日本〈聖女〉論序説 斎宮・女神・中将姫 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062920117

作品紹介・あらすじ

継母の嫉妬からいじめにあう中将姫。継子いじめの物語はどうして「女の病」にむすびつき、純潔な聖女となっていくのか。天皇の代がわりごとに伊勢に仕える女性として選ばれる斎宮。未婚の内親王である彼女たちの密通とは。そして三輪明神が女神として描かれる能「三輪」-。さまざまな物語のゆくえをたどり、女性の聖なる力とは何かを考える力作。

感想・レビュー・書評

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  • 2010(底本1996)年刊。中世から近世、女性の地位はかつて想定されていたほど低くなかった、特に民衆レベルでは、という解釈が広まる中、女性の地位の低さを述べられても、先祖がえり?、結論ありきか、となって、うーんという感。しかも、その根拠が基本的に文芸作品のみというのがどうにも説得力を欠く。また、柳田の「出産能力のある女性は神聖な存在として尊敬されていた」解釈への批判も牽強付会の感。しかし、斎宮考はいい。天皇の位置づけの変遷と斎宮観の変遷とが帰を一にする解読はなかなか読ませる。著者は甲南大学文学部教授。

  •  読了。『聖なる女――斎宮・女神・中将姫』 (人文書院,1996年) の改題。なお表紙写真は、謡曲「三輪」の舞台(撮影:森田重捨史郎、演者:梅若万三郎)を撮影したもの。


    【版元の内容紹介】
     密通する斎宮たち 苦悩する女神たち
     古来、女性に付与されてきた「聖性」を刺激的に読み解く!
     継母の嫉妬からいじめにあう中将姫。継子いじめの物語はどうして「女の病」にむすびつき、純潔な聖女となっていくのか。天皇の代がわりごとに伊勢に仕える女性として選ばれる斎宮。未婚の内親王である彼女たちの密通とは。そして三輪明神が女神として描かれる能「三輪」――。さまざまな物語のゆくえをたどり、女性の聖なる力とは何かを考える力作。
     これまで女神の嫉妬の様相をいくつかみてきたが、いずれの場合も、嫉妬する方は正妻、嫉妬されるのは正妻の後に契った女性という共通点がある。現代の人間からみるとこれは当たり前のようだが、男1人を挟んで女2人がにらみ合うというのならば、後から関係を持った女がもとからの妻に嫉妬してもいいはずだ。それなのにほとんどすべての例が「嫉妬するのは先妻の方」というのは、その背景に「後妻打ち」という中世の習俗があったからではないだろうか。――〈本書より〉
    http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062920117

    【個人的メモ】
    ・著者のついったー。ほぼ猫。
    https://mobile.twitter.com/takakotanaka

    ・「学術文庫版あとがき(本書265-266頁)」より抜き書き。

    《また、管見に入ったものでは、小谷野敦氏が「「聖なる性」の再検討」(国際日本文化研究センター紀要『日本研究』29号、2004年)で言及しているが、本書は、氏の言うような「聖性は本質的なものである」という立場をとっているわけではないので、その点読者はお間違えないように願いたい。/そもそも、私は本質なるものを肯定しているのではなく、「何かに聖性が付与される過程」を検証したつもりであったのだが、「あとがき」には「〔…〕なんで「聖女」なんていうもんがずーっと存在し続けてるのかはわからへんねん」という一文を残している。これは当時、なんでもかんでも「男が作り出した幻想である」と言えばそれですむといった風潮が一部であり、それに反発を覚えたゆえに敢えて曖昧な気分があることを訴えようとしたのだった。》

    【目次】
    目次 [003-005]

    第一章 捨てられ姫の物語――中将姫と「女の病」 009
    謎のお姫さま/津村順天堂の伝説/『中将姫行状記』から中将湯の伝説へ/鎌倉時代の中将姫/二つの雲雀山/継子いじめの物語/継母の讒言〔ざんげん〕/捨てられた女神/女の病/聖女伝へ

    第二章 斎宮の変貌――「聖」と「性」のはざまで 073
    禁忌の姫宮/斎宮の誕生/「密通」する斎宮たち/済子と当子/『小柴垣草子』をめぐって/逆流する巫女のイメージ/神璽〔しんじ〕と斎宮/神妻の身体/「男女物語」としての『伊勢物語』/神に捨てられた斎宮

    第三章 結婚しない女たち――鎌倉物語の皇女 133
    斎宮のその後/物語の中の斎宮・斎院/帰ってきた斎宮――『源氏物語』の秋好中宮/皇女不婚の原則/不幸な結婚/母の不在/「家」を支える女性/老いた聖女/前斎宮のスキャンダル/パロディとしての前斎宮

    第四章 女神考――神のジェンダーをめぐって 194
    「女神たちの日本」展から/女体の神の出現/訪れる神と訪れを待つ神/三輪明神と天照大神/女神の苦悩/醜さと嫉妬と/夫婦の崩壊/変容する嫉妬のすがた/石の女と花の女/女神の行方

    参考文献 [253-257]
    原本あとがき [258-264]
    学術文庫版あとがき(梅雨入りの日に 田中貴子) [265-268]
    初出一覧 [269]

  • 著者は日本中世文学の研究者として著名な人。この人には、かつて『<悪女>論』という著作もあった。本書は、中将姫、斎宮(これが中心)、女神をとりあげ、様々な文献(聞いたこともないものも多い)を駆使して検証してゆくものである。かつて、この分野では長く、柳田國男の『妹の力』が君臨していた。著者は、その歴史的価値を認めつつ、それもまたジェンダーであるとする。また、この人のスタンスは、フェミニズム論とは別の次元から、それぞれの時代の、あるいは普遍的・本質的な次元において女であることの意味を考え続けているところにある。

  • お薬のシンボルにもなっている中将姫、斎院・斎宮の密通と人生、日本の女神考。

    中将姫の辺りは、参考文献などの説明が長くてやや辛い。
    斎宮辺りからが面白く感じたかな〜。

    国(神)に求められて、聖女になる巫女達なのだが……その聖性を汚そうとする輩がいたり、全うしても結婚適齢期を過ぎて不幸に終わったりと。

    なんだか、考えてしまう。

    美少女・美少年という言葉が現すように、美とは清らかさ=神性にまつわる。

    美における女性の嫉妬深さとは古今共通であろう。男だって嫉妬深いが、それは権力に由来しているように感じる。

    しかし、ある時期を過ぎると衰えに変わる。この辺りの儚さも、古典作品を読んでいると痛切に感じたりする。
    30歳で床離れ……て……。
    日本のセックスレスは、古典に還ろうとしているの、かも?

    刺激的な内容もあり、読みものとして面白かった。

  • 20120718~ 0801「財務省の近現代史~』と並行読み。というか、息抜き。中将姫の話は「死者の書」で初めて知ったよ。中将姫&継子いじめの話と賀茂斎院・斎宮の話が興味深かった。

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著者プロフィール

国文学者。池坊短期大学国文科専任講師、梅花女子大学文学部助教授、京都精華大学人文学部助教授などを経て、2005 年より甲南大学文学部教授。専門は鎌倉時代から南北朝時代の説話や仏教文学の研究。近著に『中世幻妖 近代人が憧れた時代』。

「2016年 『世阿弥を学び、世阿弥に学ぶ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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