世界神話学入門 (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 421
感想 : 25
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062884570

作品紹介・あらすじ

日本神話では男神イザナギが、亡き女神イザナミを求めて冥界に下ります。一方ギリシア神話にも、オルフェウスが死んだ妻エウリュディケーを求めて冥界に下るという非常によく似たエピソードがあります。しかしこのパターンの神話は上記の二つに止まるものではなく、広く世界中に分布しまていす。では、なぜこのように、よく似た神話が世界中にあるのでしょうか?
 2013年にハーヴァード大学のマイケル・ヴィツェルが、この謎を解くべく『世界神話の起源』という本を出版しました。この本によれば、世界の神話は古いタイプの「ゴンドワナ型」と新しいタイプの「ローラシア型」の二つのグループに大きく分かれるとされます。「ゴンドワナ型」はホモ・サピエンスがアフリカで最初に誕生したときに持っていた神話です。それが人類の「出アフリカ」にともなう初期の移動により、南インドからパプアニューギニア、オーストラリアに広がり、アフリカやオーストラリアのアボリジニの神話などになりました。
 一方「ローラシア型」は、すでに地球上の大部分の地域にホモ・サピエンスが移住した後に、西アジアの文明圏を中心として新たに生み出されたと考えられています。それがインド=ヨーロッパ語族やスキタイ系の騎馬民族の移動によってユーラシア大陸全域に、さらにはシベリアから新大陸への移動によって南北アメリカ大陸に、そしてオーストロネシア語族の移動によって太平洋域へのと、広く広がっていきました。つまりこの説によれば、日本神話もギリシア神話もローラシア型に属する同じタイプの神話ということになります。両者が似ているのは、むしろ当然のことなのです。
 近年、DNA分析や様々な考古学資料の解析によって、人類移動のシナリオが詳しく再現できるようになりました。するとその成果が上記の世界神話説にぴったりと合致することがわかってきました。すなわち神話を分析することで、人類のたどった足跡が再現できるようになったのです。
 本書は、近年まれに見る壮大かつエキサイティングな仮説であるこの世界神話学説をベースにして、著者独自の解釈も交えながら、ホモ・サピエンスがたどってきた長い歴史をたどるものです。

感想・レビュー・書評

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  • ギルガメッシュ叙事詩とノアの方舟のように共通する神話を研究する比較神話学に関心を持ち、本著にたどり着きました。
    本著では、大陸移動説をもとにした人類分布から神話形態を分類しています。多様な神話そのものに触れたい方は第2章から目を通すことをお勧めします。

    神話や民間伝承は、大概ぶっとんでいて本著で紹介されているものもなかなか奇妙でした。考えてみれば、エピソード、それも奇抜なものほど記憶に残りやすい。そのため、口承の時代から書物に残るまで語り継がれてきた神話は奇抜なエピソードほど残っているのだと思われます。

  • 著者の後藤明(1954年~)は、南山大学教授の文化人類学者、考古学者。
    本書は、これまで、世界中の神話の類似点から様々な文化の伝播や系譜論が唱えられてきた中で、近年注目されるようになった、世界の神話の系統は大きく二つの流れに分けられるという「世界神話学説」について、世界各地の神話を比較しながら解説するとともに、その中で日本の神話がどのように位置付けられるのかを分析したものである。
    内容は概ね以下である。
    ◆世界神話学説とは、米国のマイケル・ヴィツェルが唱える、世界の神話は大きく「古層ゴンドワナ型神話」と「新層ローラシア型神話」の2つのグループに分けられ、それは、遺伝学、言語学或いは考古学による人類進化と移動に関する近年の成果と大局的に一致するというもの。
    ◆ゴンドワナ神話群は、アフリカで誕生したホモ・サピエンスが持っていたもので、出アフリカによって、南インドからオーストラリアへ渡った集団が保持する古層の神話群で、「人類の原型的な思考」ともいえる。ローラシア神話群と異なり、世界は既に存在しているものとして語られ、また、一つ一つの物語が関連して発展していくという形をとらず、個々の神話の間に関連性が見出せないものが多い。
    ◆ローラシア神話群は、既に地球上の大部分の地域にホモ・サピエンスが移住した後に、西アジアの文明圏を中核として生み出され、様々な集団の移動によって各地に伝播した神話群で、「人類の最古の物語」ともいえ、ヨーロッパ、シベリア、インド、東アジア、アメリカ大陸に広がる。世界の無からの創造を語り、最初の神、特に男女神の誕生、更には天地の分離を語り、大地の形成と秩序化、それにともなう光の出現、火や聖なる飲み物の獲得、原初の竜退治などのテーマが連なり、その後に続く、神々の世代と闘争、半神半人の時代、人類の出現、更には、後に貴族の血脈の起源へとつながり、最後には、しばしば現世の暴力的な破壊と新しい世界の再生が語られる。起承転結や因果関係をもった本来の意味での物語性が強く、我々にも理解が容易である。
    ◆日本神話は、ゲルマン、北アジア、朝鮮、インド、ポリネシアなどの神話と類似性があり、大局的には、ユーラシアに広く分布するローラシア型神話群に属している。ただ、日本列島はホモ・サピエンスが東南アジアから北方アジア、アメリカ大陸へと移住する経路にもあたっていたため、ゴンドワナ型神話の痕跡もあり、それにより、日本神話の複雑さ・多様性が生まれた。
    ◆ゴンドワナ型神話は、「物語」という営みが生まれる以前に存在していた「思考」であり、そもそも人間と動植物や自然現象を区別しない時代、人間もその一員として森羅万象や動物・木々や花々とともにささやき合っていた時代の「神話」である。即ち、進化思想であり自民族中心主義につながりかねない危険性を孕んだローラシア型神話とは異なり、ゴンドワナ型神話は、対等の関係或いは互酬制、調和と共存こそが世界の神秘であり、人類を含む地球上の生きとし生けるものの叡智であることを教えてくれる。
    現在世界各地には、人種も民族も文化も言語も異なる多数の人々が存在するが、原型的な思考、最古の物語を潜在的には共有しているということには、大いなるロマンを感じるし、争いの絶えない今日の世界においても、一筋の希望に繋がると思いたいものである。
    (2017年12月了)

  • 神話の起源、世界神話の共通点がわかりやすく、まとめられていた

  • 神話学という名の人種差別??
    後藤明『世界神話学入門』講談社現代新書. 2018.

    -比較神話学ほど怪しい学問はない・・・とは先日先輩とふとそんな話になったのだが、

    2010年代以降Harvard大学のMichael Witzelが提唱している「世界神話学」なるものを勉強しないといけないなあと思い最近彼の本を買ったものの、とにかく長くて読む気がしなかったのだが、今回日本語で簡単にその内容を紹介している本があったので早速手に取って読んでみた。(日本語で安価で手に入るのは本当にありがたい)

    今までの神話学とは一線を画するところは、それは現代のDNA解析技術を用いて人類の移動の軌跡と、神話の様々な類型の分岐をたどるというものだ。
    それによると世界の神話体系には、
    ローラシア型:ヨーロッパ、アジア、エジプト、メソポタミア、日本、中国、アメリカ先住民
    ゴンドワナ型:アフリカ、ドラヴィダ系南アジア、東南アジア、オセアニア、南アメリカ末端部
    があるらしい。

    ローラシア型の神話は、世界の無からの創造、最初の神、男女の神の誕生、天地の分離、大地の形成etc,
    ゴンドワナ型 そのような神話的思考が欠如している?世界は最初から存在する。

    しかしなんとなくこのような類型は非常に恣意的なものに思われる。例えば、インド東南部のドラヴィダ集団の神話で、ゴンドワナ型として語られているものだが、

    空にプークとその妻ユークが住んでいた。そのとき地上は水に覆われていた。エビとカニがそれを干拓しようとし、エビは触角を使って水に漂っているゴミや草や葉を集め、カニは深く穴を掘った。すると水が穴の中に流れ込み、その下から地面が現れた。エビはゴミの山を積み上げて山を造ったが、地面が柔らかすぎたので、太陽と月が熱で乾燥させた。プークとユークは天から見ていて大地が不毛で乾燥しているのを知った。プークは妻に言った。「緑のものはなにもない。木や草が生えるように水をやりなさい」。しかしユークは「どうやって地上に水をやるのか」と抗った。怒った彼女は腰巻きをめくりあげて陰部を露出した。すると彼女のその部分が太陽のように輝いて空を照らした。プークも怒ってパイプを水の筒の上に打ち付けると雷が起こった。すると雨が降って地上に草木が生えてきた。

    無からの創造、とまではいかなくても、我々がインド神話でよく見る「原初の水」の神話にかなり似ている気がするし、無からの創造なんていうのもそれなりに時代を下らないと見られない。にかなり近いと思われる。ゴンドワナ型かローラシア型かという分類体系は非常に曖昧で研究者の要約の仕方や訳語の選択による、というのが正直な感想だ。

    著者自身冒頭でも言っているように、神話学の殻を被った人種差別であるという批判もあるようだが、まさにその通りであると思われる。結局ヨーロッパや、ヨーロッパ人的に興味そそるアジアやアメリカ先住民の文化を「科学的」な方法で分けているだけのように思われる。これを読んでからWitzelの大著に取り掛かってみるかと思っていたものの、そんな気も失せてしまった。
    2010年代のいつだったか、Witzelが来日した折に、関西外国語大学で講演していたのに参加したが、その時もよくわからんなあという印象だった。
    Witzel自身の言葉をしっかり分析していないので、自分自身で確かめないといけないのは確かだが、神話学を専門にしていない以上は読まなくてもいいかな、という気になってきた。そして日本語で大体の内容や問題点を把握できるのはありがたいものだ。

    もちろん理論的に賛成できなかったからとはいえ、読んで後悔だったというわけではない。一番の収穫は世界のいろんな神話を知ることができたことだろう。特にガーナのアシャンティ族の神話の至高神がオニャンコポンという可愛いお名前だとは知らなかった。これはこれからのいろんなネタに使えそう。

  • 国や地域ごとに伝わる伝承はさまざまであるが、あれ、なんか聞いたことあるストーリーだなと思うことがたびたびある。
    昔聞いたことを忘れていたのかもしれないが、実は日本にも同様のストーリーが伝承されていた、ということもある。
    後者の場合、それは偶然だろうか?この場合2つのパターンが考えられる。
    ・対象のストーリの発生が自然的(人間共通)な考えによるもの。例えば、太陽を神格化するという発想は世界中でよく見られるがそれ自体は太陽による恩恵を考えると世界中でこのような神話が発生するのは自然のように思える。
    ただし、太陽を男性とみると、女性とみるか(または中性的とみるか)は自然的ではない。実際、太陽の性別はと聞かれると男性という人も女性という人もいるのではないだろうか。
    ・次に考えられるのは、もともと根本的なストーリーが存在し、それが民族移動によって各地に同じようなストーリーが広がっていった、というアイデア。

    本書のメインテーマは後者である。
    各地域で伝承や神話を丁寧に分析することで人類が文字を持たないくらい過去での人間の足取りを追えるのではないか、という流れである。
    日本、アジア、南米、アメリカ大陸に伝わる伝承の類似性を検討している。

    まぁしかし神話に頼らずとも最近はDNAによる人類の移動の年代や経路がある程度正確にわかってきており、いまだ解明されていない点がこの神話の分析によって解決することができるかは疑問であるが。
    ということで本書の最終的な結論は(筆者も頭を悩ませたと思うが)、神話を知り、今日の悩みを緩和しようぜ、という本書のストーリーから若干離れた感じになっている。
    問題意識は面白いと思う。

  • 神話学者のマイケル・ヴィツェルによって提唱された「世界神話学説」にもとづいて、世界各地の神話を比較し、そのつながりを論じた本です。

    近年の遺伝学の進展によって、アフリカに誕生したホモ・サピエンスの移動の諸相が解明されてきました。ヴィツェルは、こうした研究の成果に依拠して、地球上のさまざまな神話が、古いタイプの「ゴンドワナ型」と新しいタイプの「ローラシア型」の二つのグループに分類することができると主張します。本書では、そうしたヴィツェルの主張の裏づけとなる世界各地の神話を紹介するとともに、著者自身の研究も加味しつつ、とくに日本神話の源流についても議論をおこなっています。

    本書で紹介されているヴィツェルの議論は、遺伝学の成果をもとに、地球規模の神話の起源と変遷にかんする研究というもので、そのスケールの大きさには目をみはらされます。ただ、神話そのものの分析については、印象論的なレヴェルでの類似が論じられているにすぎないという印象も受けました。

  • 神話がテーマなのにDNAの話から始まって!面白かったー。

  • 2019年1月13日に紹介されました!

  • 主にローレシア型とゴンドワナ型の二種に神話を分けて、人類の移動の歴史と、神話同士と人類の遺伝的形質を合わせて関係性を見て行き、繋がりがどこにあるのかを認識していく内容。そして神話から読み取れる教訓、人類の歴史にあったことだと予想できる事柄を紐解いていく。
    ゴンドワナ型神話は「話の森」ではあるという表現がとても好きでした。

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著者プロフィール

1954年、宮城県仙台市生まれ。東京大学で考古学を専攻し文学修士。ハワイ大学で人類学を学びPh. D.(人類学)。宮城学院女子大学、同志社女子大学を経て、南山大学人文学部教授。著作に『海の文化史』(1996、未來社)、『ハワイ・南太平洋の神話』(1997)、『南島の神話』(2002、以上中央公論社)、『「物言う」魚たち』(1999、小学館)、『民族考古学』(2001)、『カメハメハ大王』(2008、以上勉誠出版)、『海を渡ったモンゴロイド』(2003)、『海から見た日本人』(2010)、『世界神話学入門』(2017、以上講談社)、『天文の考古学』(2017、同成社)、Cultural Astronomy of the Japanese Archipelago : Exploring Japanese Skyscape(2021, Routledge)など。

「2022年 『大林太良 人類史の再構成をめざして』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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