新・日本の階級社会 (講談社現代新書)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062884617

作品紹介・あらすじ

かつて日本には、「一億総中流」といわれた時代がありました。高度成長の恩恵で、日本は国民のほとんどが豊かな暮らしを送る格差の小さい社会だとみなされていました。しかし、それも今や昔。最新の社会調査によれば1980年前後、新自由主義の台頭とともに始まった格差拡大は、いまやどのような「神話」によっても糊塗できない厳然たる事実となり、ついにはその「負の遺産」は世代を超えて固定化し、日本社会は「階級社会」へ変貌を遂げたのです。
 900万人を超える、非正規労働者から成る階級以下の階層(アンダークラス)が誕生。男性は人口の3割が貧困から家庭を持つことができず、またひとり親世帯(約9割が母子世帯)に限った貧困率は50・8%にも達しています。日本にはすでに、膨大な貧困層が形成されているのです。
 人々はこうした格差の存在をはっきりと感じ、豊かな人々は豊かさを、貧しい人々は貧しさをそれぞれに自覚しながら日々を送っています。現在は「そこそこ上」の生活を享受できている中間層も、現在の地位を維持するのさえも難しく、その子供は「階層転落」の脅威に常にさらされている。この40年間の政府の無策により、現代日本は、金持ち以外には非常に生きるのが困難な、恐るべき社会になったのです。
 官庁等の統計の他、さまざまな社会調査データ、なかでもSSM(「社会階層と社会移動全国調査」)調査データと、2016年首都圏調査データを中心にしたデータを基に、衝撃の現実が暴き出されてゆきます。

感想・レビュー・書評

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  • 「一億総中流」と呼ばれた時代は、もう終わった。日本では格差が広がり、新たな「階級社会」になっていると主張する。膨大なデータは示しているものの、因果関係が自らの思想信条に引っ張られすぎていることと、対策がありきたりな印象を受ける。

    「格差社会」から「新しい階級社会」へ───序に変えて
    第一章 分解した中流
    第二章 現代日本の階級構造
    第三章 アンダークラスと新しい階級社会構造
    第四章 階級は固定化しているか
    第五章 女たちの階級社会
    第六章 格差をめぐる対立の構造
    第七章 より平等な社会を

  • データやファクトを重視したい方にはおすすめ。やや冗長かつ重箱の隅をつつくような分析が多いため、論旨がぼやけてしまっているが、数字に基づいた議論がなされており、ともすれば感覚的、政治的な意見に傾斜しがちなテーマをうまく扱っている。

  • 本書では現代の階級社会を定量的なデータを用いて再定義し、資本家階級‐中間階級‐労働者階級に加えてアンダークラス(非正規労働者等)を位置づけた。そして、各階級の年代別の比率や収入、生活水準に対する認識を明確化することで、格差が拡大していることを示している。この格差を是正するためには、これまでの政党理念とは異なる右派でも左派でもない「格差是正‐軍備重視‐排外主義」を掲げる新たな政党が必要であると唱えている。
    自身は本書の定義でいえば、新中間層に位置する立場であるため、どうしても自分の立場を守る立場でものを見てしまうのだが、日本という社会が今後どうあるべきかを考える時には、もっと広い視野で考える必要があることを痛感させられた良書である。
    また自分には娘がいるが、女性の方が結婚や離死別を境に階級社会を経験することが明らかにされており、その現実をきちんと娘に伝えて教育していきたいと感じた。


    ・1970年代後半から、「格差社会」が流行語になった2005年の直前まで、「一億総中流」は日本人にとっての「常識」だった。たしかにこの時期、日本の経済的格差が以前より小さくなっていたうえに、生活程度にかかわらず多くの人々が、自分の生活程度を「中」と思い込んでいたことなどから広く受け入れられ、また「日本は平等な国だ」として、自国を他国より優位に置こうとするナショナリスティックな感覚とも合致したことから、広く定着してきた。
    ・かつて人々は、現実の生活程度にかかわらず自分を「中」と考える傾向が強く、現実の所得階層と階層帰属意識の対応関係が弱かった。しかし近年、この対応関係が急速に強まり、豊かな人々は自分たちを「人並みより上」と、豊かでない人々は自分たちを「人並みより下」とみなすようになってきたのである。こうして階層帰属意識は、人々が社会のなかで現実に占める位置と、かなり正確に対応するようになってきた。社会を広く覆っていた「中流意識」の分解である。
    豊かな人々はこれまで以上に満足を感じ、貧しい人々はこれまで以上に不満をもつようになった。そして政党支持も、豊かな人々は自民党を支持し、そうでない人々は支持しないというように、所得水準との対応関係を深めてきた。

    ・いまのところ、格差拡大を否定する人々は決して少なくない。しかし残念ながら、これらの人々によって支持され、格差拡大に歯止めをかけるための政治的回路となりうる政党が、存在していない。だから格差拡大を否定する人々の声は、政治に反映されることがない。こうして格差拡大を止める政治勢力は形成されることがなく、格差拡大は続いていく。

    ・社会の基盤となっている主要な経済構造は、資本主義である。資本主義では、一部の人々が生産手段、つまり生産に必要な道具や機械、原料、建物などの物財の大部分を独占的に所有し、他の大多数の人々は生産手段を所有していない。ここで生産手段を所有している人々を資本家、所有していない人々を労働者と呼び、それぞれをまとめて資本家階級、労働者階級と呼ぶ。生産手段を所有しない労働者は、そのままでは働くことができないから、生活していくことができない。これに対して資本家階級は、当面生活するには困らないが、大量の生産手段を活用するためには人手を必要とする。そこで両者の問には、必然的に交換関係が成立する。労働者階級は、生産活動に必要な肉体的・精神的な能力、つまり労働力を、資本家階級に提供する。資本家階級はその見返りとして、労働者階級に賃金を支払う。つまり資本主義社会では、労働力が商品として金銭で売買されているのである。
    ・しかし現実には、労働力は支払われる賃金を超えて、より多くの価値を生み出している。例えば一日に八時間働くのだが、一日八時間働き続けるために必要な生活物資は、実は八時間よりかなり短い労働時間、たとえば四時間で生産できる。したがって、労働者は八時間働いたのに、四時間分の生活物資が買えるだけの額の賃金が支払われれば、労働力の売買は等価交換といえるのである。残りの四時間分の労働に対しては、対価が支払われない。これが利益となって資本家階級の手元に残る。マルクス経済学では、労働力の価値をv、労働力によって生み出された価値を差額sを含むかたちでv十sと表し、sを剰余価値と呼ぶ。このように剰余価値が資本家階級の手元に残るとを、労働者は剰余価値を搾取されているというとができる。このような搾取が可能になるのは、資本家階級が生産手段を独占しているからである。これが、資本家階級と労働者階級の間に経済的な格差が生じる基本的なメカニズムである。

    ・これまでの労働者階級は、資本主義社会の底辺に位置する階級だったとはいえ、正社員としての安定した地位をもち、製造業を中心に比較的安定した雇用を確保してきた。これに対して激増している非正規労働者は、雇用が不安定で、賃金も正規労働者には遠く及ばない。しかも、結婚して家族を形成することが難しいなど、従来ある労働者階級とも異質な、ひとつの下層階級を構成しはじめているようである。労働者階級が資本主義社会の最下層の階級だったとするならば、非正規労働者は「階級以下」の存在、つまり「アンダークラス」と呼ぶのがふさわしいだろう。

    ・資本家階級と労働者階級は、資本主義社会の基本的な二つの階級である。しかし現実の資本主義社会には、これ以外に二種類の中間階級が存在する。旧中間層、新中間層とされているののが、これらの中間階級である。貸本主義社会になっても、資本主義以前から存在する自営業者や自営農民が消滅するわけではない。これらの人々は、自分で少量の生産手段をもち、人に雇われるのでも人を雇うのでもなく、目分と家族が働いて生産活動を行っている。この意味で資本家階級と労働者階級の役割を兼ね備えた、中間的な性質の階級であり、しかも資本主義以前から存在する古い階級だから、旧中間階級と呼ぶ。
    ・一方、資本主義が発達して企業規模が拡大すると、もともと資本家階級が行っていた業務の一部、たとえば労働者を管理・監督したり、生産設備を管理したりするような業務が、労働者の一部に任されるようになる。これらの人々は、労働力を販売して賃金を受け取る点では労働者階級と同じだが、労働者階級より上の地位にあって労働者を管理・監督する立場にあること、業務内容が高度であることなどから、資本家階級と労働者階級の中間に位置するということができる。したがって、これらの人々も中間階級であり、しかも資本主義の発展にともなって新たに登場した人々だから、新中間階級と呼ぶことができる。

    ・アンダークラスの登場によって、日本の階級構造は大きく転換しつつある。これまで現代社会は、一方に旧中間階級、他方に資本家階級―新中間階級―労働者階級が三層に積み重なるという、四階級構造から成り立っていた。ところが労働者階級の内部に巨大な分断線が形成されることにより、資本主義セクターはより大きな落差を含み込む四層構造に転換した。こうして日本社会は、従来の四つの階級に加えて、アンダークラスという新しい「階級」を含む、五階級構造へと転換したのである。これを「新しい階級社会」と呼ぶことにしよう。

    ・新中間階級は、教育水準が高く、情報機器を使いこなし、収入もかなり多く、豊かな生活をする人々である。その意味では、資本家階級以外の他の階級に比べれば明らかに恵まれており、いまある格差の構造のなかで既得権をもつ階級だが、必ずしも政治的に保守的というわけではない点は注目していい。

    ・旧中間階級は、「一国一城の主」という、その性質のためか、仕事に満足している人の比率は資本家階級に次いで高いが、生活への満足度は高くはなく、正規労働者をわずかに下回る。旧中間階級の収入水準は近年になって低下し、アンダークラスを含む労働者階級と同水準となり、正規労働者を下回るようになっている。これにともなって伝統的な「中間階級」であるはずの旧中間階級は、下層的性格を強めるようになっているといってよい。このように旧中間階級は、伝統的な「中間階級」である一方、規模の上で縮小傾向を続けるなかで衰退に向かい、その政治的性格を変えつつあるように思われる。

    ・ブレイブアマンによると、もともと人間の労働は、労働それ自体、すなわち「実行」と、実行に先立ち、これを導く「る動物の場合には、構想と実行の区別はなく、両者は渾然一体となっている。しかし、構想と実行は分離可能である。彼の言葉によると、「いぜんとして構想は、実行に先立ち、実行を規制しなくてはならないが、しかし、ある者が構想した観念を他の者が実行に移すということは可能」だからである(構想と実行の分離)。こうして、一部の人たちだけが計画や決定、設計など構想に関わる労働を行い、さらにこの構想にもとづいて、他の多くの労働者を指揮・監督し、実行に関わる労働に従事させるという構造が成立するのである。
    ・それぞれの階級は、構想と実行という二種類の労働に対して、異なる位置にある。自分で生産手段を所有し、これを自分の労働によって活用する旧中間階級は、構想と実行の両方を担っている。これに対して資本家階級は、企業規模によって違いはあるとしても、ほぼ構想に関わる労働のみ、とくに事業のこまごました部分に関する構想ではなく、経営全体を見渡すような高レべルの構想に関わる労働を担っている。そして新中間階級は資本家階級の指揮の下、中間的なレべルの構想に関わる労働を担い、労働者階級は新中間階級の指揮の下、実行に関わる労働を担う。ブレイブアマンの言葉を用いれば、階級によって「労働過程」が異なるのである。
    ・このような労働過程の違いは、収入や生活水準と並んで、さまざまな階級の間の最大の違いのひとつといっていい。というのは、これは労働に意味を感じることができるか、やりがいを感じることができるか、労働を通じて自己実現が可能かといったことに関わるからである。一般的にいえば、構想に関わる労働は、自らの意思を実現することのできるやりがいのある労働である。これに対して実行のみに関わる労働は、人の手足となって行う労働であり、労働それ自体に意味を感じることが難しい。マルクスはこのような労働を「疎外された労働」と呼んだ。

    ・アンダークラスは社会の底辺で、低賃金の単純労働に従事し、他の多くの人々の生活を支えている。長時間営業の外食産業やコンビニエンスストア、安価で良質の日用品が手に入るディスカウントショップ、いつでも欲しいものが自宅まで届けられる流通機構、いつも美しく快適なオフイスピルやショッピングモールなど、現代社会の利便性、快適さの多くが、アンダークラスの低賃金労働によって可能になっている。しかし彼ら・彼女らは、健康状態に不安があり、とくに精神的な問題を抱えやすく、将来の見通しもない。しかもソーシャル・キャピタル(人々のもつ他者との信頼関係や人間関係のネットワークを指し、人々の生活を支え、不安を和らげ、さまざまなストレスやトラブルから人々を守る効果をもっとされている)の蓄積が乏しく、無防備な状態に置かれている。他の四階級との間の決定的な格差の下で、苦しみ続けているのがアンダークラスである。この事実は、重く受け止める必要がある。


    ・最新のデータから明らかになったのは、普通の勤め人の子どもが昇進や独立開業を通じて資本家階級になるチャンスが、急速に失われつつあるという現実だった。

    ・親の豊かさは、その子どもたちに影響する。豊かな人々の子どもたちは恵まれた環境で、貧しい人々の子どもたちは貧しい環境で育つことになる。豊かな人々の子どもたちはように大学に進学する。これに対して勉学環境にように大学に進学する。これに対して勉学環境に恵まれない貧しい人々の子どもたちは、大学進学の機会を失う。そして大学を卒業しているか否かは、その後の人生を大きく左右する。
    こうして大人になったとおきに、豊かな人々の子どもたちは、自らも豊かな生活を送ることができるが、貧しい人々の子どもたちは、自らも貧しい生活に甘んじることになる。親から子どもへと豊かさが連鎖し、貧しさもまた連鎖するのである。このような傾向が多かれ少なかれあることは、古くから知られている。ここで格差が拡大すると、どうなるか。子どもたちの環境の格差はさらに大きくなるから、こうした傾向が強まる可能性が高い。


    ・女性たちの多くははじめ、若い独身の「⑦<独身貴族>たち」または「⑩シングルライフの女たち」として社会に出る。そして何年かのち、彼女たちの多くは、学歴と職種などに規定されながらも人生のパートナーを見つけ、人生の次のステージに進む。ここで彼女たちの人生を決めるのは、第一にどの階級のパートナーを得るか、第二にフルタイムの仕事を続けるか否か、続けない場合は専業主婦となるか、あるいはパート主婦となって働くか、である。これによって彼女たちの生活は、大きく規定される。一部の女性たちは、「⑦<独身貴族>たち」または「⑩シングルライフの女たち」として生活を続けるが、いったん結婚した女性たちの一部も、離死別を経てここに流れ込んでくる。
    やがて老後がやってくる。現状では、多くの女性たちは夫と死別したあとの数年から十数年ほどの間を、「⑰老いに直面する女たち」として生きることになる。こうして結婚と離死別を境に、彼女たちが階級構造のなかに占める位置は、大きく変わる。女性は男性たちとは違った仕方で、しかし確実に、むしろ男性たちよりも深刻なかたちで、階級社会を経験するのである。


    ・21世紀に入ったころから、「若者の保守化」が語られるようになった。さらにインターネット上の掲示板やプログなどで日々繰り広げられる、右翼的、排外主義的(とくに中国と韓国に対して)な言説を取り上げ、これらの担い手たちを「ネット右翼」と呼び、その多くが若者、しかも定職をもたない低収入の若者たちだという言説が、一部で流布している。こうした言説について、樋口直人は、排外主義運動の活動家たちへのインタビュー調査の結果から、排外主義運動の活動家たちには大卒者が多く、その大部分は正規雇用のホワイトカラーであることを明らかにして、こうした言説を否定している。同様に自ら「ネット右翼」を自任し、インターネット上で広い人脈をもつ古谷経衡は、ネット上で自分と交流のある人々対象とする独自の調査から、「ネット右翼」の多くは三〇歳代または四〇歳代で、ホワイトカラーと自営業者が多く、大卒者が六割を超え、収入も比較的高いことを明らかにしている。排外主義運動の活動家や、ネット上でアクティブに活動する「ネット右翼」が下層の若者だという言説が、事実に反するのは間違いないと思われる。

    ・現代の若者は他の年齢層に比べて、中国人や韓国人の日本に対する批判に理解を示しくいるとみることもできる。
    もっともはっきりしているのは男女差で、男性の方が明らかに排外主義の傾向が強い。
    貫本家階級だけ排外主義的な傾向が強くなっている。そして排外主義的な傾向がもっとも弱いのは、パート主婦である。


    ・階級構造を論じる人々自身も、どれかの階級へ所属している。このとき人々は、自分にとって都合のいいように社会の「かたち」を描こうとする。特権階級は、自分たちが恵まれた立場にあることを隠すため、いまの社会では格差が小さいと主張するだろう。逆に下層階級の人々は、格差が大きいと主張するだろう。このように格差が大きいか小さいかは、それ自体が階級間の政治的な対立の争点なのだ。その意味で「格差拡大認識」は、下層階級の人々の、あるいは下層階級の人々に同情と共感を抱く人々の政治的立場の表明であるといえる。「自己責任論」にも、同じような政治性がある。なぜならそれは、格差と貧困を自己責任に帰し、特権階級の特権を当然のものと正当化し、また格差と貧困を拡大させてきた政府や企業などの責任を免罪するものであり、したがって特権階級の人々の、あるいは政府や企業を擁護する人々の政治的立場の表明にほかならないからである。だから格差に対するこうした意識は、所属階級と密接な関係にある。

    ・格差が拡大し、貧困層が増えているという現実を、一番肌で感じ、問題だと考えているのはアンダークラスであり、次いでパート主婦である。資本家階級は、貧困層が増えているという現実を認めない傾向があり、また現在の格差が大きすぎるとも考えない。日本の現実について客観的な知識をもつ新中間階級は、貧困層が増えているという事実は認めるが、格差が大きすぎるとは考えず、これを容認してしまう。正規労働者と旧中間階級は中間的である。

    ・これに対して、自己責任論をもっとも強く支持するのは資本家階級であり、次いで旧中間階級である。これは実際に、ビジネスに対する裁量権をもち、現実に経済的な成功が自己責任の範囲に属することが多いという、このニつの階級の特質に根ざすものだろう。新中問階級と正規労働者はある程度まで、自己責任論を受け入れくいる。アンダークラスは自己責任論を受け入れる傾向が弱いが、それ以上に自己責任論に否定的なのは、パート主婦である。ここには低賃金のパー卜労働者としての境遇が、性別という動かし得ない要因によるものであることが関係していよう。

    ・所得再分配については、アンダークラスがこれをもっとも強く支持し、次いでパート主婦と旧中間階級が支持している。これに対して資本家階級・新中間階級・正規労働者はあまり支持しない。ここでは資本家階級・新中間階級と正規労働者の同質性、そして正規労働者とアンダークラスの際だった異質性が気にかかる。このことは、所得再分配によって利益を得るのはアンダークラスのみであり、新中間階級はもちろんのこと、正規労働者にも利益がないと考えられていることを示唆する。

    ・格差拡大を容認し、自己責任論を強く支持し、所得再分配をかたくなに拒否するのは、自民党支持者の特徴である。他の政党の支持者は、共産党支持者が熱烈に、公明党支持者は微温的にという違いはあるものの、ほぼ同様に格差拡大の事実を認め、これに批判的で、所得再分配を支持している。ここでは、同じ与党である自民党と公明党の支持者の間の異質性がきわだっている。これに対して多数派である無党派は、格差拡大の事実を認め、これに批判的で、また自己責任論を否定するところまでは自民党以外の支持者に近いが、所得再分配を支持するまでには至らない。まさに格差に対する意識の上でも中間的ということができる。

    ・政治的立場としては、格差是正‐平和主義‐多文化主義の立場と、格差容認‐軍備重視‐排外主義の立場こそが、論理整合的な左派と右派の立場だと考えられてきたといっていい。
    ・分析結果をみると、こうした構図はかなり崩壊しているように思われる。貧しい人々が所得再分配による格差の是正を求める一方で、外国人の流入を警戒し、戦争責任を問う中国人や韓国人の主張に反発する。アンダークラスには、このような立場をとる人が多いらしいのである。追い詰められたアンダークラスの内部に、フアシズムの基盤が芽生え始めているといっては言いすぎだろうか。
    ・つまり、排外主義・軍備重視と所得再分配が結びつけられていたのである。おそらく、このことに気がついた有権者は多くなかっただろうし、結果的に広い支持を得ることもできなかったが、今後の新しい政党のあり方として、前例を示すことになったといえる。

    ・階級と格差、そして政治の関係については、これまで日本の伝統的な左翼勢力の間で信じられてきた有力な仮説があった。「社会主義革命仮説」ともいうべきこの仮説は、次のようなものである。資本主義社会を構成する二大階級は、資本家階級と労働者階級である。資本家階級は労働者階級を搾取する。こうして両者の間には大きな格差が形成され、しかもこの格差は拡大していく。資本家階級のもとにはますます富が集中し、労働者階級は窮乏化する。やがて労働者階級は、資本家階級の支配、そして自分たちを窮乏状態に陥れる資本主義経済の克服を求めるようになる。こうして労働者階級は、直接行動を通じて、あるいは議会的手段を通じて政権を掌握し、資本主義を廃絶もしくは大幅に修正し、格差の縮小を実現するだろう、と。これが左翼運動の基本的な合意だった。そして、自ら引き起こした侵略戦争と、悲惨な敗戦の経験から、日本の左翼運動には別の要素も付け加えられた。平和主義と軍備の否定、そしてアジア・太平洋戦争での戦争責任の追及と、日本がかつて侵略した国々の人々に対する贖罪意識である。

    ・もし格差社会の克服を一致点とする政党や政治勢力の連合体が形成されるなら、その支持基盤となりうる階級・グルーブはすでに存在しくいるといっていいだろう。アンダークラス、パート主婦、専業主婦、旧中間階級、そして新中間階級と正規労働者のなかのリベラル派である。これらの、一見すると多様で雑多な人々を、格差社会の克服という一点で結集する政治勢力こそが求められるのである。そのような政党が登場すれば、これらの人々の政党支持は激変する可能性がある。その可能性の一端は、ニ〇一七年一〇月の衆議院選挙での立憲民主党の躍進にあらわれたといっていいだろう。格差社会の克服という一点で、弱者とリベラル派を結集する政治勢力の形成。格差社会の克服は、したがって日本社会の未来は、ここにかかっているのである。

  • いろんな階級(と思われる)の人のアンケート分析が中心。アンケートの分析と考察はこう書け!という見本のようなものなので、読んでいてもあまり面白みがない。各種データ、グラフから読み取れることを書き連ねているので、「だからどうなの?」となってしまう。最後の処方箋的なものもいまひとつだった。

  •  データの羅列。

  • 日本に現存する階級を,その定量的理由と共に定義し,それぞれの階級の内情を統計データとと共に詳らかにする.さらに,その結果を受け,将来的な方針案を提示する.日本の人という視点からの構造体がよく判り,この構造体が政治や経済といった現状をどのように醸成しているのかがよく理解できる.自分の立ち位置と将来ビジョンを考察する切っ掛けを与えてくれる,中根千枝女史“タテ社会の人間関係”以来の良書.

  • 自分の階級を確認・・・と。

  • 階級ごとの説明が詳しくて、わかりやすい。
    自分はここの階級だろうかと想像して読み進めたが、異なる階級の人とは普段暮らしていて接点がないものだと改めて自覚できた。
    階級ごとの性別役割・軍備・中国韓国・外国人などへの考え方の違いも、こんなに大きいのかと驚いた。自民党のコア支持層のある種の安定感は、驚くものがある。

    以外、備忘録的にまとめ。具体的でわかりやすい指摘ばかりだった。

    ・かつての仮説ともいえた、「労働者階級は格差是正を求め、平和を愛し、軍備を否定し、海外侵略の責任を認め、かつての侵略先の人々と友好的な関係を築いていく」という説は、いまは現実から離れている。

    ・労働者階級は、新中間階級、正規労働者、アンダークラスに分裂している。

    ・これらの層は格差を認識しているが、自己責任論を認めており、新中間階級と正規労働者は所得再分配政策を支持せず、アンダークラスに対して敵対的になっている。

    ・アンダークラスは、古典的な労働者階級と異なり、格差への不満と格差縮小の要求を持っているものの、平和への要求ではなく排外主義と結びつきやすくなっており、「誤爆」状態である。

    ★★アンダークラス、パート主婦、専業主婦、旧中間階級、そして新中間階級と正規労働者のなかのリベラル派を、格差社会の克服という一点で結集する政治勢力が求められている。

    ・自民党の支持は強いが、排外主義と軍備重視に凝り固まった人に偏っているという弱点はある。

  • ◆7/17オンライン企画「食のミライ」で紹介されています。
    https://www.youtube.com/watch?v=jCW1km6G9LY
    本の詳細
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000210947

  • ■一橋大学所在情報(HERMES-catalogへのリンク)
    【書籍】
    https://opac.lib.hit-u.ac.jp/opac/opac_link/bibid/1001126038

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著者プロフィール

橋本 健二(はしもと・けんじ):1959年生まれ。早稲田大学人間科学学術院教授。専門、社会学。

「2023年 『階級とは何か』 で使われていた紹介文から引用しています。」

橋本健二の作品

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