寺山修司全歌集 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (352ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062920704

作品紹介・あらすじ

短歌、俳句、詩、エッセイ、評論、演劇…。芸術のジャンルを軽々と飛び越え、その鬼才ぶりを発揮した寺山修司。言葉の錬金術師は歌う。故郷を、愛を、青春を、父を、そして祖国を。短歌の黄金律を、泥臭く、汗臭く、血腥い呪文へと変貌させる圧倒的な言語魔術に酔いしれる。

感想・レビュー・書評

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  • 古典の和歌がわりと好きな私ですが、ときどき近・現代の短歌もながめます。なかでも寺山修司(1935年~1983年)は一筋縄ではいかないおもしろさがあって、ふと脱力したような悲哀や苦み走ったようなわらいが溢れています。

    間引かれしゆゑに一生欠席する学校地獄のおとうとの椅子
    生命線ひそかに変えむためにわが抽斗にある一本の釘
    売られたる夜の冬田へ一人来て埋めゆく母の真っ赤な櫛を
    亡き母の真っ赤な櫛で梳きやれば山鳩の羽毛抜けやまぬなり
    おとうとの義肢作らむと伐りて来しどの桜木も桜のにほひ
    空を逐われし鳥・時・けものあつまりて方舟(はこぶね)めけりわが玩具箱
    家族手帳にはさまれつぶれ一粒の麦ありきわれを糺(ただ)すごとくに
    ある日われ蝙蝠傘を翼としビルより飛ばむわが内脱けて
    マッチ擦るつかのま海に霧ふかし身捨つるほどの祖国はありや

    近現代の短歌をながめていると、その31音があまりにも整いすぎて、ちょっと叩いてみるとカンカンカンと金属音がするような硬質な歌もあるのですが、寺山修司の歌はさにあらず。叩いているうちに木槌がずぶずぶとめり込んでしまうような、なんとも言えない不穏な妖しさ、毒の軟さ……でもちょっといじると壊れてしまうアリのように繊細です。そんな寺山修司、詩の世界もすさまじい。

    <首吊り病>
    ちか頃、縊(くび)りの病といふあり。細紐と見たれば縊りたきこころ、
    おさへがたきものなり。
    水仙の花あれば木にそを縊り、花嫁人形あればそを縊る。
    その患者ゆくところ、縊られざるものはなし。みな患者のふかきふかき情のあらわれゆゑ、ひとかれを詩人と呼ぶこともあり。
    詩人、ことごとく縊りては時の試練をまぬがれむとするらしも、その縊られし木は異形のさまにて黒く立つなり。ときに縊り花の木、ときに縛り人形の木なるはよけれど、またときには首吊りの木となることもあり。木、人間の生(な)る木のごとく、縊られ実りたるひとを風にそよがすさますさまじ。ここに「時」なしと思へるはただ、独断なり。患者、これをもって表現といふ。げに、表現といふは、おそろしきものなり。

    ふっと芥川龍之介の「地獄」や宮沢賢治の「修羅」を思いうかべたり、詩人でもある自身をあそぶさまは、ダンテの諧ぎゃく地獄めぐりのようです。軽妙で可笑しくて、ひたすら哀しくて深い(2021.6.3)。

  • 日本的な土着の泥臭さと、いろんなものを超越して世界を見ているような不思議な透明感。語の組み合わせでこんなに違う景色が描けるのか、と。読むたびに気になる歌が変わる本。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「不思議な透明感。」
      詩人で舞台の人だったからでしょうか?滑らかに言葉が耳に入ってくるのは、、、
      そして、辛辣だったり、エロかったり、生真面...
      「不思議な透明感。」
      詩人で舞台の人だったからでしょうか?滑らかに言葉が耳に入ってくるのは、、、
      そして、辛辣だったり、エロかったり、生真面目だったりする様々な姿の中に、淋しさが際立っているように感じるのでした。
      2013/04/08
  • マッチ擦るつかのまの海に霧深し身捨つるほどの祖国はありや


    など、胸をえぐられるような歌もありつつ、事前に期待?したような、ページをめくるたびハっとさせられるということではない。

    血とか墓とか盲目とか、ショッキングな単語を使い、卑近なものと遠いものを結びつけるというような技巧・・・短歌の中でどう表現するか、という形骸に囚われている感じもする。若書きとも言えるのではないか。

    「全歌集」というのは寺山自身がつけたタイトルらしく、跋文にあるように、自身の(歌の)墓標であるという。つまり「歌はこれで棄てた」という覚悟のようなものがむしろ印象的であった。

    つくづく、歌は生き様そのものなのだ。

  • それはもう‼

  • 風土社、沖積社の「寺山修司全歌集」を底本として、講談社学術文庫の一冊となりました。巻末には、塚本邦雄と穂村弘の解説が載せられています。

  • 【貸出状況・配架場所はこちらから確認できます】
    https://lib-opac.bunri-u.ac.jp/opac/volume/740733

  • 2019年12月21日に紹介されました!

  • 一つだけ補足しておきたいことがある。それは行為と実践のちがいである。詩人もまた他の文学者たちと同じように行為者であるべきだが、実践してはならない。たとえば本気でデモの効果を信じ、テロを信じ、世直しのための実践活動家になってはいけないのである。ヒットラーはゲルマンの血の純血という夢のために詩的行為の人となったが、実践しようという意識に欠けており、明確に明日の人類のヴィジョンをもっていなかったために二十世紀の悪霊と言われた。しかし、彼はそれゆえに芸術家でありえたのだし、純粋だったのだと私には思われてならない。(塚本邦雄 評)

  • 短歌、俳句、詩、エッセイ、評論、演劇…。芸術のジャンルを軽々と飛び越え、その鬼才ぶりを発揮した寺山修司。言葉の錬金術師は歌う。故郷を、愛を、青春を、父を、そして祖国を。短歌の黄金律を、泥臭く、汗臭く、血腥い呪文へと変貌させる圧倒的な言語魔術に酔いしれる。

  • これは猟奇歌の系譜の短歌ととらえることができるのではないか、と興奮しながら読みました。
    以下、個人的お気に入りの方々。


    「失いし言葉かえさん青空のつめたき小鳥撃ちおとすごと」
    「悲しみは一つの果実てのひらの上に熟れつつ手渡しもせず」
    「うしろ手に墜ちし雲雀をにぎりしめ君のピアノを窓より覗く」
    「汚れたるちいさき翼われにあらば君の眠りをさぐり翔くべし」
    「愛されていしやと思うまといつく黒蝶ひとつ虐げてきて」
    「ある日わが喉は剃刀をゆめみつつ一羽の鳥に脱出ゆるす」

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著者プロフィール

詩人、歌人、劇作家、シナリオライター、映画監督。昭和10年12月10日青森県に生まれる。早稲田大学教育学部国文科中退。青森高校時代に俳句雑誌『牧羊神』を創刊、中村草田男らの知遇を得て1953年(昭和28)に全国学生俳句会議を組織。翌1954年早大に入学、『チェホフ祭』50首で『短歌研究』第2回新人賞を受賞、その若々しい叙情性と大胆な表現により大きな反響をよんだ。この年(1954)ネフローゼを発病。1959年谷川俊太郎の勧めでラジオドラマを書き始め、1960年には篠田正浩監督『乾いた湖』のシナリオを担当、同年戯曲『血は立ったまま眠っている』が劇団四季で上演され、脱領域的な前衛芸術家として注目を浴びた。1967年から演劇実験室「天井桟敷」を組織して旺盛な前衛劇活動を展開し続けたが、昭和58年5月4日47歳で死去。多くの分野に前衛的秀作を残し、既成の価値にとらわれない生き方を貫いた。

「2024年 『混声合唱とピアノのための どんな鳥も…』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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