フロイトとユング (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (232ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062922074

作品紹介・あらすじ

フロイト派とユング派、日本を代表する両派の第一人者が、精神分析学界の二人の巨人の思想と学問の全貌を語りつくした記念碑的対談。

感想・レビュー・書評

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  • いまジャック・ラカン周辺をぐるぐる回ってるので古書店で見つけて買ってみた。

    フロイトの孫弟子・小此木啓吾氏とユングの孫弟子・河合隼雄氏との対談。もちろん小此木氏がフロイトを、河合氏がユングを解説。

    さらにユングはフロイトの弟子であり、両者はやがて決裂。なるほど本書によると、2人の精神分析に対する考えは正反対といってもよい部分が多い。

    かなり簡単にまとめると、
    フロイトは父性的で治療においては自我の「統合」を重要視した。症状を個体発生的な発達論に結びつけてリニアに分析。患者の実生活の変化も逐一チェックした。それからユダヤ性の問題も大きい。

    ユングは母性的で分裂気質。患者の自我の分裂状態を無理には統合せず、しばしば元型を用いて人格や見た夢などを共示的にゆるく観察。患者の実生活は二次的なものとした。芸術療法も導入。

    本書でもっとも面白かったのは、やはり対談者2人の、日本での臨床経験に基づく話。精神分析はもともとヨーロッパのキリスト教文化圏に由来する方法だから、日本にはなじみにくいようだ。欧米の人は自我が強烈な人が多いらしい。対して日本は自我が薄く無意識で生きているような人が多い。もっともこれはだいぶ昔の話だけど、今でも十分当てはまるように思う。

    日本では「議論する」という習慣が根付きにくいという(ほんとそう!)。議論が始まったらもうそれは関係の終わり。喧嘩でしかない(笑)
    対談者2人はこの議論や分析を「父性的なもの」と呼んでもいる。日本は母性的な文化であるために、患者を分析するとかならずといっていいほど「母子関係」が析出されてくるという。いわゆる「甘えの構造」。

    (分析者と患者との関係も似ていて、「契約」という意識が希薄であるため、患者は特定の分析者に依存しやすく、治療が長引くことが多いようだ。
    また、ユングの元型でいう「グレイトマザー」が日本の母親像を支配しているために、女性は一個人である前に母親の役割を押し付けられがち。
    子の側もそれを当然と見るため、まずは母親を一個人とは見なさず、家庭内暴力というかたちで噴出するケースが珍しくない。治療の過程で母親も一個人であるという気づきに持っていくしかない。とは河合氏の指摘)

    目からウロコだった指摘は、こうした母性的な部分を社会で維持しているのがじつは男性(的な存在)だということ。議論を許さない忖度と空気による支配なんてまさにこれだよね。対して、父性的な部分を担いやすいのが女性(的な存在)。もっともその表現はしばしばラディカルになるそうだが。


    そういえば、精神分析の本を読みだしてからよく夢を見る(というかよく覚えているというべきなのかな)ようになった。かなりシュールな内容と、かなり具体的な夢の両極端。
    後者の夢はときどき正夢になる。例えば長年会っていない友人から連絡が来る夢を見ると、翌朝実際に同じことが起きるから怖がられることがある。

    ということを思い出したのは、本書で紹介されていたある分析家のエピソードを読んでびっくりしたから。

    河合「マイヤーに分析してもらって回復し、五、六年会わなかった患者が、ものすごい夢を見たとわざわざ報告に来るんです。その夢を読んで、あんたは死ぬ、とマイヤーはいうわけ。この夢は死ぬ準備だと。その人はそれを受け入れて、身辺の整理をして一年後に病気で死ぬんです」

    何なんだろう、夢って。

  • 日本を代表するユンギストとフロイディアンの対談。さすがにレベルが高く、私は話の半分も理解できていないのだろうな…と思わされる。ユングとフロイトに関する前知識は必須。
    しかし、ほぼほぼ知識のない私でも読了できたため、難解ではあるがかなり分かりやすい言葉でお話してくださったのだろうな…と、感じた。
    フロイトの理論に入り込みづらく、完全にユング派だったのだが、本書を読んで理由がわかった。

  • 小此木啓吾 河合隼雄 「フロイトとユング」 第一人者同士の対談。わかりやすい。


    フロイトとユングの比較というより

    ユング、河合隼雄、小此木啓吾 の精神分析理論や 土居健郎の甘え構造、古沢平作の阿闍世(あじゃせ)コンプレックスが

    フロイトのどこを取り入れ、どこを取り入れなかったのか、対談を 通して 読みとれる


    フロイトの精神分析理論
    *同性愛、禁欲的
    *ユダヤ的、父性〜分離と自立
    *エディプスコンプレックス
    *合理主義、個人主義、科学、契約
    *コンフリクト〜欲望と本能の対立、超自我と自我の対立
    *幻想の克服

    ユング
    *母性原理、理解者
    *治療しながら考えて理論化
    *無意識の創造性
    *宗教的、治療重視
    *手工業的、教育して分析家に
    *超自我の概念はない
    *コンフリクトより、心には自動調節機能があるように考える


    古沢平作(小此木啓吾の師匠)の阿闍世(あじゃせ)コンプレックス
    *母性により患者と一体化、患者の恨みを解釈するだけでなく、自分が背負わなければならない

    土居健郎 甘え構造
    *日本人が克服すべきは甘え。父性原理で西洋化するのが日本人の道

    河合隼雄
    *どうやって父性的なものを意識化させ、母性的なものと統合させるか
    *母性的な性質を持っていて、それを遂行する強さが父性




  • 自分のオリエンテーションを考えている時で、フロイトとユングって、と思っていたところ本屋さんで目に入った本でした。

    どちらにしろやっぱりとても難しいですが、対談という形なのでいくらか読みやすいです。

  • 元々は1978年に出ている本で、母性・父性あるいは女性・男性といった言葉が安易に使われていて今読むと(特に終盤の日本論などは)説得力を欠いている印象。ユングやフロイト周辺の人物の名前や関係に明るくなかったので前半は参考になった。

  • フロイト派とユング派、日本を代表する両派の第一人者である小此木氏と河合氏の対談が収録されていて、とてもおもしろかった。教科書や専門書だけでは分からない、フロイトとユングの細かい人物像や、最後の方は日本文化論にも及んで、読み応えがあった。日本文化論のところでは、今の日本が抱える問題点が、両氏が対談した昭和53年のころから何も変わってないと思えたり、またこのころすでに予見されてたりして、そういう点も興味深かった。
    ただ、対談、すなわち口語であるので、とても分かりやすい部分と、いまいち伝わりきれてない部分とがあり、その点が少し残念。これからもフロイトとユングのことは勉強していくことになると思うが、折に触れて読み返していきたいと思う。

  • 小此木啓吾、河合隼雄両氏の対談です。治療のことだけでなく、フロイト、ユングについても語られています。フロイトとユングのことを、著作や心理学の入門書で読むよりも身近に感じられた気がします。もっと色々読んでみたくなりました。

  • 30年以上前に出版されたものなのに全然古さを感じない。人が変わらないのか、この二人が本質を見抜いているからか。今でも十分読む価値のある対談であり、もう二度と叶わない対談でもある。

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著者プロフィール

1930年東京府生まれ。日本の医学者・精神科医、精神分析家。学位は、医学博士。1954年慶應義塾大学医学部卒業。1960年「自由連想法の研究」で医学博士の学位を取得。慶應義塾大学環境情報学部教授、東京国際大学教授を歴任。フロイト研究や阿闍世コンプレックス研究、家族精神医学の分野では日本の第一人者である。著書はいずれも平易な記述であり、難解な精神分析理論を専門家のみならず広く一般に紹介した功績は大きい。2003年没。主な著書は『精神分析ノート』(日本教文社,1964年)、『モラトリアム人間の時代』(中央公論社、1978年)、『フロイトとの出会い―自己確認への道―』(人文書院、1978年)など。

「2024年 『フロイト著作集第7巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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