- 本 ・本 (256ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062884259
作品紹介・あらすじ
日本経済はなぜ長期停滞しているのか。起業の活力もイノベーションの条件も不足しているからなのか。通説を覆し本当の可能性を探る。
ベンチャー企業とイノベーションについて本書で言及する5つの論点。
・アメリカはベンチャー企業の天国ではない。アメリカの開業率はこの30年間で半減している。
・アメリカのハイテク・ベンチャー企業を育てたのは、もっぱら政府の強力な軍事産業育成政策である。
・イノベーションは、共同体的な組織や長期的に持続する人間関係から生まれる。
・アメリカは新自由主義的改革による金融化・グローバル化が進んだ結果、生産性は鈍化し、画期的なイノベーションが起きなくなっている。
・日本はアメリカを模範とした「コーポレート・ガバナンス改革」を続けた結果、長期の停滞に陥っている。
これらの実態を知ったうえで、企業が目指すべき方向とは?
感想・レビュー・書評
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視点が面白かった。
メディアや書籍でよく出てくる経営コンサル出身の冨山氏や赤羽氏の記事を引用し、
それをガシガシ否定していく。
自分もやや盲目的に彼らの意見には同意・納得していただけに、グサグサ切られながら読んだ、笑。
一方、否定された方々からすると、怒り心頭だろう。
自分の短い記事だけを引用され、一方的に否定されているのだから、感じは悪い。
どうせなら、本の中で思い切って対談して、議論してもよかったと思う。
また、よくよく本を読んでいると、著者側に一方的につくのもどうかと思ってくる。
例えば、著者と否定された方々で使っている「ベンチャー」という言葉一つとっても、
両社で定義が違っているように思えてくる。
著者は、個人(or少数)として独立した人や中小企業を立ち上げた人も含めて、ベンチャーと言っているような気がするのに対して、
否定された方々の言うベンチャーはいわゆる「スタートアップ」のことだろう。
といった感じで、あらゆるところにビッグワードの定義の統一がなされていないまま、議論が進んでいるように見えるので、
著者の意見に納得するところと「??」と思ってしまうところがある。
また、(本を読む限りは)記事だけから相手の意見を拾ってきているので、
冨山さんの他の本なども読むと、「そういう意図ではなさそうだ」というところも、やっぱり出てきてしまう。
面白い投げかけだっただけに、その点がちょっと残念だ。
やはり著者には否定した相手とディベートしてもらいたい、笑。
この本は、「どちらが正しいか?」という視点で読むより、
「一方的にどちらかの視点を信じるのではなく、
批判的に物事を見れるようになりましょう」という視点で
読み進めるのが良いのかもしれない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
いつもながら、この人の指摘は斬新で鋭いね〜
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総評: 「アメリカ式経営」偏重に一石は投じるが、「じゃあ、日本はどうする?」は物足りないかと。
ーーーーー
読んでいる時は「ふむふむ」と納得しながら読めた。
(1) アメリカがイノベーションを生み出し繁栄したのは軍事産業のおかげ
(2)日本の「終身雇用」的な人事制度はイノベーションに必要な
「長期の濃密な人間関係」
を築く上では有効であり、必ずしも時代遅れで廃止しないといけないというようなものではない。
(3)アメリカは株主利益を偏重するがゆえに四半期(超短期)業績主義によってイノベーションの力はむしろ落ちている。
(4)日本の停滞の原因は金融政策の失敗と、(3)のアメリカ型ガバナンスを導入したことによってイノベーションが生まれなくなってしまったからだ
(5)日本は長期目線でイノベーションを生み出す「老舗企業」を増やすことを目指すべきだ
このような感じかと。
確かに、
「アメリカ型の超短期業績主義のガバナンス=イノベーションを生んでいる」
と短絡的に結びつけていたのでそれについては目線を変えることができた。
ただ残念なのは、そうは言っても現状、アメリカや中国の企業がどんどん売り上げを伸ばしていて、日本企業が売り上げを伸ばせていないのは事実なので、それに対して日本がどうしていくのかと言うアイデアがあまりなかったのは残念。
あくまでも
「なんでもアメリカの経営を真似したら日本も良くなるよ」
と言うことじゃないと言う目線を与えてくれた本であると思う。 -
経産省で長らく勤務してきた作者が、日本経済にまつわる、ふわっとした著名人の提言を、バッサバッサと切り倒していく本作。
元マッキンゼーの赤羽氏、元BCGの冨山氏などのコメントに対し切り込んでいく。
近年の日本経済は、アメリカ(特にシリコンバレー)礼賛主義を強め、とにかく起業、テクノロジー、オープンイノベーションなどの推進を強く主張している。
しかし、実はアメリカの起業率はそれほど高くなく、軍事技術と密接に絡んだ一部IT企業は成功しているものの、経済の短期利益獲得競争により、経済としては疲弊、つまり成功とはいえない状態である。
そうしたものを盲信するのではなく、改めて日本型の経済を考える必要があるというのが筆者の主張。惜しむらくは、ではその日本型のあるべきは?というところに、もう少し意見が欲しかった。
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655
英語の言語としての大味さとか考えると、英語化は愚民化ってワードほんとそうだと思う。日本人に一番必要な能力は第一に国語力。その次に歴史とか数学とか幅広い知識教養が来て最後に英語だと思う。日本語を蔑ろにして、幼少期から英会話スクールとか通わせる親って残念ながら馬鹿しかいない。
中野 剛志(なかの たけし)
1971年、神奈川県生まれ。元・京都大学大学院工学研究科准教授。専門は政治経済思想。1996年、東京大学教養学部(国際関係論)卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2000年よりエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年に同大学院より優等修士号、2005年に博士号を取得。2003年、論文‘Theorising Economic Nationalism’ (Nations and Nationalism)でNations and Nationalism Prizeを受賞。主な著書に山本七平賞奨励賞を受賞した『日本思想史新論』(ちくま新書)、『TPP亡国論』(集英社新書)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『奇跡の社会科学』(PHP新書)などがある。
真説・企業論 ビジネススクールが教えない経営学 (講談社現代新書)
by 中野剛志
このように、一九八〇年代のアメリカの国家戦略がベンチャー企業とイノベーションの隆盛をもたらしたと論じます。その国家戦略のポイントは、教育政策と規制緩和であり、さらに外国から優秀な人材を取り込んだことにあると言うのです。ですから、彼が提案する「日本の挽回策」もまた、おのずとアメリカの国家戦略にならったものとなります。
つまり、言語教育、より広く教育一般というものは、起業しやすい国にすることなんかよりも、もっと多くの、かつ優先順位の高い目的があるはずです。英語教育ももちろん大事なのでしょうが、時間に限りがある中で、子供たちは、英語以外にも、国語なり数学なり歴史なり、幅広い知識や教養を身につけなければなりません。特に、国語教育は英語教育よりも大切なのではないでしょうか。 それをビジネスに役に立つからなどという下品な理由で教育制度を改革しようなどというのは、おかしい。そういう常識的な判断が働いてしかるべきだと私は思います。
英語教育ももちろん大事なのでしょうが、時間に限りがある中で、子供たちは、英語以外にも、国語なり数学なり歴史なり、幅広い知識や教養を身につけなければなりません。特に、国語教育は英語教育よりも大切なのではないでしょうか。 それをビジネスに役に立つからなどという下品な理由で教育制度を改革しようなどというのは、おかしい。そういう常識的な判断が働いてしかるべきだと私は思います。
英語教育の問題については、九州大学の 施 光 恒 准教授の『英語化は愚民化』(集英社新書) を参照してみましょう。施氏は、経営学者の野中郁次郎氏の理論を参考にしつつ、次のように述べています。 新しく何か(理論でも、製品でも、あるいはセールスのやり方でも)を作り出す時は、必ず、新しい「ひらめき」や「カン」「違和感」のような漠然とした感覚(暗黙知)を試行錯誤的に言語化していくプロセスが求められる。このプロセスを母語以外の言語でやることはほぼ不可能だ。日本には、母語である日本語で新製品の開発という高度に知的な作業を行う環境が整っていたからこそ、日本の製造業は発展し得たのだと言えよう( 2)。
これは、製造業の話だけではありません。施氏はさらに、中国や韓国よりも日本の方が自然科学分野のノーベル賞受賞者が圧倒的に多い理由について、中国や韓国の高等教育においては、自然科学の教材が英語であり、専門書も母語に翻訳されていないものが多いからではないかと指摘しています。というのも、母語で考えた方が、深い思考が得られるからです。また、大学教育がおおかた英語で行われるインドでは、近年、英語での教育が若者の創造性を奪っていることから、インドの言葉で教育を行うべきだという議論が高まっているそうです( 3)。
赤羽氏は、日本の「製造大企業・中堅企業には膨大な技術シーズと人材が埋もれており、活用次第で大変な力を発揮できる」と述べていますが、彼が提唱する「(企業の) 英語公用語化」は、その膨大な技術シーズと人材を破壊するものとなるのです。
というのも、中国やインドの自然科学の教育が英語に依存し、そのせいで若者の創造性が奪われていると言っても、それはあくまで一般論としての話です。何も中国やインドの学生全員の創造性が失われているというわけではないでしょう。英語が達者で、かつ高い創造性をもった優秀な人材も、中にはいるでしょう。中国やインドの英語での高等教育「のおかげで」ではなく、「にもかかわらず」、創造性を獲得することができた例外的に優秀な人材がいるというわけです。そうした少数の人材が、シリコンバレーに向かっているだけに過ぎない。そう考えれば、何も不思議なことはありません。
アメリカの若者が高校を卒業する比率は、一九〇〇年には一〇パーセント以下でしたが、一九八〇年までに八〇パーセントに増加しました。ところが、それが二〇〇〇年までに七四パーセントに下がっています。アメリカの高卒以上の比率は先進国中一一位であり、しかも二五~三四歳までの高卒以上の比率が五五~六四歳までよりも低い唯一の国になってしまいました。また OECD(経済協力開発機構) が一五歳を対象に実施する国際学力テスト PISA でみると、二〇一二年のアメリカの順位は、読解力が二四位、科学が二八位、数学が三六位でした( 9)。ちなみに、日本は読解力が四位、科学が四位、数学が七位となっています。
アメリカのベンチャー企業の実態について、もっと詳しく知るために、『〈起業〉という幻想』という本を参照しておきましょう。著者はスコット・シェーン、ケース・ウエスタン・リザーブ大学教授で、ベンチャー企業研究の第一人者です。 先ほど、開業率の統計データによって、一九八〇年代以降のアメリカは、ベンチャー企業が生まれにくい国になってしまったことを明らかにしました。シェーンもまた、統計データを駆使して、ベンチャー大国アメリカという神話を打ち砕いていきます。
さらにシェーンは、アメリカの典型的なベンチャー企業の実態について、次のように述べています。いずれも、世間一般で抱かれているベンチャー企業のイメージからはほど遠いものです。 ・起業家たちの起業の理由で最も一般的なのは、「他人の下で働きたくない」というものだった。 ・仕事をしばしば変える人、解雇された人、お金があまりない人の方が、起業をする傾向にある。 ・典型的なスタートアップ企業というものは、全然イノベーティブではなく、成長の計画もなく、雇っているのは一人ぐらいで、年収は一〇万ドル以下である。 ・ベンチャー企業の平均寿命は五年以下である。起業してから七年以内に新規ビジネスが軌道に乗るのは、全体の三分の一程度に過ぎない。 ・新規ビジネスのパフォーマンスは、既存ビジネスより良いわけではない。むしろ、企業の寿命が長くなるほど、パフォーマンスは改善していく。 ・典型的なスタートアップ企業は、創業者の貯蓄から資本を捻出している。また、新規企業に対するファイナンスは、平均すると、商業銀行からの融資と出資が半々である。ベンチャー・キャピタルからの資金は、全スタートアップ企業の約〇・〇三パーセント以下であり、全中小企業金融の二パーセント以下を占めるに過ぎない。 ・起業を決断するのは、若者よりも、中年男性の方が多い。 ・典型的な起業家は、サラリーマンよりも長時間働くが、稼ぎはより少ない。それでも起業する人は、チャンスに対して過度に楽観的であるとか、あるいは人の下で働くのを心底嫌がっているといった理由による。 ・スタートアップ企業は雇用をあまり創出しない。創業から一〇年以上の企業で働く労働者は全体の六〇パーセントになるのに対し、創業から二年以内の企業で働く労働者は全体の一パーセントに過ぎない。 以上のような…
しかも、アメリカ政府が開発したのは、インターネットだけではありませんでした。 例えば、アイフォーンは、スティーブ・ジョブズが生み出したとされます。しかし、アイフォーンに内蔵された GPS やタッチ・スクリーン・ディスプレイに至るまで、その機能を支える新しい技術は、どれもこれも、元をたどれば、国家による開発に由来しているのです。 あるいは、グーグルの開発者であるラリー・ペイジとセルゲイ・ブリンが初めて起業した際、彼らは国防総省の支援を受けていたし、二〇〇五年のロボット自動車競争の際には、やはり国防総省から賞を得ていました( 17)。
人を見るということについては、江戸時代の儒学者・荻生徂徠 が、実に興味深いことを述べています。二五〇年以上も前の言葉ですが、人材の目利きに関して、これにまさるものはないと私は思います。 徂徠によれば、人をただ見ただけでその器量を見抜くなどということは、誰にもできはしません。 されば人を知るというは、いかようにして知るぞというに、その人を一日まぶりおりたればとて、その人の器量は知れぬ事也。然るに愚なる人は、大将の目がねといいて、名将は一目みても器量ある人を知るなどいうように覚ゆる也。それを愚なる人は誠と心得、己が眼力にて器量ある人を見出さんとす。占か神通に非んば知れぬ事也( 33)。
人間の能力というものは、「潜在能力」と言われるように、潜在していて、外からは見えない面がかなりあるという特徴があります。潜在能力は、顕在化しないと評価できません。しかし、人の潜在能力が顕在化するためには、少なくとも、その人を長い年月をかけて評価する必要があります。また、その人が置かれた状況によって、どのように行動したのかを観察する必要もあります。
例えば、技術開発の現場では、あまりぱっとしなかった技術者に、試しに技術開発部門の管理業務を任せたところ、優れた才能を発揮したなどということがあるでしょう。あるいは逆に、部下としては優秀だった社員が、出世して管理職になったとたんに、マネジメント能力のなさを露呈するといったことは、よくあることでしょう。
高学歴である上に明るい性格で、情熱もあるように見えるので、大いに期待して採用した社員が、仕事をまかせてみたら、からきし駄目だったなどということもあるでしょう。会社の業績がうなぎ上りである間は輝いて見えた出世頭の幹部が、会社が危機に陥ったとたんに、責任逃れを繰り返し、かつ本人も鬱になって、何の役にも立たなかったなどということもあるのではないでしょうか。
人と人との相性の問題もあります。うだつの上がらなかった社員が、ある部署での優れた上司との出会いによって、その才能を開花させるということがあります。無能な上司の下で才能を発揮できずにくすぶっている隠れた人材というものは、どこの会社にもいるものです。
「東洋経済オンライン」に「大企業からイノベーションが生まれない理由」と題したインタビュー記事があります。インタビューを受けているのは、第三章でご登場いただいたベンチャー・キャピタリストの伊佐山元氏。インタビュアーは東洋経済オンライン編集長の山田俊浩氏です。
実際、アメリカは、軍事関連の技術開発や宇宙開発といった非営利目的のために、膨大な予算を投入し、営利企業ではとうてい不可能な画期的な技術を生み出してきました。国家は膨大な予算と人的資源をもっているので、民間企業では経済性の限界から挑戦することができないような技術開発であっても、着手することができます。もちろん、国家予算の限界はありますが、安全保障というミッションは、資源動員の「理由」としてはきわめて強力なものです。予算を出すのが惜しいから、敵国に侵略されてもよいとは、普通は考えないからです。
共同体とは、家族や故郷に典型を見るように、それに属する個人の愛着の対象であり、アイデンティティの一部です。その集団に属することに愛着を覚えないようであれば、その集団は共同体あるいは共同体的とは言えません。例えば、夫が妻子に暴力を振るうようでは、家庭は崩壊して、共同体ではなくなってしまうのです。 さて、自分の個性を排除し、圧殺するような企業の社員は、その企業に愛着をもつでしょうか。もちろん、もちません。愛着や帰属意識をもてないような企業は、共同体的とは言えないのです。 共同体的な企業とは、社員が勤務することで愛着や一体感を覚えるような企業のことです。なぜ、愛着を覚えるのかと言えば、それは、その企業の上司や同僚や部下が、自分の個性を認知してくれるからです。社員を「個」として認めるような深い人間関係のある企業こそが、「共同体的な集団」なのです。
このことを理解するために、企業という共同体的な集団に属しない「個」がどう評価されるのかを想像してみてください。人の個性は、外形から短期間で理解できるものではありません。長い付き合いなしに人を判断するには、その人の資格や学歴、あるいは稼ぎといった外形標準で決めつけるしかありません。しかし、人間を、学歴、資格、稼ぎなどという形式だけで判断するのでは、「個」を尊重することにはならないでしょう。 学歴や資格といった外形標準で人間を分類し、振り分けるということは、言うならば、人間を「標準化」し、「モジュール化」するということです。つまり、「君でなくてもいいよ。他に取り換えがきくから」というように扱われるということです。
ベンチャー企業とイノベーションについて、これまでの議論によって明らかになった事実を、五つのポイントに絞ってまとめるならば、次のようになります。 ①アメリカはベンチャー企業の天国ではない。 ・アメリカの開業率は下落し続けており、この三〇年間で半減している。 ・一九九〇年代は、 IT 革命にもかかわらず、三〇歳以下の起業家の比率は低下ないしは停滞しており、特に二〇一〇年以降は激減している。 ・一般的に、先進国よりも開発途上国の方が起業家の比率が高い傾向にある。例えば、生産年齢人口に占める起業家の比率は、ペルー、ウガンダ、エクアドル、ヴェネズエラはアメリカの二倍以上である。日本の開業率も、高度成長期には現在よりもはるかに高かった。 ・アメリカの典型的なベンチャー企業は、イノベーティブなハイテク企業ではなく、パフォーマンスも良くない。起業家に多いのは若者よりも中年男性である。 ・ベンチャー企業の平均寿命は五年以下である。うまく軌道にのるベンチャー企業は全体の三分の一程度である。
②アメリカのハイテク・ベンチャー企業を育てたのは、もっぱら政府の強力な軍事産業育成政策である。 ・シリコンバレーは軍事産業の集積地である。 ・アメリカ政府は、軍事産業の育成の一環として、ハイテク・ベンチャー企業に対して公的な資金の供給を行ってきた。 ・IT はハイテク・ベンチャー企業の隆盛をもたらしたが、その IT は、インターネットをはじめとして、軍事産業から生まれたものである。 ・ベンチャー・キャピタルというビジネス・モデルは、軍に由来する。
③イノベーションは、共同体的な組織や長期的に持続する人間関係から生まれる。 ・イノベーションを起こすには、そのための資源動員を正当化する理由が必要になるが、そうした理由を共有できるのは、共同体的な組織や長期的に持続する人間関係である。 ・個人を活かすのは、共同体的な組織や長期的に持続する人間関係である。 ・イノベーションの推進力となるのは、営利目的を…
④アメリカは一九八〇年代以降の新自由主義的な改革により金融化やグローバル化が進んだ結果、この四〇年間、生産性は鈍化し、画期的なイノベーションが起きなくなる「大停滞」に陥っている。 ・金融化は、企業の短期主義を助長し、長期的な研究開発投資を忌避する傾向を強めた。 ・金融化により、ベンチャー・キャピタルは投機により短期的な利益を狙うようになり、もはやリスク・マネーを供給する主体ではなくなった。 ・グローバリゼーションは、人材や技術のアウトソーシング(オフショアリング) に拍車をかけ、アメリカのイノベーションを生み出す力は空洞化した。 ・オープン・イノベーションは、企業の短期主義の結果であり、イノベーションを…
⑤日本は一九九〇年代以降、アメリカを模範とした「コーポレート・ガバナンス改革」を続けた結果、アメリカ経済と同様に、長期の停滞に陥っている。 ・日本の「コーポレート・ガバナンス改革」は、アメリカのビジネススクールで洗脳された官僚たちが主導している。 ・日本の「コーポレート・ガバナンス改革」は金融化やグローバル化を推進し、日本企業を短期主義的にする結果を招いている。 ・「コーポレート・ガバナンス改革」によって、日本はイノベーションが起きない国へと転落する。 ・一般に流布している…
以上が、ベンチャー企業とイノベーションについての「恐るべき実態」なのです。 ところで、私は、読者の方に起業をあきらめて欲しくて、このような「恐るべき実態」を暴露したわけではありません。 冒頭で述べたとおり、起業するのだとしても、少なくともベンチャー企業やイノベーションの実態については知っておくべきだと思うから、本書を書いたのです。この「恐るべき実態」を知った上で、それでもなお、やむにやまれぬ…
そこで、どうしても起業したいという方のために、お役に立つかもしれない助言をして、本書を締めくくりたいと思います。 もしあなたが、ベンチャー企業の創業者になったら、「会社を大きくする」「利益率を高める」「業界ナンバーワンになる」あるいは「株式市場に上場する」とかではなく、「会社の寿命をできるだけ長くする」というのを会社の目標に掲げてはいかがでしょうか。 あるいは、もっと大胆に「会社…
本書で強調したように、イノベーションを殺す病の元凶は、短期主義にあります。だから、短期主義とは逆に、「長期主義」を企業目標に掲げるのが良いと思うのです。もっとも、会社をできるだけ長く存続させるというのは、決して守りに徹するということではありません。その反対に、常に先を読み、…
実際、百年あるいは二百年以上も続く老舗企業を調べると、硬直的で守旧的であるどころか、環境の変化に柔軟に対応し、イノベーションを起こし続けることで、生き延びてきたことが分かります(102)。柔軟性と…
したがって、老舗を目標に会社を経営すれば、目先の利益に安易にとらわれることなく、長期的な視点に立って、従業員を大切にし、顧客との信頼関係を大事にするようになり、ひいてはイノベーションを起こすことにも成功するのではないか。そう思うわけです。 ちなみに、日本には創業二百年以上の企業がおよそ三五〇〇社もあるそうで、これは世界でも突出して多いのだそうです(103)。日本は、世界に冠たる老舗大国なのです。 ですから、日本で起業し、イノベーションを起こそうと考えている方には、「ではの守」のようにアメリカのベンチャー企業の幻を追いかけるのではなく、日本らしく「老舗の創業者になってみせる」という大きな夢を抱いてほしいと思います。 -
今年最も面白くなかった本
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信州大学職員の皆さんにおすすめの本を掲載しています。
☆信州大学附属図書館の所蔵はこちらです☆
http://www-lib.shinshu-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB23636661 -
ビジネススクールなどで一般的に言われている経営学に対し、見る角度を変えて異を唱える内容。
例えばシリコンバレーではリスクを取って新しいことにチャレンジする若者達に、リスクマネーが入り込むことでイノベーションが生まれやすい、という一般論。これに対しては、シリコンバレーにはエリート達が集うことでそもそも成功率は高く、カネを出す側も短期的に成功を求めるので撤退も早く、見方を変えればローリスクの仕事をしている、というもの。
その他、特にアメリカでは軍事と産業が密接に結び付き(回転ドア)、お互いの利益のために活動していることを批判的に述べている。
読みやすいし「そういう面はある」と認めつつも、本書も見方の一つであり、片方だけを支持すると本質を見失ってしまいそうだ。 -
色んな企業について取り上げた一冊。
老舗の企業の方が新興のベンチャーより上というのは考えとしては理解できるものの、それではいつまで経っても新興のベンチャーは育たないと思った。 -
【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/685758
著者プロフィール
中野剛志の作品





