死の島 上 (講談社文芸文庫)

著者 : 福永武彦
  • 講談社 (2013年2月9日発売)
4.56
  • (6)
  • (2)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • 70人登録
  • 3レビュー
  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901864

作品紹介

「島」という絵を通じて相馬が知り合った女性-広島で被爆し心と体に深い傷を負った芸術家・素子と彼女と暮らす美しく清楚な綾子、双方に惹かれてしまった彼の許に二人が広島で心中したという報せが届く。これは一日の物語であり、一年の出来事であり、一生の話であり、一人類へ与えられた悠久の啓示でもある。文学史に燦然と輝く、著者を代表する長篇小説。日本文学大賞受賞作。

死の島 上 (講談社文芸文庫)の感想・レビュー・書評

並び替え:

表示形式:

表示件数:

  • (上下巻まとめての感想)
    この小説では、いくつかの絵画や音楽が出てきます。
    恥ずかしながらほぼ知らなかった私としては、シベリウスをYOUTUBEで聞き、浦上玉堂を検索しながら書いてみる。

    ★★★
    小さな出版社の編集者の相馬鼎は、展覧会である絵に惹かれる。
    絵の作者は萌木素子。広島の原爆に合い、執着も希望もなく平和運動にも批判的。
    素子と同居する相見綾子は、一見良いところの純情なお嬢さんという印象だが、継母の家に馴染まず、男性と駆け落ちするが、その男の元からも家出する行動力を持ち合わせる。
    相馬は二人の女性をそれぞれ愛する、…愛していると思いながら、どちらも選べない。
    作家志望の相馬は、二人の女の元に通いつつ、二人をモデルにした小説を書く。
     「トゥオネラの白鳥」素子をモデルとしたM子の物語。原爆被害者たちの文学会メンバーの人間模様。育む愛と死の話。
     「冬の恋人たち」綾子をモデルとしたA子の物語。駆け落ちした男性との間の失う愛の話。
     「カロンの艀」M子とA子が病院で知り合い、そして同居する。

    ある日相馬の元に、素子と綾子が広島で心中したという知らせが届く。
    特急に飛び乗る相馬。
    広島までの十六時間、相馬の脳裏に去来する、素子と綾子との一年間。音楽や文学談義。

    特急で受け取った電報の続報。
    カンジャ二メイノウチ一メイハケサシボウ一メイハナオモコンスイチュウ

    死んだのは素子か、綾子か。
    自分が愛しているのは素子か、綾子か、それともM子でありA子であり、どちらでもないのか。
    自分は彼女たちを分かっているのか。
    そして相馬は病院に辿りつく。
    ★★★

    題名の「死の島」が示すのはまずはスイス出身の画家アルノルト・ベックリンの絵画「死の島」。大戦前のドイツでは人気を博した絵。相馬が惹かれた素子の絵は「島」と言う題名で、「死の島」に似ている、死を内面に持っていると相馬は言う。
    そして相馬は特急のアナウンス「ひろしま」を「しのしま」と錯覚する。

    死の島はラフマニノフによる音楽もあるが、ここでは語られない、相馬が語るのはシベリウスの「白鳥」「レミンカイネンの帰還」。
    相馬の語る「死」「芸術」「愛」「文学」は素子には響かない。原爆では二十万人の人が死んだのではない、一人一人の死が二十万人分あったのだ、平和活動は所詮は政治、政治では人は救えない。「相馬さん、馬鹿な人。あなたには分からないのよ」

    この小説の現実の時系列は、相馬が二人の心中の知らせを受け取ることになる明け方から、病人に辿りついた翌日の朝の二十四時間。
    そこに挿入される数々のエピソード。
    相馬が二人の女と出会ってからの一年間の日々。
     これは時系列どおりではなく、ランダムに示される。
    素子の内部から死へと呼び込む「それ」。カタカナで示される、素子の経験した原爆。
     素子の独白の役割。
    相馬の三本の小説。
     M子とA子は、素子と綾子をモデルにしているが、彼女たちとは違う、相馬の描いた二人の女。
    女を騙しヒモ生活をする或る男の独白。
     どうやら綾子の駆け落ち相手であり、たまたま素子とも知り合ったようだ。女を騙す男だが、その望郷(土地だけでなく思い出への望郷の念)が語られ、相馬だけでは主観になってしまう綾子や素子の心情を外から推し量る。


    広島の原爆が背景にあるが、決して社会的小説ではない。
    「現代に於ける愛の可能性、或いは不可能性という主題を原爆の被害者である一人の女性を巡る数人の人物との関係においてとらえ、そこに死の島である日本の精神状況を内面的に描きだしたい」とは作者の談。

    上下巻とページ数は長いですが、登場人物も、それぞれの心情もそのまま表示され複雑に変化したりしない為、物語としては読みやすいです。
    数々のエピソードがパズルのように示されますが、そのどれもが小説として愉しめるので、急な場面転換に辺に振り回されることもなく実に自然に組み立てられます。


    しかしこの版の本文の配列は読みづらい。
    頁の余白がほとんどなくなんだか疲れる。
    もっと長くなっていいからもう少し余裕を持てなかったものか。

  • 単一の死生観を継ぎ接ぎの断片に幾重にもずらし重ね合わせてくる。技巧的なドラマチストであるから求心力をもって読ませてくるけど、どんどん陰の部分に追いやられるようで悶々やるかたない。バラけたピースが最後どのようなカタチに構築され、どのような世界が待ち受けているのかここではまだ想像に難しい。果たして希望はあるのか。下巻へ。

  • 久しぶりに読んだ作品。福永作品の中でもかなりボリュームのある作品ですが、さくさく読めます。
    この作品の面白さはその構成にあると思います。現在と過去、現実と虚構、主観と客観を自在に往復しながら、東京から広島へのある一つの長い旅(位置的な移動)を舞台に物語が進んでいきます。
    上下巻に分かれるほどのボリュームでありながら登場人物がかなり少ないというのも読み進みやすい理由のひとつ。主人公とふたりの女性を中心にして進む物語の中では、彼らの揺れ動く心情が深く深く掘り下げられていきます。

    主人公、相馬鼎がある知らせをうけて広島に向かう途中、もうすぐ名古屋に到着するあたりで上巻が終わります。続きが気になるところで一冊が終わるあたりがニクい。

全3件中 1 - 3件を表示

福永武彦の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
J.L. ボルヘ...
サン=テグジュペ...
大岡 昇平
安部 公房
アゴタ クリスト...
三浦 しをん
ガブリエル ガル...
有効な右矢印 無効な右矢印

死の島 上 (講談社文芸文庫)を本棚に登録しているひと

ツイートする