バッハ=魂のエヴァンゲリスト (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062919913

作品紹介・あらすじ

心に深い慰めを
300年の時を超え魂に福音をもたらす生涯と作品、その魅力のすべて

なぜ心にこれほど深い慰めをもたらすのか。人生への力強い肯定を語るのか。「神の秩序の似姿」に血肉をかよわせるオルガン曲。聖の中の俗、俗の中の聖を歌い上げるカンタータ。胸いっぱいに慈愛しみ渡る≪マタイ受難曲≫……。300年の時を超え人々の魂に福音を与え続ける楽聖の生涯をたどり、その音楽の本質と魅力を解き明かした名著、待望の新版。

人間の小ささ、人生の空しさをバッハはわれわれ以上によく知っているが、だからといってバッハは人間に絶望するのではなく、現実を超えてより良いものをめざそうとする人間の可能性への信頼を、音楽に盛りこんだ。その意味でバッハの音楽は、切実であると同時に、きわめて楽天的でもある。バッハの音楽を聴くとき、われわれは、人間の中にもそうした可能性があることを教えられて、幸福になるのである。――<本書より>

※本書の原本は1985年4月、東京書籍より刊行されましたが、学術文庫版刊行にあたり、大幅に改訂を加えました。

感想・レビュー・書評

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  • 茂木健一郎さんの『音楽の捧げもの』でルターとバッハがつながっていたことを知ったのですが、この本でその深さを実感して、何か運命のようなものを感じました。
    なぜなら最近私は毎日ルターのことを考えていたから。

    バッハは音楽や写真で神様的なイメージがありますが、若い頃には夏目漱石の坊ちゃんを彷彿させるようなエピソードもあるのです。
    また、長い人生、人間関係でうまくいかないことも多々ありました。要領よくこなすことが難しいのですよね。すごくわかります。

    ところで20歳のとき、ディートリヒ・ブクスフーデの演奏を聴き、大変な影響を受けたようです。その後の彼の演奏は前衛的になります。私は自分が10代の終り頃に初めてJAZZ生演奏を聴いて衝撃をうけたときのことを思い出しました。しかも実は最近少しずつJAZZピアノを練習しているところだったのです。

    そのブクスフーデですが、バッハのことを気に入り、この地にとどまり自分の後継者になってくれないかと申し出たと言われます。バッハはその申し出にさぞや心を動かされたにちがいないのですが、それに付随する自分の30の娘と結婚するようにという条件をのむことができなかったそうです。ちなみにその話、ヘンデルとマッテゾンにも辞退されていたそうです…。

    ちょうどこの本を読んでいる途中に偶然、ずっと前に音楽関係で知り合いバッハについて語ったことのある友人ふたりと、本当に久しぶりに話す機会がありました。

    こんなふうに次々偶然が重なっていくことがとても不思議です。

    そして極め付け。何度かピアノの練習挫折していたけど、今度こそ本当にまじめに練習はじめました。
    バッハが長男の練習のために作ったインベンションを。

  • 小学生の頃からバッハの音楽に親しんできましたが、彼の伝記を読んだのはこの本が初めてでした。(1989年単行本版)バッハの人生を大変判りやすく解説されていて、自分の愛読書のひとつになりました。

  • [ 内容 ]
    なぜ心にこれほど深い慰めをもたらすのか。
    人生への力強い肯定を語るのか。
    「神の秩序の似姿」に血肉をかよわせるオルガン曲。
    聖の中の俗、俗の中の聖を歌い上げるカンタータ。
    胸いっぱいに慈愛しみ渡る“マタイ受難曲”…。
    三百年の時を超え人々の魂に福音を与え続ける楽聖の生涯をたどり、その音楽の本質と魅力を解き明かした名著、待望の新版。

    [ 目次 ]
    伝統からの巣立ち―誕生からアルンシュタット時代まで
    若き日に、死をみつめて―ミュールハウゼン時代
    オルガンに吹きこむ、人間の生命力―ワイマール時代1
    青春の抒情、新様式のカンタータ―ワイマール時代2
    幸せなる楽興の時―ケーテン時代1
    バッハの家庭と教育―ケーテン時代2
    音楽による修辞学―ライプツィヒ時代1
    “マタイ”へ向けての慈愛の熟成―ライプツィヒ時代2
    時流の外に新しさを求めて―ライプツィヒ時代3
    数学的秩序の探求―ライプツィヒ時代4〔ほか〕

    [ 問題提起 ]


    [ 結論 ]


    [ コメント ]


    [ 読了した日 ]

  • 講談社新書の『J.S.バッハ』と同様の評伝だが、新書はバッハ初心者を意識して読みやすく分かりやすい内容。こちらはさらに詳しい作品解説があって、しかも2010年に随分加筆されている。ってことは、バッハファンには明らかにこっちがいいのよ。新書を買ってしまったのでちょっとショック。
    どちらもは必要ありません。これから買う方は気をつけて・・・。

  •  バッハの碩学、磯山雅「バッハ=魂のエヴァンゲリスト」(講談社学術文庫2010)は、バッハ生誕300周年を記念して1985年に上梓された著作の改訂版である。その後の研究成果も盛り込んだ文庫版であるが、バッハの生い立ちから作品紹介まで平易な言葉で読めるので、これからバッハの音楽を聴いてみよう、あるいは聴きこんだ人にとっても、指南書的な存在となるだろう。著者のバッハに寄せる思いも充分に汲み取れる福音書でもある。

  • ここのところよくバッハを聴くようになった。
    もちろんこれまでもトッカータとフーガ二短調等小学校の音楽の授業で扱う極めて有名な曲や、ジャズ風にアレンジされたものはそれなりにふれていた。そういえば、トッカータ…は高2のとき吹奏楽部で、家にあった父のコントラファゴットを持ち出して演奏した。譜面は自分でアレンジした。同じく大学1年のとき、吹奏楽の授業でパッサカリアとフーガハ短調もホルンで演奏した。何れも10代ことで、他の作曲家の作品とは全く次元が違う何かを感じながら、目の前の譜面と向き合っていたように思う。ただその後は、特に積極的に聴くことは少なく、多少聴いたとしてもストコフスキーによるオケへの編曲物等いわば亜流の作品ばかりを聴いていた。最近では勤務先の中学生が吹奏楽でシャコンヌを演奏した。生徒たちの純粋な心で解釈し作り上げた演奏には聴く人の誰もが感動した。

    私がバッハを聴き始めたきっかけは、「大学院の課題をやりながらBGMにバッハをかけると、なんとなく効率が上がるかも」と思い始めたことだ。一曲の中でテンポが一定で、音の刻みも様々な意味で規則的であり、著者の言葉を借りれば「幾何学的」・「数学的」秩序がある。また転調もそうなく、抒情的・世俗的・ロマンチックでないので、自分と一定距離があると思えた。こうしたことが、多分“集中”に向かわせたのだと感じている。この聴き方を続けているうちに、徐々にバッハの世界観をもう少し知りたくなり、オルガン曲、ピアノ曲、室内楽曲等のCDを購入し、さらに本書のページを読み進めた。

    序章から著者のバッハへの思いに共感した。「現代のわれわれがこんなにもバッハ惹かれる理由のひとつは、富裕な社会にいきて刹那の満足ばかりを求めるわれわれに、彼の音楽が、精神にとっての本質的な問題を想起させるところにあると思う。」「いわば魂の福音を与えてくれる人である。人間の小ささ、人生の虚しさをバッハはわれわれ以上によく知っているが、だからといってバッハは人間に絶望するのではなく、現実を超えてより良いものをめざそうとする人間の可能性への信頼を、音楽に盛り込んだ。その意味でバッハの音楽は切実であると同時に、きわめて楽天的でもある。」なるほど、やはりそういうことだったか!随分遠回りしたかもしれないが、人生を通じて聴くべき音楽だと思った。本書はバッハの一生と作品を時代と生活の区切りごとに紹介している。書かれているエピソードを踏まえて聴き直すと、また新たな気持ちで作品を味わうことができる。末永く傍らに置いておきたい文庫本だ。

  • バッハの合唱曲を歌うようになって、当然のことながら、細かいことが気になってきた。何故、ルター派のバッハがミサ曲(ロ短調ミサ曲)を作ったのか。彼の宗教的信念とはどの様なものだったのか。音楽と同様、とても興味深い人生です。
    が、多くの作品が行方不明になり、また、日本でも未発表の者が発見されるなど、新しい発見があるたびに、また新しいバッハが見えてくるのも、素晴らしいことだと思いました。

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著者プロフィール

1946年、東京都に生まれる。長野県に育ち、松本深志高校を卒業。その後、東京大学文学部および同大学院修士・博士課程で美学芸術学を学ぶ。1982〜84年、ミュンヘン大学へ留学。
国立音楽大学教授、同音楽研究所所長、同招聘教授、大阪音楽大学客員教授などを務める。日本音楽学会会長、サントリー芸術財団理事などを歴任。毎日新聞に長年にわたり音楽批評を執筆。
1990年から、いずみホール(現・住友生命いずみホール)音楽ディレクターを務める。2011年には大阪市市民表彰を受ける。
2018年2月22日、逝去。
没後、論文「J.S.バッハの《ヨハネ受難曲》──その前提、環境、変遷とメッセージ」で博士号を授与される(国際基督教大学)。また同じく没後に、第31回(2018年度)ミュージック・ペンクラブ音楽賞(研究・評論部門)を受賞。
著書に、『バッハ=魂のエヴァンゲリスト』(東京書籍/講談社学術文庫、第1回辻荘一賞)、『モーツァルトあるいは翼を得た時間』(東京書籍/講談社学術文庫)、『バロック音楽』(NHKブックス/ちくま学芸文庫)、『J.S.バッハ』(講談社現代新書)、『マタイ受難曲』(東京書籍/ちくま学芸文庫、第9回京都音楽賞研究評論部門賞)、『バッハ事典』(共編著、東京書籍)、CDブック『バッハ/カンタータの森を歩む』1〜3(東京書籍)、『教養としてのバッハ』(共編著、アルテスパブリッシング)、『ヨハネ受難曲』(筑摩書房)、訳書にトン・コープマンほか『バッハ=カンタータの世界』I〜III(監訳、東京書籍)、ニール・ザスロウ『モーツァルトのシンフォニー』(共訳、東京書籍)、クリストフ・ヴォルフ『バッハ ロ短調ミサ曲』(春秋社)、同『モーツァルト最後の四年』(春秋社)他多数がある。

「2020年 『礒山雅随想集 神の降り立つ楽堂にて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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