石の来歴 浪漫的な行軍の記録 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 6
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  • Amazon.co.jp ・本 (368ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062900706

作品紹介・あらすじ

太平洋戦争末期、レイテで、真名瀬は石に魅せられる。戦後も、石に対する執着は異常にも思えるほど続くが、やがて、子供たちは死に弄ばれ、妻は狂気に向かう。現実と非現実が交錯する芥川賞受賞作「石の来歴」。兵士たちのいつ終わるとも知れぬ時空を超えた進軍、極限状況の中でみたものは…帝国陸軍兵士の夢と現を描く、渾身の力作、「浪漫的な行軍の記録」所収。

感想・レビュー・書評

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  • ぐぐぐ…ずぶずぶ…と蟻地獄に落ちるように作品の中へ。這い出たいような、でも引き摺り込まれたいような、不思議な感覚で一気読み。

  • 1994年の芥川賞受賞作「石の来歴」と2002年の「浪漫的な行軍の記録」を併録。文芸文庫のラインナップとしては珍しく新しめの作品だけど内容は戦時中の回想がメインでひどく古い本を読んでいるような錯覚に陥ったりもする。でもたまに携帯電話が出てきて混乱したり(苦笑)そもそも奥泉光はまだそこまでの年齢ではなく、従軍体験も勿論ない。自作解説で「なぜ戦争について書くのか」という質問に答えられなかったというエピソードを書かれてたけど、確かにこの世代の作家がここまで戦争にこだわって書くのはちょっと不思議な気がする。

    とはいえ、ジャンルでいうならたぶん、これは戦争文学ではなくて幻想文学のカテゴリーなんだろうなと個人的には思う。「石の来歴」は読み方によってはSFとして解釈することも可能かも。エリクソンばりに歪んだ時空が、第二次大戦末期のレイテ島の洞窟と、戦後の秩父の採掘場を繋げてしまったかのような。ラストで主人公は、やり直しのチャンスを再び与えられ、時空を超えて息子を救うことに成功したのだろうか。そう考えればSFとしてはハッピーエンドともいえる。でもこれはSFではなく幻想文学だから、余韻はとても複雑だった。

    「浪漫的な行軍の記録」は、すでに「ジジイ」になった主人公が従軍の記憶を回想しているのかそれとも従軍中の若者である主人公が未来を垣間見てるのか不思議な構成になっていて、そういう意味ではやはり幻想文学なのだけど、こちらは「石の来歴」よりも戦争描写の部分が長く詳細で、作品自体も倍くらいの分量があるため、やや冗漫に感じてしまった。この長さ、必要だったかなあ。もうちょっとコンパクトにまとめてくれれば読み易かった気がする。「石の来歴」で主人公にまさに“石の来歴”について語った上等兵と全く同じセリフを言う元理科教師の兵隊が登場するので、焼き直しというよりはふたつの世界は繋がっているのかもしれないと思うほうが楽しい。

  • もっと読まれるべき作家だと感じた。
    「浪漫的」って表現できるのがすごい。

  • 『浪漫的な行軍の記録』は南方の戦線で孤立無援になった日本軍兵士の行軍の記録だ。とはいっても著者は戦後の生まれのなので、もちろん体験談とは一線を画す。

     主人公は弾の出ない大砲(故障ではなく張りぼての大砲。もともと出ない)を上官の理不尽な命令により運び続けなければならない。大砲の名は「国体の精華」…なんと皮肉に満ちた名前だろう。『悪魔の辞典』に載せたいくらいだ。
     
     夢と現を行ったり来たりする描写が、「奥泉さん、またこんな書き方で煙に巻こうとして」と突っ込みたくなる。収束させる気があるのかいつも疑う。でもそこが面白い。
     扱っている内容は重いので、もしかしたらもっと深い読み方があるのかもしれないが、たぶんない。笑ってしまう表現が随所にみられる。
     「浪漫的」という言葉が冒頭にくるのだから、全体主義的なイデオロギーへの痛烈な皮肉として、こういった物語の手法をとったのだと思う。
     
     戦争文学ととらえるとふざけ過ぎているので、あくまでテーマを表現するのに題材として戦争が適していたと考えて読んだ方がいい。

    (『石の来歴』は別レビューで)
     

  • 疲弊と飢餓と腐臭の果てしない行軍。
    戦後の話と戦中の話が交じっていて、追憶と幻が紙一重。

    やたら生々しい話だと思っていたのだけど、作者説明を読んで気づいた。この人は戦争体験がないのか。。

  • 緑色チャート 石好きの人にお薦めです。

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著者プロフィール

作家、近畿大学教授

「2011年 『私と世界、世界の私』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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