- 本 ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062902687
作品紹介・あらすじ
木山捷平は、昭和三十年代後半から四十年代前半の彼の晩年ともいえる日々を、日本中を旅する取材執筆に費やした。北海道から九州まで、日本の津々浦々を巡り「新しい紀行文」を書き続け、それは詩や小説にも昇華した。それぞれの土地に、死の陰を刻みながら・・・。初めての北海道旅行での詩「旅吟」から、病床で書かれた最後の詩「オホーツク海の烏」を収録、二九篇厳選。
木山捷平は、昭和三十年代後半から四十年代前半の彼の晩年ともいえる日々を、日本中を旅する取材執筆に費やした。
北海道から九州まで、日本の津々浦々を巡り「新しい紀行文」を書き続け、それは詩や小説にも昇華した。
それぞれの土地に、死の陰を刻みながら・・・。
初めての北海道旅行での詩「旅吟」から、病床で書かれた最後の詩「オホーツク海の烏」を収録、二九篇厳選。
感想・レビュー・書評
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旅なれば越中褌も洗いけり紐とおしつつ妻をおもへり
木山捷平
「もうとつくに還暦をすぎた男が/汽車に乗つて北海道を行く時/噴火湾は荒れて船は一艘も出てゐなかつた」。この詩は、「還暦」を過ぎてから、雑誌社からの依頼で日本各地を旅する仕事が増えた作家の、包み隠すところのない肉声である。
1904年(明治37年)、岡山県生まれ。敗戦時、中国東北部で現地召集され、その体験を回想した長編「大陸の細道」で知られる作家だが、平易ながら余情あふれる文章であり、何度読んでも読み飽きることがない。
「新編 日本の旅あちこち」は、ほぼ晩年に近い60年代の執筆。北海道はじめ、福島・静岡・愛知・滋賀・鹿児島など―まさに北から南までの旅行記である。多くが初めての土地であり、そこで出会った人々との会話を丹念に書きとめ、ある時は記者のような綿密な取材をして、臨場感あふれる紀行文を残している。
北海道では函館の記述から始まり、余市・登別・納沙布岬などを、同世代の詩人更科源蔵の案内などで巡り、北海道の文壇との交流記録にもなっている。
微笑を誘うのは、ゆく先々で女性たちがスケッチされていること。根室では、遠藤周作が「美人」と評した少女を見つけ、あわてて写真を撮るが、ピンボケに終わる。
とはいえ、掲出歌のように、旅先でも「妻」の存在を忘れてはいない。旅行記の最後を飾る宮崎・鹿児島への旅は、タイトルが、新婚旅行ならぬ「旧婚旅行」。長く連れ添った妻との旅行記で、これも味わい深い。
(2016年10月16日掲載)詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
木山捷平ファン向けとして★四つ(読んだことがない人は先に短編集を読みましょう)。同時期の他の作家の紀行文に比べると視線の対象が近い感覚があって、あまり旅情は感じない。それでもどこに行っても木山さんは木山さんで、全国津々浦々の女の人たちと驚くほど楽しく会話している。昭和四十年頃の日本を感じたい向きにもおすすめ。
彼の小説に登場する女たちはいわゆる美人ではなさそうなのに肌つやがよさそうだったり香水ではないいい匂いがしそうだったりの魅力があって、これはなんなんだろうと思っていたのだけれど、実際女の人が全般的に好きだったんだなと合点がいった。悪い意味はまったくなしに。みんな木山さんを見習って異性と楽しくお話ししたらいいよ。
一番印象的だったのは満州での難民生活の後で引き上げてきたときに上陸した場所を訪ねる「西海の落日」。『長春五馬路』を再読したくなった。
著者プロフィール
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