昭和維新試論 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062921930

作品紹介・あらすじ

日本人は、はじめて差別に憤り、平等を希求した。本書は、忌まわしい日本ファシズムへとつながった〈昭和維新〉思想の起源を、明治の国家主義が帝国主義へと転じた時代の不安と疎外感のなかに見出す。いまや忘れられた渥美勝をはじめとして、高山樗牛、石川啄木、北一輝らの系譜をたどり、悲哀にみちた「維新者」の肖像を描く、著者、最後の書。(解説・鶴見俊輔)

感想・レビュー・書評

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  • 著者が途中で亡くなったことで、未完となっているため残念ではあるが、面白い。
    渥美勝、石川啄木、平沼騏一郎、北一輝などなど、様々な人物の思想を丹念な一次史料の読解から、近代日本における国家意識がどのように展開したのかを論述する展開は素晴らしい。
    単に右翼、左翼という風に思想が分かれてきたのではなく、政治過程や社会情勢に影響されて思想が離合集散し、戦前の日本政治思想が展開されていくことが分かる。
    難易度としてはある程度近代史に詳しいことは求められるので初心者向けではないのでご注意を。

  • 渥美勝についての考察
    朝日平吾という男の考え
    平沼騏一郎の思想
    “新”官僚の考え方

    これだけバラバラにも一見見える事象の根底を貫く社会背景を分析し、
    あまりに混迷としていて学校の授業では半ば唐突ささえも感じる二・二六事件前後の思想史を1つの流れとして提示する試論。

    彼らを貫く危機意識と悲壮感に圧倒される

    北一輝は何がしたかったのか?皇道派青年の思想とのズレはなぜ?
    これを問題意識に読み始めたが、全ての点が線でつながった。
    画期的な試論であることは間違いない。

  • 著者:橋川文三〔ハシカワ ブンゾウ〕(1922-1983)
     『辺境』の連載を単行本として刊行したもの。絶版→復刊を繰り返している。

    【書誌情報】
    発売 2013年09月10日
    価格 定価 : 本体1,000円(税別)
    ISBN 978-4-06-292193-0
    判型 A6
    ページ数 320ページ
    シリーズ 講談社学術文庫
    初出 “原本は、1984年に朝日新聞社より刊行。文庫化にあたっては1993年に刊行された朝日選書版を底本とし、2007年に筑摩書房より刊行された、ちくま学芸文庫版を参照しながら、明らかな誤植と思われる箇所を正し、多少の注記とふりがなを加えた。”

    [内容紹介]
     日本人は、はじめて差別に憤り平等を希求した。本書は、忌まわしい日本ファシズムへとつながった昭和維新思想の起源を、明治の国家主義が帝国主義へと転じた時代の不安と疎外感に見出す。いまや忘れられた渥美勝をはじめとして、高山樗牛、石川啄木、北一輝らの系譜をたどり、悲哀にみちた「維新者」の肖像を描いた、著者最後の書。
     “朝日の遺書全体を貫いているものをもっとも簡明にいうならば、何故に本来平等に幸福を享有すべき人間(もしくは日本人)の間に、歴然たる差別があるのかというナイーヴな思想である。そして、こうした思想は、あえていうならば、明治期の人間にはほとんど理解しえないような新しい観念だったはずだというのが私の考えである。(……)私はもっとも広い意味での「昭和維新」というのは、そうした人間的幸福の探求上にあらわれた思想上の一変種であったというように考える” ――<本書より>
    http://bookclub.kodansha.co.jp/product?isbn=9784062921930


    【目次】
    目次 [003-005]

    序にかえて 009
    一 渥美勝のこと 021
    二 渥美の遺稿「阿呆吉」 052
    三 「桃太郎主義」の意味 061
    四 長谷川如是閑の観察 080
    五 青年層の心理的転位 085
    六 樗牛と啄木 098
    七 明治青年の疎外感 109
    八 戊申詔書 120
    九 地方改良運動 132
    十 田沢義鋪のこと 174
    十一 平沼騏一郎と国本社 203
    十二 日本的儒教の流れ 226
    十三 癸亥詔書 252
    十四 北一輝の天皇論 275
    十五 国家社会主義の諸形態 296

    解説 鶴見俊輔 [304-315]
    (原本刊行時の連載変更点)(一九八四年五月 朝日新聞社出版局図書編集室) [316]



    【抜き書き】

     “いわゆる昭和維新の源流となる衝動の諸形態が萌芽状態としてあらわれるのは、およそ一九二〇年前後のことと考えてよいであろう。久野収・鶴見俊輔の両氏『現代日本の思想』において、日本における「超国家主義」(ここでは当面「昭和維新」と同義にとっておく)のスタートを暗示させるものとされた朝日平吾の安田善次郎暗殺は大正十年(一九二一)のことであるが、〔……〕”
    [9頁]



    “ ともあれ、朝日の遺書全体を貫いているものをもっとも簡明にいうならば、何故に本来平等に幸福を享受すべき人間(もしくは日本人)の間に、歴然たる差別があるのかというナィーブな思想である。そして、こうした思想は、あえていうならば、明治期の人間にはほとんど理解しえないような新しい観念だったはずだというのが私の考えである。〔……〕
     ところで、やや性急に言うならば、私はもっとも広い意味での「昭和維新」というのは、そうした人間的幸福の探求上にあらわれた思想上の一変種であったというように考える。”[19頁]

  • [転回の夢の跡]第一次世界大戦を経たのちの精神的荒廃から、当時多くの日本人の心をとらえた「昭和維新」という思想。人それぞれに思い浮かべたものが異なるこのおぼろげな概念を、代表的な思想家の考えを基にしつつ検証を進めた作品です。著者は、本書の執筆中にお亡くなりになられた日本の政治思想史の研究者、橋川文三。


    20世紀初頭からその前半にかける思想の一断片が、一次資料等を用いながら記されており、当時の人々の考え方が那辺にあったのかがおぼろげながらつかめるのではないかと思います。「昭和維新」という考え方そのものが一つの極めて明快な思想を語っているわけではないためか、著者の筆がときに揺れ動く感があるのですが、その揺れも含めた昭和初期の思想の「つかみにくい感じ」を体験できるかと思います。


    本書を通じて伝わってくる大正から昭和初期にかけての思想を貫く特徴はなんと言ってもその「悲壮感」。危機感というよりは、その危機を目前としてなす術がなく立ちすくんでいるというように受け止められるほどの絶望にも似た思想家たちの考えが、今から振り返ってもその時代の思想がなんとも「暗さ」に満ち溢れたものにしているのかもしれないなと考えてしまいました。

    〜北の天皇論は理論的にはきわめてラジカルな「天皇機関説」の側面をそなえていたのに対し、青年将校一般の天皇論は、北のその機関説的契機を抜きにして、心情的な天皇帰一を空想したというちがいである。〜

    上記抜粋のように北一輝の箇所は読み応えが特にあります☆5つ

  • 同じく日本の国家主義を研究した丸山とは別の切り口、青年に目を向けた本書では、彼らの疎外感から生まれた国家運動について詳しく述べられている。
    明治維新が日本という国の形を変えた革命(と言って良いかは分からないが)なら、昭和維新は国の流れを変えた革命だと言えるだろう。維新の二語のもとに行われた運動がどこから始まり、どこへ帰結したのかがよくわかる一冊だと思う。

  • 明治中期以降の青年の疎外感・不遇感、ときの支配層の自信喪失、日本的儒教の流れ、国家主義運動、北一輝の天皇論などが複雑に絡み合って昭和維新へと突き進んでいったのであろう。いまは、支配層の景気回復・デフレ脱却による自信の回復、領土問題に対する強気な姿勢などナショナリズムの気配がじわじわと表舞台に現れてきたようだ。ところで、日本維新の会の凋落ぶりは何を物語っているのだろうか。国民はきな臭さを感じ取ったのであろうか。

  • 改造の雰囲気が絶えずしてあった。
    それが総力戦を見越した国家総動員の体制に向かうか、維新の理念の完成に向かうか、とにかくどのような方向にでも変革し続ける気風や気概が戦前にはあった。
    前提として明治末の危機意識があり、一方には第一次大戦を契機とした戦争という概念の変化、もう一方には資本主義社会の進展による社会のひずみの増大。
    しかし変革しつづけることを目的化してしまった歴史が1930年代にあったのではないか。
    しばしば「坂道を転げ落ちるように」と枕詞がつくように。何のために変革を目指すのかが見えていなかったから、気付いた瞬間にはっと突然目が覚めたような感覚を覚えるのだ。

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著者プロフィール

橋川文三
一九二二(大正一一)年長崎県対馬に生まれ、広島に育つ。思想史家・評論家。四五年東京大学法学部卒業。編集者生活を経て、明治大学政経学部教授。八三(昭和五八)年没。著書に『日本浪曼派批判序説』『ナショナリズム』『昭和維新試論』『三島由紀夫論集成』などのほか、『橋川文三著作集』がある。

「2023年 『歴史と危機意識 テロリズム・忠誠・政治』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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