橇・豚群 (講談社文芸文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062903561

作品紹介・あらすじ

戦前の人々の暮らしや戦場のリアルを活写して文学作品として昇華した小説家・黒島伝治の、「プロレタリア文学」の枠を超えた傑作集。

感想・レビュー・書評

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  • 黒島伝治のことを教えてくれた荒川洋治さんに感謝したい。彼の評論やNHKラジオ第2の『カルチャーラジオ 文学の世界 荒川洋治の“新しい読書の世界”「昭和・戦前の小説」』に出会わなかったら、たぶん僕は黒島もこの短篇集も知らずに終わったのではないか?/

    『盂蘭盆前後』:農村に生きる人々の喜びと悲しみを鮮やかに形象化している。景気の浮沈に巻き込まれて絶望しつつも、いつの日かそれさえも乗り越えて行く人々の姿にはどこか希望さえ感じられる。/


    『豚群』:表題作ではあるが、結末にプロレタリア文学臭が鼻をつく感がして、僕はあまり好きではない。
    果たして、ここまで露骨に書く必要があっただろうか?
    豚が野を駆け回っているだけで充分ではなかっただろうか?/


    『橇』:おそらく黒島は、この短篇を書くために生まれてきたのではなかっただろうか?読後、僕にもようやく戦争責任という言葉の意味が分かったような気がした。/

    《「おや、これは、俺が殺したんかもしれないぞ。」浅田は倒れているリープスキーを見て胸をぎょっとさせた。「さっき俺れゃ、ニツ三ツ引金を引いたんだ。」
    父子は、一間ほど離れて雪の上に、同じ方向に頭をむけて横たわっていた。爺さんの手のさきには、小さい黒パンがそれを食おうとしているところをやられたもののようにころがっていた。
    息子は、左の腕を雪の中に突きこんで、小さい身体をうつむけに横たえていた。周囲の雪は血に染り、小さい靴は破れていた。その様子が、いかにも可憐だった。雪に接している小さい唇が、彼等に何事かを叫びかけそうだった。
    「殺し合いって、無情なもんだなあ!」
    彼等は、ぐっと胸を突かれるような気がした。
    「おい、俺れゃ、今やっと分った。」と吉原が云った。「戦争をやっとるのは俺等だよ。」
    「俺等に無理にやらせる奴があるんだ。」
    誰かが云った。
    「でも戦争をやっとる人は俺等だ。俺等がやめりゃ、やまるんだ。」》/



    カルチャーラジオ 文学の世界 荒川洋治の“新しい読書の世界”「昭和・戦前の小説」
    (2021年7月1日(木) 午後9:00配信終了)
    「昭和・戦前の小説~中野重治・黒島伝治・尾崎翠」 【出演】現代詩作家…荒川洋治/

    https://www.nhk.or.jp/radio/ondemand/detail.html?p=1929_01


    NHKラジオ第2の『カルチャーラジオ 文学の世界 荒川洋治の“新しい読書の世界”』

    https://www4.nhk.or.jp/P1929/

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著者プロフィール

一八九八年、香川県小豆郡苗羽村の自作農の家庭に長男として生まれる。地元の苗羽小学校、内海実業補習学校を卒業後、醬油会社に醸造工として入るが一年ほどで辞める。その頃から文学修行をはじめ、黒島通夫というペンネームで雑誌に投稿。一九歳の時に東京に出て、建物会社や養鶏雑誌社で働きながら小説を書き始めた。二一歳で早稲田大学高等予科文学科に入学。第二種学生だったので徴兵猶予が認められず、召集されてシベリアへ出兵。一九二二年、病を得てウラジオストックから小豆島へ帰郷する。一九二五年、二七歳のときに二度目の上京。同年、雑誌「潮流」七月号に掲載された短編小説「電報」が好評を得て、プロレタリア文学者としての道を歩み始める。故郷である小豆島での
生活を描いた「農民もの」、そしてシベリアでの戦争体験をもとにした「シベリアもの」と呼ばれる数多くの作品を発表。代表作に「渦巻ける烏の群」など。生前に刊行された単行本は『豚群』、『橇』、『氷河』、『パルチザン・ウォルコフ』、『秋の洪水』、『雪のシベリア』、『浮動する地価』。中国における日本軍の済南事件を取材し、一九三〇年に発表した長編小説『武装せる市街』はただちに発禁となった。
一九三三年、三五歳の時に喀血し、病気療養のため家族とともに帰郷。小豆島で執筆と読書をつづけ、一九四三年、享年四四歳で逝去。

「2013年 『瀬戸内海のスケッチ 黒島伝治作品集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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