- Amazon.co.jp ・本 (640ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062920780
作品紹介・あらすじ
円仁、貫之、孝標女、定家、宗祇、芭蕉、そして名もなき旅の遊女がつづった日記――
数百年の時をこえて「永遠の旅人」の声が聞こえる
読売文学賞・日本文学大賞 受賞作
日本人にとって日記とはなにか。平安時代の『入唐求法巡礼行記』『土佐日記』から江戸時代の『野ざらし紀行』『笈の小文』『奥の細道』まで、八十編におよぶ日記文学作品の精緻な読解を通し、千年におよぶ日本人像を活写。日本文学の系譜が日記文学にあることを看破し、その独自性と豊かさを探究した、日本文化論・日本文学史研究に屹立する不朽の名著。
そもそも私が日記に心を向けたのは、(中略)今日私が知る日本人と、いささかでも似通った人間を、過去の著作の中に見いだす喜びのためだったのである。最もすぐれた日記は、その作者を最もよく表し、逆に最もつまらぬ日記は、先人の詩歌や日記から学んだ歌枕の伝統を、ただいたずらに繰り返すのみである。日本人はいにしえより今日に至るまで、読書によって知悉する風景を己自身の目で確かめ、所の名物を己も口にすることに、格別の喜びを抱いてきた。――<本書「終わりに」より>
※本書は、1984年に朝日新聞社より刊行された同名の書籍の上下巻を合本にしたものです。
感想・レビュー・書評
-
金大生のための読書案内で展示していた図書です。
▼先生の推薦文はこちら
https://library.kanazawa-u.ac.jp/?page_id=18355
▼金沢大学附属図書館の所蔵情報
http://www1.lib.kanazawa-u.ac.jp/recordID/catalog.bib/BB0696763X詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
平安期から江戸末期までの日記を数多辿ることにより、結果的に日本人の普遍的な心性を見出そうと試みられている。確とした結論は見当たらないが、多くの読者は日本人の普遍的な心性の何かを感じ取るのでは。特に芭蕉への筆致には感動をおぼえる。
-
労作。ドナルド・キーンに哀悼を捧げる。
外国人にして、母国語でないにもかかわらず、日本人以上の研究である。視点が異なることを最大限利用している。
総論がややうすいようだが、各論における研究の綿密さは舌を巻く。捨象したものを含めれば膨大な事前研究による裏付けがある。
例えば『奥の細道』『土佐日記』『蜻蛉日記』その他のメジャー級に関しては、それだけで一切の本ができるはずである。索引的に使うべきだろう。通底する日本人の言葉による日本人のイメージという観点からの切り口は見事。
マイナーな作品を含めた精緻な論証は頭が下がるが、魅力に欠ける作品があったことは惜しまれる。 -
文学
日記 -
ドナルド・キーン博士が、日本の日記について書いた本。1983年から朝日新聞紙上に連載されたものが1984年に本となり、2011年に文庫化されたもの。平安時代から江戸時代までの様々な日記を取り上げ解説している。日本人でも研究が十分進んでいない資料を含め、極めて精緻な研究がなされており、ただただ驚くばかりである。訳もすばらしく、全く違和感がない。偉大な作品といえる。
「私の知る限りでは、日記というものが、そうしたもの(小説や随筆)に劣らぬぐらい重要だと思われているのは、ほかならぬこの日本だけなのである」p11
「伝統の消滅を嘆く人は常にいるものだ。このような保守主義は、頭から馬鹿げているとは言わぬまでも、所詮無駄な抵抗のように思われる」p162
「きちんとして正式なことについて書くには、漢文を用いるのがよい。だが歌のように、人の心から自然とわき出るような事柄を伝えるには、仮名にしくものはない」(飛鳥井雅有)p244 -
もとは1983年から翌年にかけての朝日新聞での連載。著者と日本人の日記とのかかわりは、戦場に遺棄された日本兵の日記の翻訳からはじまった。日記というのは日本に特有の文学作品としての形態だという。本来的な意味での、記録を目的としてリアルタイムにつけられた日記もあるが、平安朝の日記に代表されるように、回想によって書かれた文学作品としての性格が強いものもある。個々の日記にたいする興味もあるし、平安時代から徳川時代までずっと経年で読んでいくと、日本語・世相の移り変わりをも追うことができる。
・『土佐日記』には土佐で亡くなった娘を弔うというテーマがあると言われている。そういう個人的な思いが見えるところに著者は重きを置いている。
・平安朝から鎌倉時代くらいまでの女性による日記は作者の個性が前面に出てくる(蜻蛉日記、更級日記、成尋阿じゃ梨母集、うたたね、とはずがたり等)。中世になってその傾向は減退する。そもそも現存する女性による日記自体が少なくなる。
・鎌倉時代から和文の中に漢語が取り込まれる(海道記)。
・源平の乱や南北朝の乱など、当事者に近いものが記録した日記がある。応仁の乱は、それによる荒廃の記述はあるが、当事者による日記はすくなくとも収録されていない。
・先人の訪れた歌枕で自分も歌を詠んだりするのが旅日記の基本。ただオリジナリティ欠如に著者の点は辛い。
・キーン先生、芭蕉推し。順当なんだろうが。はじめて職業作家として書いたと。
・幕末の日記も面白い。 -
平安時代の「入唐求法巡礼行記」(838年〜)から幕末の「下田日記」(1854年,年号は発行ではなく,それぞれに書かれている出来事の年)まで,日本人による78の日記の紹介と解説.これらを通して日本人,日本文化が浮き彫りになる.
現代語訳は限られた部分にしかつけられておらず,本書のちょうど後ろ半分に相当する室町時代,徳川時代のものには皆無であるため,斜め読みが出来ず,読破に非常に時間がかかったが,生粋の日本人ではないキーンさんならではの見方,つまり我々にとっては当然であって見落としてしまう日本人の特徴も述べられており,非常に興味深い.
恥ずかしながら,ここに出てくる日記は一つも読んだことはないのだが,少なくとも「奥の細道」はちゃんと読んでみようと思った.
と,読み終わったところで,本書の<続>編があるという,衝撃の情報を知ってしまった.読むべきか・・・・・? -
世界各国の日記とは異なり、日本の「日記」に文学性が見出だされるという主張のもと、日本の諸「日記文学」を解説したもの。
憶測だが、ホンネとタテマエが強く相関した思想の反映と言えるか。 -
難しいなりに何とか最後まで読み終えた。キーンさんのがんばりには脱帽です。
-
定型を繰り返し皆で同じ反応をする名所、例えば八つ橋と杜若。
定型をなぞりつつも滲み出る作者の個性を探す楽しみ。
著者プロフィール
ドナルド・キーンの作品





