核兵器と原発 日本が抱える「核」のジレンマ (講談社現代新書)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (224ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062884587

作品紹介・あらすじ

人類滅亡まであと2分半――。

世界終末時計が
63年ぶりとなる「危機的状況」を指している今、
私たちはどうすればいいのか。

原子力委員会の元委員長代理が
はじめて明かした、日本の「核」の真実!

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北朝鮮の「核の脅威」にわれわれはどう対峙すべきか?

「核の傘」は日本国民を本当に守ってくれるのか?

世界の原子力産業は衰退期に入ったのに、
なぜ自民党はその流れに「逆行」するのか?

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今、日本の原子力政策は、福島事故の教訓を忘れ、
限界と矛盾に満ちたまま、前に進もうとしている。

それに加え、核兵器廃絶という、被爆国日本が
もっとも熱心に取り組まなければならない課題への
大きな障害にもなっている。

一方で、北朝鮮の核の脅威が迫る中、
米・韓・日は制裁に加え軍事圧力を強めており、
北朝鮮情勢はこれまででもっとも緊迫した事態を迎えている。

これに対して、日本や韓国からは、
「米国の拡大核抑止力(核の傘)」をさらに強めてほしいとの
要請が続き、一部には「独自の核抑止力を持つべき」との
意見まで出始めている。

だが、私たちは挑発に乗るのではなく、
冷静に考えてみる必要があるのではないだろうか。

本書は、核分裂のしくみから、核軍縮の国際的枠組みに至るまで、
幅広い課題を扱っている。北朝鮮の核問題、トランプ大統領の登場など、
最新の課題も取り扱うことができた。

本書が日本の抱える「核」のジレンマについて、
少しでも理解を深めるきっかけになれば幸いである。

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【本書の内容】
第1章 巨大エネルギーの「光と影」
――核兵器と原発の密接な関係
第2章 衰退期に入った世界の原子力産業
――原発の何が問題なのか
第3章 63年ぶりに危機的状況となった「終末時計」
――「核の脅威」にどう対処すべきか
第4章 「核の傘」は神話に過ぎない
――「核抑止」論から脱却するには

感想・レビュー・書評

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  • 核分裂による巨大なエネルギーは核兵器としての軍事利用、原発などのエネルギー源としての平和利用の2面性があり、その二つは密接に関わっています。
    日本の原子力政策はそのどちらの面についても、くびをかしげてしまうような問題をいくつも抱えています。
    なぜ日本(自民党)は世界的には衰退傾向である原発を推進しようとするのか、高速増殖炉「もんじゅ」が実質破綻しているのになぜ核燃料サイクルの存続に拘るのか、唯一の被爆国である日本がなぜ核兵器禁止条約に参加しないのか、アメリカの核の傘の下で北朝鮮の核戦力から本当に安全なのか、等の疑問について丁寧に実情を交えて解説しています。
    原子力委員長代理、核兵器廃絶研究センター長などを歴任した著者だけに、やたら危機を煽ったりせず、事実に即して解説している印象を受けました。
    原発を今後どうするのかという問題と、日本の安全保障の問題が密接に関わっていることが非常によくわかる1冊でした。

  •  高濃縮ウランはウラン235の量でわずか25キログラム、プルトニウムはさらに少ない8キログラムで核爆発装置が作製可能と考えられている。高濃縮ウランは作製に高度な技術が必要でかなり困難であるが、いったん作製されると核爆発装置の作製は容易で、核実験も必要がないとされている。広島に落とされた「リトル・ボーイ」と呼ばれた原爆が、この高濃縮ウランを利用したものであった。
     一方、前述したようにプルトニウムを化学的に分離することは可能で、その際、放射線を遮る厚いコンクリートの背後ですべての操作を行う「再処理施設」が必要となるが、一度、高放射能の核分裂生成物から分離されると、プルトニウムは比較的容易に取り扱うことができて、たとえ非国家主体(テロ集団)によっても、核兵器が製造される可能性がある。すなわち、原子炉と再処理施設があれば、核兵器の材料となるプルトニウムの入手は比較的容易となるわけだ。
     しかし、プルトニウムを使った核爆発装置の作製には高度な技術(爆縮技術)が必要であり、核実験が必要とされる。長崎で投下された「ファットマン」と呼ばれる原爆が、このプルトニウム型原爆であった。


    ▪️原発の大幅な拡大が望めない理由
     第1に、安全性の向上、もっと正確に言えば、福島事故のような深刻な事故を二度と起こさないことが重要だ。
     おそらく基数が増えていけば、当然のことながらトラブルの数は増えるだろう。しかし、住民の避難を要求するような深刻な事故が起きれば、おそらく原子力の将来にとって致命的なものとなる。技術的に深刻な事故を起こさないような原子炉を導入することが不可欠になるかもしれないが、それでも、既存の軽水炉が存在する限り、事故は起こりうる。新型炉を追求するのもよいが、既存原子炉での安全確保をまず第一に達成することが重要だ。
     第2に、経済性・競争力の確保である。
     原子力発電の競争力は、電力市場の設計、化石燃料をはじめ他のエネルギー源のコスト等によって変化する。とくに自由化市場では、短期的なリターンを要求されることが多いため、巨大な投資を必要とする原子力は不利と言われる(原発のコストについては次節で詳述する)。
     一方、温暖化ガスを排出しないメリットをコストに換算すること(たとえば炭素税の導入)で、化石燃料との相対的な競争力は向上する。長期固定価格契約や融資保証等という支援策もありうる。しかし、このような議論をするなら、なによりもまず、必要な発電コストのデータが透明性を持って公表されることが必要だ。
     第3に、いわゆる「核のゴミ」問題の解決が欠かせない。
     使用済み核燃料を含む放射性廃棄物の安全な管理と処分問題は、原子力発電が抱えるもっとも頭の痛い課題である。専門家が考える「解決法」(技術的にはリスクを最小限に抑えうる方法として、当面は地上での長期貯蔵、その後は安定した地層に人間環境から隔離する「地層処分」という方法がすでに存在する)を単に説明するだけでは、なかなか解決しない。
     立地問題は社会・経済・倫理的問題につながるので、そのような専門家も参加し、住民との対話を担保するしくみが必要である。また、住民が納得・安心するための、第三者機関の設立など、ガバナンス改革が不可欠だと考える。
     第4に、核拡散・核セキュリティリスクの低減である。
     原子力発電の拡大が、核拡散・核セキュリティのリスクを増加させる方向にならないようなしくみを担保し続けることが必要である。国際条約や国内規制の充実ももちろんであるが、既存のしくみでは対応できないリスクが登場する可能性もある(後述するように、これまでとは異なるロシアや中国等のプレーヤーの登場によって、新たな枠組みが必要とされている)。
     最後に、信頼の確保である。
     福島事故の最大の影響は、安全性をはじめ、原子力発電をつかさどるすべての組織、専門家、体制そのものへの信頼が大きく崩れてしまったことだ。信頼を構築するには時間がかかるのに、その失墜はあっという間だった。今後、この信頼をどう回復すべきなのか。世界中に広がっている原子力とそれを推進するしくみに対する信頼を回復していく努力が求められる。


    ▪️日本の核のトリレンマ
     唯一の戦争被爆国として、核兵器のない世界を目指してリーダーシップをとると公言している日本政府。一方で、「核の傘」に依存する日本は、核兵器禁止条約交渉にも参加せず、今後も署名しないと断言する。「平和利用に限定する」と表明しながら、1トン(長崎型原爆約8000発分)ものプルトニウムをため込み、さらに核燃料サイクル政策を堅持する日本政府………………。
     この3つの課題、「核兵器のない世界」、②「核の傘」、③「プルトニウム平和利用」は、それぞれが関連しながら、矛盾している政策課題なので、「核のトリレンマ」と呼ぶことができる。これからの日本の核政策は、この「核のトリレンマ」を、どう解決していくかに尽きる。


    ▪️プルトニウム削減に向けて
     これはおそらく、安全保障の観点から議論すべき問題であるが、原子力・エネルギー政策とも密接につながっているので、もう一度整理して以下、提言を書いてみたい。
     まず、なぜこれほどのプルトニウムがたまったのか。一言でいえば、単に原子力政策の失敗である。使用済み核燃料の全量再処理政策をとる限り、再処理は海外委託で実施するしかなかったし、国内再処理工場の建設も決定してしまった。その間、ペースが落ちたとはいえ、プルトニウムはほぼ予想通りの量が発生している。
     一方で、使用する計画が頓挫したり遅れたりしているので、今も使う見通しは立っていないのが現状だ。これまでに生産したプルトニウムは累積で約50トン、消費したプルトニウムは約3トン、その差が今の在庫量である。
     ではなぜプルトニウムを生産し続けなければいけないのか?
     これも単に、硬直的な原子力政策が原因といっていい。福島事故の後も、政府は核燃料サイクルを大きく変更する気配がない。幸い(?)六ヶ所再処理工場の運転開始が遅れているため、現状は再処理が進んでいないが、六ヶ所再処理工場の運転認可が下りれば、電力会社に再処理をやらない理由はなくなる。
     使用済み核燃料貯蔵プールがいっぱいになり、六ヶ所再処理工場が動かないと、発電所の運転もできなくなってしまうため、再処理事業を管理する国の政策として実施するしかないからである。
     では今後、この流れを止めるすべはないのか?
     もちろん、止められる。一つは使用済み核燃料の貯蔵容量を確保して、当面再処理をしなくても、電力会社が困らないようにすればよい。全量再処理を見直し、一部は直接処分も可能とすることで、中間貯蔵を受け入れる自治体も増えてくる可能性がある。これだけの政策変更がどうしてできないのか、私にはわからない。
     そこで出てくるのが、「潜在核抑止力」への執着である。もし「潜在核抑止力」が目的で、これまで再処理政策を続けてきたのだとしたら、プルトニウム問題はエネルギー政策ではなく、安全保障政策である。
     先に述べた「核抑止」論が、ここでも幅を利かせている可能性がある。しかし残念ながら、ここでも核抑止論は機能していない。日本が核燃料サイクルを目指すことで、かえって韓国は再処理への執着を高めている。中国も民生用燃料サイクル計画を進めている。抑止ではなく、プルトニウム「拡散」政策になっているのだ。
     だから、結論は、「プルトニウム在庫量の削減」にコミットすることだ。これを実現しようとすれば、全量再処理政策は変更せざるを得ない。削減しようとすれば、供給は抑えざるを得ず、再処理はいずれ必要性がなくなるだろう。
     また、削減は国際的な枠組みで取り組むことができれば、さらに魅力的だ。潜在核抑止からの脱却がより鮮明になるからである。

  • 原発推進側にいた人による、核兵器と原発の解説書、といえると思います。
    著者は、原子力に関する技術にも精通しており、核兵器と原発の違いや、原発の構造や危険性についても、わかりやすく説明しています。

    また、核兵器の開発の経緯や、原発の推進の過程も追うことができる構成になっており、福島第一原発の事故を踏まえた、核兵器の現状や原発の世界情勢を含め、核兵器と原発についての大枠の理解に適した本だと思います。

    著者としては、原発推進側にいたこともあり、おそらく今後も原発を推進していきたいという想いを持っているのだと思いますが、福島第一原発の事故のことを考えると、無邪気に原発推進を唱えるわけにもいかず、その一方で、日本のエネルギー政策を考えると、早急な脱原発は厳しく、そういった矛盾を抱えて苦悩しつつも、原発の利用を建設的に捉えていく姿勢を感じました。

    核兵器や原発の背景やそれらを含む世界を見渡し、さらには、歴史的な観点もあり、非常に広い視野から書かれた良著だと思います。

  • 539-S
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  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/704791

  • 3.11時の原子力委員会委員長代理が記した原発と核兵器に関する解説と提言。
    原発は、安全面からも経済面からもさらにはゴミを未来に残すといった問題からも、非合理であることが明らかになっているのだが、フクシマを経験してもなお硬直的な原子力政策を継続しようとしているのは何故なのか。
    ムラの維持もあるが、再処理や濃縮といった核兵器転用技術が「潜在的抑止力」になると思っている人たちがいて、手放したがらないようだ。
    この話を以前聞いた時はネット上の戯言と思って思ったが、原子力委員会の中枢にいた人から聞かされると、暗然とする。
    筆者の核廃絶に向けた真摯な提言には頭が下がるのだけど。

  • 東2法経図・開架 B1/2/2458/K

  • 539.091||Su

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著者プロフィール

原子力委員会委員長代理

「2012年 『持続可能な未来のために』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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