東芝解体 電機メーカーが消える日 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062884266

作品紹介・あらすじ

【内容紹介】
 巨大な負債を抱え、会社解体の危機に喘ぐ東芝――かつて日本企業を代表する存在だった総合電機が軒並み苦境に陥っている。東芝・ソニー・日立ほか大手8社の歴史や経営を詳細に分析することで日本の総合電機がはまった巨大な陥穽を描く。名著『失敗の本質』総合電機版とも言える1冊。


【担当者挨拶】
日本の電機メーカーはいつから総崩れになったのだろう。私が社会人になった1990年代前半、プレイステーションが売れに売れていたソニーは超人気企業だった。東芝のダイナブックやシャープのアクオスのように「あ、かっこいい」と思ってボーナスで衝動買いした製品も多い。総合電機、大手電機の隆盛はずっと続くのだと思っていた。
ところが昨今の低迷ぶりはどうだ。パナソニックで携帯電話の設計に携わっていた親友は突然業務の縮小を命じられた。超人気企業だったソニーに入社した知人も大リストラの余波ゆえか、海外に出向したまま帰ってこない。シャープはもはや日本の会社ではないし、東芝にいたっては、原発事業でつくった莫大な借金返済のために、家電をはじめ、売れそうな部門を片っ端から売却した結果、絶体絶命の「解体」状態にある。ふたたび同じ問いを繰り返したくなる。日本の電機メーカーはいつから総崩れになったのだろう。

本書の著者であり、記者として長年電機業界を取材し続けてきた大西康之氏の答は明解だ。大半の電機メーカーは日本国内に築かれた、ある二つの巨大な「ファミリー」に属することではかりしれぬ恩恵を受け、そしてそのシステムこそが、結果的に総合電機を衰退させる原因にもなったのだという。「この構造を知らずに電機メーカーの凋落を真に理解することは難しい」と氏は語る。本書の序章はその「謎解き」「種明かし」となっている。
 第1~8章では、東芝・NEC・シャープ・ソニー・パナソニック・日立・三菱電機・富士通――我が国を代表する総合電機8社をとりあげ、各社の歴史や経営を詳細に分析することで日本の総合電機がはまった巨大な陥穽を描いている。
あの名著にたとえるならば、『失敗の本質』総合電機版と言えるだろうか。(HA)

感想・レビュー・書評

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  • 日本の企業がどんどん没落していく様相はほとんどの日本人が感じるところでしょう。
    その要因を探るヒントが東芝に隠されています。
    東芝に関しては粉飾決算に関する本も多々ありますが、本書はそれらにはマストではなく、ビジネスモデルとしてどうなのか?企業の優位性がどう保てなくなったのか?を俯瞰的に見られます。
    通信業界にも携わっていたので、そことの癒着についての言及もあり、なるべくしてなったと感じる解体劇です。

  • 今年読んだ本の中で一番面白かった。

    ・日本の各電機メーカーの今昔
    ・経産省や原発
    ・シーメンスやフィリップス、ノキアなど取捨選択に成功した欧米電機メーカーとの比較

    興味が色んな方面で爆上がりした…amazonでのポチりが捗る…

    恥ずかしながら、3.11で被災した地域出身なのに原発に関して熱心に調べていなかったけど、この本読んで興味が湧いたし、もっと知る必要があると感じた。

    電電・電力ファミリーが競争力を無くした理由とか経営不振で退任した元社長が会長になって改革進まない話とか面白い内容を挙げるとキリがない。


    それにしても、デジタル家電や東日本大震災直後に原発事業から撤退しメディカル事業に投資したシーメンス、半導体や携帯電話端末や液晶パネル事業を手放して医療機器事業に力を入れたフィリップス、iPhoneにボコられたけど通信事業に投資して5Gで業界を引っ張ってるノキアのスピードと決断力よ…。


    東芝
    東日本大震災による原発事業の落ち込みが粉飾決算に繋がる。

    NEC
    NTTからのミルク供給が終わる。ケータイ事業はガラパゴスでiPhoneに負け、NTTから見放される。

    シャープ
    大手電機メーカーが外資系企業に初の買収された例。台湾のホンハイにより買収。
    経産省は日本の知的財産の海外流出をを防ぎたいがために、ジャパンディスプレイを東芝、日立製作所、ソニーのディスプレイ事業を統合して作り、シャープを誘うものの、液晶ディスプレイのリーダーだったシャープを説得できない。シャオミ向けのスマホパネルの受注をシャープがしそうだったが、ジャパンディスプレイは赤字になってまでもこの受注を奪う。しかし最後には台湾のホンハイがシャープを買収。2020年7月現在ではシャープは黒字転換。

    パナソニック
    ソニーなどの家電企業を競わせて、市場に刺さりそうな家電に投資して、強固な販路を生かして市場を奪う。しかし、東電とNTTのミルク供給を受けていた電電・電力ファミリーに市場に刺さる電化製品を生み出す力は無くなり、パナソニックもそれによって落ちる。後のUSJを売却してしまう。
    車載と住宅。
    テスラと協業し、EV車用の電池をアメリカのギガファクトリーで作る。

    日立製作所
    GNP企業。日本のGNPと売り上げが比例する。なぜなら、東電とNTTからのミルク供給によって経営が決まってたから。

    富士通
    戦後は天才池田敏雄が日本のコンピュータを引っ張る。後に社内の権力闘争。院生経営。経営不振で退任した社長が会長に。会長が時期社長を推薦。→それじゃあ改革進まない。

    三菱電機
    レッドオーシャン事業を素早く手放し、ブルーオーシャンで儲ける。

  • 「「電機敗戦の年」。2017年は日本の歴史にそう刻まれることになるだろう。」

    本書は、この一文で始まる。東芝の行方は2017年秋の時点でもいまだ不透明ではあるが、解体された東芝はもはやかつての東芝ではない。すでにシャープ、三洋電機はアジアの外資系企業に買収され、半導体売上高世界一を誇ったNECの売上は事業の切り売りを行った結果、ピーク時の半分になっている。パナソニックの連結での売上高も同じくピーク時の半分に近い。2017年が「電気敗戦の年」だというよりも、やはりじりじりと追い込まれてきたということが正しい認識だろう。

    本書は、日本の電機産業の衰退の理由を、それをNTTと電力会社が手堅いインフラ需要として背後で支えていた構図が崩壊したからだと捉える。もちろん電機メーカーが数ある中で、それだけの理由に帰するのはいかにも乱暴なロジックではある。ただ、「電電ファミリー」という言葉がNEC、富士通、日立、沖電気を指す言葉として普通に使われていたことを考えると、衰退の理由の大きなひとつではあると納得もする。モトローラやノキアなどを交換機メーカーとして、日本への導入を押し込んできた外部の勢力は当時正しく状況を把握していたと言えるのかもしれない。

    実のところ、NTTや東電がメインの商売であって、半導体や家電、携帯電話は日本の電機メーカーにとって本業ではなかったので負けたというのだ。というよりもそのことも含めて総合電機という業態がよくなかったのかもしれない。ここで敗れても会社としては何とかなるというところでの戦いでは、インテルのようにここしかないところで戦っている会社とは戦えない。各社はここに至る前に、GEやIBMがやったように大胆なスクラップ&ビルドができればよかったのかもしれない。通産省主導の国家プロジェクトもまったく役に立たず、逆に邪魔をしただけだったとの結論は特に目新しくもなく正しい結論だと思う。

    本書では個別企業の説明として、東芝、NEC、シャープ、ソニー、パナソニック、日立、三菱電機、富士通が並ぶ。
    メモリと原発に賭けた東芝、液晶に賭けたシャープは、成功すれば成長できたのかもしれない。それを支えることができる環境と組織ではなかったのかもしれないけれども。ある意味では結果論で話しているところもあり、全ての筆者のロジックに付き合うこともないが、それにしても残念なことになったと思わざるをえない。

    著者は本書を『失敗の本質』をモチーフにして書いたという。日本軍の大敗を個別の事例を通して構造的に分析した『失敗の本質』と同じように、大敗をした日本の電機産業を個別の事例を通して構造的に分析したものであるという。確かにもっと早く事業整理が行われてもよかったが、総合電機としてのポリシーや日本的組織がそれを許すものではなかった。

    『シャープ崩壊』など、気が付けばこのテーマで読んだ本もたくさん増えている。電子工学科出身としてはとても気になるテーマなのだ。

    ---
    パナソニックの章で、車載電池の開発拠点で技術総括を務めていた能間氏が2013年に会社を辞めてその後の行方がわからないと個人名を挙げているがこれは大丈夫なのだろうか。取材をできていないのであれば、書くべきではないのではと思うのだけれども。サムソンに行ったのではないかという推測をしているが、10人以上の三洋電機の技術者が流出したとも言われている。そのことはおおよそは本当のことなのだろう。

    ---
    『シャープ崩壊 ―名門企業を壊したのは誰か』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4532320569

    『崩壊!パナソニック 復活への秘策』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/B00ENU018O

    『パナソニックはサムスンに勝てるか』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4569795439

    『ザ・ラストマン 日立グループのV字回復を導いた「やり抜く力」』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4041023629

    『ソニーをダメにした「普通」という病』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4777108635

    『日本の電機産業に未来はあるのか』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4862483879

    『日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビ』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4166609424

    『イノベーションはなぜ途絶えたか: 科学立国日本の危機 』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4480069321


    『失敗の本質―日本軍の組織論的研究』のレビュー
    http://booklog.jp/users/sawataku/archives/1/4122018331

  • 我が国の大手エレクトロニクス企業の凋落、その原因を電々ファミリーと電力ファミリーという、企業を育て、守り、利用する二つの社会主義的な産業システムに求めた書。
    日本企業が悉く地盤沈下していったのは何故か、これまでもやもやしていた疑問がかなり解消できた。
    大手エレクトロニクスの中で、地味な三菱電機が堅実経営で好調を保っている、というのが結構意外だった。

  • 電機メーカーが日本人の誇りだった日もあるんだよなあ~
    学生時代、ケンブリッジで、僕の持っているウォークマンに、全世界の留学生が寄って来た時にはホントにびっくりした
    みんなに「売ってくれ売ってくれ!」と頼まれ、ソニーが誇らしかった。
    時代ははるかに遠く。
    そりゃ、東芝はヤバいだろうし、原発関連全滅はわかるが
    サムソンに負ける体制になってしまったのは、やはり通産省が悪い。

    リスクとって途上国へ向かったサムソンが勝つのは当たり前
    半導体もみな産学共同で、庇護しているうちにダメになり
    国民車構想も、「官僚たちの夏」では花形だけど
    邪魔しかしてなかったという説もあるもんなあ

    ソニーもストリンガーですっかりダメになり、
    門戸開放も、いいことばかりじゃない

    サンヨーシャープみな消えてったけど、
    天下の松下でもこれかあ~
    島耕作の威力を持ってしてもダメかなあ。

    ん~・・・・日本に国産電機メーカーが消える日が来るとは?

  • 東芝をはじめとした日本を代表する電機メーカーの凋落を、その会社の体質やグローバル化との関係から痛烈に批判する。

    東電をはじめとした電力と、電電公社の通信の庇護下にあったせいで競争力と気概を失ってしまい、その2つが自由化された時に大ダメージを受ける、というのは正鵠を得ている。
    ノキアやシーメンスなどを引き合いに出して、潮流が変わっているにも関わらず、プライドやサンクコストに邪魔されて利益を出せない事業に固執して損失を拡大していくというのも残念でならない。

    個人的にはシャープが鴻海の傘下に入ったのは大正解だと思うし、韓国台湾中国のメーカーを格下に見る国民や官僚の意識は百害あって一利なしだと思う。
    M&Aとか選択と集中といった流行り文句を吹聴しながらも社内政治や内紛で右往左往するんじゃなくて、コアイデオロギーをブレずに持ち続けながら社会に貢献し続ける会社であって欲しい。

  • 電機メーカーの栄枯盛衰、納得です。「原発」の未来はもはや考えられないが、廃炉はどうする???

  • 東芝、NEC、シャープ等、グローバルでの競争に勝てず衰退している電機メーカーの凋落の原因がわかる本。
    NTT及び電力会社に依存していた電機メーカー(電電ファミリー&電力ファミリー)は、情報通信と電力の自由化に伴いおこぼれを貰えなくなった。そしてNTTと電力会社のご機嫌取りに終始している間に国際敵競争力を失っていた電機メーカーは危機に陥っている、というのが筆者の主張の大枠だと理解した。

  • 日本の電機メーカーの没落の原因に迫る。迫力とリアリティのある文章に引き込まれる。本書は2017年に執筆されたもの東芝の成り行きは周知の通り。優等生として書かれた三菱電機含めその後の状況と見比べながら読むのも良いだろう。フィリップスやノキアなど海外の成功事例を踏まえれば日本社にもまだまだチャンスは残っているはず。

  • 物作りで世界をリードしていたはずの日本企業が、ことごとく、海外企業に買収されている現実は気持ちの良いものではないが受け入れなければならない。日本経済、会社を発展させるために苦労してきた先輩達は決しておごることなく真面目に働いてきたはずであるが、どこかでボタンの掛け違いが生じて、誰かがあぐらをかき、方向性を間違えたのも想像に難くない。では、これからの日本経済をささえる若者を育てるために、教育現場では何すれば良いのか?そんなヒントも随所にあり、またひとつ引き出しができた。

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著者プロフィール

大西 康之(オオニシ ヤスユキ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。愛知県出身。1988年早稲田大学法学部卒業、日本経済新聞社入社。欧州総局(ロンドン)、日本経済新聞編集委員、日経ビジネス編集委員などを経て2016年4月に独立。著書に『稲盛和夫 最後の闘い JAL再生にかけた経営者人生』『ファースト・ペンギン 楽天・三木谷浩史の挑戦』(以上、日本経済新聞出版)、『三洋電機 井植敏の告白』『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』(以上、日経BP)、『ロケット・ササキ ジョブズが憧れた伝説のエンジニア・佐々木正』(新潮社)などがある。

「2021年 『起業の天才!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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