持ちたいという願いとの葛藤。
    着床前診断は体外受精で可能になる診断。命の選別にならないか。産む自由がない。着床前診断と着床前スクリーニングが無制限に拡大することへの危惧がある。

  • 女子栄養大学図書館OPAC▼ https://opac.eiyo.ac.jp/detail?bbid=2000030573

  • 2015年の時点で、日本の子供の24人にひとりは、生殖医療で産まれているという衝撃。
    クラスに一人かふたりは当たり前の時代になっているのだ。
    具体的に何をしているのかも普段なかなか知ることのない分野なので技術と倫理の両面からの解説が興味深い。

    ところで不妊治療は保険が適用できず、100万円以上の費用がかかることも多い。助成金は増えていて、21年時点で30万円ほどになるようだ。
    少子化、人口減少は日本社会の最大の問題だ。
    移民を受け入れて多民族国家になっていくか、これまでのように日本民族中心を維持するのか。
    世論は移民容認方向ではないように思える。
    不妊治療は人口減少に対して数少ない実効のある対策なのだから、もう少し支援を充実させればよいのでは。

  • 医学

  • 面白かった、現代生殖医療の概要をわかりやすく、面白く記してくれている。
    やはり歴史から学ぶとすっと頭に入ってくる。
    後輩にオススメしたい一冊。

  • 凍結卵子・精子の利用はすっかり定着しているのですね。著者のいう通り,法的整備の必要性を感じました。

  • 同名異人でBL作家の女性がいるので「この作者の本」がそちらの著作ばかりに…(苦笑)。

  • 子供がほしい、というのは生物であるヒトにとってはごく当たり前の衝動である。
    もちろん、考える生き物であるから、あえて子をなさないという選択肢がありうることは否定しないが、ここではその問題は取り上げない。

    本書で扱うのは、子を持つための営み、精子と卵子が出会うことがコントロールされている現状だ。
    著者はその現状を分析しながら、それが内包する問題点を取り上げている。

    現代日本では生殖医療に伴う法改正は全く追いついていない。
    「代理母」「3人の遺伝子を持つ子」「死後生殖」。
    民放制定時には考えられなかったSF的世界が今、起きている。
    第7章では法律とガイドラインについて。
    「こどもを産んだ女性が母」とはどこにも書かれていない。
    なぜならそれは当たり前すぎる当たり前だったからだ。
    しかし今やそれは「当たり前」とは必ずしも言えない。
    早急に整備しなければ、この福祉に著しい不利益があると思うのだが、民法はいつも後回し(これは私の「感覚」ではある)。
    「正しい家族」ばかりを強調する人びとは一体いつの時代に生きているのか。

    着床前診断についても筆者は述べているが、遺伝子だけが子供の全てではないのだ。
    生まれる前に「正常」であっても、出産時に、生後すぐに、成長期に、障害を持つことはある。
    遺伝子至上主義は、優生思想のようで私は一抹の恐ろしさを感じる。

    それにしても、とふと思う。
    子供が欲しい、と強く願い、時間も費用も多くかける人がいる一方で、「望まれなかった」子供たちはどうしたらいいのか。
    堕胎の件数の多さ、養護施設で暮らす子供達。
    生殖医療はどんどん発展するのに、根本的なところは旧態依然。
    それは本書の内容とはずれてしまうが、そのことを私は考えずにはいられない。

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著者プロフィール

1954年東京生まれ。群馬大学医学部卒業。東京大学医学部産科婦人科、ロンドン大学ハマースミス病院などを経て、埼玉医科大学医学部産科婦人科教授。学生・医師の教育と生殖医療の現場に携わりながら、医療のあり方についての研究・フィールドワークを行う

「2016年 『生殖医療の衝撃』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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