丸本歌舞伎 (講談社文芸文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901383

作品紹介・あらすじ

"丸本歌舞伎"という名称を創出し、研究と鑑賞を別扱いする従来の演劇学に異を唱え、戦後の歌舞伎批評の方向性を決定づけた、初期代表作。「型とは何か」の追究から、歴代の演出家=俳優の才智・工夫を発見し、その魅力と真髄を明かしていく。「義経千本桜」など十作品を具体的に読み解く鑑賞編も圧巻。歌舞伎ファンのみならず広く演劇を志す者、必読の書。

感想・レビュー・書評

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  • 丸本歌舞伎は、著者が命名したもので、人形浄瑠璃の台本をもとに歌舞伎で演じた演目群の総称である。今では、歌舞伎の演目の主流にまでなっている。その経緯、演出上の特徴等を論じた総論と、「菅原伝授手習鑑」など十の作品を読み解く各論から成っている。著者の常識としている知識が此方に無いため、肝心のなぜ丸本歌舞伎が歌舞伎の主流になったかは、よく理解できなかったが、各論は、具体的で今後の歌舞伎鑑賞の手引きになると思う。昭和23年刊行だが、古さを感じさせない名著である。

  • ・若い頃の戸板康二を私は知らない。推理小説を書いたり、ちよつといい話の類を書いたりした人だが、本業は演劇評論家だと いふことぐらゐしか知らない。戸板康二「丸本歌舞伎」(講 談社文芸文庫)もそこに連なる業績で、といふより、ほとんどその出発点にくる業績であるらし い。古い。初版は昭和24年である。言及される舞台の多くは戦前のものである。今も同じ名前で活躍してゐる役者など存在するはずがない。 完全に代替はりしていゐる。更に、戸板氏も実際の舞台を知らないそれ以前の役者、例へば五代目菊五郎、に言及されることもある。半端では ない。私などからすれば完全に別世界の舞台である。しかし、これは名著であると思ふ。二部構成の第一部「丸本歌舞伎研究」、第二部はその 作品論、どこをとつても実に見事に書かれてゐる。渡辺保の書きぶりも見事なものだが、戸板のがその手本になつてゐるのではないかとさへ思 へる。実は解説を渡辺が書いてをり、その中で「私は戸板康二の『丸本歌舞伎』につよく影響を受けることになった。」(246頁)と書いて ゐる。さう、さういふ書なのである、本書は。従つて、私などにとつては影響を受けるなどといふのはとんでもないことで、本当にその足元に も寄れないほどの書であると思ふばかりである。しかし、おもしろくて役に立つといふのは確かに感じることである。
    ・丸本歌舞伎といふ語は現在はほとんど使はれない。一般に義太夫狂言といふ。「人形に書き下ろされた浄瑠璃を原拠とした脚本」(9頁)、 つまり本来人形芝居を上演するための語り物を歌舞伎に移して、生身の人間が演じるやうにした狂言である。これは実にたくさんある。第二部 の作品論に並ぶ外題を見れば、歌舞伎がいかに義太夫と密接に結びついてゐるかが分かる。第一部の「研究」はその総論である。これが実に丁 寧に書かれてゐる。中でも「丸本歌舞伎の演出及び演技の表現形式」(26頁)はおもしろい。これは荒事に始まる。「国性爺合戦」から車 引、千本桜等の主人公を考察し、関連して色奴等にも触れる。衣裳、隈取り等について、具体的に考察していく。何となく観てゐる舞台でも、 当然そこには決まりがある。それを一つ一つ示してくれる。私が知つてゐるものだけからしても、一々納得できてしまふのである。千本桜鳥居 前についてかう書いてある。「歌舞伎ではすでに忠信即源九郎狐という常識に則って、忠信最初の登場から『狐』として荒事を演じさせてい る。」(36頁)静には気づかれないやうにではあつても、最初から忠信=狐と分かつてゐてはと思ふのだが、それは「常識に則っ」た演出だ と言ふのである。何だ、そんなこと、である。しかし、演出とはそんなもの、人気商売たるもの、今も昔もお客様は神様なのであらう。さうし て「荒事は所詮、この気分が身上なのである。」(46頁)、あるいは「荒事自信が本来、そういう明るい気分の役者が、上機嫌でつとめるべ きものなのだ」(47頁)といふ結論めいた一文、これもここに関はるのかと思ふ。五代目の狐忠信に触れて、「こういう不思議な役がうま かったという所に、五代目菊五郎の特色があったのだし、それが明治までの歌舞伎だったともいえる」といふのはこの「気分」に強く関はるに 違ひない。かうして以下、丸本物の諸相に触れていく。本当に蒙を啓かれるところが多い。いかに漠然と私が歌舞伎を観てきたかが分かる。こ れもまた「気分」に関はるに違ひない。役者の気分はそのまま観客の気分になるのである。ただし、戸板氏の役者評は厳しい。六代目菊五郎、 初代吉右衛門、かういふ役者、名優も容赦しないのである。これまた名著たる所以であらう。

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