聖ヨハネ病院にて・大懺悔 (講談社文芸文庫)

  • 講談社 (2010年11月11日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784062901048

作品紹介・あらすじ

半身不随の病苦の中で一字一字刻みつけた魂の言葉。「私小説」の佳品10篇

文学への純粋な情熱を胸底に78年の生涯を私小説一筋に生きた上林暁。脳溢血で半身不随、言語障害を患った晩年も、左手と口述で一字一句、彫心鏤骨の作品を生みつづけた。川端康成に賞賛された出世作「薔薇盗人」、心を病む妻を看取った痛切な体験を曇りない目で描く「聖ヨハネ病院にて」、生と死のあわいを辿る幻想譚「白い屋形船」(読売文学賞)等、人生の苦悩の底から清冽な魂の言葉を響かせる珠玉短篇集。

富岡幸一郎
作家の「眼の誠実」と川端がいったのは、上林暁が、描かれる対象にたいするいたわりを内に含み、そのことにおいて人がそこで生きている真実の姿を浮き彫りにしている点であろう。(略)上林暁の「私小説」はつねに他者を包含し許容することで、また自然をはじめとする森羅万象を受け容れる姿勢を保つことで、描くべき存在に生命の息吹を注入し活力を回復させるのである。――<「解説」より>

みんなの感想まとめ

深い人間の苦悩と普遍的な感情を描いた珠玉の短篇集は、著者自身の病床での経験や身近な人々との交流を通じて、文学の真髄を伝えます。特に「聖ヨハネ病院にて」や「白い屋形船」では、生と死の狭間を漂う幻想的な描...

感想・レビュー・書評

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  • 昭和7年発表の「薔薇盗人」から昭和48年発表の「ブロンズの首」まで、作家人生のほぼ全期間から選んだ作品10編を収録した短編集。

     精神を病み、目も見えなくなってしまって病妻とのやり取りを描いた『聖ヨハネ病院にて』のように、上林の作品は、肉親や知人、あるいは故郷に関する思い出など、自身の生活と経験に材料を取ったものが多い。

     収録の「野」では、文学への希望は報われず不遇を感じる作者が目的もなく歩き回るうちに目に止まる野の風景、それが繊細に、磨き上げられた文章で描写される。一字一字に精魂を込めたことが窺われる、文学とは、文章とはこういうものだったなあと思わせてくれる。
     脳溢血で倒れたときのどこまでが現実でどこからが幻想なのか良く分からないような生と死のあわいを描いた「白い屋形船」。文章がリアルなタッチだけに、その幻想的な世界が不思議な印象を与える。
     自殺してしまった文学の師、川端康成との思い出を綴った「上野桜木町」、自分のブロンズ像を作ってくれた彫刻家、久保孝雄との交友を描いた「ブロンズの首」も、しみじみとする。「ブロンズの首」のラストでは、出版社の編集者から、次の作者の創作集の装幀を早逝した久保君の息子さんに頼もうという話が出る。(調べてみたら、『極楽寺門前』の装幀者が久保制一という人であった。実現したのならば嬉しい話だ。)
     

     

  • 私小説と創作両方混ざっているので、区別が付きづらい。
    病床の人が多く出て来るので明るい話ばかりではない。
    描写が細やかでその場の風景が想像しやすい。
    「野」「白い屋形船」川端康成との交流を書いた「上野桜木町」が良い。



  • 三浦哲郎が太宰、井伏の次に読んだのが上林暁「聖ヨハネ病院にて」。
    一作目、「薔薇盗人」。
    冒頭一文目で掴まれた。この一文が私にとってはじめての上林暁の文章であったが、この作家は好きだとおもった。以下に。

    校門際のたった一株の痩せた薔薇--然もたった一輪咲いた紅い薔薇の花が、一夜のうちに盗まれてしまった。

    この文章から滲む物語の兆しにとても高揚させられた。

    つづいて。
    「美人画幻想」。「薔薇盗人」からこの作品までの5作を一文一文噛み締めることができず読んでいた。初めての作家だから慣れるまで仕方がないとはいえ、もどかしさを覚えつつ読み進めているときにこの作品のある文章のところで目を瞠ることになる。
    小父が70過ぎて女狂いになったことへの主人公の評言である。

    私はこの話を聞いたとき、人間の生涯の計り難さに怖気を振るった。

    こう小父への気持ちが文章でつづくのであるが、この作品のここまできて「私」のモラルを初めて見た気がして、なんとも意外だった。他の作品も含めここまで読んだ印象だと、70すぎの女狂いに対して面白がるか、賞賛するか、無関心かとおもっていたのである。意外ではあったのだけど、的外れというよりはぐっとひきこまれた。

    「上野桜木町」
    編集者時代の川端康成との思い出。とても可笑しく読めた。川端康成は読まなきゃとおもいつつ、古都で挫折していたのであるが、川端康成の人間的な面白さを上林暁のおかげで知ることができた。新感覚派の(本作で知ったが、川端康成は新感覚派というものらしい)作品は芸術的要素がおおいため、人間らしさを感じずあまり好きになれないと思っていたが川端がこんなに可笑しい人であると知った今、その文章を改めて味わいたくなっている。随筆でも読もうかしらとおもった。
    誰かを描くときに、こんなふうに読者がその人に興味や好感を持って終われるような文章は間違いなく良い作品である。

  • 単なる私小説作家ではありませんでした。ご自分の身近な人たちを題材にしながらもそこに人間の普遍性を冷静に分析しています。

    この短編集には
    「聖ヨハネ病院にて」 「大懺悔」 「薔薇盗人」 「野」 「姫鏡台」 「柳の葉よりも小さな町」 「美人画幻想」 「白い屋形船」 「上野桜木町」 「ブロンズの首」

    みんないい文章なのですが、その中でも「上野桜木町」は印象的。
    自殺した川端康成との交流を追想しているのですが、はじめは編集者としてお付き合いし、原稿取りに苦戦し、後に自身も作家となって敬愛する先輩となります。ノーベル賞作家となった川端康成の人間味のある姿が生き生きと描かれています。

  • 2018/2/16購入

  • 前半は貧乏や病気がテーマのド私小説。その手のテーマについてはやせ我慢した書き方のほうが好みなので、読んでいてあまり楽しくない。「私」が状況にあまりに正面から向き合ってしまっていて、お人よしすぎてつらい。

    最後の3編は良い。特に「白い屋形船」は、脳溢血で倒れて混濁した意識から生まれた幻想が独特で、読み応えがある。

    「上野桜木町」と「ブロンズの首」は、それぞれ長い付き合いのあった川端康成と久保孝雄との交流が、温かく懐かしく書かれている。

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著者プロフィール

上林 暁(かんばやし・あかつき):1902年、高知県生まれ。東京大学英文科卒業後、改造社に入社。初の短編集『薔薇盗人』を刊行後、作家生活へ入る。妻の病、戦争による生活環境の悪化をくぐりぬけ作品を発表し続ける。主な著作に「聖ヨハネ病院にて」「野」「春の坂」「星を撒いた街」などがある。「白い屋形船」で読売文学賞、「ブロンズの首」で川端康成文学賞を受賞。1980年逝去。

「2024年 『新版 禁酒宣言 上林暁・酒場小説集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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