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本 ・本 (320ページ) / ISBN・EAN: 9784062903257
作品紹介・あらすじ
日本初のノーベル賞学者を文学的側面から読む。少年時代の読書体験や源氏物語、漢詩、和歌についての随筆に、歌集「深山木」を収録。
感想・レビュー・書評
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歌文集とあるように、湯川秀樹の短歌(本人は、「和歌」と呼んでいた)とエッセイを収録した1冊。老子、荘子、源氏物語など古典への深い造詣や内省的な人柄が窺える。
収録されている歌集『深山木』は京大退官記念の私家版で、文庫として手軽に読めるようになったのは、うれしい。外出先でのものが多いが、原爆投下を詠んだ一首が、物理学者・湯川の作品であるだけに、印象的であった。
この星に人絶えはてし後の世の永夜清宵何の所為ぞや詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
湯川秀樹さんの「混沌と煩悩」。物理学の天才は、研究の成果が実るまでに、こんなにも多くの、一見、無関係に見えることへ興味と関心があったのだと思う。短歌についての考え方、言語に関する繊細な捉え方、とてもとてもおもしろかった。
「一日生きることは、一歩進むことでありたい」 -
ななかまどあかき実【み】枝にみつるとき柳葉魚【ししゃも】の味のことによろしく
湯川秀樹
日本人で初めてノーベル賞(物理学賞)を受賞した湯川秀樹は、和歌をこよなく愛していた。細川光洋選による「湯川秀樹歌文集」では、理論物理学者の心の内に、孤独と、混沌とした世界とが共存していたことが丁寧に解説されている。
1907年(明治40年)、東京生まれ。幼児期に京都に移り、中学時代に西行の歌集「山家集」と出合い、その抽象的な言語世界に没頭したという。
近代的、合理的な科学を専門としながら、その対極にあるような非論理的で不確定なものにも理解があり、むしろそれが、想像力の源泉であったそうだ。歌を作ることを「安息所」にたとえたエッセーも収録されており、説得力がある。
71年、京都大の退官記念として刊行された歌集「深山木【みやまぎ】」(私家版)も本書の読みどころである。少年時代の回想歌や、旅行詠、戦時下の弟の応召の歌のほか、次の歌は、49年、ノーベル賞授賞式のためにストックホルムを訪れた折の感慨。
忘れめや海の彼方の同胞【はらから】はあすのたつきに今日もわづらふ
まだ日本は、敗戦わずか数年後であった。自分は晴れの式典に立っているが、日々の「たつき(生計)」に苦労する故国の人々への思いやりも歌われていたのである。
3度にわたる北海道訪問の連作もあり、掲出歌も、その中のもの。釧路、層雲峡、小樽、札幌などが順に歌われているので、その旅情を私たちも追体験したい。
(2016年11月13日掲載)
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