ザボンの花 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062902281

作品紹介・あらすじ

生活を愛し慈しみ、多くの人の心をつかんだ庄野文学の「家庭小説」の始まりであり、のちに名作『夕べの雲』に発展していく長篇小説。

感想・レビュー・書評

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  • 1956年発表。大阪から自然豊かな東京の郊外に越してきた矢牧一家の、子どもたちの日常を中心に据えた作品。

    子どもたちの描写が本当に生き生きとしているものの、子どもに向ける眼差しの中のジェンダー観が気になってしまうところがポロポロあった。
    例えば、「女の子は、みんなそうだが、なつめも、可哀そうな運命を持った娘を主人公にした物語が、特に好きであった。」「やっぱり女の子というものは本能的に「主婦の力」とでもいうべきものを身に備えているのだ。」など…

    でもさらに読み進めるうちに、これは子どもたちを描きつつ、子どもたちを見守る大人たちの物語でもあるのだなと思い、受け止め方が変わった。つまり、男女それぞれの社会的期待値が今よりも強固な時代に、悩みながらその役割を全うしようともがく等身大の大人の姿を見た気がした。大人としての責任、無邪気な子どもを羨ましく思う気持ち、そして若さは永遠ではなかったという気づきと世代交代の予感。勝手気ままに自分の人生を生きられない大人の哀しみがそっと描かれている。

    それと同時に亡き父への墓参りのシーンも通じて、そのような人の営みは、世代を超えて脈々と受け継がれてきたものだということをも感じさせられるようになっていて、子どもの日常ほのぼの小説というイメージが後半にかけて急速に覆された。

    プラタナスの木、ザボンの花といった植物の描写を、人間の人生に投影させる描き方もなかなか好みでした。

  • 『夕べの雲』よりも本作のほうが、子どもたちや妻の目線での描写が多い。現代と、家の周りの風景や出来事個々の具体的な中身は違えど、小さな生きものへの子どもや大人それぞれの眼差しや、何の変哲もない思い出や、大人になって親へ思いを馳せて寂しくなったりすることは、私たちにも通ずるものがある。
    こういう細部で人生ができていることを、心にとめていたいと思う。

  • 遠距離通勤のはしりの作品

  • Aから借りた本。夏のはじまりに借りて、やっと読めた。
    これは庄野にとっての最初の長編小説らしい。とすると庄野潤三ははじめから晩年の作品につづく家庭の姿を自分の文学のなかに見ていたことになる。
    一家が大阪から越して東京に住みはじめた頃の話で、山の上の家とはまた別の味わいがある。ここには井伏鱒二の甕も、英二おじちゃんのバラもないが、そのぶん庄野がもとめていた家族の原型みたいなものを見ることができる気がする。確立してないからこそ、夫婦の願望やまだ若い心の動きがよく描かれているような。妻がヤドカリを四人分(長男、長女、次男、自分)買ってきて、名前を付けて飼ってるところいいな。ヤドカリはある日、二匹いなくなって物語の最後にはもう二匹もどこかへ逃げている。家族の印象的なエピソードは他にもいくつもあり、いま自分が家族の小説を書いているから、きっと影響されているなと思いながら読んだ。

  • 昭和30年頃に、大阪から東京の田舎に引っ越してきた矢牧家5人の物語。巻末の解説には平凡な家族の生活の底に渦巻く「不安」や「危機」といった難しいことが記されている。しかしそれらは重要なことではないのではないだろか。昔よりも今の方が民主的で平等でいい世の中になっていると思う。でも抑圧され閉塞された当時の時代の中で、貧しいがゆえに豊かで伸び伸びした人々の心が、時代を超えて伝わってくる。それが大事だと思う。

  • 郊外に越してきた、父、母、三人の子どもたち。
    彼らの平凡な暮らしが、彩り豊かに描かれる。
    雲雀を追いかけて、えびがにで大騒ぎして、ゴムだんで遊んで、はちみつをつまみ食いして、アフリカに思いを馳せて、花火して…。
    何気ない日常が、これほど愛おしいものとは。
    騒がしく、楽しく、すこしとぼけて、愛らしくて、ほんの少し寂しさを感じて。
    ずっと彼らの暮らしを見ていたくなる。

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著者プロフィール

(しょうの・じゅんぞう)
1921年(大正10)大阪府生まれ。九州大学東洋史学科卒業。1955年(昭和30)『プールサイド小景』により芥川賞受賞。61年(昭和36)『静物』により新潮社文学賞受賞。65年(昭和40)『夕べの雲』により読売文学賞受賞。日本芸術院会員。2009年歿。

「2022年 『小沼丹 小さな手袋/珈琲挽き【新装版】』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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