生命に部分はない (講談社現代新書)

  • 講談社 (2017年6月14日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (584ページ) / ISBN・EAN: 9784062884341

作品紹介・あらすじ

● 臓器や組織の効率的な売買のために、 胎児の生体解剖が行われている?● 凍結されたままの胚(受精卵)に、人権や 遺産相続権はあるのか?● ある調査で、「生まれる子供に肥満傾向があるとわかれば 中絶したい」と答えた人が11%● ヒトの遺伝子をもつように改良された「動物」に次々と特許が与えられる●「背が高くなるように」と、毎日ヒト成長ホルモンを注射する少年


血液、臓器から、胎児、遺伝子、はては新種生物やクローン生物までもが効率的に生産され、市場で売買される時代。その萌芽はすでに半世紀前から始まっていた……。人間部品産業(ヒューマンボディショップ)のリアルな実態に警告を発した歴史的名著を『生物と無生物のあいだ』の福岡伸一氏が翻訳。福岡ハカセの「原点」ともなる作品をついに新書化。

AIがまとめたこの本の要点

プレミアム

みんなの感想まとめ

人間が市場で商品化される未来を描いた作品は、物理学から生物学への変遷を通じて、私たちの倫理観や価値観に問いを投げかけます。血液や臓器、さらには胎児や遺伝子操作された動物までが効率的に生産・取引される現...

感想・レビュー・書評

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  • 「雨宿りですよ。すんごい雨でしょう?」
    深夜、予告なく家に押しかけてきた言い訳がこれだ。
    「あのさ、葉月。俺はもう寝るところだったし、実際半分くらい寝てるようなものなんだけど」
    蛹は恐らく眠いのだろう、緩慢な身振りで葉月を家に上げ、居間に通した。葉月は仕事帰りらしく、スーツ姿だった。傘は持っておらず、頭のてっぺんからつま先までずぶ濡れだった。
    葉月は、蛹に借りたタオルで髪を拭きながら、ふと、テーブルの上の本に目をとめた。無造作に投げ出されている、分厚い新書。
    「蛹さん、嘘ばっかり。ちょうど今その本を読み終えたところでしょう。で、コーヒーカップを片づけて、そろそろ寝ようか、みたいな。あれ? やっぱり寝るとこですね、それ」
    「だから、寝るとこだって」
    「もう一杯くらい付き合ってくださいよ。この格好じゃあ、帰れないでしょう」

    葉月は蛹にTシャツとジャージを借りると、無謀にもスーツとシャツをまとめて洗濯機に放り込み、脱水を試みた。それから、台所で湯を沸かし、コーヒーを二人分淹れ、居間に戻ってきた。
    「で、どうでした? その本」
    蛹はコーヒーを一口飲み、眠気を払うように小さく頭を振った。
    「感情論に走りすぎ、かなあ」
    外は相変わらずどしゃ降りだ。トタン屋根を雨が強く打っている。そのうえ洗面所では洗濯機が回っている。こんなうるさい夜はそうない、と蛹は思う。思いながら、頭の別のところで、本の内容を整理する。
    「自然のままにしておくべきだという考えは――つまり遺伝子操作や人工妊娠中絶や臓器移植や帝王切開をNGだという発想は――この本の中においては、そういう技術が出てくる前の宗教的倫理に根拠を求めている。それが当然だとでもいうように。滑稽じゃないか」
    「言われてみれば、まあ、そりゃ当時考えられる範囲外のことですからNGだって話ですね」
    「そもそも宗教的倫理観に照らしてNGだという発想は、宗教的倫理観には問題がない前提だろう」
    それを聞いて、葉月は思わず噴き出した。
    「蛹さんは、それが気に食わないんですね」
    納得したというように、満足げにコーヒーを飲む。
    「感情論と一緒だよ。君がよく言う、『なんかキモイ』と同じだ」
    「私、そんなこと言いますっけ」
    「言うよ。こないだも、車に轢かれたカエルの切れ端を見て言ってたじゃないか。うちの前で」
    「それとこれ、同じ問題にしちゃいます? あ、しちゃうのか……」
    この人は、と。葉月は、本をめくり、ざっと見出しだけを斜め読みして、ふとあるところで目をとめた。
    「訳者の人、『動的平衡』の人ですね」
    「うん。だから買ってみた」
    「生命は独立したものでなく、環境の一部として現れる『現象』、みたいな。そういう視点は面白かったですけど」
    「その源流になるような考え方を求めていたけれど、この本ではそういう風には話が広がっていないね。序盤の雰囲気で、そっちに広げるのかと思ったんだけど、途中で違う方向に行ってしまった」
    「心底残念そうですが」
    「俺が期待していたことは書かれていなかったというだけだよ。期待の外側を見せてくれたという点では、面白かった。生命倫理に関する対立の問題点を、はっきり見せてくれる本ではあったし。技術がどんどん進んでいくのを止めようとするものは、古い倫理観だけだった、っていう」
    葉月は、その蛹の言葉について、少し考えてみた。
    「結局のところ、どこまでを生命の個体として扱うか、という問題ですよね、突き詰めていけば。こういう生命科学の問題って、生命とそうでないものとの境目の話ばかり。脳死と臓器移植の問題も、中絶の問題も、この本の主題でもある、生物の一部を部品として扱えるかどうかという問題も」
    「そうだよ。でも、そもそも、どこまでが生命かなんて、分からないだろ。境目なんて無いんだよ、きっと。ニック・レーンの『生命、エネルギー、進化』にも書かれていた気がするけれど、生命とそうでないものの境目は、はっきりと線を引けるものではなくて、グラデーションを描くように、徐々に変化するものなのかもしれない」
    「なら、どうすればいいんですか」
    「どうもしないよ。やりたいようになればいいだろ」
    「科学や医療によって交換可能な部品とするならそれでもいい、と。まあ、個人的にはそれで助かる人もいるし、とは思いますが」
    「何が問題だろう?」
    「そうして、できるだけのことを交換可能な部品にしても、何か、残るものがあるなら、いいのでは、と?」
    「あると思うよ、俺は」
    「ゴーストみたいなものが?」
    「攻殻機動隊はまあ、極端な未来予想図だけど、だいたい言わんとしてることは近い。もっとも、それはきっと普遍的なものではなくて、部品を交換することによって変化していくものかもしれない。あとはどこまでを個とするかという問題だろうね。君の言うとおり」

    雨が少し弱まり、外は静かになっていた。いつの間にか、洗濯機も止まっている。

    「俺はそろそろ寝るよ。君も、今のうちに帰った方がいい」
    「そうします。今なら、終電に間に合いますし」

    そうして、その騒々しい夜は終わった。

  • 物理から生物へ
    ガリレオ、デカルトなどの科学、スミスの国富論
    機械論と市場経済が全てを商品とし、いま生物の発達により人間が商品になろうとしている
    血、胎児、胚...想像もできない世界だ
    いかに自分が市場経済で生きてきたかを改めて実感した
    ガリレオが宗教を、神を否定したように、バイオテクノロジーを否定するには古い考えなのか
    次の世代の常識なのか、と思うと少し怖い気もする
    面白い本

  • 動物としての人間の領域を越えてるんだよなあ、技術、という怖さ
    やっぱり欲と倫理は戦うものだよな、と安心できた

  • 第49回ビブリオバトルinいこまテーマ「こわい話」で紹介された本です。
    2017.8.27

  • 東2法経図・開架 B1/2/2434/K

  • 貸し出し状況等、詳細情報の確認は下記URLへ
    http://libsrv02.iamas.ac.jp/jhkweb_JPN/service/open_search_ex.asp?ISBN=9784062884341

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著者プロフィール

弁護士、市民運動家、執筆者として、およそ四半世紀にわたり活躍中。1997年には食品安全センター(Center for Food Safety=本拠・ワシントンDC)を創設、事務局長を務める。環境保護、持続可能な農業のあり方を訴えている

「2017年 『生命に部分はない』 で使われていた紹介文から引用しています。」

アンドリュー・キンブレルの作品

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