再発見 日本の哲学 廣松渉――近代の超克 (講談社学術文庫)

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (216ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062923101

作品紹介・あらすじ

マルクス主義によりながら、日本を考え続けた戦後日本の代表的哲学者・廣松渉。難解な漢語を多用する独自の文体で多くの読者を魅了したその思想の本質とはなにか。廣松の高弟でもあった著者が明解に論じ、朝日新聞の「ゼロ年代の50冊」にも選ばれた名著が、待望の文庫化。
たとえば、有名な概念である「物象化」とはなんだろうか。商品には、労働の産物としての価値だけではなく、それ以上の、物神的な性格が宿る。そこには、「物」以上の価値がうまれる。
「価値」は、単純に人間の労働が生み出すだけなのではなく、むしろ社会的な関係から生まれるのだ。これをマルクスは「総労働に対する生産者たちの社会的関係」から価値が決定されると言った。廣松は、マルクスを再解釈しながら、この視点を独自の思考で深めてゆく。「物象化」は経済の概念を超えて、廣松の哲学的思索のカギとなる。
ここには、マルクス主義者として、戦後日本の左翼思想のリードした思想家の側面と、その思想を哲学として深めていく哲学者の側面との両方が、垣間見えるだろう。
日本社会にとって、廣松とは、なんであったのか。
保守もリベラルもなく、ひたすら混乱した政治風土に生きざるをえない現在のわれわれ日本人が、いまこそ読み直すにふさわしい哲学といえる。本書は、その、恰好の入門書である。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は2007年に公刊された単行本の文庫版、著者は廣松渉の直弟子にあたる小林敏明である。著者は序章において、廣松の漢語を多用した生硬な文体は、「都会」「世界」「近代」に対してアンビヴァレンツな感情を抱く「地方出身者」の文体に属するものと断ずる。そこには、「近代」へ脱出し更にそれを克服しようとする宿命的な「辺境」の残響が認められるという。
    ここで克服の対象となる「近代」とは、端的には「産業資本主義」を指す。そこでは生産手段をもたない無産者が共同体を離れて都市に集まり、労働提供者として「資本―賃労働」という不均衡な関係に入らざるを得ない。更に「近代」のメルクマールとして、国民国家(ネーション・ステイト)の存在、機械的合理主義、そして哲学的にはアトミズムと主客二元論が挙げられている。
    以上を前提に、著者は先ず「疎外論から物象化論へ」「世界の共同主観的存在構造」「役割行為から権力へ」の三節を配して廣松思想の主要テーゼを概観する。その上で漸く「廣松思想を日本近現代思想史の流れの中に位置づけ」るという本書の主題に到達し、廣松が日本思想について論じた唯一の文献というべき『<近代の超克>論 ―昭和思想史への一視角―』を読み解いていく。
    廣松は、『文学界』座談会「文化総合会議―近代の超克」(1942年)を俎上に乗せ、特に出席者西谷啓治、鈴木成高を通じて京都学派全体をマルクス主義の立場から批判する。しかし、その一方で廣松は、「自らの頭で近代という巨大なパラダイムに立ち向かおうとした」京都学派に共感を抱いている。著者によれば、彼らは世界の辺境、都市の辺境に在って「近代化の遅れ」を自覚しつつ、更に近代を「突き抜けて」これを超克しようとしたパトスを共有していたのである。
    惜しむらくは、本書において京都学派の田辺元と廣松思想との関係について言及がないことである。合田正人が言うように「廣松自身、相対性理論や量子力学の成果や函数概念をその哲学に適用する際、私たちが考えている以上に田辺のスタンスを暗に意識していた」はずだ(『田辺元とハイデガー』)。ネーション・ステイトについて考える上でも、田辺の「種の論理」は不可欠ではないか。

  • 序章の西田幾多郎や大江健三郎との出自と文体との共通点の指摘はちょっと興味深かった。確かに、そう括られる怨念のような強迫観念のような迫力がある、とも思える。
    ”いまさらマルクス”ではなく、”いまだからマルクスくらい”は読んでおく必要はあるのかもしれない。廣松の著作群の持つ射程の深さ・広さに改めて気づかされたように感じた。

  • 廣松の思想や文体が生まれたゆえんを辺境というキーワードで説明している。良い本でした。

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著者プロフィール

ドイツ・ライプツィヒ大学教授を経て執筆活動に専念

「2020年 『闘う日本学』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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