私の東京地図 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社 (2011年9月10日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (288ページ) / ISBN・EAN: 9784062901338

作品紹介・あらすじ

講談社文芸文庫スタンダード006

知らぬ道にも踏みいり、袋小路に迷いぬいたこともある。ある時は、人に連れ立たれて、歩調を揃えて気負って歩いた道。それらの東京の街は、あらかた焼け崩れた。焼けた東京の街に立って、私は私の地図を展げる。私の中に染みついてしまった地図は、私自身の姿だ。

芥川龍之介、中野重治、小林多喜二らとの出会い、結婚、自殺未遂、出産、離婚、同棲……といった人生を、作家活動や非合法活動で当局に弾圧を受け始めた太平洋戦争へと突入する時代を背景にし、上野、日本橋、神楽坂など、親しんだ東京の街々を生き生きとした人々の息吹のなかに描いた連作短篇集。自らの過去を探り、自らを確かめるような筆が心に響く。

東京が佐多稲子の心象風景として鮮やかに描かれる
――東京の日常――押上橋を渡って京成電車の停留所の横の狭い道を抜けてゆく。石畳の道は、魚屋の水に濡れて、どろどろになっている。ひと山十銭、五銭と盛り上げた八百屋、うどんの玉を売っている店、豆腐屋などごたごたした道は、おかみさんや労働者ですれちがって歩くほど。――そして、関東大震災――大きな建物ごと、ガチャーン、ガチャーンと揺すられるたびに、私は自分を、大きな箱の中に入れられた玩具のひとつのように感じた。だがその箱の周囲は広くて、高くて、箱そのものがいつもの高い天井よりもずうっと恐ろしかった。
講談社文芸文庫スタンダードは、時代の原基としての存在感をたたえ、今なお輝きを放つ作品を精選した新装版です。

※本書は、講談社『佐多稲子全集』第四巻(昭和53年3月刊)を底本としました。

感想・レビュー・書評

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  • 古風ながらも表現豊かな作品

  • 2016/7/8角川文庫初版で読了。
    「カメラワーク」という言葉が浮かんでくる描き方だった。昨今よく言われる「映像的」な描写という意味ではなく。視点の空間的な位置に配慮して書かれている。それは東京という土地をメディアにして自分を描く自伝的な作品であることに著者が自覚的であったからだろう。
    舞台となる東京のそこかしこが、個人的によく知っている場所であるから、なおのことそう感じるのかもしれない。浅草、上野池之端、日本橋、動坂下、田端、九段、巣鴨新田、十条、王子、戸塚……。これらの土地の焼け野原の光景に戦前の情景を重ねるように表し、そこを歩く若き著者の姿を見下ろすシーンから入る作品が多い。著者は戦前と戦後という二つの時代を重ね、僕はそこにバブルと二十一世紀を重ねて読む。著者がそうしたように、そこで生きた僕自身の過去も重ねて読む。この読み方は必然的に、次の時代に思いを馳せる読み方にもなる。
    時代は変わっても動かぬ「土地」を、カメラを「自分の外」に置いて描いてあるからこそ可能な読み方だろう。それこそ東京が何かの事情で道の跡も残さぬくらいに吹き飛んで、徳川家康が来る前の原野にでも戻らぬ限り、この読み方は可能だ。古典って、こういう作品のことを言うのだと思う。

  • ”大阪地図”は高くて買えない~

  • しっとりとした名著。

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著者プロフィール

佐多 稲子(さた・いねこ):小説家。1904年、長崎県生まれ。15年、一家をあげて上京。その後、工場、料理屋、日本橋丸善、カフェーなどで働く。28年、第一作「キャラメル工場から」を発表。その後、労働、共産党の地下活動、戦争、夫婦や家族などについて、自らの経験などに基づき数多くの作品を発表した。著書に『キャラメル工場から──佐多稲子傑作短篇集』(ちくま文庫)、『樹影』〔野間文芸賞〕、『時に佇つ』〔川端康成文学賞〕、『夏の栞』〔毎日芸術賞〕(以上、講談社文芸文庫)などがある。98 年没。

「2026年 『私の東京地図』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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