世界大恐慌 1929年に何がおこったか (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062919357

作品紹介・あらすじ

一九二九年十月二十四日、突如、大暴落したニューヨーク株式市場。ここに世界を巻きこむ大恐慌は始まった。株価は七分の一に下落、銀行倒産六千件、失業者一千万人-。難解な専門用語や数式を用いず、当時の新聞記事や証言から、庶民の目に映った経済破綻と数々の経済政策を活写。混沌の坩堝にあった大恐慌期の米国に、現代を生きる我々は何を学ぶか。

感想・レビュー・書評

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  • 神保町の古本屋で偶然見つけた本。日経平均が最高値を記録したこともあり、1929年に起きた大恐慌を知りたいと思い読んでみました。

    大恐慌が始まったのは1929年10月24日。この日からニューヨーク株式市場は暴落を続け、株価は7分の1に下落しました。
    本書は世界を巻き込んだ大恐慌を、当時の新聞記事や証言から、経済破綻と様々な経済政策をいきいきとわかりやすく描写しています。

    この機会に本書に記述されている大恐慌のメカニズムをまとめてみました。

    ○第一次大戦ショックによる金本位制の機能不全

    第一次大戦によって、ヨーロッパ、とくにイギリスの経済力の低下と、それに代わるアメリカ合衆国の台頭が、資本主義システム全体に不安定要因を加えた。
    各国政府や中央銀行は第一次大戦が19世紀的国際金本位制のスムーズな運行を保障する前提を機能不全にしてしまった状況に気がつかなかった。
    そのため、まがりなりにも機能していた賠償戦債循環(アメリカがドイツに資金を供給し、ドイツはその資金で経済復興をとげると同時に、賠償金をフランス、イギリスに支払い、フランス、イギリスはその資金で復興しながら、アメリカにたいして戦債の元金と利子を返済した)もアメリカの証券市場の過熱によって資金がヨーロッパに行かなくなると断ち切られてしまった。

    ○農業所得の停滞

    機械化の進展などによって、農産物の供給側余力が増した。他方で、需要側がさほどの伸びなかったことを原因とするアメリカ農業所得の停滞は、1920年代の繁栄の足をひっぱる要素をはらんでいた。農業問題未解決のまま、1920年代末期には開発途上国から国際収支危機が広まっていった。また、農業拡大のために土地や機械を1920年代前半までに購入した農業経営者たちの債務も累積しつつあった。こうした債務構造は、いったん景気が悪化してくると、不況の進行を加速させる傾向があった。

    ○消費の飽和

    アメリカでは第一次大戦後の世界経済にあって、新たな耐久消費財、自動車、住宅によって景気を牽引してきたが、そうした新産業を支えた内需も、生産性の伸びにはるかに遅れた賃金の伸び悩みや、農業の不振によって1920年代末期には限界を迎えつつあった。大量生産体制に変わった巨大企業の工場機械設備が過剰化してきた一方では、消費が飽和状態になっていた。耐久財支出はこのころ本格化した信用販売によって加速されていたので、都市住民の債務残高はやや遅れて増大していた。

    ○金利の引き上げ

    アメリカの連邦準備理事会や各連邦準備銀行は1928~29年の局面で、ニューヨーク証券市場の「投機」に目を奪われてしまったために、景気が後退しかねない時期に利子率を引き上げるという間違った政策をとってしまった。
    そのため、減速懸念のあった住宅や自動車の販売にブレーキをかける結果となった。さらに、1929年半ば以降の公定歩合引き上げは、10月の株価暴落の引き金になった可能性がある。

    ○連銀、政権の失策

    ①1920年代の生産性向上が、労働者の数を減らし、機械化、自動化をともなってすすんでいたことを、当時の政策担当者は見抜けなかった。好景気の中、旧来の製造業から解雇された労働者は新産業やサービス職に再雇用ていた。株価暴落を機に解雇が始まってもいずれ、これまでのように別の産業に失業者が吸収されるはずだと政策担当者が見ていた可能性はあった。したがい、深刻な不況になりつつあるとの認識が政権のエリートたちにはなかった。
    ②1930年秋から銀行倒産の第一波が中西部と東部で起きたときは、ニューヨークのマネーマーケットを揺るがすような広がりはもたなかった。もしも連銀関係者が、株価の下落と銀行資産の不良化に因果関係を見出し、大規模な買いオペレーションが行われていれば、恐慌がデフレ・スパイラルに転化することを防げたかもしれない。
    ③債務が累積し、国際収支危機に陥っている開発途上国に対する何らかの協調融資でも行われていれば、それらが他の途上国やヨーロッパ諸国に伝染するのを防ぎ、あるいは遅らせることができたかもしれない。


    以上のメカニズムをみると1997年のアジア金融危機、2008年のリーマンショックが発生した際に各国が取った方策は理にかなっていたものだったというのが理解できます。

    著者の秋元英一さんは経済学博士で、専攻はアメリカ経済史。したがい専門的な用語は使わず、豊富な資料を使った歴史の描写にはリアリティがあり、世界大恐慌の理解を助けてくれています。

    1929年の大恐慌は金本位制が大きく関係した事件であり、これから先、同じような恐慌が起きることは考えられません。大恐慌発生を理解することは、日経平均が最高値を更新していく昨今、重要と思います。
    本書は学術書ですが、関係者の証言、新聞記事が豊富に引用されている面白い歴史書でもあります。読んで損はないです。

  • 1929年に発生した未曾有の大恐慌を庶民の目線から捉え、再現した作品。取っつきにくいテーマであるが、難解な専門用語や数式を用いることなく、かつ忠実に当時の経済状況・政策を解説している。

    世界大恐慌が発生した基となるのは「第一次世界大戦が主要大国間の力関係を変えてしまった」こと。イギリスの経済力の低下とそれに関わるアメリカ合衆国の台頭が、資本主義システム全体を不安定にしたなかで、世界の農業問題が深刻化し、アメリカの内需が限界を迎えつつあった1920年代末に大恐慌は発生した。

    本書は大変分かりやすく記されてるが、分からない部分もあった。特に第3章市場崩壊のメカニズムは、知識不足からかなり流し読みしてしまった。経済学を基本的なところから学ばなければならないと痛感した次第。

    米国が本書の中心舞台になっていることは仕方ないが、日本や欧州、ソ連などでの状況をもう少し記載してほしかった点が唯一の物足りないところ。
    もう少し学び直してから再読したい一冊。

  • むちゃくちゃ勉強になる。経済危機時の政策対応はこの時の失敗から学んだものであり、10年前のリーマンショック時も、そして今回のコロナ危機の時も間違いなくこの時の政策を参考にして対応をしている。おそらく今後、どのような形になるかは分からないが、経済危機に陥る時がやってくるだろう。その時、前提の知識として、このときの教訓を知っているのとそうではないのとでは、相場に挑むときに圧倒的に差が出ると思う。
    私の頭が悪いせいだと思うが、1回読んで全部を理解するのは無理なので、何度も読み直して、自分の血肉としたい。

  • プロローグ 大恐慌は繰り返されるか
    第1章 暗黒の木曜日
    第2章 市民たちの大恐慌
    第3章 市場崩壊のメカニズム
    第4章 ニューディールの景気政策
    第5章 ケインズ理論への道
    エピローグ 1929年大恐慌のアメリカと21世紀の日本
    あとがき
    参考文献

  • 解説:林敏彦
    大恐慌はくりかえされるか◆暗黒の木曜日◆市民たちの大恐慌◆市場崩壊のメカニズム◆ニューディールの景気政策◆ケインズ理論への道◆1929年大恐慌のアメリカと21世紀の日本

  • 世界大恐慌に至るまでとその政策的な対応への分析、そして当時の人々の様子がうかがえる内容。また当時のケインジアン的な政策をマネタリスト的な視点で改めて分析している部分も非常に興味深い。
    またリーマンショックから継続的に採られている各国の経済政策はこの内容に書かれているような1929年の世界大恐慌で起きた反省点を踏まえた対処を行っていると認識できる。

  • これらの本を読むたびに、金融の功罪、ってものを考えてしまうが答えは出ない。メリットデメリット両方を見極めて、、、といっても見極め切れずにバブルが弾ける。それは歴史が証明している。じゃあどうするのか?

  • 千葉大学名誉教授の秋元英一(経済学)が1999年に講談社選書メチエから出版した書籍の復刊、文庫化。

    【構成】
    第1章 暗黒の木曜日
     1 マーケットが崩落した日
     2 マイホーム、映画、T型フォード
     3 大恐慌はなぜ起きたか
     4 フーヴァーの失敗
    第2章 市民たちの大恐慌
     1 失業者たちの長い列
     2 自宅を追い出された人びと
     3 コーンベルトの叛乱
     4 女性たちの苦難
    第3章 市場崩壊のメカニズム
     1 銀行倒産6000行の衝撃
     2 リフレーション論の系譜
     3 政府は銀行をどう改革したか
     4 金本位制停止からドルの切り下げまで
    第4章 ニューディールの景気政策
     1 ローズヴェルトが大統領に就任したとき
     2 農業は復権を、労働者には賃金を
     3 失業者救済計画
     4 消費者意識の芽生え
    第5章 ケインズ理論への道
     1 ケインズが見た世界大恐慌
     2 均衡財政から積極財政へ
     3 昭和恐慌と高橋財政

     2008年秋以降の金融危機において、「100年に1度」という形容詞がそこかしこについてまわる。しかしながら、そういう形容詞を使う人の中に著者がプロローグで述べるように、80年前に起こった「世界大恐慌」についての詳細を知る人がどれぐらいいるだろうか?本書はタイトルと構成を見ればわかるように、その「世界大恐慌」を「暗黒の木曜日」以前から1930年代後半の「ニューディール」収束時期に至るまで概説している。

     本書は、政治過程というよりは経済史としての「大恐慌」の数少ない実証研究である。特に第3章の後半から第4章にかけて、アメリカ政府と連邦準備銀行による金融政策、為替政策について繰り広げられる議論は、国際経済について何ら知識を持ち合わせていない私のような者にはついていくのがかなりしんどいものがあった。
     しかし、決して小難しい文章が並んでいるわけではなく、よくよく初心者にも配慮されたわかりやすい表現がとられている。折に触れてフーヴァーからローズヴェルトへの政策転換がまとめられているので、読み進むにつれて全体が見えてくるようになっている。

     こんな時勢だからこそ、本書のような実証研究が登場することの価値はある。マス・メディアの根拠不明の活字に踊らされる前に、まずは地に足の着いた史実に基づいて判断する姿勢をもちたいものである。

     ただ、やはり一読して自分自身の理解不足を思い知らされたので、また折りを見て読み返してみたい。

  • レポートの題材として読み始めましたが、内容が専門的過ぎて頭が腐りそうです。

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