- 本 ・本 (224ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062923279
作品紹介・あらすじ
『吾輩は猫である』を1905年に発表し、文壇に登場してから絶筆となった1916年の『明暗』まで、10年余りの作家活動で人生を深く考察した夏目漱石。その読み手として著名な直木賞作家・出久根達郎氏が、「漱石の作品のすべてが人生を論じている」として選んだ随筆、講演、書簡などから、人間と人生を凝視した警句と人生訓を読み取る。
2016年に没後100年を迎える文豪・夏目漱石。「いくら傑作でも人情を離れた芝居は無い」(『草枕』)と漱石自身が言ったように、「漱石の作品のすべてが人生を論じている」(出久根達郎『解説』より)。『吾輩は猫である』で1905年に文壇に登場し、朝日新聞入社後は『三四郎』『それから』『門』などを発表、修善寺での大患を経て『こころ』『道草』『明暗』などの作品を亡くなる1916年までの10年間に次々に発表し、近代知識人の内面を描いたといわれる漱石。その漱石の屈指の読み手として知られる直木賞作家・出久根達郎氏が、小説以外の文章で漱石が人生をどのように捉え、いかように論じているかを全集の中から選んで編集したのが本書である。新聞、雑誌への寄稿文、講演、さらに妻・夏目鏡子や正岡子規などの友人、芥川龍之介などの門下生に宛てた真情溢れる書簡には、人生を凝視し、人生の意義を見いだすべく苦闘した漱石の知恵と信念とに満ちている。
「威張る勿れ、諂う勿れ、腕に覚えのなき者は、用心の為に六尺棒を携えたがり、借金のあるものは酒を勧めて債主を誤魔化す事を勉む、皆おのれに弱みがあればなり」(「愚見数則」)、「自分の立脚地から云うと感じのいい愉快の多い所へ行くよりも感じのわるい、愉快の少ない所に居ってあく迄喧嘩をして見たい。是は決してやせ我慢じゃない。それでなくては生甲斐のない様な心持ちがする。何の為に世の中に生れているかわからない気がする」(友人・狩野亨吉宛書簡)など、人間と人生を深く洞察した文豪ならではの警句と教訓に溢れる人生論集。
原本:『漱石人生論集』講談社文芸文庫 2001年刊
感想・レビュー・書評
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心に響いた。特に『私の個人主義』、自分の思いを代弁してくれてるかのよう。
久々に漱石の作品を読み返したくなりました。何から読み直そうかなぁ。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
夏目漱石の人生哲学がわかる文章を集めた本。
夏目漱石、やっぱり好きだ。すっごく優しい人なんだと思う。人を差別しない。差別したり、意思を尊重しない勝手な人に怒る。客観的に物事を見れるすごい人なんだと改めて思った。先生として多くの人に慕われてたのはそんな理由なんだと勝手に思った。夏目先生のお言葉、心に刻んで生きていきます! -
著者:夏目漱石(1867-1916、新宿区、小説家)
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そんなにたくさん漱石の小説を読んだこともないくせにこういう類のものから攻めてしまうのは私の悪い癖です。
ときどき「良いこといっぱい書いてあるけど、なんせ濃いよ…!読んでて疲れてくるよ…」と思いはしましたが、勝手にイメージしてた夏目漱石の「孤高で偏屈な人」という人物像が覆りました。
強い意志や理屈の通った優しさや社交性のある人でなんだか意外でした。
不勉強ながら、書簡に登場した森田草平という作家が訳ありっぽいので検索してみたら、スキャンダルまみれの作家さんでした。そういうのを調べながら読み込んでいくともっと深く楽しめるのではないかと思いました。
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18/12/9読了
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この本では、漱石が書いた手紙や随筆の中から題名の「人生論」に見合った部分が選別されて年代順に並べられている。
手紙はそれぞれ全文を載せているようだが、随筆『硝子戸の中』や『思い出す事など』については一部分だけを載せている。おそらく漱石の「人生論」が表れている箇所だけを編集者なりに抜粋しているのだろう。
通して読んでみて、幾つかの有名な小説を読んだだけでは中々見えてこない漱石の内なる様々な思想・意志が明確に伝わってきた。そしてその心の熱さに驚き、感動した。励まされた。漱石がこんなに熱い男だとは知らなかった。
『吾輩は猫である』、『坊っちゃん』、『明暗』などの作品名こそ人口に膾炙しているが、漱石が一体どんな思いを込めようとしたのかは作品を読んだだけでは中々判然としない。しかしこの本を読むと漱石の各作品への思いを知ることができる。その上でもう一度作品を読んだらきっと様々な発見ができるに違いない。私も早速『坊っちゃん』を再読したい気分である。
一方で、特に書簡の章で強く感じられるのだが、この本は注釈が少ない。なぜ漱石はこの手紙でこの人物(例えばイブセン)の名を挙げたのか、或いは森田草平や和辻哲郎らへの書簡は一体何に対する返事なのか、などの説明が全く無い。そのため漱石がここで何を言いたがっているのか深く理解することが時折できなくなる。その書簡・随筆が書かれた背景についての注や固有名詞についての注を入れるなど、もう少し読者の理解をサポートする要素があっても良いだろう。
この本の欠点はその辺りと言えるが、なまじっか注釈ばかりあってもかえって読みにくいかもしれない。注がほぼ無いから220ページほどの薄さで収まっているわけである。この薄さで漱石の「人生」に対しての驚くほど熱い思い・意志が充分感じ取れるという点だけで大きな意義がある。
そう考えればこの本は、「夏目漱石という名前は知っていて作品もいくつか読んだことがある」ぐらいの人がより一層漱石に関心を寄せることができる再導入書と言っても良いだろう。
ポケットの中に常に入れておきたい。少ないページの中に漱石の心が凝縮された良書。
著者プロフィール
夏目漱石の作品





