「右翼」の戦後史 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (280ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062884297

作品紹介・あらすじ

戦前右翼、反米から親米への転換、政治や暴力組織との融合、新右翼、宗教右派、そしてネット右翼・・・。戦後右翼の変遷をたどる。

感想・レビュー・書評

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  • 読んでよかった、の一言。

    右翼というと、自分のなかでヘイトスピーチをしてる差別主義者なのか?という印象が特に、在特会の影響であった。
    だけど、日本らしさ、日本の伝統を愛する民族主義が右翼の源流であり軸なのだとすると、賛同はできないが考え方の一つとして理解できる。
    その中で、右翼のなかでも民族主義的な人は、民族差別を認めるわけではなく、日本として独立して強くあることを考えているのだとすると、それも一理あると思う。

    でも、結局日本らしさってなんだろうって考えたときにそれって言語化できるものなのだろうか?教科書を変えて加害の歴史をないものにしようとしてる人もいるけど、「愛国」なのだとすると、愛はいいところも悪いところも認めることじゃないのか?加害の歴史を隠したり、誰かを貶めたり、自由を奪うことは理想的なのだろうか?それは、愛することができる国なのだろうか?
    現代の愛国者が望む、理想の世の中が気になってしまう。
    リベラルは理想的、右翼は保守的というけれど日本においては戦前の日本を望む時点でそっちの方がかなり理想主義的なのではないか?

    多様性を認めることってなんだろうか。グローバル化してアメリカなどに留学して海外の考えを自分の中にいれることだろうか、私は、自分らしさありきで多様性を認めることができると思う。
    そこには、個人主義と集団主義の問題もまた出てくるけど、集団としてまだ国を捉えてもいいとするならば、日本らしさを認めて、かつ他国を認めるのもまたいいのではないだろうか?

    文化の本質主義構造主義も学んだばかりなので意味不明なこと言っているかもしれないが、政治にも絡むこれらの思想についての知識はこれからも得続けたい

  • 第二次世界大戦後、日本はアメリカの統治下に置かれた。そこで、アメリカからの統治を拒絶し、旧来からの日本の伝統を取り戻し、日本国民で国を守るというスタンスで「右翼」が形成されたのは知っていました。しかし、今の右翼団体を見ると、アメリカを迎合している状態。もっといえば、アメリカの手下になって、中韓を威圧するスタンスに鞍替えしており、とても矛盾を感じたため、なぜそのような経緯を辿ったのか、興味深いと思い購入してみました。


    読んでみると、初めはアメリカに対する敵対心を軸として活動していましたが、アメリカと日本右派勢力も共に「反共」を掲げていたため、考え方が一致したという経緯らしいです。
    -「古い上着を脱ぎ棄てても、右翼の細胞は体内に生きている。右翼が心情に訴えかける思想であることは先に述べた。国と国民を守るー右翼思想の根底に流れるのはナショナリズムである。日本の場合はそこに天皇への崇敬の念を重ね合わせ、時代状況に応じて、看板が塗り替えられてきた。」(本文引用)

    この本を読むまで、左派と違い、右派は「堅物」「頑固」のような、古来からの伝統を守り通すというイメージがあったのですが、そんなことはなかったようです。


    右派・左派共に、主張の違う勢力を押さえつけるための手段として用いられていたのが「暴力」だったのはいつの時代も変わらないことがわかります。(右派・左派に分類される全てのグループがそうだとは言えませんが...)

    右派勢力だけに限ってみると、近年では、SNSの普及で、ネット上で思想宣伝を行う「ネトウヨ」の台頭により、若者まで「ネトウヨ」の右派思想が広まっている現状に恐怖を感じます。それは、「ネトウヨ」の喧伝している情報を信用した者がマイノリティに対し直接危害を加えることが起きていること、その情報自体が真偽不明なものが多く信憑性が欠けること、などがいえるのにもかかわらず、信用してしまう若者が多数いることが恐ろしいです。

    そのような「ネトウヨ」の活動に対し、「世間に対するイメージが下がってしまう。右翼は元々民族主義をベースに形成されたため、中国、韓国の人たちも尊重すべき。」と考える右翼団体も多数あり、右派系の中でも色々な主張があるのは驚きました。


    本書の締めにもありますが、右翼は社会の矛盾と向き合うことで勢力を拡大していったにもかかわらず、左派勢力の逆張りをしていった結果、現在はマイノリティをただ差別するだけの集団になっています。
    今の政治と一緒で、右派・左派共に相手の主張の「逆張り」(と不祥事の「揚げ足取り」)をするだけで、両者のそれぞれにいい主張があっても霞んでいる印象があります。そこをどうにかしないと...

  • 本書を読んで初めて知ったが、敗戦直後には松江事件など、やはり負け戦を受け入れられない連中による騒動が続発していた。確かにマヌケだったりただただ陰惨だったりはするのだが、それでも時代に流されるまま親米右翼にかじを切り組合や左翼叩きに熱を上げてきた連中よりは人間として評価すべきところは多いだろう。しかし本書を読むとそうした人々は右翼の中でもマイノリティでしかなく、宗教右翼から現代のネトウヨに至るまで、金の力、権力の力になびく太く黒い流れこそ日本の右翼の本質であると痛感する。

  • 本館開架(新書) [右翼 -- 歴史]
    http://opac.lib.saga-u.ac.jp/opc/recordID/catalog.bib/BB26483793

  • 右翼の流れがわかりやすい。

    右翼は歴史と伝統を重んじた保守であり、異なる他者に対しては排他的で、復古主義であり、理念というよりも情念に近い。

    日本右翼の源流は、江戸時代末期の水戸学にあるとされる。儒学を基盤に、神話や道徳を尊重し、身分や社会の安定を説くもの。吉田松陰や西郷隆盛らの幕末の志士に大きな影響を与え、倒幕運動や尊王攘夷思想が生まれた。

    大正時代には、大正デモクラシーによって人々が権利意識に芽生え、大正6年にはロシア革命が成功して日本の支配層に大きな恐怖を与えた。政治家や企業経営者は、労働争議や小作争議を弾圧しなければならないものとみなし、その先兵として右翼団体が利用された。

    昭和15年、近衛文麿内閣の要請に応じて右翼団体・政党は大政翼賛会に組み込まれ、太平洋戦争が始まると、あらゆる社会運動は戦時体制に組み込まれた。戦後は、占領軍によって右翼団体の解散と右翼人の公職追放が指示されたが、 1950年に右翼関係者の追放が解除されると、右翼を糾合する動きが活発化した。

    1960年代に発足した日本学生会議(JASCO)は、ヤルタ・ポツダム体制の打破を掲げて、右からの革命を主張した。 1966年、左翼に対抗するための早稲田大学学生連盟が結成され、他の大学に呼びかけて横断的・全国的な日本学生同盟が結成された。 1969年には、全国学生自治体連絡協議会が結成され、鈴木邦夫が委員長に選ばれた。1970年には、反核拡散防止条約で右翼共闘構想を打ち出し、日本学生会議、全国学生自治体連絡協議会、日本学生同盟統一派が反核防統一戦線を結成した。 1970年以降、新左翼が力を落としていくのに伴って、 右派の学生運動も先細りになっていった。

    一水会は、三島由紀夫らの遺志の継承を目的に、1972年に設立され、対米自立、自主憲法制定、日米安保破棄、戦後体制打破をスローガンとした。

    日本青年協議会は、生長の家学生会全国総連合のOBを集めて1970年に結成され、各地で改憲集会を繰り返した。

    日本を守る会は、鎌倉円覚寺貫主を務めていた朝比奈宗源と、富岡八幡宮の宮司だった澤渡盛房が、生長の家の谷口の協力を得て1974年に設立し、右派宗教界が大同団結した。事務局は、生長の家に関係する日本青年協議会のスタッフが務めた。日本を守る会は、愛国心が希薄となった戦後を一掃することを趣旨とし、連帯と連携を意識しながら大衆運動を盛り上げていった。

    日本を守る会は、1978年に元号法制化実現国民会議を結成して、生長の家や神社本庁が運動の実動部隊となり、翌年に法律を成立させた。 1981年には、日本を守る国民会議を発足させ、日本国憲法をアメリカの押し付け憲法だとして、改憲に向けた大衆運動を牽引した。

    日本を守る国民会議は、1982年に、第二次世界大戦中の日本の植民地政策に関する教科書の記述をめぐって中国・韓国から強い抗議があったことに反発し、自ら教科書をづくりを進め、 1997年には新しい歴史教科書をつくる会を発足した。しかし、つくる会の教科書の採択は進まず、内部対立から日本会議系のメンバーが脱退して、 2007年に日本教育再生機構を設立した。教科書の出版社には、フジサンケイグループの扶桑社の子会社である育鵬社が当たり、現在は600校で使用されている。

    1997年には、守る会と国民会議が統合する形で日本会議が発足した。この背景には、1990年代の自民党一党支配の崩壊、村山談話の発表、天皇制護持や国家神道に距離を置いていた創価学会と公明党への警戒心があった。

  • 叙述が客観的で信頼出来る。
    国が右傾化してるというのは、なるほどそう思う。国が沈滞化してるのはそのせいかもしれない。

  • 新右翼には心情的に同情できるんだが、やはりネトウヨには強い嫌悪感しか持てないなぁ。
    つまるところ、彼らの理論は自分たちより弱い者(と思い込んでいる、被差別対象)である韓国や朝鮮系の人間に罵詈雑言を浴びせて満足しているだけなのだ。だからこそ、アメリカや右派の政治権力者にはひたすら媚びる。

    本当の右翼は、弱者に思いを馳せて日本の国体(天皇制)を護持し時には身を呈して行動する者だと思うんだなぁ。この点玄洋社の大アジア主義とか見習ってほしい。

  • 右翼、そして左翼。

    よく聞くけれど、その実はよく知らないという方は多いのでは?

    4月29日昭和の日、右翼団体と思われる人たちが一日中何かを騒ぎ立てていた。
    5月1日、仕事の為外出すると官公庁の前で「恥を知れ!」と黒塗りの街宣車に乗ってきた人たちが怒鳴り立てていた。

    単純に疑問に感じたので、本棚の肥やしになっていた本書を手に取った。

    この本の内容が全てではないのは当然のことだが、それにしても衝撃を覚えたのは一ヶ所や二ヶ所のことではない。

    有権者として、一票を持ち得る者として、しっかり考える義務があると強く感じた。

  • なんとも感想の書きにくい本だが、勉強になった。大衆こそが政治を動かすというのは、ガセットの大衆の反逆において既に指摘されているが、これは怖い。

  • 【右翼とはいっても,すべてが同じ色に染まっているわけではなかった】(文中より印象)

    街宣車や拡声器,そして時にはネトウヨという言葉に代表されるようなイメージで語られてしまう戦後の「右翼」。敗戦後の混乱から現在に到るまで,多様な潮流を生み出したその思想的な歩みを眺め,今日的意義を考える作品です。著者は,『ネットと愛国』等の著作でも知られる安田浩一。

    表題が示すように大枠としての「右翼」の歴史を知る上で大変勉強になる一冊でした。右翼という言葉とその響きからは想像もできない思想的なグループがあったりするなど,意外性に満ち溢れた作品でもあるかと。

    評判の高さも宜なるかな☆5つ

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著者プロフィール

1964年生まれ。産湯は伊東温泉(静岡県)。週刊誌記者を経てノンフィクションライターに。『ネットと愛国』(講談社+α文庫)で講談社ノンフィクション賞、「ルポ 外国人『隷属』労働者」(月刊「G2」記事)で大宅壮一ノンフィクション賞雑誌部門受賞。『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書)、『ヘイトスピーチ』(文春新書)、『学校では教えてくれない差別と排除の話』(皓星社) 、『「右翼」の戦後史』(講談社現代新書)、 『団地と移民』(KADOKAWA)、『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日文庫)他、著書多数。
取材の合間にひとっ風呂、が基本動作。お気に入りは炭酸泉。

「2021年 『戦争とバスタオル』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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