逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想 (講談社学術文庫)

著者 :
  • 講談社
3.27
  • (1)
  • (2)
  • (7)
  • (1)
  • (0)
本棚登録 : 92
感想 : 6
本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています
  • Amazon.co.jp ・本 (320ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062923613

作品紹介・あらすじ

阪急電鉄の創業者、宝塚少女歌劇の生みの親として知られる小林一三。甲州から東京に出、慶應義塾に学んだ若き日の小林は小説をものする文学青年でした。卒業後、三井銀行に入った彼は、仕事はするものの必ずしも評価はされず、放蕩に明け暮れる問題行員と目されていました。
日露戦争後、かつての上司で北浜銀行を設立した岩下清周から、設立予定の証券会社の支配人にならないかとに誘われた小林は、このままウダツが上がらないよりはと、銀行を辞して妻子とともに大阪に赴任します。しかし証券会社設立の話は立ち消えてしまい、妻子を抱えてたちまち生活に窮してしまいます。
このとき、小林は箕面有馬電気鉄道設立というの話を聞きつけます。電鉄事業に将来性を見た彼は、岩下を説得し北浜銀行に株式を引き受けさせることに成功。「箕面有馬電気軌道」と社名を改めて専務に就任。ここから大きく運命が拓けてきます。
顧客は創造するものと考えた小林は、線路敷設予定の沿線の土地を買収し、郊外に宅地造成開発をおこない、割賦で分譲を開始します。さらには遊園地や劇場をつくることによって行楽客をつくりだし、ターミナルデパートという誰も考えつかなかったものを産み出します。本書は傘寿を迎えた希代のアイディア経営者が、週刊誌の求めに応じて往時を回想した自叙伝の傑作です。

感想・レビュー・書評

並び替え
表示形式
表示件数
絞り込み
  • 阪急グループ、宝塚歌劇団等の創設者、小林一三の自伝。
    この本で、彼の人生を網羅的に知ることはできない。
    自分は、「日本が生んだ偉大なる経営イノベーター小林一三:鹿島茂著」を読んでから、この自伝を読んだので、彼の人生を一通り押さえた上で、深掘りすることができた。

    近代日本(明治、大正)の多くの偉人が、若い頃に海外渡航経験があり、直接的な影響を受け、それが日本の近代化の原動力になっているといっても過言ではない。
    例を挙げるときりがないが、経営者としては渋沢栄一を先ず挙げることができる。
    自分の中にあった一つの疑問が、なぜ、小林一三は、若い頃に海外渡航経験がないにも関わらず、どのように欧米的な文化を日本で持ち込めたのか?という点。
    これについての答えが、本著では触れられている。
    小林一三が作り上げた、家族を中心とした中産階級の豊かな生活圏というのは、彼のオリジナルである、ということだ。
    彼は、後年、海外渡航した際に、記しているのだが、若い時に海外渡航しなかったことは、怪我の功名、としている。
    特にヨーロッパでは、「芸術はブルジョアの手に独占されていて、大衆とは遥かに縁遠いということを知った」
    また、彼がターゲットとしてきた「大衆」については、「単に富籤(とみくじ)、犬のレース、賭博などという、野蛮な射幸心(しゃこうしん)をそそるものだけが用意されている。これで健全な大衆の成長があるのだろうか」、としている。

    小林一三が目指すのは、「清く、正しく、美しい」国民、大衆。
    解説の最後に以下一文がある。
    「小林一三は、阪急文化ばかりか、戦後日本の、より限定的にいえばバブル崩壊以前まで日本に確かに存在していた「1億総中産階級文化」も創ったともいえるのです」
    成程、今の日本のベースにある、総中産階級化、これは、いい意味で、日本の強みだと思うし、素晴らしい価値観だと思うのだが、それを小林一三が実現してきたのだ。
    それを考えると、日本人の精神構造、文化にあたえる彼の影響力の大きさを改めて認識することができる。

    「百歩先の見える者は狂人扱いされ、五十歩先の見えるものは多くは犠牲者となる。一歩先の見えるものが成功者で、現在を見得ぬものは落伍者である」

  • 阪急創業者、タカラヅカの生みの親である小林一三の回想録。第三者が描く人物伝であれば、わかりやすさを念頭に(同時代人でなくてもわかるように)客観的に出来事の背景を記述するのですが、果たして自伝にはそれが必要か。
    …と書くのは、当時の出来事を理解していないと良くわからない記述もあったりするためです。。
    つまり、体系的に小林一三氏の人生を知りたいのであれば第三者の人物伝を読んだ方が良いです。本著は、一般目線で注目されることに必ずしもフォーカスが当たっている訳ではないと思います。
    本著を読んでいて感じたのは、自伝はその当人が世の中からどう見られたいか、あるいは世の中に対して何を訂正したいかを書いているのではないかということ。

    今は事業で成功した資産家だけど、昔は三井銀行のあまり報われない社員だったとか。タカラヅカのような歌劇を事業家が手がけることに対して、いや若い頃から新聞に小説を載せるくらいのことはしていたんだよとか。
    他にも、○○さんとはこういう経緯で行き違ったけど本当は…とか、○○疑獄事件の背景は…とか、資産も名声も手に入れた著者でもままならないことはあるもので。

    本著の魅力は、記載されている事実よりも文体からにじみ出てくる人柄にあるのではないかと思います。
    真面目に仕事に取り組んでいる時でも、どこか余裕や悪戯心のようなものを持って、それが良い結果につながっていたり。
    ゲーム「A列車で行こう」的なゼロからのまちづくりを成功させた経営者が、何を考えながら仕事をしていたのかがわかるという意味では面白い本です。

  • 文学を志していたたけに、履歴を述べるその文章には独特の調子があって、小説のような感覚もあった。学生時代から三井銀行のサラリーマン時代の描写や、花街のエピソードなどは、当時の雰囲気が身近に感ぜられて面白い。登場人物は自ずと経済人が多く(例の広岡浅子にもほんの少し触れられている)、この分野にそれほど知識がない読者には新しい視点を提供しそう。末尾に採録の著者の小説などは興味深いサービスだが、ここまで読み切る人はあまりいないかも知れない。

  • 明治の人は思想や文化が現代とはかなり異なるということがよくわかる。
    阪急創業の頃よりも前の逸話が中心。

  • 逸話には必ず転機となる場面があります。それが自分でわかるかが運命になるように思います。

全6件中 1 - 6件を表示

著者プロフィール

小林一三(こばやし いちぞう)
明治~昭和期の実業家、政治家(1873~1957)。山梨県北巨摩郡韮崎町(現・韮崎市)に生れる。慶應義塾卒業後、三井銀行入社。箕面有馬電鉄(現・阪急電鉄)創立に参加して専務、のち社長。宝塚少女歌劇、東宝映画などを創設。阪急百貨店、東京電灯(東京電力の前身)社長。第2次近衛内閣の商工相、幣原内閣の国務相、復興院総裁を歴任。戦後、公職追放解除後に東宝社長。逸翁は号。

「2016年 『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小林一三の作品

この本を読んでいる人は、こんな本も本棚に登録しています。

有効な左矢印 無効な左矢印
稲盛和夫
リンダ グラット...
マシュー・サイド
トマ・ピケティ
ヴィクトール・E...
松下 幸之助
有効な右矢印 無効な右矢印
  • 話題の本に出会えて、蔵書管理を手軽にできる!ブクログのアプリ AppStoreからダウンロード GooglePlayで手に入れよう
ツイートする
×