現代小説クロニクル 1985~1989 (講談社文芸文庫 にC 3)

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  • Amazon.co.jp ・本 (288ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062902618

作品紹介・あらすじ

1975年以降に発表された名作を5年単位で厳選する全8巻シリーズ第3弾。現代小説は40年間で如何なる変貌を遂げてきたのか――

感想・レビュー・書評

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  • 同シリーズ、後の年代を読み終わり、ついに自分の生まれた時期まで遡った。同い年のワインみたいだけれど、もっとお安くこのワクワクを楽しめるので、本ってやっぱり身近だなあと感じる。

    村上春樹「象の消滅」
    象と飼育員の親密さが素敵。僕なんか言葉のコミュニケーションがとても下手だから、象のように鼻でトントンと叩く表現方法が羨ましく思う。他方、営業マンである主人公の思考はよくわからない。彼の、度々どうでもよくなってしまうという話と、自分のなかのバランスが崩れた話、そしてそれが自分の責任だということ。これらがどのように繋がっているのか……。理解できないのは残念だけど、いつか分かる日が来るかもと楽しみにしておこう。

    島田雅彦「ユダヤ系青二才」
    主人公のペシアン君は、間借り先であり彼の哲学の師匠にもなるのペンマン氏の口振りが好きだという。人種への偏見や階級社会を嫌うところや、自分の信念をはっきりと言えるところが良いと感じているんだろう。でも、大事にされているから居心地が良いという、ただそれだけのことかもしれない。ペンマン氏のペシアン君へ評価や忠告のなかにも似たような言葉があった。恐ろしいのが、ペンマン氏からの他の評価。ペシアン君には好奇心しかないからいつでもゼロからやり直せる。でも、そのために何者にもなれない。一歩間違えれば白痴か、青二才か、間抜けになるという。恐ろしいと書いたのは、ペシアン君に僕と似たものを感じるから。ペンマン氏の指摘の正しさは読むほどにわかるから、動揺してしまうよね。

    津島佑子「ジャッカ・ドフニ−夏の家」
    展示された狩猟小屋で家族写真を撮る場合が眩しくて、羨ましく思った。でも、そこからじわりと戻される現実の恐ろしいこと。家族を失った母親の、目を背けたくなるような精神状態と、それでも続いていく現実。母親の感覚に近づきすぎては不味いとわかっていても、引き摺り込もうとする力がある短編。

    村田喜代子「鍋の中」
    この短編集の中で一番好きな作品。僕がばあちゃんっ子であり、いとこ達と祖父母の家に泊まるのが大好きだったという理由もある。だから、作中のおばあさんが哀しそうにしたり、喜んだりすると心が揺さぶられる。もちろん、他の理由もある。活き活きとした描写が素晴らしく、滝の側まで近づいた場面は冷んやりしたし、あさりのピラフを食べる場面では自分の歯に貝が当たる音さえ聞こえるようだった。また、この作品ではおばあさんの古い記憶を巡って、孫のたみちゃん達が様々な事を考えるのだけれど、その一つ一つに最大限の関心を持たれているのが伝わってくる。だから僕も、へんに構えずに世界に没頭できた。

    池澤夏樹「スティル・ライフ」
    主人公は、世界の見方が人と違う男、佐々井と出会い友人になる。彼は、自分の感覚器官を中心とした世界だけを見るのではなくて、それとは独立した世界を想像してみることが得意な人。こんな風に書くと難しいことのようだけど、狩猟を中心に生活をしていた人が身につけていた視点と言い換えると不自然でもなんでもない。そして僕は、こういった視点を魅了的に思う。こんな友人が身近にいたらいいな。それに是非、雪が静かに降る日には、地面が昇っていく感覚を味わってみたいと思う。

    宇野千代「一ぺんに春風が吹いて来た」
    朝の連続テレビ小説の最終回のような読後感。このような短編が必要とされる時って、世の中に生きづらさが溢れているような時代なのかなと勝手に思う。

    佐藤泰志「大きなハードルと小さなハードル」
    主人公の秀雄の頑固さよ。年代を感じさせるこの頑固親父のことを知ることが出来れば、僕がこの年代の小説に求める問いの答えにもなる。ただ読んでみて新しく発見があったかといえば、無い。頑固親父のイメージそのままじゃないか。そのままで生きて、苦しんで、迷惑をかけている。こうなってはもはや、頑固親父がそのまま生きているということを僕は素直に受け入れるしかない。

  • 『現代小説クロニクル』の最新刊は、バブル真っ盛り時代の1985年から89年にかけて発表された短篇を収録。
    この時代というと矢張り村上春樹は外せないようで、本作の冒頭も村上春樹の『象の消滅』。今も昔も村上春樹『らしさ』には変化が無いようで、こういうアンソロジーに収録されていると、日本文学の主流からは良くも悪くも外れている。
    主流派ではないと言うと2篇目の島田雅彦もそれっぽいが、こちらはまだ日本文学っぽい。収録作『ユダヤ系青二才』は皮肉なオチながら登場人物の生命力には感心する一篇。
    近年、再評価されている佐藤泰志は『大きなハードルと小さなハードル』を収録。良くも悪くも泥臭い作風は、この時代では異色だったのかもしれない。
    収録作の中ではやや長めの村田喜代子『鍋の中』、池澤夏樹『スティル・ライフ』はどちらも面白かった。『鍋の中』の湛える郷愁と哀切さ、しかし、何処か虚ろでもあるその雰囲気は、『おばあさん』の記憶をそのまま体現しているようにも読める。村田喜代子は巻末エッセイも収録。

    講談社文芸文庫の『現代小説クロニクル』と、新潮文庫の『日本文学100年の名作』、日本文学関係のアンソロジーが同時に刊行されているが、収録作のセレクトを眺めると、同じ日本文学がテーマでも、カラーの違いがはっきり感じられる。収録作が被ることはないと思うが、被ったらどうするんだろうw

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著者プロフィール

1949年京都府生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。79年『風の歌を聴け』で「群像新人文学賞」を受賞し、デビュー。82年『羊をめぐる冒険』で、「野間文芸新人賞」受賞する。87年に刊行した『ノルウェイの森』が、累計1000万部超えのベストセラーとなる。海外でも高く評価され、06年「フランツ・カフカ賞」、09年「エルサレム賞」、11年「カタルーニャ国際賞」等を受賞する。その他長編作に、『ねじまき鳥クロニクル』『海辺のカフカ』『1Q84』『騎士団長殺し』『街とその不確かな壁』、短編小説集に、『神の子どもたちはみな踊る』『東京奇譚集』『一人称単数』、訳書に、『キャッチャー・イン・ザ・ライ』『フラニーとズーイ』『ティファニーで朝食を』『バット・ビューティフル』等がある。

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