ハプスブルク帝国 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062884426

作品紹介・あらすじ

1273年、ドイツ南西部の雄として知られたルードルフ四世が、ドイツ王に選出されます。各国の相反する利害関係からの、「より悪くない選択」としての選出でした。しかしこの偶然が、その後の「ハプスブルク帝国」大発展の基礎となりました。
 ヨーロッパ列強との婚姻関係がもたらした偶然も幸いして、帝国の版図は拡大の一途をたどります。なかでもスペインを領有したことで、その領土は中南米そしてアジアにも及ぶ広大なものとなり、「日の沈むところなき帝国」とまで呼び習わされるに至りました。19世紀のイギリスではなく、この時期のハプスブルク帝国こそが、元祖「日の沈むところなき帝国」だったのです。
 その後も二度にわたるオスマン帝国のウィーン包囲の脅威をはねのけ、オスマンからの失地回復にも成功するなど、ヨーロッパの大国としての地位は維持されます。しかし19世紀になると徐々にフランス、イギリスなどのより「近代的」な国々の後塵を拝するようになります。そして自国の皇位継承者暗殺を発端として勃発した第一次世界大戦での敗北により、ついに終焉の瞬間を迎えます。
 本書は、現在のオーストリア、ハンガリー、チェコ、セルビア、ボスニア・ヘルツェゴビナなどに相当する地域を中心とする広大な版図と、そこに住まう多種多様な民族を支配下に置き、曲がりながりにも1000年の命脈を保った世界史上にもユニークな「帝国」の歴史を一冊の新書で描ききった意欲作です。

感想・レビュー・書評

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  •  ハプスブルク家に関する本は既に数多あり、そこに新たに切り込むには何らかの新奇性が必要なのだろう。本書にも「新たなハプスブルク家」像を描き出す様々な試みが散見される。例えば、王国の支配には中世ヨーロッパ封建制を支えた「諸身分」の支持が不可欠であったことを根拠に、当家が政略結婚で伸長した勢力であるとのステロタイプを否定しようとしている。曰く、政略結婚は世の常でありひとりハプスブルク家に限ったことではない、と。

     では、ハプスブルク家がヨーロッパの大勢力になるべくしてなったというその理由は、本書ではどこにあるとされているのだろうか。強いて一言でいえばそれは、カール5世の治世で確立された「複合君主政国家」的性格が他国家よりも顕著であったということなのだろう。本書では、普遍主義に基づく宗教的統合の試みの挫折や、30年戦争やスペイン承継戦争を経て、ハプスブルク帝国が複数の主権国家よりなる寛容な「帝国らしからぬ帝国」となっていく過程が描かれており、後のEU構想の原型が透けて見えるようで興味深い。
     しかし一時は19世紀以降の民主主義国家を先取りしたとも見えるこの進取性も、当家が神に選ばれし王権であるという根強い「選良意識」「神権的君主理念」から生ずるパターナリズムにより、その発現を阻まれることになる。啓蒙主義も自由主義も、当家においてはエリートの体制維持が保証される範囲内で称揚されたに過ぎなかった。19世紀のヨーロッパを席捲したナショナリズムでさえハプスブルク君主国の枠組の中で各国民の自主性の獲得を目的とするものに限定され、君主制の権威主義を護持する範囲での社会の改良が志向された。そのため代議制や立憲制への移行が遅れ、国内マイノリティたるスラヴ系民族の扱いを誤った挙句サライェヴォ事件の遠因を作り、さらに国内調整の遅滞から経済停滞を招き富国強兵でも他国にも後れを取ることとなる。
     
     全編を通じて、民族的多様性から多くの文化的果実を得つつも、その錯雑さに翻弄される君主国の苦悩が描かれているが、これこそが著者が本書で浮かび上がらせたかったハプスブルク君主国の本質なのではないかと思った。ハプスブルク君主国が、「帝国」の概念を多様性さえも抱合するより上位の概念に昇華させた、とする終章での著者の指摘が、悲劇の国家として扱われることの多いこの国にとってはせめてもの救いといえるだろう。

  • 良いも悪いもない。ハプスブルク家の歴史を知る書物なので星3,。
    学校の勉強ではわからなかった詳細がわかったことかよかった。

  • 2020.11.1読了。
    戦争、領土拡大、王位継承が繰り返し書かれて、音楽家、学者に話題が転換。最後はオットー・ハプスブルクの逝去で終わる。
    オーストリアは保守主義と進歩主義が関わり合って、保守化した印象。

  • タイトルのハプスブルク帝国という言い方を著者自身は使いたくなく、ハプスブルク君主国とでもいうべきと、はじめにで書かれていて、実際本文ではハプスブルク帝国とは一度も使われていないが、タイトルには一般に馴染みのあるハプスブルク帝国と名付けざるを得なかったような葛藤が面白い。
    全体的に長い歴史を通しても、ハプスブルク家が絶対的な権力者ではなく、諸身分との協力が常に必要だった旨が書かれている。
    図版が多いのが嬉しい。
    長い歴史なので、多少なりとも前提知識がないと、人物把握すら困難。

  •  ハプスブルクの歴史はヨーロッパの特徴を実に分かりやすく示してくれる。特に中世から近代に至るまでの欧州のあり方を知る上では不可欠の知識であることが本書を読むことによって確認できた。
     多民族国家、多宗教他宗派、立場の異なる権力者たちの連合と敵対、それらに折り合いをつけるための巧妙なシステムとその制度疲労と崩壊、それらの繰り返しが同時多発的に起きるのが欧州史の特徴だ。
     本書は通史的にそれを把握できる入門書だ。ウイーンに関係する芸術に対する見方はこれで大きく変わった。

  • ヨーロッパの歴史がわかり面白かった。中学生くらいの歴史の授業で第一次世界大戦の発端が、サラエボでオーストリア皇太子がセルビア人に暗殺されたことだと教わったが、いまいちピンと来てなかったけれど本書を読んで腑に落ちた気がする。他にもドイツという国の成立がフランスなどに比べて遅い気がしてたり、アフリカの植民地支配にイメージのなかったオーストリアが名を連ねていたり、いくつかの疑問の糸口が見つかったように思う。

  • 高校時代に世界史をとっていなかったので、欧州史に関する知識はほぼゼロだったが、入門者にも読みやすく概要を理解するのには役立った。ただ記述がいかにも教科書チックで、内容が面白かったかというと。。。

  • 日本人にはわかりにくいが
    世界に影響を与えたハプスブルグ家の通史。

    ヨーロッパの国々のつながりが少し理解できた。

  • 【ひとこと紹介文】
    「汝、結婚せよ」は家訓ではなかった?
    神聖ローマ皇帝は選挙で選ばれていた?
    広大な領地を有し、「日の沈まぬ帝国」に君臨したハプスブルク家1000 年の歴史を最新の知見でまとめた 1 冊。
    あなたの知らない欧州事情がここにある。
    (ナノサイエンス学科 Mさん)

  • どうしてここまで国を大きくしたかったんだろう

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