世界神話学入門 (講談社現代新書)

著者 : 後藤明
  • 講談社 (2017年12月14日発売)
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  • レビュー :9
  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062884570

作品紹介・あらすじ

日本神話では男神イザナギが、亡き女神イザナミを求めて冥界に下ります。一方ギリシア神話にも、オルフェウスが死んだ妻エウリュディケーを求めて冥界に下るという非常によく似たエピソードがあります。しかしこのパターンの神話は上記の二つに止まるものではなく、広く世界中に分布しまていす。では、なぜこのように、よく似た神話が世界中にあるのでしょうか?
 2013年にハーヴァード大学のマイケル・ヴィツェルが、この謎を解くべく『世界神話の起源』という本を出版しました。この本によれば、世界の神話は古いタイプの「ゴンドワナ型」と新しいタイプの「ローラシア型」の二つのグループに大きく分かれるとされます。「ゴンドワナ型」はホモ・サピエンスがアフリカで最初に誕生したときに持っていた神話です。それが人類の「出アフリカ」にともなう初期の移動により、南インドからパプアニューギニア、オーストラリアに広がり、アフリカやオーストラリアのアボリジニの神話などになりました。
 一方「ローラシア型」は、すでに地球上の大部分の地域にホモ・サピエンスが移住した後に、西アジアの文明圏を中心として新たに生み出されたと考えられています。それがインド=ヨーロッパ語族やスキタイ系の騎馬民族の移動によってユーラシア大陸全域に、さらにはシベリアから新大陸への移動によって南北アメリカ大陸に、そしてオーストロネシア語族の移動によって太平洋域へのと、広く広がっていきました。つまりこの説によれば、日本神話もギリシア神話もローラシア型に属する同じタイプの神話ということになります。両者が似ているのは、むしろ当然のことなのです。
 近年、DNA分析や様々な考古学資料の解析によって、人類移動のシナリオが詳しく再現できるようになりました。するとその成果が上記の世界神話説にぴったりと合致することがわかってきました。すなわち神話を分析することで、人類のたどった足跡が再現できるようになったのです。
 本書は、近年まれに見る壮大かつエキサイティングな仮説であるこの世界神話学説をベースにして、著者独自の解釈も交えながら、ホモ・サピエンスがたどってきた長い歴史をたどるものです。

世界神話学入門 (講談社現代新書)の感想・レビュー・書評

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  • 著者の後藤明(1954年~)は、南山大学教授の文化人類学者、考古学者。
    本書は、これまで、世界中の神話の類似点から様々な文化の伝播や系譜論が唱えられてきた中で、近年注目されるようになった、世界の神話の系統は大きく二つの流れに分けられるという「世界神話学説」について、世界各地の神話を比較しながら解説するとともに、その中で日本の神話がどのように位置付けられるのかを分析したものである。
    内容は概ね以下である。
    ◆世界神話学説とは、米国のマイケル・ヴィツェルが唱える、世界の神話は大きく「古層ゴンドワナ型神話」と「新層ローラシア型神話」の2つのグループに分けられ、それは、遺伝学、言語学或いは考古学による人類進化と移動に関する近年の成果と大局的に一致するというもの。
    ◆ゴンドワナ神話群は、アフリカで誕生したホモ・サピエンスが持っていたもので、出アフリカによって、南インドからオーストラリアへ渡った集団が保持する古層の神話群で、「人類の原型的な思考」ともいえる。ローラシア神話群と異なり、世界は既に存在しているものとして語られ、また、一つ一つの物語が関連して発展していくという形をとらず、個々の神話の間に関連性が見出せないものが多い。
    ◆ローラシア神話群は、既に地球上の大部分の地域にホモ・サピエンスが移住した後に、西アジアの文明圏を中核として生み出され、様々な集団の移動によって各地に伝播した神話群で、「人類の最古の物語」ともいえ、ヨーロッパ、シベリア、インド、東アジア、アメリカ大陸に広がる。世界の無からの創造を語り、最初の神、特に男女神の誕生、更には天地の分離を語り、大地の形成と秩序化、それにともなう光の出現、火や聖なる飲み物の獲得、原初の竜退治などのテーマが連なり、その後に続く、神々の世代と闘争、半神半人の時代、人類の出現、更には、後に貴族の血脈の起源へとつながり、最後には、しばしば現世の暴力的な破壊と新しい世界の再生が語られる。起承転結や因果関係をもった本来の意味での物語性が強く、我々にも理解が容易である。
    ◆日本神話は、ゲルマン、北アジア、朝鮮、インド、ポリネシアなどの神話と類似性があり、大局的には、ユーラシアに広く分布するローラシア型神話群に属している。ただ、日本列島はホモ・サピエンスが東南アジアから北方アジア、アメリカ大陸へと移住する経路にもあたっていたため、ゴンドワナ型神話の痕跡もあり、それにより、日本神話の複雑さ・多様性が生まれた。
    ◆ゴンドワナ型神話は、「物語」という営みが生まれる以前に存在していた「思考」であり、そもそも人間と動植物や自然現象を区別しない時代、人間もその一員として森羅万象や動物・木々や花々とともにささやき合っていた時代の「神話」である。即ち、進化思想であり自民族中心主義につながりかねない危険性を孕んだローラシア型神話とは異なり、ゴンドワナ型神話は、対等の関係或いは互酬制、調和と共存こそが世界の神秘であり、人類を含む地球上の生きとし生けるものの叡智であることを教えてくれる。
    現在世界各地には、人種も民族も文化も言語も異なる多数の人々が存在するが、原型的な思考、最古の物語を潜在的には共有しているということには、大いなるロマンを感じるし、争いの絶えない今日の世界においても、一筋の希望に繋がると思いたいものである。
    (2017年12月了)

  • とにかく扱ってる話題がおもしろい。詳しい話を聞いたことがない。でも、章立てやエピソードの整理には改善の余地があるような...

    世界各地で伝わる神話の共通性は、大航海時代以降に伝わった部分もあるにせよ、それでは説明できない、つまり、人類の移動/移住の歴史で説明される部分が少なくない。

    読み終わっても整理できていないけど、例えばこんなモチーフが広く見られる。

    釣り針/槍をなくすと動物の世界に行って動物の長と仲良くなり、帰ってきて幸せに暮らす。浦島太郎、海彦山彦。
    脱皮できなくなったから人間は死ぬ。
    世界は無か水か巨人か卵の中から出てくる。
    大抵、太陽と月は男女で、星は動物。何かと追いかけっこをしている。
    ...その他いろいろ

    多くの神話は、
    偉い人あるいは神を崇めさせるようなタイプ(ローラシア)
    と、
    自然の中にいる精霊とかとのやりとりが断片的に描かれるタイプ(ゴンドワナ)
    にざくっと分類でき、大まかに、前者は農業革命以降(=10kyaくらい以降。余剰資源の備蓄開始、統治者,聖職者の誕生)、後者はもっと昔(言語や抽象概念の成立以降)に成立したと考えられる。

    今成立してる制度やモラルの硬直は、こういう観点を入れれば組みなおすことができるかも。
    "昔から"という正統性のおおもと(神話)は、人間共通であって国特有ではなかったり、社会の統治の開始以降という歴史以上のものは持っていなかったり。

  • 20100211

  • う~ん、この本、何とか読んだけど、失敗だったな。内容が多岐にわたり過ぎ、それぞれが断片的で細かく、ちょっとついていけなかった。神話の共通性から太古の人類の移動経路を推定していくのは大変興味深いのだけれど。

    面白かったのは、ポリネシア神話の、津波に教われた島から新たな島を目指してカヌーで脱出する物語。男女がつがいの家畜を積んで船出したという。ノアの方舟の物語よりリアルで現実的だ。

    著者は、ゴンドワナ型神話が「人間と動植物や自然現象を区別しない時代、人間もその一員として森羅万象や動物、木々や花々とともにささやき合っていた時代の神話」であるのに対して、ローラシア型神話を「神がいかに世界と人間を創造したのか、いかに人間はその生存域を拡大したのか、また人間の間にいかにして不平等が生まれたのかを語る神話」、「鉄器が発達し武器の殺傷能力が高まり、また経済的な不平等が生じ、宗教が不平等を覆い隠すイデオロギーとして機能するようにな」り、「力のある者、能力のある者が権力を握れる社会になって」いくとともに、「王や貴族などが誕生した理由を説明」する必要性から生まれた神話であると説いている。そして、ゴンドワナ型神話こそ現代に必要な思想だとも。この点には共感。

  • 神話には大きく分けて、ゴンドワナ型とローラシア型があること。
    地理的に離れているはずなのに、神話に共通性があり、そこから人類移動の系譜を類推できること。
    専門外の私が読んでもわかりやすく、かつエキサイティングだった。

  • 東2法経図・開架 B1/2/2457/K

  • 各国・各地域の神話の類似性を人類の進出と照らし合わせて提言している。
    過去に読んだ本では日本神話は南洋系と類似性があるという話を神話の中身のみに着目していたが、遺伝子研究などで人類がアフリカを出発してからの軌跡に沿って神話を分析していた感じ。
    ゴンドワナ型とローラシア型の二種類に分類することが出来るという。後者は支配者層の正統性を表すためのもの・支配機構。前者は人間の営み・自然との調和。
    ローラシア型は支配に利用され得るというのが面白かった。

  • 仏教、キリスト教、オリエント文明ときたので、ついに世界の神話まで遡及。自然人類学にもとづいて、神話をローラシア型とそれより原初的なゴンドワナ型に区分し、それぞれに特色ある類型を分析する内容ですが、物語としての神話として構成されるローラシア型より、ゴンドワナ型に神話的思考を見いだすところに、著者に対しる好感を持ってしまいます。

  • アフリカを出た私たちは共通の記憶を携えながら世界各地に散っていった。ケルト神話に浦島太郎と共通のモチーフがあるなんて。

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