日米開戦と情報戦 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062883986

作品紹介・あらすじ

真珠湾攻撃から75年。戦争に至る不毛な現実を描く、決定版!

1日に20通以上の外交暗号を解読しあう熾烈な日米英インテリジェンス戦争。ローズヴェルト、チャーチルら指導者が生の情報に触れることで強まる対日対決姿勢。松岡洋右外相に翻弄され、陸軍・海軍内の組織利害対立で指導力を発揮できない日本の中枢部――。エリートたちはなぜ最悪の決定を選んだのか?

・日米間に具体的な争点がなかったにもかかわらず、なぜ戦争に突入したのか?
・南部仏印進駐が選択された経緯とは?
・アメリカの対日輸出管理策はなぜ全面禁輸になったのか?
・日本の玉虫色の政策決定システムとは?
・陸海軍を翻弄した松岡の戦略の弱点とは?
・官僚制の序列を無視しがちなアメリカ・ローズヴェルト大統領下の政策決定システムとは?
・イギリス商船オートメドン号の機密文書、ハルビン情報は日本でいかに利用されたか?
・日本の「国策要綱」が解読された最悪のタイミングとは?
・ハルは暫定協定案をなぜ諦めたのか?
・アメリカは真珠湾攻撃を知っていたのか?・・・・・・

話題作『日本はなぜ開戦に踏み切ったか』の著者が、日米英の情報戦と政策決定の実態を丁寧に追い、日米戦争の謎に迫る!

感想・レビュー・書評

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  •  日米開戦に至るまでの事実関係が詳細に書かれており、全て把握しようとすると、新書ながら相当の予備知識を必要とする。が、そうでなくとも本書のポイントはいくつかつかむことができた。
     英米の政策担当者が文脈や背景の十分な理解なしに直接個別の生情報(インテリジェンスに加工される前のインフォメーション)に触れた危うさ。公開情報にしか接していなかった幣原が却って南部仏印進駐は戦争を招くと断言したり、日本を理解していた英米の駐日大使の警告が本国では省みられなかったりしたことは象徴的である。日本の各種政策文書の「両論併記」と「非(避)決定」。日米交渉の過程での両国のボタンの掛け違い、パーセプション・ギャップ。
     歴史を後世から見ると、各国の合理的な国益追求の結果としてその状況(ここでは日米戦争)に至ったとつい思いがちだが、実際はそうではないこと、また機密情報の使い方次第で却って誤った政策判断をしてしまうこと。現在進行中の事象も、後世からはそう見えるのだろうか。

  • 日米開戦までの過程を「情報」という観点から検討する本。

    日本だけが情報音痴だったというのは思い込みで、実際は英米も情報を有効活用できなかったそうだ。暗号解読された生の情報を見るのではなく、インテリジェンス化された情報を見なければ本質を誤ることがあることを知った。生の情報を見て、敵国の本心を理解していると錯覚した政策担当者は間違った判断をし、それに触れることがなかった幣原や英米の駐日大使らは正しい判断をしていたのだった。

    真珠湾攻撃をローズヴェルトは知っていたという、いわゆるローズヴェルト陰謀論やハル・ノートはコミンテルンに仕組まれたものだったとするコミンテルン陰謀論は誤りであり、後者については他書に譲られているが、前者のローズヴェルト陰謀論を理論的に否定する。

    米国政府では日本による先制攻撃の可能性を十分に認識しており、真珠湾が格好の的だということを理解していた。それにもかかわらず、日本に最初の一撃をさせた後も大した反撃ができずに大損害を被ったというのはおかしい。それゆえ、ローズヴェルト陰謀説は誤った議論だ、というのが著者のロジックだ。

    その他に、日本の軍部が自国の防空体制の貧弱さを認識していたことは初めて知った。そして、ヨーロッパ戦線におけるドイツの勝利やアメリカの戦争体制の遅延を前提とした、日本政府の戦争に対する姿勢の愚かさを再確認できた。

    欲をいえば、巻末に参考文献表が欲しかった。その場その場に書かれているのだけでは整理しずらい。

  • 「両論併記」をした状態で決定文書としてしまう日本的な意思決定システムに原因があったとする分析。さまざまな考えを持つステークホルダ間で利害対立を調整できず、玉虫色の文章が作成されて各所で尾ひれがついた解釈が一人歩きする。いまでさえどこの日本企業にもありそうな現象だと感じた。また、インテリジェンスの観点から、暗号解読を経て一次情報に触れていた人物たちが寧ろ誤った判断をしていたというのが興味深かった。「正しい」判断をするために必要なものがただ情報ではないというのは現代にも通じている。

  • ふむ

  •  よく日本は情報音痴であり、情報戦に優れた英米に戦争に引き込まれた、とすらも聞き及ぶ。

     では、実際にはどのように扱って開戦に至ったのか?を記載したのが本書である。
     
     情報の取捨選択と判断という“インテリジェンス”の流通を鍵に、日本の対応、英米と比較をし、本書は書かれている。
     
     イギリスは、いくつかのルートが情報を収集、首相の元に一元化していた。インテリジェンスは首相の元にのみ存在し、国家方針を決定していたようだ。

     アメリカは、陸軍、海軍等が独自に情報収集を行い、インテリジェンスまで作っていたようだ。ただし、最終的にはそのインテリジェンスを含めて、大統領は収集し、新たにインテリジェンスを作って国家方針を作成した。そして議会・世論の同意が得られれば、決定となった。
     
     日本も、陸軍、海軍、外務省が独自に情報収集を行い、インテリジェンスまで作っていた。インテリジェンスをもとに国家方針を作成し、天皇臨席の御前会議で同意が得て決定となった。
     
     一見アメリカに似ているが、日本の場合、御前会議の前段階、つまり各ルートで作ったインテリジェンスからの国家方針策定の機関が不安定だったようだ。

     当時の日本は総理、外務大臣ほか数名と陸海軍などで構成される大本営政府連絡懇談会が国家方針決定の最高機関だったようだが、法制化もされておらず、議長もあいまいなようだった。そして、各部門も内部はバラバラだった。

     様々な部署が、様々な方面のバランスを取りつつ苦悩、迷走していく日本。これ、当時の現場の人たちも何がどうなっているのか、わかってなかったんじゃない?とにかく、戦前はそれだけ迷走していたのだろう。

     ではイギリス、アメリカはどうだっただろう?うまくいっていたのだろうか?

     アメリカは大統領の権限が強いが、結局は日本の意図を正確にはとらえることができなかった。そのため真珠湾攻撃と緒戦の敗北を招いた。

     イギリスはうまくいきそうであるが、それでも過度に日本を恐れるばかりに、やりすぎと思われた経済制裁を発動したりして結局は日本を追い詰めた。そして戦争には勝ったが、アジアの植民地はほとんどを失った。
    結局、第二次世界大戦勃発は、日米英双方の情報の取り扱いの過誤の連鎖だった、そして、勝者はなかったのでは?というのが著者の意見。

     じゃあ、どうしたら一番よかったのだろうかね?方針を決める時には、以下に先入観を省いて決めるか、ということだろうか。情報を収集する部局は情報収集に徹底、集めた情報からインテリジェンスを形成する部局、インテリジェンスを集めて意思決定部門に上げる部局。そして意思決定部門で意思決定とするしかないのだろうか?まあ、今は企業、国家ともこのようにやっているのだろう。

     そして、本書の各国の失敗を見て、僕たちはどのように行動べきだろうか?自分はひとりなんで、部局をたくさん作ることはできない。自分が今、情報収集を行っているのか、インテリジェンスを作っているのか、方針を決めているのかを明確に分けることが大切なのではないか?

  • 情報の利活用になぜ失敗するのかを学びたいと思い手に取りました。実際、情報過多になる中で自分の見たいものを見てしまう、意思決定に至るまでに割愛され歪んでしまう、全体を見ず確度の低い情報に頼ってしまう等、失敗のパターンが色々出てきて学びはありました。
    トピックスの絞りこまれた本であり、歴史を学ぼうと思うと自分にとってはもうすこし前後の知識が必要だと感じました。

  • インフォーメーションとインテリジェンスの違いについて論じたのち米英との戦争を誘引した南部仏印進駐についての意思決定過程を時系列的に解説していく.日米両国で相手側の暗号が解読されてその情報をいかに活用したかを調査しているが,資料は失われていて不明な点も多いようだ.
    いずれにしも日米両国および関連国家の意思決定過程はまさにカオス的でどちらに転ぶんだかは些細なことで決まってしまったように感じる.「戦争責任」と軽く言ってしまうが,戦争に至る過程はかなり複雑で誰の責任なのかという問題は解が無いのかもしれない.

    日本がドイツに送ったリップサービス的な暗号文書がアメリカのトップに直接知らされた結果,日本政府の考えが曲解された面があるというのは驚きであった.著者はトップが直接インフォーメーションにアクセスすることの危険性を指摘している.これは自分にとって逆説的で全く新しい視点であった.

  • 【由来】


    【期待したもの】
    ・小谷賢の「イギリスの情報外交」を参照しながら読むと立体的な理解が得られるカモと思った。

    【要約】


    【ノート】


    【目次】

  • 歴史学の立場から客観的に日米の意思決定プロセスや諜報について見ていく。今まで自分を捉えていた認識の枠組みを意識させてくれる。
    日本の国策を決定するにあたっての寄り合い世帯的な、両論併記と非決定の概念が常につきまとっていた。松岡洋右が外相としてイニシアチブを発揮しようとする中でいかに日本を振り回したのかがわかる。
    陸海軍もそれぞれの中で一枚岩ではなかったし、天皇も全く飾り物だったわけではなく、その意向は陸海軍に影響を与えていた。
    蘭印や仏印の動き、独ソ戦に向かう中での日本の動き(渋柿主義と熟柿主義)、タイとの関係なども本書を通して細かく知ることができた。
    南部仏印進駐からエスカレーションの歯車が噛み合ってしまい戦争が止められなくなってしまった事情がよくわかった。
    オートメドン号事件、ハルビン情報も初めて知った。オープンソースのみに触れていた幣原やグルー、クレイギーなどの方が正しく情勢を分析できていたことも教訓だし、政策決定者がインテリジェンスでなくインフォメーションに直接触れ、その中から自分の見たいものしか見なくなる危険からも学ばなければならない。

  • 引用省略

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著者プロフィール

一九六二年福岡県生まれ。西南学院大学文学部卒業、九州大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。現在、静岡県立大学国際関係学部准教授。専門は日本近現代史・日本外交史・インテリジェンス研究。著書に『日米開戦の政治過程』(吉川弘文館)、『日本はなぜ開戦に踏み切ったか――「両論併記」と「非決定」』(新潮選書)、『昭和史講義』(共著、ちくま新書)などがある。

「2016年 『日米開戦と情報戦』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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