- Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062903714
感想・レビュー・書評
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熊本県天草生まれ、水俣育ちの著者が、地元の古老に聞き書き取材した西南戦争当時の談話集。といっても西南戦争だけに特化したお話ではなく、むしろ100才を越える歴史の証人、しかし軍人でも政治家でも英雄でもない市井の人々の、人生そのもの、時代の移り変わりそのものが浮かび上がってくるドキュメンタリーのような仕様。
好きな人と添い遂げることも自分だけの意思では許されなかった時代、親に別れさせられた最初の婿が今でも恋しい、身分差が厳しく百姓がキレイな着物を着ているとわざと汚されたこと、雨乞いや麦搗きのときに歌った昔の唄、戦争に行って精神を病んで帰ってきた息子、さまざまな無名の人々の生きた人生が朴訥とした方言でとめどもなく語られる。
「西郷さんのいくさ」については、西郷さんと誰が何のために戦っているのかは全く知らないこともあれば、西郷さんが天皇さんに直訴するために戦争を起こした、というところまでは認識している人もあり、いずれにしても現代のように情報ネットワークが発達していない明治初期、識字率の低い農家の人々にまで正確な情報は行きわたるはずもない。
それでも政府軍、薩摩軍双方が地元の農民を人夫として雇い、あるいは強制的に徴兵したため、家族が無理やり連れていかれたり、地元が戦場になり隠れたこと、鉄砲の音が聞こえていたこと、煮炊きのための鍋を借りにきた官軍がいたことなど、非戦闘民である彼らの目線で語られる戦争の様子はとてもリアルで貴重。小説になるのは軍人側の話ばかりだものなあ。
そして天草といえば切り離せないキリシタン弾圧の話。頻繁に出てくる「うすねぎり」という言葉が地名なのか何なのかわからなくて検索したら「臼内切」という地名で、まっさきに出てくる情報は「心霊スポット」で驚愕。当時キリシタンが大勢処刑された場所だったらしい。本書でも古老が火の玉が出てお坊さんにお経あげてもらった話などされているが、現代でもなお心霊スポットとは・・・。
第四章「天草島私記」ではさらに、弘化年間にあった百姓一揆の顛末などについても詳述されており、天草から海を渡って薩摩側へ移り住んだ大勢の人たちにどのような事情があったのか考察されている。柳田國男や南方熊楠の本で読んだような地元の言い伝えなどもときに紹介されており民俗学的にも興味深い。拾遺とされている「六道御前」「草文」は実は創作だとあとがきにあったが、どちらも味わい深い短編だった。
昭和30年代から20年近くの歳月をかけて取材された内容は、必然的に『苦海浄土』とも重なっており、ときに水俣についても触れられている。いつか『苦海浄土』も読みたいのだけれど、小学生の頃、松谷みよ子の「死の国からのバトン」でさえ怖くて怖くてなかなか手を出せなかったので、まだ読む勇気がない・・・。
※収録
序章 深川/第一章 曳き舟/第二章 有郷きく女/第三章 男さんのこと/第四章 天草島私記/第五章 いくさ道(上)/第六章 いくさ道(下)/拾遺一 六道御前/拾遺二 草文/拾遺三 太陽の韻 -
苦海浄土をまたぐようにして書き継がれたそう。島原の乱から西南戦争そして水俣病
これが我々の来し方かもしれないが、自分はそこからなんと遠いところに生きているのだろう。でも、こうして読んでいて感じるところがあるのだから縁が途切れてしまっているわけでもないのかな
天草はもう40年近く訪れていない。ただの海水浴でいいからまた行ってみたいものだ
ちょうどこの本図書館予約待ち中。楽しみです。
石牟礼さんの文体読むだけで涙がほろほろと…
ちょうどこの本図書館予約待ち中。楽しみです。
石牟礼さんの文体読むだけで涙がほろほろと…
淳水堂さんは『苦界浄土』読まれたんですよね。本当に、石牟礼さんの文体、というか、語り口、独特で訴えかける...
淳水堂さんは『苦界浄土』読まれたんですよね。本当に、石牟礼さんの文体、というか、語り口、独特で訴えかけるものがあります。
私もたくさんフレーズ登録しちゃいましたが、難解な方言がなぜかすらすら入ってくるというか、意味はちゃんとわかるのって凄いなと。