「日本」とは何か 日本の歴史00 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (384ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062919005

作品紹介・あらすじ

「日本」という国号はいつ決まったのか。海に隔てられた「島国」に単一な民族が住み、独自の文化が育まれたのか。東にも西にも稲作が行きわたり「百姓」が均質な社会を作っていたのか-この国の成り立ちに関する常識や通説に向けて問題を提起し、柔軟な発想と深い学識で新たな列島像を展開した網野史学の集大成。文庫版本格的通史の劈頭を飾る。

感想・レビュー・書評

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  •  やや感情的すぎる嫌いはあるが、「日本」国号や「百姓=農民」「単一民族」などの「常識」に対して、真正面から問題提起をしている。
     日本史に対する視野を広げるためにも、一読しておきたい一冊。
     

  • あとがきで弟子に批判されているが、確かにこの本、「日本」の同一性をギリギリまで解体することに重点を置いている。いわく、東と西、北海道、沖縄、東北、九州、各地方の独自性、百姓=常民の多様な実像、瑞穂のくにの虚構性、、、。それよりも「日本」という国号自体が7世紀に成立する前、そこは日本ですら無かった。多くの内海を媒介にして緩やかにつながる東アジア一体の中で、ではなぜ、どのように、国家としての日本が形成されていったのか、という疑問が逆に浮かび上がる。あえていえば本書は、この通史シリーズの中において、その疑問を浮かび上がらせるための、挑発的なプロローグとして読むべきなのだろう。

  • 2013.8.10-2013.9.28
    日本といふ国は、大昔から日本であり、今後も日本であり続けるといふ日本人が無意識に抱いてゐる思ひを覆さうとする本。
    さうした見方は「天皇制」と結びついた支配層による作り話だといふ考へが網野氏には強かつたのだらう。
    さうした気持ちが前面に出過ぎて、違和感を感じる場合もあるが、日本が有史以前から大陸と深い関係を持つてゐたこと、自給自足ではなく農業以外の産業も古くから活発で、海運による全国的な物の流通があつたことなど、興味深い指摘が多い。
    解説にあるやうに、さうした開放性、多様性の中で、どのやうに日本といふ国が立ち上がつて来たのかを、詳しく見る必要があるだらう。

  • 「日本」という国号、国の名前がいつ定まり、天皇という王の名がいつ公的に決まったか。689年の飛鳥浄御原令(あすかきよみはらりょう)とされ、異なるにしても前後100年くらいである。それ以前には日本も日本人も存在していなかったのだ。なのに神武天皇の即位の日というまったく架空の日を建国記念日として、日の丸、君が代を国旗国歌に制定してしまった。日本は建国当初から帝国主義的な野心を持っており、その後100~200年続いたことが現在でも影響しているのは間違いない。とうぜん弥生人や縄文人は日本人ではない。
    今までの歴史は進歩史観でしか語られて来なかった。進歩史観に登場するのは成人の男性だけで、老人や女性子どもは出てこないが、実は多くの女性が産業や商業をになっていたのである。養蚕や機織り、薪を売るのは女性であった。また江戸時代までの農民の割合が9割で、百姓=農民という常識は誤りである。もともとは天皇以外は百姓(ひゃくせい)で、百姓=農民となってから百姓(ひゃくしょう)と呼ばれるようになったと言われてきたが、それも誤りである。日本人と呼ばれる前から海を渡って周りの国と交易し、漁業、林業などで巨富を得るものが多くいたし、専門性の高い職能集団も多かった。明治政府の都合で百姓は農民と言い換えられたが、農業以外にも多様な生き方をしていたのだ。それは年貢の取り立ての多様さをみてもわかる。また各時代で自給自足の生活があったというのも妄想で、縄文時代から交易、交流が盛んだったことが遺跡の発掘からわかってきている。
    日本人は単一民族というのは誤りである。大和とは関西のことであり、関東や東北は東夷、蝦夷、熊襲(くまそ)、隼人など、未開な異種の住む地域とされていた。だが鎌倉や江戸は幕府ができる前から海の交通の要衝として発展しており、頼朝や家康は故あってそこに幕府を開いたのである。関東や東北、九州は大和とは異なる文化を持ち、異なる生き方をしていたのだ。中でも特に印象的なのが被差別部落である。これは良い悪いではなく、関西以外にはほとんど存在していなかった。その背景には穢れに対する意識の違いがある。

  • 戦後日本を代表する日本史家・網野善彦氏が著した本書は、「日本」という枠組みを批判的に検討する。

    本書で語られるのは、「瑞穂の国・日本」から大海原へと漕ぎ出した海の民、「瑞穂の国=稲作国家」の枠に収まることなく農商工業を生業とした山の民、「単一民族国家」という「虚像」からかけ離れた列島内の多様性など、「日本史という枠組み」から逸脱した人々や事象である。本書を通じ、網野氏は「日本」という枠組みがいかに人為的で列島の実情に反したものであるかを明らかにしていく。

    第二次大戦を経験し、その後共産主義運動に身を投じ程なく挫折した網野氏は、「『虚像の上に成立した日本』を徹底的に総括すべきである」との信念を持っていたといい、それが研究の原動力であったようだ。網野氏については「偏っている」という批判も多いらしく、私自身、氏とは真逆の心情を持っているが、本書を読む限り網野氏は学問的に極めて誠実であるように感じられ非常に尊敬の念を抱いた。

    本書の解説で、「それでも『日本』なるものが力を持ち続けたことに答えていない」という批判が添えられていたが、私も同様の意見を持つ。また、普段統計解析を行っている身には、本書の定性的な議論はかならずしも満足できるものでなかった。

  • 「聖徳太子は日本人ではない」「『百姓=農民』ではない」「日本は単一民族ではない」など、従来の日本史の常識を覆す言説に満ちた歴史書。「網野史観」と呼ばれる、独特の論を展開した著者が2000年に刊行した、晩年のベストセラー。学界からは批判もあるが、とにかく刺激的。著者が本書で紹介した「環日本海・東アジア諸国図(通称:逆さ地図)」(富山県が作成)は、見慣れた日本地図を回転させただけだが、一見して驚きを感じる。多くの日本人は、自国のことを「太平洋に浮かぶ島国」と思っているが、この地図を見ると、実は『ユーラシア大陸とほとんど陸続きに近い』と分かり、やはり世界の見え方が一変する。

  • 日本史を勉強し直そうと思い全巻揃えました。

    この書は、この講座全巻を通しての歴史観を当然表しているのだと思う。(もちろんまだ読み通してないが)

    はじめて網野史観に触れた時の衝撃は今でも忘れられない。今では、普通になりつつあるが、当時は、あまり一般的な見方ではなかったように思う。小説家でしか描けなかった、生き生きとした歴史が、一流の学者から学べる。

    この先、全巻読破に、何年かかるが分からないが読み通したい。

  • 「借」(大学の図書館)。

    日本史を勉強し直そうと思って読んだ。
    「日本」について考えさせられた。

    そもそも「日本」という国は複雑で、
    ひとくくりに語ることはできない。
    それに気づかさせる一冊。

    高校までの日本史とは違ってかなり刺激的。
    オススメ!

  • 網野善彦が死ぬ直前に書いた集大成の本。日本は島国だとか独特だとか言う定説に疑問を投げかけている。アジア大陸を下にしてみた地図は確かに日本は大陸の中の小さな半島でしかないことが分かる。またその地図より、西日本は朝鮮、中国から東日本はロシアから文化が伝わってきて、日本の中が画一的よ様に捕らえられてきた今までの歴史の考え方が確かにおかしいと感じる。例えば、弥生時代は西日本しかなかったなど言われてみれば最もな説に関心した。

  • 俺の今まで持っていた「日本」というイメージを根本からぶち壊す作品。
    世界へ非常に開かれていた、積極的なイメージで、本当かよ?と思わせるほど、スケールがでかい。

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著者プロフィール

1928年、山梨県生まれ。1950年、東京大学文学部史学科卒業。日本常民文化研究所研究員、東京都立北園高校教諭、名古屋大学助教授、神奈川大学短期大学部教授を経て、神奈川大学経済学部特任教授。専攻、日本中世史、日本海民史。2004年、死去。主な著書:『中世荘園の様相』(塙書房、1966)、『蒙古襲来』(小学館、1974)、『無縁・公界・楽』(平凡社、1978)、『中世東寺と東寺領荘園』(東京大学出版会、1978)、『日本中世の民衆像』(岩波新書、1980)、『東と西の語る日本の歴史』(そしえて、1982)、『日本中世の非農業民と天皇』(岩波書店、1984)、『中世再考』(日本エディタースクール出版部、1986)、『異形の王権』(平凡社、1986)、『日本論の視座』(小学館、1990)、『日本中世土地制度史の研究』(塙書房、1991)、『日本社会再考』(小学館、1994)、『中世の非人と遊女』(明石書店、1994)。

「2013年 『悪党と海賊 〈新装版〉』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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