死産される日本語・日本人 「日本」の歴史―地政的配置 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062922975

作品紹介・あらすじ

グローバル化がとどめられない勢いをもつ現在、ナショナリズムや自民族中心主義、それが生み出す排外主義が台頭してきている皮肉な現実は、世界中のさまざまな出来事を見ても疑いない。本書は、若き日にアメリカに渡って博士号を取得したあと、本拠地アメリカのみならず、ヨーロッパやアジアを含め、世界中で活躍してきた著者が日本語でものした初めての著書である。
本書の中核をなし、書名にも採用された記念碑的論文「死産される日本語・日本人」で、著者は「日本語」や「日本人」はそれ自体としてあるものではないと説く。かといって、それらは好き勝手に作ることのできる想像の産物でもない。「日本語」や「日本人」が問題になったのは、「近代」という時代になって、それらが国家統合の理念として要請された時だった。そこで要請された「日本語」や「日本人」は「純粋」でなければならず、その「純粋」な存在は『古事記』や『日本書紀』などを素材にして、失われた過去に求められることになった。その「純粋」な存在が現在まで連綿と続いていることを理由に、現在の「日本語」や「日本人」が正当化される。
このような論理は今も至る所に見られるが、一見して分からないほど巧妙なものであることも確かである。その論理を鮮やかに浮かび上がらせた著者は、次のように言う。「国語あるいは国民語の起源をめぐる歴史的問いは、『日本語』そして国民的主体としての『日本人』が、生まれると同時に死んでいた、あるいはすでに喪失されたものとしてしか生まれることができなかった」。今もなされ続けている暴力は、生まれた時にはすでに死んでしまっていたものを根拠にしている、という事実から出発してこそ、世界の悲惨を解決する道も見出されるだろう。刊行当初から幾多の議論を巻き起こしてきた問題の書が、新稿を加えた決定版として学術文庫に登場。

感想・レビュー・書評

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  • 【文庫の目次】
    学術文庫版の序(二〇一五年四月二日 ソウル新村のホテルにて) [003-017]
    目次 [019-022]
    はじめに [025-037]

    I 近代の批判:中絶した投企――日本の一九三〇年代 038
     西洋という仮想された同一性 038
     普遍主義と特殊主義の親和性 050
     反近代主義のなかの近代主義 061
     竹内好の〈抵抗〉 075

    II 国民共同体の「内」と「外」――丸山真男と中世 092
     運命共同体と帰属 094
     近代世界における国民共同体の表象 105

    III 国際社会のなかの日本国憲法――社会性の比喩としての〈移民〉と憲法 115
     近代をどう規定するか 115
     憲法は社会問題を創出する 120
     〈移民〉という比喩 128
     憲法九条は国境をまたいでいる 132
     憲法九条の可能性 138

    IV 偏在する国家――二つの否定:『ノー・ノー・ボーイ』を読む 144
     回帰なき帰還 144
     同一性と危険 151
     投企による社会性への讃歌 161

    V 歴史という語りの政治的機能――天皇制と近代 173
     歴史の言遂行の側面――「実定性」の産出と成立 173
     「日本人」、「日本語」、「日本文化」――同一性の制作 177
     近代性を語り得る実定性の水準 181
     複綜文化主義的配置 185

    〔付〕自己陶酔としての天皇制――アメリカで読む天皇制論議(酒井直樹/山口次郎) 197
     昭和末のオルギア 197
     アメリカにおける天皇制像 199
     投稿に対する反響 203
     天皇制論議の内と外 205
     ナショナリズム、ナルシシズム、天皇制 218

    VI 死産される日本語・日本人――日本語という統一体の制作をめぐる(反)歴史的考察 222
     多言語性と多数性 222
     話しことばと新たな主体の組織 248

    VII 「西洋への回帰」と人種主義――現代保守主義と知識人 281
     人種主義と主体の構制 281
     無徴の場所としての「西洋」 299
     保守主義の台頭と「西洋」 316

    〔付〕人種主義に関する提言 343
    (人種主義に関する委員会/一九八七年三月二〇日 於シカゴ)

    あとがき(一九九六年 イサカにて) 353
    初出一覧 356



    【抜き書き】
    ・ルビは〔〕で示した。

    本書第5章「歴史という語りの政治的機能――天皇制と近代」の「近代性を語り得る実定性の水準」(182-183頁)より。

    ゛だが、近代性を究極的に規定することになる「日本人」、「日本語」、「日本文化」といった実定性は、いつどこで生成したのであろうか。そもそも「日本人」、「日本語」、「日本文化」が生成するというのはどういう事態を指すのであろうか。〔……〕
     「日本人」、「日本語」、「日本文化」は経験科学が対象にし、それについての陳述の真理性と虚偽性を客観的に判別しうるような事象ではない。それは経験科学の「経験」の意味で経験することはできない。したがって、これらの実定性の歴史を歴史資料の中に同定しようとする試みは、歴史の語りに関する理論的批判意識をもたないとき、これらの実定性の見出されるはずの水準を見失い、あたかも「日本文学」とか「日本語」というもの物あるいは有機体が歴史的過去のなかに即時的にあったかのような倒錯を起こすことになる。”


    第6章「死産される日本語・日本人」(268頁)より。

    ゛国体〔ナショナリティ〕は脱構築されなければならない。とくに、二〇世紀後半の日本国のような、近代的原理にもとづきながらも近代化への障害を生み出す(たとえば、平等原理を国民共同体の成員外にも拡大してしまうような移民受け入れ義務に代表される)制度をことごとく撲滅してきた、いわば自均質な社会編成をつくり出すという点で近代の最先端をゆくような国家においては、とくに国体は徹底的に脱構築されなければならない。近代に内在するその余剰からの国体〔ナショナリティ〕の脱構築は、その社会編成を広く支配してるようにみえる、社会性の究極の形態を合体の感じ〔コミュニオン〕にみるような均質志向社会性〔ホモソーシャリティ〕への有効な批判を模索するためにも、われわれがとり上げなければならない課題なのである。”

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著者プロフィール

酒井 直樹(さかい・なおき)
1946年生。コーネル大学人文学部教授。日本思想史、比較文学、翻訳論。『過去の声』(川田潤ほか訳、以文社)、『希望と憲法』(以文社)、『ひきこもりの国民主義』(岩波書店)。

「2022年 『ポストコロニアル研究の遺産』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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