死の島 上 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (448ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062901864

作品紹介・あらすじ

「島」という絵を通じて相馬が知り合った女性-広島で被爆し心と体に深い傷を負った芸術家・素子と彼女と暮らす美しく清楚な綾子、双方に惹かれてしまった彼の許に二人が広島で心中したという報せが届く。これは一日の物語であり、一年の出来事であり、一生の話であり、一人類へ与えられた悠久の啓示でもある。文学史に燦然と輝く、著者を代表する長篇小説。日本文学大賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 間違いなくここ数年で一番の読書体験。
    過去から現在までを細切れにし組み替え、少しずつ話を紐解いていく緻密な構成。
    読みづらさは無く、先が気になって仕方がなかった。

  • 上下巻分厚いので躊躇していた福永武彦の長編にようやく挑戦。以下、構成というか時系列がバラバラで複雑なので、自分なりに整理。

    ◆現在:戦後約8年が過ぎた復興期の東京。出版社で編集の仕事をしている相馬鼎は作家志望の文学青年。彼は萌木素子と相見綾子という二人の親友同士だが対照的な女性の間で揺れている。しかしこの二人の女性が広島で心中しようとし病院に運びこまれたという電報を受け取り、広島へ向かう。

    ◆過去:300日前から遡るかたちでスタート。相馬が偶然展覧会で目にした、ベックリンの死の島を思わせる絵『島』。相馬は本の装丁にこの画家の絵を使いたいと思い、作者を訪ねる。それが女学校で美術を教えている画家の萌木素子。クールでエキセントリックな素子は広島での被爆者で内面に虚無を抱え、体にも傷を負っていた。そして素子の下宿先に同居している家庭的で世間知らずのお嬢様風の相見綾子にも相馬は好感を抱く。しかし綾子も実は医者の父と継母に反発してさらに男に騙された家出娘。三人は、奇妙な全員両想いのような三角関係に陥っていく。

    基本的にこの二つの時間がランダムに進行していくのだけれど、そこにさらに、相馬が二人の女性をモチーフに書いている三つの小説

    ◆「恋人たちの冬」(綾子をモデルにしたA子がKという男と同棲するも…)
    ◆「トゥオネラの白鳥」(素子をモデルにした広島の被爆者M子が、被爆者たちの同人雑誌仲間であるSとRという男性に好意を持たれ…)
    ◆「カロンの艀」(A子とM子が出会う物語)

    が断片的に挿入され、さらにさらに、

    ◆「内部」と題された素子の独白と被爆時の回想
    ◆女性を騙しては捨てる或るヒモ男の独白

    が差しはさまれる。ちなみにこの男の正体は上巻最後の方でわかる。

    登場人物たちの過去や内面が小出しにされるのでサスペンスフルだが、ベースに流れているのはいかにも福永武彦らしいいつものテーマだと思う。

    そして、このバラバラの断片をパズルのように繋ぎ合わせていく構成の理由は、作中で主人公の相馬自身がそのような小説を書きたいと思っているエピソードとして説明されていて、ちょっとメタっぽかった。

    相馬の小説の一つのタイトルにもなっている「トゥオネラの白鳥」はシベリウスの作曲した曲名で、フィンランドの叙事詩『カレワラ』がモチーフになっている。カレワラの登場人物レミンカイネンは白鳥を射ようとして失敗、殺されて川に流されるも、その母がレミンカイネンのバラバラになった遺体をの断片を集め復活させる(ちょっとエジプトのオシリスの神話に似てる)。相馬はそのようにバラバラの断片を集めるとテーマが見えてくるような小説を書けないものかと考えるのだ。

    もしかして今読者である私が読んでいるのは全て相馬の書いたその作品なのかも…と思いつつ下巻へ。

    • 淳水堂さん
      yamaitsuさんこんにちは。

      福永武彦好きですーーー。
      「死の島」は、浦上玉堂を検索しながら、YOUTUBEでシベリウスを聴きな...
      yamaitsuさんこんにちは。

      福永武彦好きですーーー。
      「死の島」は、浦上玉堂を検索しながら、YOUTUBEでシベリウスを聴きながら読みました。
      ちょっと残念なのが、回想場面のカタカナが読みづらい(×。×)
      2022/02/08
    • yamaitsuさん
      淳水堂さん、こんにちは(^^)/

      私もシベリウス「トゥオネラの白鳥」を早速聞きました(笑)
      「カレワラ」も調べて、これはぜひ後日読ま...
      淳水堂さん、こんにちは(^^)/

      私もシベリウス「トゥオネラの白鳥」を早速聞きました(笑)
      「カレワラ」も調べて、これはぜひ後日読まねば!と。

      回想場面のカタカナ、確かに読み辛いですよね(^_^;)
      あと淳水堂さんも感想に書かれていましたが、ページの端まで文字がぎっしり詰まってるのがなんとも圧迫感…他の講談社文芸文庫はこんなことないのに。

      それにしても福永武彦はなぜこんなに琴線に触れるんでしょうねえ。
      下巻読み終えたらまた語らせてください!
      2022/02/09
  • (上下巻まとめての感想、ネタバレしています)
    この小説では、いくつかの絵画や音楽が出てきます。
    恥ずかしながらほぼ知らなかった私としては、シベリウスをYOUTUBEで聞き、浦上玉堂を検索しながら書いてみる。

    ===
    小さな出版社の編集者の相馬鼎は、展覧会である絵に惹かれる。
    絵の作者は萌木素子。広島の原爆に合い、執着も希望もなく平和運動にも批判的。
    素子と同居する相見綾子は、一見良いところの純情なお嬢さんという印象だが、継母の家に馴染まず、男性と駆け落ちするが、その男の元からも家出する行動力を持ち合わせる。
    相馬は二人の女性をそれぞれ愛する、…愛していると思いながら、どちらも選べない。
    作家志望の相馬は、二人の女の元に通いつつ、二人をモデルにした小説を書く。
     「トゥオネラの白鳥」素子をモデルとしたM子の物語。原爆被害者たちの文学会メンバーの人間模様。育む愛と死の話。
     「冬の恋人たち」綾子をモデルとしたA子の物語。駆け落ちした男性との間の失う愛の話。
     「カロンの艀」M子とA子が病院で知り合い、そして同居する。

    ある日相馬の元に、素子と綾子が広島で心中したという知らせが届く。
    特急に飛び乗る相馬。
    広島までの十六時間、相馬の脳裏に去来する、素子と綾子との一年間。音楽や文学談義。

    特急で受け取った電報の続報。
    カンジャ二メイノウチ一メイハケサシボウ一メイハナオモコンスイチュウ

    死んだのは素子か、綾子か。
    自分が愛しているのは素子か、綾子か、それともM子でありA子であり、どちらでもないのか。
    自分は彼女たちを分かっているのか。
    そして相馬は病院に辿りつく。
    ===

    題名の「死の島」が示すのはまずはスイス出身の画家アルノルト・ベックリンの絵画「死の島」。大戦前のドイツでは人気を博した絵。相馬が惹かれた素子の絵は「島」と言う題名で、「死の島」に似ている、死を内面に持っていると相馬は言う。
    そして相馬は特急のアナウンス「ひろしま」を「しのしま」と錯覚する。

    死の島はラフマニノフによる音楽もあるが、ここでは語られない。相馬が語るのはシベリウスの「白鳥」「レミンカイネンの帰還」。
    相馬の語る「死」「芸術」「愛」「文学」は素子には響かない。原爆では二十万人の人が死んだのではない、一人一人の死が二十万人分あったのだ、平和活動は所詮は政治、政治では人は救えない。「相馬さん、馬鹿な人。あなたには分からないのよ」

    この小説の現実の時系列は、相馬が二人の心中の知らせを受け取ることになる明け方から、病人に辿りついた翌日の朝の二十四時間。
    そこに挿入される数々のエピソード。
    相馬が二人の女と出会ってからの一年間の日々。
     これは時系列どおりではなく、ランダムに示される。
    素子の内部から死へと呼び込む「それ」。カタカナで示される、素子の経験した原爆。
     素子の独白の役割。
    相馬の三本の小説。
     M子とA子は、素子と綾子をモデルにしているが、彼女たちとは違う、相馬の描いた二人の女。
    女を騙しヒモ生活をする或る男の独白。
     どうやら綾子の駆け落ち相手であり、たまたま素子とも知り合ったようだ。女を騙す男だが、その望郷(土地だけでなく思い出への望郷の念)が語られ、相馬だけでは主観になってしまう綾子や素子の心情を外から推し量る。


    広島の原爆が背景にあるが、決して社会的小説ではない。
    「現代に於ける愛の可能性、或いは不可能性という主題を原爆の被害者である一人の女性を巡る数人の人物との関係においてとらえ、そこに死の島である日本の精神状況を内面的に描きだしたい」とは作者の談。

    上下巻とページ数は長いですが、登場人物も、それぞれの心情もそのまま表示され複雑に変化したりしない為、物語としては読みやすいです。
    数々のエピソードがパズルのように示されますが、そのどれもが小説として愉しめるので、急な場面転換に辺に振り回されることもなく実に自然に組み立てられます。


    しかしこの版の本文の配列は読みづらい。
    頁の余白がほとんどなくなんだか疲れる。
    もっと長くなっていいからもう少し余裕を持てなかったものか。

  • 4.33/125
    内容(「BOOK」データベースより)
    『「島」という絵を通じて相馬が知り合った女性―広島で被爆し心と体に深い傷を負った芸術家・素子と彼女と暮らす美しく清楚な綾子、双方に惹かれてしまった彼の許に二人が広島で心中したという報せが届く。これは一日の物語であり、一年の出来事であり、一生の話であり、一人類へ与えられた悠久の啓示でもある。文学史に燦然と輝く、著者を代表する長篇小説。日本文学大賞受賞作。』

    『死の島』
    著者:福永 武彦(ふくなが たけひこ)
    出版社 ‏: ‎講談社
    文庫‏ : ‎448ページ(上巻)
    受賞:日本文学大賞

  • 下巻へ

  • 単一の死生観を継ぎ接ぎの断片に幾重にもずらし重ね合わせてくる。技巧的なドラマチストであるから求心力をもって読ませてくるけど、どんどん陰の部分に追いやられるようで悶々やるかたない。バラけたピースが最後どのようなカタチに構築され、どのような世界が待ち受けているのかここではまだ想像に難しい。果たして希望はあるのか。下巻へ。

  • 久しぶりに読んだ作品。福永作品の中でもかなりボリュームのある作品ですが、さくさく読めます。
    この作品の面白さはその構成にあると思います。現在と過去、現実と虚構、主観と客観を自在に往復しながら、東京から広島へのある一つの長い旅(位置的な移動)を舞台に物語が進んでいきます。
    上下巻に分かれるほどのボリュームでありながら登場人物がかなり少ないというのも読み進みやすい理由のひとつ。主人公とふたりの女性を中心にして進む物語の中では、彼らの揺れ動く心情が深く深く掘り下げられていきます。

    主人公、相馬鼎がある知らせをうけて広島に向かう途中、もうすぐ名古屋に到着するあたりで上巻が終わります。続きが気になるところで一冊が終わるあたりがニクい。

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著者プロフィール

1918-79。福岡県生まれ。54年、長編『草の花』により作家としての地位を確立。『ゴーギャンの世界』で毎日出版文化賞、『死の鳥』で日本文学大賞を受賞。著書に『風土』『冥府』『廃市』『海市』他多数。

「2015年 『日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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