風媒花 (講談社文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901260

作品紹介・あらすじ

講談社文芸文庫スタンダード005(講談社文芸文庫スタンダードは、時代の原基としての存在感をたたえ、今なお輝きを放つ作品を精選した新装版です。)

日本と中国との間には断崖がそびえ、深淵が横わっている。その崖と淵は、どんな器用な政治家でも、埋められないし、跳び越せもしない。そこには新しい鉄の橋のための、必死の架設作業が必要だった。頽れる堤と頽れる堤のあいだに、何度、いいかげんな橋を渡しても、無駄であった。贋の橋や仮りの橋は、押し流されるより先に、ひとりでに腐り落ちた。峯たちには、架けねばならぬ新しい橋の姿が、おぼろげながら想像できた。

作家・峯三郎を視点とし戦争直後の中国文化研究会に焦点をあて、群像劇にとどまらず……拳銃の暴発、青酸カリ混入、といった事件の大きな波に登場人物たちが飲み込まれていく姿を描く。憧れの象徴である中国大陸の文化と歴史に対する、さまざまな立場からの考証が作品の底に流れる戦後文学の記念碑的傑作であり、著者の代表作。

<中国文化研究会のメンバー>
●軍地先生――頭のハチ割れそうな難しい顔つきしているけれど、みんなをギューギューいじめっころがす。
●新聞社の西さん――気の弱そうなやさ男だけど、可哀そうなほど正直なひと。
●失業中の中井さん――三亀松の声色もへたなくせに、いつまでも「湯島天神お蔦涙の別れ」を止めようとしなかった。
●梅村先生――エンサイクロペジアって悪口言うけど、何を聴いても「アッそれは」って答えられるから、たいしたもんだわ。……そして作家の峯三郎などなど。
彼らと情人蜜枝、桃代が織り成す戦後文学の記念碑的作品

※本書は、筑摩書房『武田泰淳全集』第4巻(1971年8月刊)を底本として、講談社文芸文庫版(1989年3月刊行)を適宜参照し多少ふりがなを加えました。

感想・レビュー・書評

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  • 風媒花とは風で花粉を運んでもらう花のことである。小説の最後で一匹の鼠が水に沈められて死ぬとともに、二通の手紙が焼き捨てられる。風に乗って舞い上がるおびただしい灰が、「常緑樹の花粉より生き生きと風に運ばれて」行く。今とは比較にならないほど混迷を極めている日本と中国の関係の中で、様々な立ち位置にある人間たちの群像劇が、拳銃の暴発、青酸カリ混入などの事件を起こし、めまぐるしく絡み合いながら進んでゆく。そんな中でいくつかの文章が書かれたり読まれたりしていくのだが、それが感動的である。病気の少女が繰り返し読み返す、中国に残り中国の発展に尽くす日本人がほとんどひらがなだけで書いた祖国への手紙や、何の教養もない女が国粋主義者の集団に何か書いてみろとせっつかれて何を書けばいいかわからず、とっさに中国を研究している恋人から教えられたので意味もわからず記憶していただけの魯迅の詩をスラスラ書いてしまうシーンなど。
    物語を大きく動かす二通の手紙も同様である。手紙は焼いて棄てられるが、花粉は誰の目にも届かない距離まで撒き散らされるだろう。

  • 繊細な人間描写と、独特な風景把握。淡々としているようで、動きが早すぎる。躍動感を根底に感じる。普通の小説では絶対に用いないであろう、脳の一部分に触れてくる作品。
    読後感の充実さで、凄い、と断言できる作品なのだけれど、如何せん、想像力不足、読書量不足で、まだまだ理解できない。なにが作者の思いなのか、どうしてこういった動きを見せるのか、分からないことだらけ。この先数年、様々な経験を積んで、人と出会って、感情の機微の引き出しを知ることで、その時どう読めるか。数年後、自分がどう変わったか、きっとこの本は指針となる。
    武田泰淳、底が見えない。

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著者プロフィール

一九一二(明治四十五)年、東京・本郷の潮泉寺住職大島泰信の息子として生まれる。旧制浦和高校を経て東大支那文学科を中退。僧侶としての体験、左翼運動、戦時下における中国体験が、思想的重量感を持つ作品群の起動点となった。四三(昭和十八)年『司馬遷』を刊行、四六年以後、戦後文学の代表的旗手としてかずかずの創作を発表し、不滅の足跡を残した。七六(昭和五十一)年十月没。七三年『快楽』により日本文学大賞、七六年『目まいのする散歩』により野間文芸賞を受賞。『武田泰淳全集』全十八巻、別巻三巻の他、絶筆『上海の蛍』がある。

「2018年 『新・東海道五十三次』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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