木喰上人 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
4.00
  • (0)
  • (1)
  • (0)
  • (0)
  • (0)
本棚登録 : 38
感想 : 3
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (400ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062903738

作品紹介・あらすじ

廻国せんと歩むこと三十有八年、凡そ五千里。刻みし仏躯一千余躰。民藝運動前夜、柳自身が再発見した木喰仏を訪ね歩き顕彰した記録。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 志賀直哉
    「丁度いい時に発見され、丁度いい時に発見した。」
    運命的出会いと驚くべき生涯。廻国修行と微笑仏と信仰の歌。



    関係がない。そう思うことが拘ることを無いものにしていく。

    それが分かったよ。

    ぼくが上人になる。上人の生きたものをぼくも同じように見ていた。まるでいまが上人の生きているいまであるように、あらゆるものを跳び越えて手に入れていたんだ。空間も時間も、当たり前のようにしていた認識がまるで、あることを必要としていないみたいに、ぼくが上人のいまを同じように感じ取ることができたことは、生きてきてはじめて、手に入れた感覚だった。こんなことまでがあるのか。こんなものがぼくのものになるのか。ぼくの生きるということをあらためて塗り替えてしまうよなこの手応えは、より先に、言葉や概念なんてものを越えて、自分というものがあることを、知らしめてくれたみたいだ。


    ぼくはまた、二度と失われないものを手に入れたよ。
    上人のとり出した仏像を見たことで、ぼくは魅入られた。

    本当に魅力に溢れている。
    彼の生きた世界をこの本によって少しだけでも垣間見ることができたと思う。

    それによって、またぼくは感動しているのだ。簡単なことばだけどいま手に入れているものがぼくにとっての感動だと思ったんだ。
    彼が生きることを通して描いたその全てが、ただそこにあるだけなのに、何もかもがそこには決して届くことはない。

    気づかせてくれた。世界におもねるのではなく、自分というものに対して揺らぐことのない信仰を貫き、自分だけが手に入れた、手に入れることができる世界を生きた。その上人という生がそのまま自分のものとも思えるように、彼が歩いた道を、彼が削り出した仏を、彼の見ていた世界を、彼の目で、そして自分の目で見ているように重なる。この心地はぼくにとてつもないことを教えてくれたと思う。

    宗悦の文章を読んでいても伝わってくる。
    彼もきっと、とてつもないものを手渡されたのだ。まるで生きるということを変えるようなものだ。


    関係がない。言葉はいらない。

    ただ、彼の残した仏像を見ているだけでいい。
    この世界がなんだったとして、
    剽軽で、かわいらしく、おどけた調子でいつまでも、頰笑んでいてくれるのだ。

全3件中 1 - 3件を表示

著者プロフィール

柳宗悦(やなぎ・むねよし):1889-1961年。学習院高等科在学中に雑誌「白樺」創刊に参加。主に美術の分野を担当した。東京帝国大学哲学科を卒業後は宗教哲学者として活躍。濱田庄司、河井寛次郎、バーナード・リーチ、富本憲吉らと出会い、「民藝」という新しい美の概念を打ちたてた。眼の人として知られるが、柳のまなざしは、物の美しさだけではなく、物を生み出した人や社会にたえず注がれていた。

「2023年 『新編 民藝四十年』 で使われていた紹介文から引用しています。」

柳宗悦の作品

  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×