夏目漱石 (講談社学術文庫)

  • 講談社 (2015年12月11日発売)
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Amazon.co.jp ・本 (304ページ) / ISBN・EAN: 9784062923378

作品紹介・あらすじ

初の漱石論、ついに学術文庫に登場。漱石の死去翌年に書き上げられた本書は、その後の漱石像に深い影響を与え続けた。その後、評論家から政治家に転身し、戦争に加担したとして戦後はA級戦犯に指定・収監されたため、戦後は復刻されることも、大きく取り上げられることもなかった本書は、漱石文学を愛するすべての人が避けて通れない書物であることに変わりはない。戦後70年、漱石没後100年を迎え、本書を読むべき時が来た。


本書は、夏目漱石(1867-1916年)が死去した翌年に刊行され、初の本格的な漱石論として知られる記念碑的著作である。
著者は東京帝国大学法科大学に在学中、夏目漱石門下に入り、筆名「赤木桁平」で評論活動を始めた。中でも1916年8月に『読売新聞』で発表された「『遊蕩文学』の撲滅」は、花柳界を舞台にした小説を「遊蕩文学」として激しく批判し、近松秋江、長田幹彦、吉井勇、久保田万太郎、後藤末雄といった作家たちを攻撃して論争を巻き起こしたことが知られている。翌1917年には万朝報社に入社した著者が同年に発表したのが本書『夏目漱石』である。
本書は三部構成をとっている。前編「生涯の輪郭」が漱石の生涯を描く評伝、中編「業績の概観」が文学論、そして後編「芸術の本質」では漱石文学を扱いながら芸術論が展開されており、ここで描かれた漱石の全体像は以降、漱石を論ずる際の基本的な枠組みを長きにわたって提供することになった。賛同するにせよ、反対するにせよ、本書は漱石文学を読む者が避けて通れない重要な著作にほかならない。
著者は漱石文学の進展を三つの時期に分類する。朝日新聞社入社以前の「ロマンチシズムの時代」、『虞美人草』から『門』にかけての「転向の時代」、そして『彼岸過迄』から『明暗』に至る「リアリズムの時代」である。ここには、エゴイズムに裏打ちされた「ロマンチシズム」から「転向」し、ついにエゴイズムを克服する「リアリズム」へと至る展開が描かれている。
ところが、本書はこれまで一度も文庫に収録されたことがなく、戦後は大きく取り上げられることもなかった。そこには、1920年に評論界を去って政治家に転身した著者が1936年に衆議院議員に当選して以降、第1次近衛内閣では文部参与官を務めるとともに、本名である池崎忠孝の名義で国家主義的な政治著作を次々と発表していったことが深く関わっている。この経歴ゆえに、著者は戦後A級戦犯に指定され、巣鴨プリズンに収監された。
戦後70年が過ぎ、漱石没後100年を迎える今、著者の後半生から先入観を抱くことなく、適切な距離をとった目でこの歴史的な書物を読むことができる時がついに訪れている。

感想・レビュー・書評

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  • 本書は漱石の初の本格的評伝だそうだが、著者の赤木桁平は漱石の門下生で、当時の花柳界を舞台にした小説を「遊蕩文学」と呼び、「読者の低劣なる興味に迎合」するものであるとして「遊蕩文学撲滅論」をぶち上げた人らしい。成る程と言うべきか、その堅物ぶりは本書でも発揮されており、例えば「門」を「それから」のエゴイズムの克服と位置付けるように、なんとしても師漱石を「人格主義者」に仕立て上げたいようだ。解説でも紹介されているが、漱石自身は著者に宛てた手紙の中で「書き方の割には中のほうが薄い」と苦言を呈しており、「誉めてくれるのは有難いが、君、ちょっとピントがずれてると思うがね・・・」というのが本音であったろう。文学を通じて人格の完成を目指した求道者という本書が提出した漱石像は、同じく漱石の門弟で大部の評伝を書いた小宮豊隆の「則天去私」とともに、長きに渉って漱石解釈を規定してきた。大正教養主義の空気を吸いこんだ門弟達が作り上げたこうした漱石神話は、のちに他者という観点を導入して近代小説としての漱石作品の意義を強調した若き江藤淳によって完膚なきまでに否定されたかに見える。「門」や「こころ」が描こうとしたのはエゴイズムの克服ではなく、むしろ愛の不可能性という人間の暗部であるというのが江藤以降の漱石論の主流だろう。勿論、漱石受容史の綿密な研究にとって、或いは漱石に関することなら何でも知りたいという漱石マニアにとって、本書が貴重な一冊であることは間違いない。

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著者プロフィール

1891-1949年。本名・池崎忠孝。東京帝国大学卒業。在学中に夏目漱石門下に入り、筆名「赤木桁平」で評論活動を始める。1936年には衆議院議員に当選。日米戦争を当然視する著作を公表し、戦後はA級戦犯に指定され、収監されたが、病気のため釈放。主な著書に、初の本格的評論として知られる本書『夏目漱石』(1917年)のほか、『芸術上の理想主義』(1916年)、『太平洋戦略論』(1932年)などがある。

「2015年 『夏目漱石』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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