- Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062900454
作品紹介・あらすじ
商都大坂、銀が銀を生む世の実相と、色と欲に翻弄される人達の生態をリアルに描いた井原西鶴。伝記もなく、殆ど知られざるその実像を、作品の行間から、また同時代の遊女評判記などから鮮やかな手付きで攫みだし、西鶴が生きた「時代」と「場所」を臨場感たっぷりに現前させる。中勘助、釋迢空など、評伝に新境地を拓いた作者の批評精神が最高度に発揮され、伊藤整文学賞、大佛次郎賞両賞を受賞した傑作。
感想・レビュー・書評
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帯に、松井今朝子の解説の一部が載せられているが、そこに「本書はまさしく<作家>富岡多恵子の壮大なテーマに基づくフィクションである」とある。
評伝と云えば鴎外の「渋江抽斎」「伊沢蘭軒」「北条霞亭」が有名だし,中村真一郎の「頼山陽とその時代」「蠣崎波響の生涯」「木村蒹葭堂のサロン」も知られているが,これはひと味違う西鶴への迫り方で、確かにフィクションとよんでも好いだろう。
著者は中勘助や折口信夫などの評伝を手がけ,拓いた新境地の批評精神で、井原西鶴像を現前させていると云われる。
伝記もなく不明の時期もある西鶴の実像を,さまざまな人物をかりて照射している。松尾芭蕉,宝井其角,近松門左衛門,上田秋成そして淡島寒月や尾崎紅葉,幸田露伴,九鬼周造,田山花袋等などがそれ。
しかしこの一冊のタイトルは何かピンとこなかった。
著者は<あとがき>でこう書いている。
この著作を書きはじめた時「連載の題は<大坂の感情>だった。」「書き出す前には,西鶴を中心に書くとしても,それを包みこむ大坂という土地の感情のようなものを書こうとした。」
「ところが書いていくに従って,西鶴の<文学><思想>より西鶴の<感情>だと思うようになっていった。」
「西鶴が大坂と云う町なかで、じっさいどういうことをし、どういうもの腰で他人とつきあい、日常のさまざまなことにどういう感情で対していたかを,あくまで書かれたものからではあっても想像してみるのが楽しくなっていったのである」と。
確かに人間は,生まれ暮らす土地から心を自在に離すことは難しいのかも知れない。17世紀後半の大坂あっての西鶴だと見ることは解る。
岩波セミナーブックスの『西鶴への招待』が前菜とすれば、これはやや関西風の味付けがある主菜という感じだろうか。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
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