暗い絵・顔の中の赤い月 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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感想 : 5
  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901079

作品紹介・あらすじ

一九四六年、すべてを失い混乱の極みにある敗戦後日本に野間宏が「暗い絵」を携え衝撃的に登場-第一次戦後派として、その第一歩を記す。戦場で戦争を体験し、根本的に存在を揺さぶられた人間が戦後の時間をいかに生きられるかを問う「顔の中の赤い月」。-初期作品六篇収録。

感想・レビュー・書評

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  • 戦争の負の面を描いた野間宏。これが太平洋戦争時代の真実であったと思う。戦争で人を殺したことでいつまでも心が病んでいる者、戦争で連れ合いをなくしたもの同士の出会い。また陸軍刑務所のむごさ、軍人の休暇時の哀れな売春による楽しみなど、旧帝国陸軍がいかに人道的におかしかったがわかる。

  • 「暗い絵」――
    ブリューゲルの絵の描写が印象的だ。

    草もなく木もなく実りもなく
    吹きすさぶ雪嵐が荒涼として吹きすぎる。
    はるか高い丘のあたりは雪にかくれた黒い日に焦げ、
    暗く輝く地平線をつけた大地のところどころに
    黒い漏斗形の穴がぽつりぽつり開いている……。

    野間宏の卓越した筆致力。

    この描写は、
    特高警察監視下における
    京大左翼活動家たちの苦境を
    見事に表現している。

    主人公・深見進介もまた活動家の一員だが、
    他の仲間との距離感は複雑である。

    仲間の一人は自分たちの行動を「仕方のない正しさ」と述べ、
    活動の結果獄死を遂げる。

    しかし、深見進介は言う。

    「やはり、仕方のない正しさではない。
    仕方のない正しさをもう一度真直ぐに、
    しやんと直さなければならない。
    それが俺の役割だ。
    そしてこれは誰かがやらなくてはならないのだ」。

    これは仲間と道を別ったうえでの発言ではあるが、
    決して否定ではない。
    そこには尊敬と肯定の想いがある。

    これは深見進介=野間宏による、
    そこに生じた歪みを引き受ける
    苦渋の決断といえよう。

    それは身が引き裂かれるような思いであったはずだ。
    この畢生の決断と勇気を尊重したい。

  • 戦中、戦後の暗い日本、暗い思考を描いた作品。
    「暗い絵」は解説に書かれてある通り、限定的な時代・場所を舞台としているので、時代背景などよく分からず、閉塞感だけは感じられました。
    「顔の中の赤い月」はパートナーを失った男女の物語。男は失ってからはじめてその大事さがわかり、女は得た瞬間から失った後も大事さを実感している。お互いのことを意識しながらも踏み出せず終わってしまう。感情移入しやすかったです。

  • 野間宏。真空地帯があまりに面白くて、デビュー作の暗い絵がどうしても読みたくって読みました。

    「暗い絵」「顔の中の赤い月」「残像」「崩壊感覚」「第三十六号」「哀れな歓声」の六編を収録。

    デビュー作である「暗い絵」は正直よくわからなくて、でも、ブリューゲルの絵についての冒頭の長々とした記述が異様なものであることは伝わりました。
    一枚の絵についての描写が、こんなに長く冒頭に続く小説は珍しいのではないでしょうか。
    この描写を読んでいると、永遠に暗い絵の風景が広がり続けるんじゃないかという錯覚すら覚えます。

    でもストーリーとしては、筆者の経緯や、歴史的背景を知っていないとわかりにくいものだったと思います。それを知っていてもよくわからなかったです。でもよかった。

    暗い絵以外は、分かりやすいものが多かったです。なかでも「崩壊感覚」はとてもよかったです。久々にクラクラした小説でした。

    私が長年知りたいと思っていたことの一つに、戦争によって転換を迫られた価値観があります。
    敗戦によって何かを奪われたり、大きな喪失感を覚えたりすることによって価値観が変化したり、男性であれば兵営生活や野戦による経験、女性であれば身近な人の死や苦しい生活の経験などを通して築かれていった価値観というものにとても興味がありました。

    この小説には、そういったものを知る糸口が示されていたように思います。ああ、これこれ。これが知りたかったの。という感じで、スッと自分の中に入っていきました。坂口安吾の白痴なんかも、それに近いものがあったんですが、どうも腑に落ちないような部分があったりして。でもこれは違いました。

    野間宏の人生や社会活動には賛否両論あると思いますが、私は小説は好きです。久々に、安部公房以来のヒットでした。ただ現在出版されているもので、容易に手に入るものが少ないというのが非常に残念な点です。

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著者プロフィール

1915ー1991 作家。毎日出版文化賞、朝日賞、谷崎潤一郎賞。『真空地帯』『青年の環』『狭山裁判』など。生誕100年。

「2015年 『日本の聖と賎 中世篇』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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